防災工学

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防災工学(ぼうさいこうがく)とは、土木工学に含まれる防災に関する学問である。

基本事項[編集]

災害の防止、災害救助、災害からの復旧が基本事項である。軍隊、特に陸軍の関与が大きい部門である。

概要[編集]

地震火山噴火津波異常気象都市火災といった、災害から人命や財産、都市を守る方法、避難施設の設置場所、避難者の避難方法を研究する。国や地方公共団体は研究だけでなく、実施する必要もある。特に避難施設の設置と避難者の避難方法の研究は兵庫県南部地震から本格的に始まった。義務教育課程では「防災教育」として学んでいる。

沿革[編集]

人類が農耕を行い、都市で商業活動をはじめたとき、国家が自然災害を治めて、人命や財産を守るようになった。古代から自然災害による被害の記録が残されている。治山治水治安徴税の関係から国防と並んで重要な行政であった。しかし、専門的な研究は行われなかった。土木工学の一端として堤防を建設したり、河川改修を行ったりはしたが、学校での教育は行われず、技官が役所で研究するか、技術者集団が徒弟制度で育成するかにとどまった。近代的な学校制度が出来ても河川工学海岸工学の一分野とされた。転機は兵庫県南部地震であった。都市直下型の地震で大都市に大きな被害が起き、改めて防災工学の重要性が訴えられた。

地震[編集]

地震の発生メカニズムはプレート・テクトニクスによる弾性反発説で説明される。プレートの運動により地中に応力が蓄積してひずみがたまる。岩盤がひずみに耐えられなくなったときに断層の跡など、断層の弱いところで断層運動をすることによってひずみを解放する。このときの振動が地震波となって地面を揺らす。地震波は初期微動P波主要動S波がある。地震の規模はマグニチュードで表される。→マグニチュード


対策[編集]

地震については古来、原因を迷信に求めていた。近代に入り、地震のメカニズムが分かると今度は地震の予知の研究が始まった。しかし、現在に至るまで地震の予知に成功した例はない。建築物の耐震化が重要である。また、防災訓練義務教育課程での避難訓練も行われている。新幹線では地震が起きると非常停止装置が働くようになっている。

火山噴火[編集]

噴火の形式には溶岩の種類によって異なる。溶岩の温度が高くて粘性が小さい場合の噴火は穏やかであるが、溶岩の温度が低くて粘性が大きい場合の噴火は爆発的である。被害として火山岩塊火山灰火砕流がある。かつては火山を活火山、休火山、死火山と分類していたが[1]、これまで死火山と思われていた火山が突然活動を始めるなど、人類の歴史は地球物理学の年表では一瞬であることから、このような分類はしなくなった。

対策[編集]

火山国である日本は各地に活動中の火山があり、近代以前は地震と同様、火山噴火も原因は迷信に求められた。ただし、前兆があり、避難することにより被害が避けられることができたが、遠隔地での通信手段のない時代にはその地区で被害が起きることがあった。被害が起きないよう、火山の記録を行い、噴火の兆候が起きたら避難することが重要である。しかし、突然活動を行ったり、周りを海洋に囲まれた有人火山島だったりと、避難することが難しいことがあり、今後の課題である。また、いわゆる破局噴火が起きた場合、広範囲に火山灰が降り注ぎ、太陽が遮られて気温が下がり、農作物の不作など、地球規模の災害となる。

津波[編集]

地震によって海底が隆起したり陥没することによって起きる波を津波という。津波の周期は数十分、波長は数十kmに及び、波の進む速さをV(m/s)、海の深さをh(m)、重力加速度をg(m/s2)とすると、

 

となる。

例えば、重力加速度を10、海の深さを4000mとすると、秒速200m、つまり、分速12km、時速720kmとなる。これにより、7200km離れた地点から10時間かかって津波が到達する。

対策[編集]

地震のあとに津波が来ることは古来から知られていたが、大きな被害は避けられなかった。近代以降も三陸地方の被害は起き、明治時代、昭和初期、高度経済成長期にも起きたが、その後も大きな被害が発生した。津波多発地帯では巨大な防潮堤が築かれたが、津波のエネルギーが大きいと防潮堤が破壊されることがある。最良の津波対策は、津波多発地帯に住まないこと、防災教育の普及である。

異常気象[編集]

陸地に降ったのほとんどは河川に流入するが、高地に降った雨は河川の上流で石を侵食し、これを下流域へ運搬し、下流域で堆積する。この、侵食、運搬、堆積を河川の三作用という。集中豪雨によって河川に流れ込む水の量が増えて河川の流速が速まると、河川の運搬力が大きくなる。運搬力は流速の6乗に比例する。このため、豪雨の際には巨大な岩が流されたり、流木、あるいは水塊そのものによって河川に築かれた土木構造物が破壊されることがある。これが豪雨災害である。

台風竜巻といった強いは大きな被害を与える。の遭難をもたらす海難のほかにも交通機関全般に影響を与える。建物や農産物への被害、高潮による被害があとをたたない。また、風にあおられて転倒する被害もある。

風力[編集]

風が吹いたときの陸上や海上の状態を表すもので、風の強さを表す。

風力階級
陸上での風の強さを表す表である。19世紀初頭にイギリスのビューフォート提督が航海のために帆船フリゲートが帆をいっぱいにあげたときどうなびくかを元に作成した。風力階級8以上、風速17.2m/s以上の熱帯低気圧台風という。
風力階級 陸上における状態 風速の範囲 (m/s)
0 静穏。煙は真っ直ぐに昇る。 0~0.2
1 風向は煙がなびくのでわかるが、風見には感じない。 0.3~1.5
2 顔に風を感じる。木の葉が動く。風見も動き出す。 1.6~3.3
3 木の葉や細い小枝が動く出す。軽い旗が開く。 3.4~5.4
4 砂ぼこりが立ち、紙片が舞い上がる。小枝が動く。 5.5~7.9
5 葉のある灌木が揺れ始める。の水面に波頭が立つ。 8.0~10.7
6 大枝が動く。電線がなる。はさしにくい。 10.8~13.8
7 樹木全体が揺れる。風に向かって歩きにくい。 13.9~17.1
8 小枝が折れる。風に向かって歩けない。 17.2~20.7
9 人家にわずかの損害が起きる。煙突が倒れ、瓦が剥がれる。 20.8~24.4
10 内陸部では珍しい。樹木が根こそぎになる。人家に大損害が起きる。 24.5~28.4
11 滅多に起こらない。広い範囲の破壊を伴う。 28.5~32.6
12 ほとんど起こらない。都市全体が破壊される。 32.7~36.9

集中豪雨[編集]

詳細は「集中豪雨」を参照

土石流[編集]

詳細は「土石流」を参照

詳細は「崩落事故」を参照

対策[編集]

河川氾濫による洪水を防止するため、江戸時代には堤防の建設、屈曲した河川を直線にする河川改修を行った。明治時代以降も同様な政策を行ったが、それでも洪水は毎年起きた。そのため、上水道の確保、水力発電を兼ねてダムの建設を行い、山地に植林をして河川に流れる水の量や土砂災害を防止している。また、高地にある貯水池にも気をつける必要がある。遊水池の確保や砂防事業も重要である。気象予報の発達により、台風や豪雨が予想される地域では、事前に避難勧告避難指示を発令するようになった。また、強風対策として鉄道や道路、港湾、空港といった交通機関の事前の運休や閉鎖を行うようになった。崩落事故についてはロックシェッドの設置等が行われるが、危険地帯を避けて施設を設置するのがもっとも望ましい。

詳細は「治水」を参照

都市火災・爆発[編集]

江戸時代には江戸でしばしば火災が発生し、幕府は対策に様々な政策を出した。明治時代から本格的な防火建築が建てられた。埼玉県川越市の防火建築が有名である。関東大地震により、本格的な防火建築や道路の拡幅工事が行われるようになり、建物の地震対策も考えられるようになった。太平洋戦争ではさらに建物疎開で防火帯を設けたが、アメリカ陸軍航空軍日本本土空襲には無力であった。戦後もしばしば大規模火災が起き、密集した住宅地の問題がある。都市ガスの普及による爆発事故も増加しつつあり、警報装置の設置が急がれている。さらに、建物への放火事件のようにこれまでの常識を越えた事柄も発生するようになった。これとは別に、火薬、化学薬品の爆発事故も多く発生している。(ハリファックス大爆発)

原子力発電所事故[編集]

原子力発電所が冷却装置の故障などで安全装置が働かずに運転を暴走した場合、放射能を放出するなどの大事故を起こす場合がある。この場合、周辺の住民に避難誘導を行う必要がある。また、長期間に渡って帰宅困難になる場合がある。滅多に起きない事故であるが、発生した場合、広大な地域が放射能で汚染され、農産物家畜が廃棄される場合がある。スリーマイル島原子力発電所事故チェルノブイリ原子力発電所事故東京電力福島第一原子力発電所事故がある。

災害救助[編集]

災害救助は陸軍の力が大きいが、海軍病院船も負傷者の治療に大きな力を発揮する。

避難施設[編集]

これまで多くの災害で学校や公園が避難施設に指定された。避難者に対する食事の配給、救援物資の支給、医療行為が行われた。これに必要な物資[2]の保管や輸送は災害時にも耐えられるようあらかじめ計画を立てる必要がある。この点は軍事工学兵站と共通する。被災地や避難施設では人間関係がうまくいかなかったり、様々な感染症犯罪が発生するので、対策や厳重な警備が重要である。

被災地域からの退避[編集]

避難場所が危険になったときや救援が難しくなったとき、生活環境の悪化によって避難民を被災地から別の場所へ移動することも考えなければならない。これに要する車両や船舶、航空機の輸送力の計算も必要である。新潟県中越地震のとき、新潟県古志郡山古志村の全村民を自衛隊ヘリコプターで村外へ避難させた例がある。令和6年能登半島地震では、教育を受ける権利の確保のために2024年1月17日輪島市の市立中学校3校の生徒401人のうち保護者が同意した258人が白山市の県立施設に集団避難した。輪島市の教員25人が施設内で授業を行う。また、珠洲市能登町は1月17日、同意した中学生144人が保護者の元を離れて1月21日金沢市1月21日に集団避難すると明らかにした。両市町の校舎が避難所として使われていることから学習機会の確保を目的に実施する。[3]予定は2か月。

詳細は「疎開」を参照

被災地の遺棄[編集]

被災地の被害があまりにも大きく、復興が不可能と判断されると被災地が放棄されることがある。イタリアベスヴィオス火山の麓のポンペイ79年8月24日の噴火で町は火山灰に覆われたあと、誰も戻らなかった。1986年4月26日ソビエト社会主義共和国連邦ソビエトウクライナ社会主義共和国チェルノブイリ原子力発電所事故では付近の町から40万人の住民を避難させたあとに町自体が放棄された。日本国内でもこの他、水害や土石流で住民が戻らずに村が放棄された例がある。

破綻[編集]

災害による被害があまりにも大きいと国家財政に大きな負担となる。太平洋戦争中に愛知県内で起きた地震は航空機工場に大きな被害が起きた。勤労動員の学生、生徒が死傷し、軍用機の生産に大きな支障が出た。戦時中の出来事であり、戦争遂行能力に打撃を受けた。近代都市に起きた災害は死傷者の数だけでなく、多くの建築物や交通機関が被害を受け、復旧するのに莫大な費用がかかる。企業の倒産が増えて失業者も増えると経済に与える影響が大きい。保険会社は保険金を支払うが、資金にも上限があり、外国株を売却することになる。これは外国経済にも大きな影響を与える。

法律[編集]

書籍[編集]

防災工学の教科書や参考書は20世紀後半になって出版されるようになったが、防災の常識は次々変わり、追いついていないのが現状である。参考文献にある書籍もどこまで参考になるか不明である。

現状[編集]

日本国内では、兵庫県南部地震以降、防災工学への関心が高まり、土木工学として以下の大学工学部高等専門学校高等学校で防災工学を研究、学習をしていることが確認できている。ネットで確認できる防災工学を開講している高等教育機関は以下のとおりであるが、これ以外にも防災工学やこれに類似する研究を行っている大学、高等専門学校がある。

大学[編集]

高等専門学校[編集]

隣接する学問[編集]

関連項目[編集]

その他[編集]

外部リンク[編集]

山さ行がねが:静岡県道416号静岡焼津線 - 波浪によって破壊された道路を紹介している。

参考文献[編集]

  • 石井一郎ほか『防災工学』森北出版1999年8月30日第1版第3刷発行。
  • 椹木亨、柴田徹、中川博次『土木へのアプローチ』技報堂出版1999年1月25日3版1刷発行。
  • 『道路工学』理工図書
  • 渡嘉敷哲ほか『新ひとりで学べる11地学ⅠB』清水書院2003年8月20日第16刷発行
  • 平沼義之『廃道踏破山さいがねが伝説の道編』実業之日本社
  • 室田明『河川工学』技報堂出版2001年1月31日1版10刷発行
  • 山村調査グループ『村の記憶』桂書房2004年11月3日増補改訂
  • 力武常次、都築嘉弘『チャート式シリーズ新物理ⅠB・Ⅱ』数研出版株式会社新制第11刷1998年4月1日発行
  • 矢野隆、大石隼人『発変電工学入門』森北出版株式会社2000年9月13日第1版第4刷発行
  • 椹木亨出口一郎『海岸工学』共立出版2000年3月30日初版3刷発行。

脚注[編集]

  1. 現在活動中の火山を活火山、活動の記録のある火山で現在活動を停止している火山を休火山、活動の記録がない火山を死火山としていた。
  2. 当初は非常食と飲料水くらいだったが、次に、毛布や医薬品、簡易トイレ、ディーゼル発電機など、災害が起きる度に必需品が加えられていった。
  3. 読売新聞2024年1月18日発行。