駅弁
駅弁(えきべん)とは鉄道駅で販売されている弁当のことである。
概要[編集]
駅弁業者が加入している組合が認めたものが駅弁である。従って、NEWDAYSなど駅構内のコンビニで販売されているコンビニ弁当は含めない。駅弁業者は駅付近の旅館や料亭が調整しているが、家内工業的な零細業者と、地域の食品産業として大型化した業者とに大別される。
種類[編集]
普通弁当と特殊弁当がある。普通弁当は幕の内弁当のことで、特殊弁当とはそれ以外の弁当のことである。いずれも腐敗しにくい種類を選んでいる一方、発熱ユニット使用といった温めて食べる工夫がされた駅弁もある。
味付け等[編集]
他には、味付けが濃いこと、押し寿司[1]を除く生ものは入れないこと、水分が少ないことが挙げられる。
また、車内で食されることを考えて匂いがあまりしないことも欠かせず、水戸駅に納豆が入った「納豆弁当」はないし、米原駅にふなずしの入った「ふなずし弁当」もない。
詳細は「ふなずし」を参照
販売されている場所[編集]
長距離列車が運転されている線区での販売が多く、形態としては駅ホームでの立ち売り、列車内での販売、駅構内(駅ナカ)売店での販売がある。
必然的に鉄道省→日本国有鉄道→JRグループの駅での販売が多く、その中でも急行列車が停車し、なおかつ他線の乗換駅といった駅や、補機連結、蒸気機関車の給水作業、先行列車待避[注 1]、乗務員交代で長時間停車し営業時間が確保しやすい駅で販売されていることが多い[注 2]。
東武鉄道、伊豆急行、近畿日本鉄道といった、長距離列車が運転される私鉄の主要駅でも販売されることがある。
なお、停車時間が長いことは後述のように大日本帝国陸軍、大日本帝国海軍が大量に駅弁を仕入れることに好都合でもあった。
沿革[編集]
日本に鉄道が開業した当時は駅弁は存在しなかった。乗車時間が短く、車内で食事をする時間がなかったためである。駅弁が始めて売られるようになったのは信越本線横川駅とも、日本鉄道宇都宮駅ともいわれている。いずれも筍の皮で包まれたおにぎりと沢庵数切れといわれている。
本格的な駅弁は山陽鉄道姫路駅で、木で作られた弁当箱に、白飯、梅干し、鯛の塩焼き、伊達巻き、蒲鉾、百合の根、漬物等が入ったいわゆる幕の内弁当で、高価な製品だった。
大日本帝国陸軍、大日本帝国海軍が鉄道で部隊を移動するときも駅弁は重要な役割を果たした。奥羽本線の歴史で急行列車も停車しない山間の小駅で駅弁を販売しているところがあるが、これは軍隊の移動の名残である。
現状[編集]
新幹線の開業により、駅弁の売り上げが伸びた駅もある一方、駅での専売利権を長らく保ったため新規発想を持った業者が参入しにくい「見えない事情」や、食品販売参入障壁の低い駅構内のコンビニエンスストアの進出によって駅弁の売り上げが減少し、さらに後継者不足といった理由もあって、地方路線での駅弁業者は廃業したところも多い。
他方、横川駅の「峠の釜めし」で有名なおぎのやは、いち早く未来を予見したかのように、1970年代後半に早くもドライブイン向けの販売に主力を移しており、信越本線の碓氷峠区間の廃止の影響が小さい業者もある。
加えて、在来線では、窓の開く列車が殆どだった急行列車が1980年前後に大幅に廃止されて、窓の開かない特急列車に格上げされた。さらには、鉄道による長距離移動客自体が減少し、系統分割による列車の運行区間の短縮で全体的に3~4時間以上連続で乗車する乗客が少なくなったことにより車内で食事をする機会が減ってしまったり、速達列車の通過[注 3]や、路線自体が廃止され、廃駅となった[注 4]駅が生じたという事情もある。
昨今は、四国には駅弁販売駅が4駅しかなく、徳島駅、山口駅、大分駅のように駅弁販売を取りやめた県庁所在地駅もある。
太平洋戦争後に、旧制大学を母体としない多くの官公立高等教育機関が大学に昇格した際、口の悪い知識人が「急行の止まる駅に駅弁あり、これは駅弁大学だ」と評したのも今や昔、今や国立大学の数よりも駅弁販売駅の数が少なく、希少さについては、駅弁と国立大学は逆転した状態となっている。
空港の増設により、機内食があった飛行機の利用が一般化した事情もあるが、価格競争で機内食が通常サービスから消えると、空港内売店で、駅弁の発想を取り入れた空弁が販売されるようになった。同様に高速道路でもSAで駅弁の発想を入れた速弁が開発された。
各地の駅弁[編集]
下記に、代表的な駅弁を挙げる。社団法人日本鉄道構内営業中央会の加盟業者以外の弁当も含む。
北海道地方[編集]
- かきめし(厚岸駅)有限会社氏家待合所
- たらば寿し(釧路駅)釧祥館
- いかめし(森駅)いかめし阿部商店 - 昭和から知られる有名駅弁。いかは二杯を超す数の時が稀にある。
- かにめし(長万部駅)かにめし本舗かなや
- 石狩鮭めし(札幌駅)札幌駅立売商会
- やまべ鮭ずし(札幌駅)札幌駅立売商会
- 北海手綱(小樽駅)小樽駅構内立売商会
- 鰊みがき弁当(函館駅)北海道キヨスク [注 5] - 現在は改札外売店で販売。他に1973年から売られる白い包装紙の「北の家族」など。
東北地方[編集]
- 青森味づくし(青森駅)ウェルネス伯養軒
- 八戸小唄寿し(八戸駅)吉田屋
- 鶏めし(大館駅)花善
- いちご弁当(宮古駅)魚元
- 前沢牛めし(一ノ関駅)斎藤松月堂
- うに弁当(三陸鉄道久慈駅)清雅荘弁当部(リアス亭)
- 網焼き牛たん弁当・伊達のはらこめし(仙台駅)こばやし
- 秋田比内地鶏重(秋田駅)関根屋 - 日本唯一のハタハタ駅弁だった「日本海ハタハタすめし」は販売休止中[2]。
- 牛肉どまん中(米沢駅)新杵屋 - 全国の駅弁大会でも常連の駅弁。実は十数種類の派生商品(味違い・素材違い・米沢牛を使う上位品種など)がある。
- 牛肉道場(米沢駅)松川弁当店 - 東京駅構内でも購入可。
- いわきカニピラフ弁当・いわきウニピラフ弁当・いわきカニ・ウニ欲張りピラフ弁当(いわき駅)メヒコ - かつては住吉屋の「うにめし」がいわき駅の名物駅弁だったが終了した[注 6]。
- 浜街道 潮目の駅弁(いわき駅・湯本駅)小名浜美食ホテル
関東地方[編集]
東京都内[編集]
- 深川めし(東京駅)NRE大増・ジェイアール東海パッセンジャーズ(両者の内容は若干異なる)
- 焼餃子ダブル弁当(宇都宮駅・東京駅・大宮駅)松廼家
- 牛べん(水戸駅・いわき駅・上野駅・東京駅)水戸市のしまだが販売していたが、駅弁事業から撤退した。
- チキン弁当(東京駅・成田空港駅・いわき駅)NRE大増・ジェイアール東海パッセンジャーズ・(仙台駅)NRE仙台調理センター(各者の内容は若干異なる) - 1964年から続く東京駅の看板弁当。ただし、販売中断と業者の分裂・名称「チキンバスケット」に変更の時期がある。
- 焼売炒飯弁當(東京駅・品川駅・新横浜駅)ジェイアール東海パッセンジャーズ
- 鳥めし・鳥飯弁当(東京駅・新宿駅・水戸駅) - 1960年からの物で「復刻」版もあり
全般[編集]
- 常陸之國美味紀行(水戸駅)水戸市のしまだが販売する駅弁だったが事業から撤退した。
- 印籠弁当(大洗駅・水戸駅)同じく、水戸市の鈴木屋が廃業したため、大洗町のこうじや(万年屋)が継承。
- 三浜たこめし(大洗駅)こうじや
- 奥久慈しゃも弁当(常陸大子駅)玉屋旅館
- 下野山菜弁当(宇都宮駅・那須塩原駅)松廼家
- とちぎ霧降高原牛めし(宇都宮駅・那須塩原駅)松廼家
- 日光鱒寿し(東武日光駅)日光鱒鮨本舗
- だるま弁当(高崎駅)高崎弁当
- 峠の釜めし(横川駅・長野駅)おぎのや - 益子焼の土釜に入れられているという点が特徴の駅弁。上信越自動車道の横川サービスエリアでも販売される時がある。
- やきはま丼(千葉駅)万葉軒 - 蛤型をした陶器の中に、焼き蛤の串、蛤の白焼き、煮蛤が炊き込みご飯の上に載っている。以前の「はまぐり丼」をリバンプ刷新したもの。他に「やきはま弁當」など。
- くじら弁当(館山駅)マリン
- 極附弁当(東京駅)NRE大増
- シウマイ弁当・横濱チャーハン(横浜駅)崎陽軒 - 「シウマイ」表記は昭和29年の販売開始以来のもの。以前は「山菜おこわ弁当」も売られていた。
- 鰺の押し寿司(大船駅・逗子駅)大船軒
- 鯛めし(平塚駅・小田原駅)東華軒
- 小鯵押寿司(真鶴駅・湯河原駅)東華軒 - 駅構内のNEWDAYSで販売
埼玉県のJR東日本エリアは、地元の業者が全て撤退した。大宮駅で売られる駅弁は、他県に所在の業者による商品[注 7]。
中部(信越・中央)地方[編集]
- 黒の信州牛めし(長野駅)吉美
- とりそぼろ弁当(長岡駅)池田屋
- 雪だるま弁当(新津駅・新潟駅)三新軒 - 光沢のある白をはじめピンク・水色・橙・緑と五色ある「雪だるま」容器の駅弁。他に「鮭の焼漬弁当」も有名。
- さけとにしんの親子めし(新津駅・新潟駅)神尾弁当 - 「さけとにしんの親子わっぱ」を改名したが、包装紙の色や中身の内容は同じもの[3]。
- 高原野菜とカツの弁当(小淵沢駅・茅野駅)丸政
- 元気甲斐(小淵沢駅・茅野駅)丸政
- 直火炊き 山菜鶏釜めし(小淵沢駅)丸政
- 岩魚ずし(塩尻駅)カワカミ
- 安曇野釜めし(松本駅)イイダヤ軒
東海地方[編集]
- 港あじ鮨(沼津駅・三島駅)桃中軒
- 竹取物語 (富士駅・新富士駅・富士宮駅・身延駅) 富陽軒
- 鯛めし(静岡駅)東海軒 - 1897年発売の歴史ある駅弁。
- 慶喜弁当(けいきべんとう)(静岡駅)東海軒
- 汽車べんとう(大井川鐵道新金谷駅)大鉄フード
- うなぎめし(浜松駅)自笑亭
- 稲荷寿し(豊橋駅)壷屋弁当部・(伊東駅)祇園
- びっくりみそカツ・だるまのみそ丼(名古屋駅)だるま名古屋支社(名古屋だるま)
- 幕の内こだま・幕の内なごや(名古屋駅)松浦商店 - 「幕の内こだま」は1979年から売られているロングセラー。「幕の内ひかり」は早くに消滅し、「幕の内のぞみ」も終了している。
- 牛肉弁当(松阪駅)あら竹
北陸地方[編集]
- くるみ山菜寿司(越後湯沢駅)川岳軒 - 昭和から販売されている寿司駅弁。越後湯沢~金沢・福井(または和倉温泉)特急があった頃は、JR西日本エリアとJR西日本「ホワイトウイング」車両(「はくたか」号)内でも売られていた[注 8]。関越自動車道の石打サービスエリアでも販売される時がある。
- 磯の漁火(直江津駅・上越妙高駅)ホテルハイマート - 以前は、ホテルセンチュリーイカヤも直江津駅はじめ、JR西日本エリアと北陸自動車道(インターチェンジ・道の駅)・佐渡汽船(待合所)でも複数の駅弁を販売していた。
- 釜ぶた弁当(直江津駅・上越妙高駅)ホテルハイマート
- 鱈めし(直江津駅)ホテルハイマート
- 笹すし(糸魚川駅)笹すし総本舗九郎右ェ門 - 駅ホーム構内と特急車両内での販売は終了、現在は待合室の売店と駅前の「ヒスイ王国館」1階で売られている。色彩が非常に鮮やかな寿司。
- ますのすし・ぶりのすし(富山駅)源 - 個人で完食できる少し小さめの「ますのすし 小丸」も商品ラインナップにある(上位商品の「特選ますのすし」と共に数量限定)。
- 二味笹すし(金沢駅)大友楼
- 越前かにめし(福井駅・武生駅・芦原温泉駅)番匠本店
- 元祖たいずし(敦賀駅)塩荘
近畿地方[編集]
- 柿の葉寿司(吉野口駅)柳屋
- めはり寿司(新宮駅)丸新
- さんま鮨(新宮駅)丸新
- えびずし(和歌山駅)阪和第一食堂
- 小鯛雀寿司(和歌山駅)和歌山水了軒
- 湖北のおはなし(米原駅)井筒屋 - 他に「元祖鱒寿し」も売られている。
- ハンバーグ弁当(京都駅)角井食品 - 左記をのぞいて国鉄時代からの萩の家はじめ京都の業者が撤退しており、他府県に所在の業者が作る駅弁が殆どになっている[注 9]。
- 八角弁当(新大阪駅)水了軒・ジェイアール東海パッセンジャーズ - 読みは「はちかく」。
- 但馬の里和牛弁当(和田山駅)福廼家総合食品
- ひっぱりだこ飯(神戸駅・西明石駅ほか)淡路屋 - 他に小容量のワインボトルをつけた「神戸ワイン弁当」が知られる。
- 元祖 幕の内弁当(姫路駅)まねき食品 - 日本最古ともいわれる幕の内弁当を再現したもの。他に「あなごめし」など。
中国地方[編集]
- 元祖かに寿し(鳥取駅)アベ鳥取堂
- あご寿し(鳥取駅)アベ鳥取堂
- 吾左衛門寿し(米子駅)米吾
- かに寿司(松江駅)一文字屋
- 松江堀川遊覧お弁当(松江駅)一文字屋
- 大和しじみのもぐり寿し(松江駅)一文字屋
- 桃太郎の祭り寿司(岡山駅)三好野本店
- ままかり寿し(岡山駅・倉敷駅)吾妻寿司
- たこめし(三原駅)浜吉
- 夫婦あなごめし(広島駅)広島駅弁当
- しゃもじかきめし(広島駅)広島駅弁当
- 穴子飯(宮島口駅)うえの
- 幸ふく弁当(徳山駅)徳山ふくセンター、新幹線改札内のコンビニで販売。
- ふく寿司(新山口駅・広島駅)広島駅弁当[注 10] - かつてはふぐをデザインの容器で色違いの「ふくめし」もあった。
四国地方[編集]
九州地方[編集]
- かしわめし弁当(折尾駅・小倉駅・鳥栖駅・都城駅ほか) - 当地の郷土料理がもとになっているため、複数の業者が類似名称・同系列の駅弁を発売している。
- おこわ無法松弁当(小倉駅)北九州駅弁当株式会社
- あごめし(佐世保駅)株式会社松僖軒
- 高菜弁当(佐世保駅)株式会社松僖軒
- 焼麦弁当(鳥栖駅)株式会社中央軒
- あさりめし(熊本駅)有限会社音羽家
- 鮎屋三代(八代駅)合資会社頼藤商店
- 鮎ずし(人吉駅)有限会社人吉駅弁やまぐち
- 椎茸めし(宮崎駅)宮崎駅弁当株式会社
- えびめし(出水駅)株式会社松栄軒
- 百年の旅物語かれい川(嘉例川駅)森の弁当やまだ屋 - 土・日・祝日限定販売。特急「はやとの風」では通年販売だが要予約。
沖縄地方[編集]
- 油味噌かつサンド(那覇空港駅)35コーヒーステーションカフェ(日本最西端の駅弁)
- 壺川駅に「日本最南端の駅弁」として「海人がつくる壺川駅前弁当」(那覇市沿岸漁業協同組合)があったが販売終了。
関連項目[編集]
参考文献[編集]
- 時刻表復刻版1968年10月号JTBパブリッシング2021年11月1日発行。
参考作品[編集]
- 泉昌之『夜行』。映像化もされているという。
脚注[編集]
- 注
- ↑ 例えば、東海道新幹線こだまの停車駅。
- ↑ 県庁所在地駅であっても、津駅のように駅弁販売が記録に見えない駅もあるが、これは、戦前から三重県中部の国鉄の運転拠点が松阪にあり、長時間停車が少なかったことも要因と考えられる。
- ↑ 磐越西線日出谷駅。
- ↑ 名寄本線興部駅、渚滑駅。
- ↑ みかど(株)函館支店からジェイ・アールはこだて開発を経て事業譲渡。
- ↑ 住吉屋から鈴木屋・芝田屋(水戸駅)・海華軒(日立駅)が継承、3社で駅弁を共同販売していたが、2007年6月30日をもって3社ともいわき駅での駅弁販売を撤退した。
- ↑ 「埼玉の味 大宮辨當」は埼玉県の地図が描かれた包装紙だが、栃木県(松廼家)の業者の商品。
- ↑ 北陸トラベルサービスが2014年9月30日にはくたかでの営業を終了。JR西日本も北陸新幹線での車内営業を2019年6月で終了。
- ↑ 2008年から販売の「京都牛善」は京都の風景のシルエットが包装紙に描かれているが、兵庫県の業者(淡路屋)による所謂「企画もの」駅弁である。
- ↑ 元々は「下関駅弁当」の商品。廃業後、数社の紆余曲折を経て引き継ぐ。
- 出典