富士社会教育センター
公益財団法人富士社会教育センター(ふじしゃかいきょうくセンター)は、静岡県御殿場市に所在する公益財団法人で、旧民社・同盟系の社会教育団体。略称は「公益財団富士」。英文名は「Fuji Social Education Center」[1]。
概要[編集]
1969年8月に民主社会主義者の理論と実践の教育を目的に財団法人富士社会教育センターとして設立された[2]。石上大和によれば、民社党第2代委員長の西村栄一が「七〇年代の政界の激動に備えるためには、なんとしても若い活動家層を育成しておかねばならない」との理念から設立に取り組み、1969年8月に西村が集めた基金を中心にして設立された[3]。青木慧によれば、「民社党と同盟が民社研の学者の協力を得て、幹部・活動家の養成の場として」つくったもので、財界や企業のバックアップを受け、のちに総評や中立労連内の「民主的労働組合」や「民主化グループ」も加わった[4]。富士社会教育センターが労働組合員向けの教育機関として開設した富士政治大学校は「同盟・JC系の組合の青年労働者を集めて猛烈な特訓をおこない、反共活動家を養成する学校として有名」だった[5]。神奈川県座間市の松橋淳郎市議によれば、「一説によると、同学校は、昭和40年代共産主義やファシズムの反共に対して、アメリカ中央情報局(CIA)の支援を受けて創立したとも言われている」という[6]。
1990年の連合の構成組織を対象としたアンケート調査(構成組織81組織のうち58組織が回答)によれば、26組織が「提携・関係している教育機関・団体」があると答え、内訳は日本労働協会1、日本生産性本部2、社会経済国民会議2、現代総研1、日本労働教育センター5、富士社会教育センター13、全文協5、日教研1、民社研2、産業労働調査所2、日本ジャーナリスト協会3、産業労働情報開発センター1、日本労働研究機構1、レジャー・サービス産業労働情報開発センター1だった。富士社会教育センターと答えたのは、電力総連、鉄鋼労連、造船重機労連、一般同盟、交通労連、全郵政、国税労組、航空同盟、建設同盟、建職組、基金労組、日林労、日建協の13組織だった[7]。
- 名称:公益財団法人富士社会教育センター
- 本部所在地:静岡県御殿場市神場646番地
- 法人番号:9080105005011
- 会員数:維持会員 109団体(2022年時点)[1]
- 目的:「わが国の政治、社会、経済、環境、エネルギーなどの意識の向上及び勤労者の地位向上を図るため、広く国民の社会教育を行い、もって福祉の向上とわが国の発展と文化の向上に寄与することを目的とする。自然環境の保護や環境学習活動、スポーツ団体・文化団体の交流を通して、青少年の豊かな人間性の涵養を目的とする。」(「定款」より)[1]
- 事業:「(1) 教育活動を通じて、勤労者の福祉の向上や国民生活の安定向上に寄与すると同時に、政治・環境・エネルギーの意識の向上を図ることを目的とした「合宿研修教育の企画・実施、講師派遣、通信教育、出版、研修、調査」等の事業を実施する。(2) 自然環境保護・環境学習活動・青少年のスポーツ団体や文化団体の交流等の事業を実施する。」[1]
- センターが加盟している団体:核兵器廃絶・平和建設国民会議、民主労働教育会議、アジア連帯委員会
- 友誼団体:民社党(1994年解党)、民社協会
沿革[編集]
- 1960年11月20日 - 第29回衆議院議員総選挙で民社党が惨敗。選挙後、西村栄一が政治学校開設の具体的な構想に着手[8]。
- 1962年10月 - 西村栄一が民社党書記長に就任。西村が書記長就任後、西尾末広委員長、伊藤卯四郎副委員長ら党首脳および中地熊造同盟会議議長の諒解を得て、党レベルで政治大学設立準備委員会を発足[9]。
- 1965年5月25日 - 静岡県御殿場市に学校建設用地を確保。
- 1966年12月1日 - 富士政治大学校の校舎建設が着工。
- 1967年9月15日 - 財団法人富士社会教育センターの設立準備会が発足。
- 1967年11月25日 - 富士政治大学校の校舎が完成[10]。
- 1968年5月1日 - 星加要総主事を中心に富士政治大学校施設利用受け入れを開始[11]。
- 1969年4月22日 - 文部省社会教育局(現・文部科学省総合教育政策局)より財団法人の設立許可を受け、7月29日に設立登記を完了[1][12]。
- 1969年8月1日 - 西村栄一が富士政治大学校初代学長に就任[10]。
- 1969年10月 - 第一期の研修会を開催[12]。
- 1972年6月6日 - 日本労働者教育協会を吸収合併[13]。
- 1978年3月 - 通信教育を開始[12]。
- 1980年2月29日 - 富士通信教育協会が発足[14]。富士政治大学校の通信教育部門[15]。
- 2006年10月 - 財団法人エネルギー問題調査会の研究事業を引き継ぎ、エネルギー問題研究会を設置。
- 2011年11月1日 - 公益財団法人に移行[12]。
事業[編集]
公益事業[編集]
- 研究活動:エネルギー問題研究会。2022年12月現在の研究委員は田久保忠衛(研究委員長・杏林大学名誉教授)、坂田幸治(電力総連会長)、十市勉(日本エネルギー経済研究所客員研究員)、古庄幸一(元海上幕僚長)[16]。
- 主催研修:ユニオンリーダースクール基本コース、専門コース、コミュニケーション・デザインフォーラム、富士政治大学校、時局研究会。会員制講演会の時局研究会では高橋史朗や田中英道など保守系文化人がたびたび講師を務めている[17]。
- 企画研修
- 通信教育:労働組合の基礎を学ぶ「労働組合入門コース」、組合役員対象の「労働組合の知識コース」「労働組合の実務コース」「総合コース」「労働法コース」の5コースを開講。
- 中央教育センター:1999年より大人向けの生涯学習教室「富士コミュニティーカレッジ」、2002年より子供向け自然体験プログラム「富士山わくわく自然塾」を実施[18]。
収益事業[編集]
- メディア:労働組合の職場活動や選挙活動などに関する書籍の発行。
- 受託制作:労働組合の年史や教材などの受託制作、個人の自費出版。
- 調査事業:労働組合の組合員意識調査などの受託調査。
- ユニオンソリューション:情報システムの開発、IT教材の作成など[19]。
- 施設利用:団体向け宿泊施設。学生向けスポーツ合宿、宿泊研修・講習会、キャンプなどを想定している。個人や少人数の宿泊も対応[20]。
出典:「令和4年度事業報告(PDF)」ほか富士社会教育センター公式サイト(2023年10月3日閲覧)。
役員[編集]
歴代理事長[編集]
- 竹本孫一(1969〜1975年)
- 松下正寿(1975〜1986年12月死去)
- 高橋正則(1987〜1995年)
- 宇佐美忠信(1995[21]〜2009/2010年[22])
- 大松明則(2009/2010年〜2014年4月死去)
- 落合清四(2014年6月〜2021年12月)[23]
- 逢見直人(2021年12月〜)[24]
1980年時点の役員[編集]
理事長:松下正寿
理事:青木清、中村勝範、吉田忠雄、宇佐美忠信、関嘉彦、村田宏雄、天池清次、丸尾直美、田端繁、下田喜造、鈴木匡
評議員:約40人[25]
1982年時点の役員[編集]
理事長:松下正寿
常任理事:大内啓伍、大松明則、黒沢博道、鈴木匡、田端繁
理事:青木清、宇佐美忠信、下田喜造、関嘉彦、中村卓彦、中村正雄、丸尾直美、村田宏雄、山下英雄
監事:水田直昌、矢野範二、柳田誠二郎
顧問:天池清次、小平忠、滝田実、竹本孫一、西村秀子、宮田義二
参与:星加要
富士政治大学校本校総主事:早矢仕不二夫
富士政治大学校西部本校総主事:本田四郎
富士政治大学校九州本校総主事:山下英雄
評議員:49人(金杉秀信、山口義男、芦田甚之助、阿部翰靖、高橋正則など)[26]
2015年時点の役員[編集]
理事長:落合清四
専務理事:中村勝雄
理事:逢見直人、工藤智司、瀬沼克彰、高池勝彦、田久保忠衛、谷藤悦史、柘植幸録、南雲弘行、眞鍋貞樹、山本多喜司
評議員:青木清、有野正治、梅澤昇平、加藤秀治郎、川上恕、岸本薫、近藤宣之、佐瀬昌盛、高倉明
事務所[編集]
- 本部(静岡県御殿場市)
- 中央教育センター(静岡県御殿場市)
- 北海道・東北事務所(仙台市青葉区) - 1982年東北本校・東北事務所開設[12]。
- 東京事務所(東京都千代田区) - 1971年開設[12]。
- 東海事務所(名古屋市中区) - 1997年東海事務所・東海本校開設[12]。
- 関西事務所(大阪市東淀川区) - 1978年開設[12]。
- 九州事務所(福岡市中央区) - 1980年開設[12]。
- 西部本校(岡山市北区) - 1976年開設[12]。
他団体との関係[編集]
松下政経塾[編集]
東京都議会議員(当時)の山田宏によれば、松下政経塾は選挙の具体的実戦的なノウハウを学ぶため富士政治大学校の講師を招き、1983年から富士政治大学校の講師が政経塾に来たり、政経塾の塾生が富士政治大学校に合宿したりするようになった[28]。横浜市立大学商学部教員の平智之は松下政経塾と富士政治大学校の人的な連続性を裏付ける証拠として、鉄鋼労連委員長や金属労協議長を務めた宮田義二が同塾の塾長や相談役、鉄鋼労連委員長や連合会長を務めた鷲尾悦也、電力総連会長や連合会長を務めた笹森清が同塾の評議員を務めていることをあげている[29]。2012年9月に死去した宮田の「お別れ会」は富士社会教育センターや松下政経塾など5団体の代表が発起人となって開催された[30]。また富士社会教育センター常任理事や富士政治大学校常任講師を務めた黒沢博道は1982年から1987年に松下政経塾の非常勤講師を務めている[31]。
統一協会[編集]
富士社会教育センター2代目理事長の松下正寿は世界平和教授アカデミー初代会長、『世界日報』論説委員、宗教新聞社社主など統一協会の関連団体の要職を務めた。民社党ブレーンの関嘉彦は松下が統一協会と絶縁しない限り富士政治大学校の講演には一切協力しないと民社党幹部に申し入れている[32]。ジャーナリストの青木慧は、松下以外にも滝田実顧問が世界平和教授アカデミー参与、水田直昌監事が世界平和教授アカデミー監事を務めており、統一協会/勝共連合と富士政大は組織と人脈上に重なりがあると指摘している[33]。
労働アナリストの早川行雄は、芳野友子連合会長の反共思想が「富士政治大学で指導されたもののようである」ことを指摘した[34]。また安倍晋三銃撃事件後に統一協会をめぐる問題が再浮上する中で、富士社会教育センター2代目理事長の松下正寿が世界平和教授アカデミー初代会長を務めたことを指摘した[35]。日刊スポーツのコラムでも同様の指摘が行われた[36]。芳野連合会長は2022年8月25日の記者会見で教団とセンターの関係について問われ、「知りませんでした。調べないです。調べるつもりはないです」「センターで学んだと書かれているが、私はそこで学んでいません。センターがどういう教育をしているのかは分からない」「女性役員が外の会議に出ることがほとんどない中、女性組織で学習会をやろうということでセンターに所属する方を講師に招いた。ただ、労働運動について学ぶというよりは、話し方とか文章の書き方とか基本的な学習会だった」と答えた[37]。
保守運動[編集]
2004年頃に公式ホームページに「国民運動サイト情報」として、北朝鮮に拉致された日本人を救出するための全国協議会(救う会全国協議会)、特定失踪者問題調査会、「日本の教育改革」有識者懇談会(民間教育臨調)、新しい歴史教科書をつくる会(つくる会)、北方領土問題対策協会、富士山ナショナル・トラスト、核兵器禁止平和建設国民会議(核禁会議)、「21世紀の日本と憲法」有識者懇談会(民間憲法臨調)、日本会議のウェブサイトのリンクを掲載していた[38]。2009年頃には電脳補完録(拉致問題に関する個人サイト)、日本教育再生機構、日本再生会議のウェブサイトのリンクも加わっていた[39]。労働アナリストの早川行雄は、「ちなみに、富士政治大学校を運営する富士社会教育センターの理事には『日本会議』の田久保忠衛氏会長(杏林大学名誉教授)、『新しい歴史教科書をつくる会』の高池勝彦会長が名を連ねていて、かなり労働右派の集まりになっているという声も聞こえます」と述べている[40]。富士社会教育センター理事長の宇佐美忠信は日本会議代表委員、富士社会教育センター顧問の滝田実は日本会議顧問を務めた。
出典[編集]
- ↑ a b c d e 公益財団法人 富士社会教育センター 社会教育団体振興協議会
- ↑ 米田重三「民主労働教育会議の発足にあたって――広範な教育通じ豊かな人間性の建設をめざす」『同盟』第238号、1978年5月
- ↑ 石上大和『民社党――中道連合の旗を振る「責任政党」』教育社、1978年、83頁
- ↑ 青木慧『ニッポン丸はどこへ行く』朝日新聞社、1982年、241頁
- ↑ 高橋祐吉「労働組合運動のガン=インフォーマル組織とどうたたかうか」、日本の労働組合運動編集委員会編『日本の労働組合運動 5 労働組合組織論』大月書店、1985年、157頁
- ↑ 富士政治大学校 講習会 座間市市議会議員 松橋じゅんろう、2016年11月16日
- ↑ 『れんごう政策資料』第12号、1990年6月
- ↑ 中村菊男、高橋正則編著『西村栄一伝――激動の生涯』富士社会教育センター、1980年、300頁
- ↑ 中村菊男、高橋正則編著『西村栄一伝――激動の生涯』富士社会教育センター、1980年、348頁
- ↑ a b 中村菊男、高橋正則編著『西村栄一伝――激動の生涯』富士社会教育センター、1980年、506頁
- ↑ 中央党学校「発展、定着する御殿場教育――民社党中央党学校のあゆみ」『革新』第123号、1980年10月
- ↑ a b c d e f g h i j 当財団について 公益財団法人富士社会教育センター
- ↑ 小林吉作「日労教二十二年の足跡」『改革者』第151号、1972年10月
- ↑ 「日誌」『革新』第117号、1980年4月
- ↑ 青木慧『ドキュメント 臨教審解体――教育支配の構造』あけび書房、1986年、328頁
- ↑ エネルギー問題研究会 公益財団法人富士社会教育センター
- ↑ 時局研究会 開催記録 公益財団法人富士社会教育センター
- ↑ イベント主催 公益財団法人富士社会教育センター
- ↑ 出版・調査・ソリューション事業 公益財団法人富士社会教育センター
- ↑ 団体向け宿泊施設 公益財団法人富士社会教育センター
- ↑ 青木久『光と影 第4部』富士社会教育センター、2000年
- ↑ 連帯の30年(PDF)アジア連帯委員会
- ↑ 日本内外の動きとUAゼンセン・連合の歩み(PDF)UAゼンセン
- ↑ 理事長交代のご連絡(PDF)公益財団法人富士社会教育センター、2021年12月
- ↑ 「赤旗」日曜版特別取材班「密着レポート 富士政治大学校のすべて」『今日の民社党――大企業擁護・軍事ファシズムの先兵』日本共産党中央委員会出版局、1980年、118頁
- ↑ 青木慧『政労使秘団――組織と人脈』汐文社、1983年、170-179頁
- ↑ 公益財団法人 富士社会教育センター 役員 平成二七年六月一日現在 公益財団法人富士社会教育センター
- ↑ 山田ひろし『松下幸之助と政経塾』ぱる出版、1988年、160-161頁
- ↑ 平智之「松下政経塾と「中田人脈」の研究 (3)(PDF)」tomocci.com、2003年7月10日
- ↑ 宮田義二さんお別れの会(2012年9月1日) 金属労協/JCM、2012年9月1日
- ↑ 黒沢博道関係文書 リサーチ・ナビ
- ↑ 関嘉彦「回想録――私と民主社会主義(第一二回)民社研議長として」『改革者』第38巻第12号(通巻449号)、1997年12月
- ↑ 青木慧『政労使秘団――組織と人脈』汐文社、1983年、174頁
- ↑ 芳野友子新体制で危機に立つ連合 現代の理論第30号、2022年5月3日
- ↑ 迷走する連合は出直し的再生をめざせ 現代の理論第31号、2022年8月8日
- ↑ 【政界地獄耳】立民代表・泉健太は自民党に向けた疑問を連合にも向けるべきでは 日刊スポーツ、2022年8月20日
- ↑ “共産党アレルギー”連合・芳野会長と旧統一教会の怪しい関係…会見で突っ込まれタジタジ 日刊ゲンダイ、2022年9月6日
- ↑ 国民運動サイト情報 富士社会教育センター
- ↑ 国民運動サイト情報 富士社会教育センター
- ↑ 岸田内閣崩壊の好機に野党共闘を拒否する連合・芳野友子会長“共産党嫌い”の原点 女性自身、2023年12月27日
関連項目[編集]
- 大島康正(富士政治大学校講師、富士通信教育協会理事)
- 内海洋一(富士政治大学校講師、富士通信教育協会理事)
- 大谷惠教(富士通信教育協会理事)
- 寺井融(富士社会教育センター政治専科・労働専科客員研究員)
- 富士選書・富士双書・富士新書
- パラダイムシリーズ
- 日本労働教育センター