おにぎり
おにぎりとは、飯をにぎって固めた食品である。「握り飯」の転であり、「おむすび」といった異称もある。
概要[編集]
形状に関していうと、特に決まりというものはないが、大方の慣習として
などがある。
三角型のおにぎりは、手にひっつかないように、たいてい海苔が用いられている。
具も入っておらず、海苔も巻いていない塩味しかつけていない「鹽結び」もある。
具が入っているが、薄削りの昆布をまぶしてあるものもある。形は三角柱や球状の場合が多い。
歴史[編集]
おにぎりの起源は平安時代の屯食(とんじき)と言われており、皿のいらない簡便食として招待した客の従者をもてなしたり、戦国時代の軍用の携帯食や野良仕事の際の弁当として活用された。ちなみに屯食とは「屯」が手で握る、間に合わせという意味がある。しかし精米されたおにぎりは豊臣秀吉の時代の以降のことであり、また、白米食が日本の庶民に広まったのは明治時代以降であり、厳密に庶民に拡大したのは戦後のことである。はじめての駅弁にも登場し、大日本帝国海軍では戦闘食としても重要な地位を占め、真珠湾攻撃の際にも航空母艦乗組員の朝食となった。駅弁、給食参照。
弥生時代後期の遺跡である杉谷チャノバタケ遺跡(石川県鹿島郡鹿西町、現・中能登町)で1987年(昭和62年)12月、おにぎりと思われる米粒の塊が炭化したものが出土している。この炭化米から人間の指によって握られた痕跡が発見されており、当初「最古のおにぎり」として報道された。その後の研究では、炊かれて握られたものというより、おそらく蒸された後に焼かれたものとされる。いわばちまき(粽)に近いものとされたが[1][2]、中能登町では現在も炭化米のレプリカを展示しているほか、6月18日を「おにぎりの日」(旧鹿西町の「ろく」=6月の「米食の日」18日)としている[3]。
構成・形状[編集]
おにぎりを構成する主な要素は、形・飯・具・包みである。
形[編集]
形は他にも様々なものが存在する可能性が考えられるが、各種ある。
- 太鼓型、あるいは丸型、円盤形 - ゴーダチーズや鏡餅のような形。
- 三角形 - 高さが低い三角柱。握りやすいので一般的である。江戸の握り飯はこの形が多かった[4]。
- 俵形 - 円柱形。関西の標準型である[4]。
- 球形 - 方向性がないので、美しく球形にするのが難しい(手毬型)。
- 四角形 - 高さが小さい直方体。九州、台湾などで見られる。押し寿司に近い。
- その他、梅の花形、星形など。型に押し入れて作る場合、様々な形のものがある。
飯[編集]
日本で主食として食べられるジャポニカ米で炊いたご飯は、冷めてもでん粉が硬くなりにくく、味も落ちにくいため、他の品種と比べておにぎり作りに向いている。品種としてはミルキークィーンのような「冷めても美味しい」性質が一段と高い低アミロース米に糯米を二割程度加えるとよかろうと思う。
コンビニエンスストアなどで販売されているおにぎりはこちらが多いが、家庭で作るぶんには、普段食されているうるち米を炊いたもので十分である。
一番多いのは白飯であるが、他にも様々なバリエーションがある。
- 白飯(うるち米)
- 紫米 - 古代米の一種で、沖縄県でよく食べられている。
- おこわ(もち米) - 赤飯や栗おこわ、山菜おこわなど。
- 麦・雑穀入りご飯 - 麦飯、粟入り飯、五穀米など。
- 混ぜご飯 - ご飯に具を混ぜてから握る。具はワカメ、シソ(ゆかり)、鮭等ほぐした焼き魚、各種ふりかけ、刻んだ漬け物、揚げ玉など。
- 炊き込みご飯(加薬ご飯、ジューシー) - 松茸ご飯や栗ご飯など。
- その他の米料理 - チャーハンやチキンライス、ドライカレーなど。
具[編集]
おにぎりに入れる具は白飯と相性が良く、味の濃い物(防腐の意味もある)が多い。炊き込みご飯や混ぜ込みご飯のように、ご飯自体に味が付いている場合は、具を包み込まないのが一般的である。
具は中央に埋め込まれるのが一般的だが、スパム(ランチョンミート)や鱒寿司、松茸などのように表面に張り付ける具もある。
具の種類[編集]
具は梅干しや削り節、昆布などの佃煮などが昔からの定番である。これは携帯食として利用されていた頃は高い保存性、殺菌作用が具材に求められていたからであり、味付けも腐りにくいように塩分を濃くしていた。一方で以下のような具や調味料もよく使われる。具は単品で入れることが多い(具が入らない場合は「塩むすび」と呼ばれる)。
- 乾物 - おかか(カツオの削り節を醤油などで味付けしたもの)など。
- 和え物 - ツナマヨネーズ、エビマヨネーズなど。冷えた飯を利用しないとマヨネーズが溶けてしまうため、一般家庭ではあまり作られないが、コンビニではおかかや鮭などと並ぶ定番メニューである。
- 揚げ物 - えび天(天むす)やトンカツなど。
- 炒め物 - 肉野菜炒めなど。
- 角煮 - 豚肉やまぐろなどの角煮。
- 魚肉の酢漬け、塩漬け - サケ、マス、アジ、サバなど。
- 魚卵加工品 - 塩ウニやイクラの醤油漬、焼きたらこ、明太子など。
- 鶏卵 - ゆで卵、半熟卵。
- 塩辛 - イカの塩辛やかつお酒盗など。
- そぼろ - 鶏そぼろや鮭フレーク、田麩など。
- 佃煮 - 昆布、あさりの佃煮や海苔の佃煮、小女子の釘煮など。
- 漬物 - 高菜、柴漬けなど。
- 発酵食品 - ネギ味噌、なめ味噌、油味噌、納豆など。
- 焼き物 - 焼き鮭、焼肉、スパム、ウナギの蒲焼など。
包み[編集]
おにぎりの包みには大抵は海苔が使われるが、関東では焼き海苔、関西では味付け海苔が好まれる他、板海苔を使う地方もある。
また、海苔以外に下記のような食材で包まれたおにぎりもある。長野県では野沢菜、富山県や石川県、福井県(昆布の一大消費地地)ではとろろ昆布、和歌山県では高菜の漬物、鹿児島県奄美地方の徳之島や奄美大島では「たまごおにぎり」として薄焼き卵を使うなど、地域性が出る物や、チキンライスを薄焼き卵で包んだオムライス風おにぎりなどである。植物の葉には雑菌の繁殖を抑える成分を含む物もあり、保存性を高める一面もある。
- おぼろ昆布、若生昆布
- 紫蘇
- 高菜 - めはりずし
- 広島菜
- 桜葉漬け
- 肉 - スライスした味付調理肉(宮崎県の肉巻きおにぎり、大分県の肥後牛おにぎりなど)。
- 薄焼き卵 - 鹿児島県徳之島、奄美大島で一般的なほか、オムライス風の商品にもされる。
- 韓国海苔 - コンビニの商品において、プルコギなど韓国料理由来の具に合わせて用いられる場合が多い。
- 魚肉練り製品 - 魚のすり身で包んだおにぎりを油で揚げ、表面を薩摩揚げのようにしたもの。沖縄県では「ばくだん」または「爆弾おにぎり」と呼ばれる。
海苔での包み方は様々である。三角形のお握りの場合は、
- おにぎり全面に満遍なく包む
- 側面の1面のみから前後面に渡す形で貼る
- 側面一周に巻く
などの方法がある。
一方、包みを施さずにふりかけ類をまぶすという技法もある。胡麻(黒または白)、田麩、のりたま、柚子胡椒などが使用される。具を入れない「塩むすび」では、少量の胡麻を表面に振る物もある。地域によってはきな粉をまぶしたり、味噌を塗ったりする例もある[5]。
包装[編集]
おにぎりを包装するためには、主としてラップフィルムやアルミホイル、和紙などが使用される。おにぎりには色や匂いが移りやすいので、色落ちするもの、臭気のあるもの(金属臭も含む)は避けられる。
竹の皮は殺菌作用や適度な通気性があるためラップやアルミ箔よりも保存性に優れている。
おにぎりフィルム[編集]
コンビニエンスストアが定着し始めた1980年代中頃、おにぎりの開封方法は各社で規格が異なり統一されていなかった。
その後、上部の尖った部分のフィルムをひねって(あるいは切って)開け、中のフィルムシートを引っぱって出すパラシュート型と呼ばれるタイプが、シノブフーズにより発案され、「ひっぱるだけのおにぎりQ」というキャッチフレーズで発売された。しばらくして他社でもこの方式が多く採用された。開封するのに慣れていない場合は中のシートを引っ張りだす際に上の方だけを持ってしまい、米飯が中のフィルムに残るといった短所もあった。
現在では上部からカットテープのラインに沿ってフィルムを回して左右に分けて開けるセパレート型と呼ばれるタイプが主流となっている。しかしこのタイプでも、左右のフィルムの隅に海苔が破れて残ることも多く、また外装及び内装フィルムなどが散らかりゴミも増えることなどから、完全な解決策ではないという消費者の意見もある。そのため海苔が残らず破けないパラシュート型の復活を望む声も少なくない。なお、ローソンは2004年に「手巻四角型包装」と称する海苔をUの字に曲げただけのものを発売したが、かえって剥きにくいという声もある。
コンビニエンスストアで販売のおにぎりの包装に関しては、長年改良が進められて来てはいるものの、利便性の面から広く普及したセパレート型に至っても海苔の端が千切れる問題は解決できていない。
本来、おにぎりの店頭販売のために開発された個別包装のための「おにぎりフィルム」が、現在では一般家庭向けにも市販されている。
特徴[編集]
保存性への配慮[編集]
携行食としてのおにぎりは、なるべく細菌が繁殖しない状態を維持することが重要とされる。腐敗や食中毒を避けるための保存性には、食べるまでの時間、握る時の手などとの接触、空気と触れる表面積、温度・湿度などが関係する。様々な方法があり、組み合わせ方は様々である。
- 炊き立ての熱いご飯を握る。時間が経ったご飯は細菌(特に毒素排出型細菌の場合)の数が増えている。大日本帝国海軍では手に火傷をしてしまうほどだったという。
- なるべく空気に触れる部分を少なくするために固めに握る。もしくはある程度硬く握った冷却済み(後述)のおにぎりに海苔を最初から全面に貼る。
- 逆に菌の繁殖を防ぐために海苔を巻かないという方法もある。温かい飯に海苔を巻くことで、おにぎりの中身は蒸れた状態となり、20°c~50°cの菌の繁殖しやすい温度に保たれる[7]。
- 具材は保存性に優れる物、殺菌作用の強い物が最適である。殺菌作用のある具材(たとえば塩辛い梅干し、大葉、ミョウガ、ショウガなど)を入れたおにぎりは、具材の無いおにぎりより保存性が高まる。
- 炊飯の際に塩や酢を一緒に入れ、細菌の繁殖を抑制する。
- 炊飯の際に少量の食用油を一緒に入れる。コメの粒の表面に油膜を作ることで、細菌が侵入しにくくなるよう期待する手法。
- 包装する前に室温で中まで十分に冷却する。冷蔵庫での冷却では表面が冷えるだけの場合がある。温度を下げることによって細菌繁殖を抑える効果がある。
- おにぎりから出る湿度で食材表面を湿らせないため通気性に優れる物か吸水性に優れる物で包装する。湿度が一定以上あると細菌繁殖が活発となる。なるべくおにぎり表面の湿度を下げる。
- 保存場所は、冷暗で通気性に優れる場所が最適とされている。冷蔵庫への保存は、一般的な冷蔵庫の内部は乾燥しておりご飯がパサパサになるので適さない。
- 上で軽く述べたが基本的には、握る人の手から菌が移るケースが多いので、直接手で触れないようにして握る方法もある。現代のおにぎり工場では必ず使い捨てのポリ手袋をして扱い、生の手では触れない。
- 家庭でできる一つの究極の方法としては、(火傷防止のために)まず手に清潔な軍手などをして、その軍手の上にラップフィルム類(サランラップやポリラップのようなもの)を余裕を持たせた大きさに切り取り、そのラップの内側の面の上に炊きたてのアツアツのご飯を清潔なしゃもじで載せ、ご飯に絶対に直接触れないようにラップを挟んで固めに握り、腐敗防止作用がある塩を多めに振り、最後にラップできっちり包み、圧をかけて中の空気をしっかり抜きご飯と密着させ、ラップは包んだままにするやり方もある。おにぎり一つごとに新たに一枚のラップを用いる。ラップの内側がほぼ完全に無菌状態になっており空気もほとんど無いので、かなり長持ちする。ほぼ完全に無菌なので、あらかじめ冷やす必要もない。(ただし実用一点張りで、ふわふわした食感もなく、あまり見栄えもしない)
塩の働き[編集]
- 塩をおにぎりの表面全体に満遍なく付着させると細菌繁殖を抑える効果があると一般に信じられているが、実際に食用にできる程度の塩の量では効果はほとんどない。
- 携行食として用いる時は、野外の活動・運動で身体から失われた塩分を補ってくれる役割も果たす。
- 小腸の頂端膜や腎臓の上皮細胞を通るグルコースの輸送は、二次的に活性化されるナトリウム-グルコース共輸送体タンパクのSGLT-1およびSGLT-2の存在に依存する[8]。これらはナトリウムイオンの受動輸送と同時にグルコース(糖)の能動輸送を行うことで、小腸などでの糖吸収の中心的な役割を果たしている(シンポート)塩(塩化ナトリウム)をおにぎり付着させることで、小腸で米のデンプンが分解されたグルコースとナトリウムとの共輸送によりグルコースの速やかな体内への吸収を助ける。
作法[編集]
食べ方としては、歯形が付かないように端から食べて行き、水平に削って行くのが作法とされる。手で直に持って口に運ぶのが基本ではあるが、弁当などに入っている俵型のものは箸で食べるのがマナーともされることがある。
関連項目[編集]
脚注[編集]
- ↑ 「いしかわの遺産」 No.26 いしかわの遺跡
- ↑ 「『おにぎりの里』再び 町おこしの熱意 合併後も消えず」 中日新聞 2008年9月6日
- ↑ 6月18日はおにぎりの日です。■日本最古のおにぎり発見中能登町ホームページ(2018年4月18日閲覧)
- ↑ a b 日本大百科全書(小学館)
- ↑ “ふるさとのおむすび”. ごはんを食べよう国民運動推進協議会. 2017年1月8日確認。
- ↑ 江戸時代のしゃれに「にぎりめしの竹の皮(かわ)というのがあった。「「飯(まま)の皮」を「儘(まま)の皮」にかけて言ったもので、「どうにでもなれ」と言うような意味である(日本国語大辞典、小学館)
- ↑ おにぎりはノリを巻くと菌が繁殖しやすくなるって本当?Excite Bit コネタ 石原亜香利。
- ↑ Hediger M, Rhoads D (1994). “Molecular physiology of sodium-glucose cotransporters”. Physiol. Rev. 74 (4): 993–1026. .