津波
津波(つなみ)は地震や火山噴火、地滑りなどで海底地形変化が発生したり、巨大質量構造物の海没などで急激な大波が発生するなどの理由により潮汐や高潮とは異なる波が地上に押し寄せる現象を指す。
波とあるが、一般的な波とはかなり違いがある。もともとの日本古語で「津」は港を指し、「港に押し寄せる波」が語源[1]。
名称[編集]
日本の気象庁による公式用語、かつ国際海洋用語であり、海外でも「Tsunami」(スナミ)でそのまま通じる。
英語文献として「Tsunami」の用語使用が初めて確認されるのは19世紀、1897年に著されたラフカディオ・ハーン(小泉八雲)による『仏の畠の落ち穂』収録の「生神様」の一節で、その後、1904年の国際地震学学会において発表され、当時の諸外国では(当時の先進国は地震が少ない国家が多く)大きな波である大波(ビッグウェーブ)、大潮(タイダルウェーブ)と災害としての津波が科学的に区別されておらず、このときにTsunamiの用語が国際的に知られた。
国際用語化するのは戦後であり、1949年のアリューシャン地震で発生した津波を指してハワイ島に住む日系人を中心に津波の用語が広まり、甚大な津波被害を受けてハワイ島に設置された太平洋津波警報センターの名称もそれに合わせ「Pacific Tsunami Warning Center」と公式名称を定めたことでアメリカ合衆国内で一般化、1968年にアメリカの海洋学者が国際学術用語として提案したことで国際語となった。
一般の言葉として世界に知れ渡るのが死者22万人を記録した2004年のスマトラ島沖地震で、映像と共に報道されるTsunamiの語のインパクトにより世界中で定着し現在に至る。
なお、「ツナミ」が海外では「スナミ」になるのは、英語では「Th」を「サ行」で読む発音規則のため、綴りの似る「Tsu」を「Thu」と読んでいることから。あちらの方には発音しづらい音を読みやすく読み替えているということ[2]。
原理[編集]
津波の周期は数十分、波長は数十kmに及び、波の進む速さを(m/s)、海の深さを(m)、重力加速度を(m/s2)とすると、
となる。
例えば、重力加速度を10(m/s2)、海の深さを4000mとすると、秒速200m、つまり、分速12km、時速720kmとなる。これにより、7200km離れた地点から10時間かかって津波が到達する。また、流水の運搬力は流速の6乗に比例するので大きな被害を及ぼす。
津波の大きさを示す尺度として地震と同じマグニチュードmが定義されている。
規模階級m | 津波の高さH (m) | 全エネルギー×1022(erg) | 被害程度 |
---|---|---|---|
0 | 1 | 0.25 | 非常にわずかの被害 |
1 | 2 | 1 | 海岸および船の被害 |
2 | 4~6 | 4 | 若干の内陸までの被害や人的損失 |
3 | 10~20 | 16 | 400km以上の海岸線に顕著な被害 |
4 | 30 | 64 | 500km以上の海岸線に顕著な被害 |
地震による津波[編集]
海溝型地震に連動した場合であれば、沈み込むプレートと既存のプレートとの間で発生する摩擦力が蓄積、ある時点で勢いよく元に戻ろうとする力が働き、その際に海底の広範囲で地殻変動が発生、地殻変動発生範囲の上にのしかかっている海水が瞬間的に数センチから数メートル以上押し上げられることで人知を超えたとてつもなく巨大な波(波紋)が発生、発生地点から副次的、同心円状に広がったものが地上に到達することで津波となる。
観測史上最大波長の津波は波高5メートル、波長(波の最前列から最後尾までの長さ)が実に600キロメートルに達したものがある。
斜面崩壊[編集]
- 火山
なお、特殊な津波として「火山性津波」があり、こちらは火山によって崩壊した山腹が海中に向けて崩落することで波が発生し対岸へ向けての津波になる、というもので、有名なものでは島原大変肥後迷惑の俗称で知られる江戸時代の普賢岳災害の記録がある。これは長崎県島原市で発生した山腹崩壊土砂が海岸線に到達、押しのけられた海水がそのまま橘湾対岸となる肥後藩(熊本県)沿岸部に押し寄せた事例である。
- 氷河
その他、フィヨルドの巨大な氷の塊が海没した際に発生する波が津波となる事例もある。
隕石[編集]
歴史的には「恐竜が滅んだ隕石衝突」として名高い「ユカタン半島への隕石衝突」の際にも地球全体に津波が発生した、らしい。
爆発事故[編集]
1917年にカナダのハリファックスで起きた貨物船衝突事故により火災が起きた。これによって積み荷の第一次世界大戦でのヨーロッパ向け高性能火薬5000トンが爆発し、津波が発生した。熱線、衝撃波の次に津波がハリファックスの市街を襲い、多数の死傷者を出し、町は壊滅した。
詳細は「ハリファックス大爆発」を参照
津波警報[編集]
海上で波高1メートルの津波だった場合、「陸上に近づく(水深が浅くなる)につれて、水量がそのまま高さ変化に現れる(押し寄せる水量は変化しないので波高が比例的に巨大化する)」ということであり、波高30cm程度でも数千トンの物理的質量を持つ。
例えるならば、背の高い人が地下鉄の階段の下から登って来る際、早くから頭が見え、それは階段を登る都度、見える範囲が大きくなっていくが、背の高い人の背丈が物理的に伸びているわけではなく、床が地面と同じ高さに上がってくるだけである。
例として、日本の気象庁による津波警報のうち巨大津波を指す「大津波警報」は「波高5メートル、10メートル、10メートル超」を基準とする3段階で発令されるが、これは「海上で確認された波の高さ」であり、地上に駆け上がるうちに波高30メートル超、あらゆる家屋を薙ぎ倒す暴虐の水流となることは珍しい事例ではない。
このとき、地上を襲って重力に引かれて海へ戻る「引き波」と更に奥から押し寄せる「寄せ波」が合わさった結果として、第一波より第二波以降の波高が高くなる現象が知られている。また、東京湾や大阪湾など入江状の湾内では円状の各岸に一度上陸した波が引く際に湾の中央部に集中することで次の波がそれらを再び地上に押し戻すことにより、通常の直線状海岸よりも更に波高が巨大に成長してしまう現象もある。
津波警報は大きく2種類あり、前述の大津波警報より規模が小さく波高3メートル前後のものでは単に津波警報、それ以下の波高1メートル程度では津波注意報という発報の分類がされている。
防波堤の意義[編集]
岩手県釜石市にあったギネスブック登録されていた長大な釜石港湾口防波堤が2011年3月11日の東日本大震災にて発生した津波に対し為す術もなく破壊された事例は記憶に新しいが、専門家の研究によれば、防波堤がなかった場合には波高13メートルに達したはずの津波を、防波堤による抵抗により7~9メートルにまで威力低減させた効果が認められている。
そもそも、地殻変動が発生する海底の深度や範囲にもよるが、多くの津波は幅は目視可能限界、高さは数センチから数十メートル以上、前後幅は数十キロメートル以上と、とてつもない大質量、数千億トンから数兆トンという規模、移動速度は飛行機並みで押し寄せるため「人類が津波を完全に停止させる方法」というのは実現不可能である(防波堤は波が越堤しないダム効果を期待したもの、防潮堤は通過抵抗で潮の威力を弱めるもので、どちらも停止させる用途ではない)。
脚注[編集]
参考文献[編集]
- “津波について”. Yahoo!知恵袋 (2011年4月12日). 2018年3月14日確認。
- 海難の世界史
- 室田明『河川工学』技報堂出版2001年1月31日1版10刷発行
- 渡嘉敷哲ほか『新ひとりで学べる11地学ⅠB』清水書院2003年8月20日第16刷発行
- 椹木亨、柴田徹、中川博次『土木へのアプローチ』技報堂出版1999年1月25日3版1刷発行。
- 椹木亨、出口一郎『海岸工学』共立出版2000年3月30日初版3刷発行。
関連項目[編集]
外部リンク[編集]
- 【過去の地震津波】チリ地震津波(1960年5月22日) - YouTube - CGアニメーションによる津波が震源から太平洋を超えて日本全域へ伝播する速度と岸壁反射波により巨大化する様子。