阪神なんば線
阪神電気鉄道 HS 阪神なんば線 | |
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尼崎駅に乗り入れた1020系 | |
基本情報 | |
国 | 日本 |
所在地 | 兵庫県、大阪府 |
起点 | 尼崎駅 |
終点 | 大阪難波駅 |
駅数 | 11駅 |
路線記号 | HS |
開業 | 1924年(大正13年)1月20日 |
全通 | 2009年(平成21年)3月20日 |
所有者 | 阪神電気鉄道[1] 西大阪高速鉄道[2] |
運営者 | 阪神電気鉄道[3] |
車両基地 | 尼崎車庫 |
使用車両 | 使用車両の節を参照 |
路線諸元 | |
路線距離 | 10.1 km |
軌間 | 1,435 mm (標準軌) |
線路数 | 複線 |
電化方式 | 直流1,500 V 架空電車線方式 |
閉塞方式 | 自動閉塞式 |
保安装置 | 阪神型ATS (尼崎 - 桜川間) ATS-SP (桜川 - 大阪難波間) |
最高速度 | 106 km/h |
阪神なんば線(はんしんなんばせん)は、兵庫県尼崎市の尼崎駅から大阪府大阪市中央区の大阪難波駅までを結ぶ阪神電気鉄道の鉄道路線である。
概要[編集]
2009年3月20日の本路線の開業によって阪神電気鉄道と近畿日本鉄道が地下鉄を介さずに直接接続する形となった。大手私鉄が地下鉄を介さずに直接接続するのは1968年に京阪電気鉄道と近畿日本鉄道が連絡線を撤去して以来の出来事である。この路線の開業によって沿線に多くの影響を与えた。
阪神本線と近鉄奈良線はこれまで大阪環状線や御堂筋線を介して乗り継ぎできたが、乗降客の多い駅での2回の乗り継ぎに二の足を踏み、両線沿線の結びつきは決して強くはなかった。しかし当該路線の開通によって乗り継ぎがなくなり、運賃も安くなって両線沿線の結びつきは強くなった。これによって受験生の進学希望先の選択が広まった。実際、奈良県、大阪府、兵庫県の大学の広報担当者が乗り入れ先の高等学校へのPRを行った。以下が開業当時の運賃、所要時間の比較である。
営業キロ | 運賃 | 所要時間 | 備考 | |
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西日本旅客鉄道 | 78.8km | 1210円 | 約72分 | 乗り換え1回 |
阪神電気鉄道+近畿日本鉄道 | 65.3km | 940円 | 約80分 | 阪神なんば線経由・乗り換えなし |
阪神電気鉄道+近畿日本鉄道 | 68.1km | 1080円 | 約90分 | 御堂筋線経由・乗り換え2回 |
*乗車時間のみ
前史[編集]
1924年に阪神本線大物駅から千鳥橋駅まで開業した伝法線は、太平洋戦争後の需要の伸びにより1946年から1948年にかけて難波駅延伸が計画され、1959年に特許を得た。同時に近畿日本鉄道も上本町駅から難波駅までの延伸が計画された。このうち、大阪環状線接続を目的に伝法線が1964年5月に西九条駅に達した。さらに、1970年3月には近鉄難波線が開業した。
一方、西九条駅から九条駅が1967年に起工されたが、沿線商店街の反対、千日前線の開業によって阪神電気鉄道と近畿日本鉄道が接続されたこと、建設費の高騰などから延長工事は凍結してしまった。
しかし、時間が経つうちに反対運動は下火になり、建設予定線付近も寂れて逆に建設を求める意見も出てきた。また、建設費用についても鉄道の建設と保有を行う第三セクターの会社を設置してこれに公的な助成を行い、運営は従来の鉄道事業者とする方式によって運賃の高額化を避けることができるようになった。2001年7月、阪神電気鉄道は新線建設と保有のための西大阪高速鉄道を設立し、9月に大阪府と大阪市の参画を得て第三セクターとなった。
開業直前の車両の動き[編集]
大阪難波延伸を前に阪神1000系の1503Fと1504Fには車体に開業を告知するためのラッピングとヘッドマークが、乗り入れ先の近鉄9020系の9032Fと9033Fには直通運転を告知するためのラッピングがそれぞれ施されている。近鉄のラッピング車両は阪神本線へ、阪神のラッピング車両は近鉄奈良線へそれぞれ陸送され試運転を実施していた。2009年(平成21年)1月11日の深夜(正確には12日の深夜から未明にかけて)に阪神1000系の1503Fと1504Fが9000系の9201Fと共に(併結して10両で)自力回送で尼崎車庫に戻り、現在は阪神線での営業運転に復帰している。延伸区間を走るのはこの回送運転が初めてである。さらに開業直前には近鉄の乗り入れ車両にも近鉄・阪神直通運転のマークをあしらったステッカーが貼付された。
路線概要[編集]
阪神なんば線の開業により、大阪市西区には初めて大阪市営地下鉄以外の鉄道路線の駅が設けられた(JR大阪環状線の弁天町 - 大正間で、最も大阪ドーム(京セラドーム大阪)に接近している区間は西区を通過するが、駅はない)。また近鉄難波線同様、地下鉄千日前線と競合関係になった。
阪神電鉄は梅田・難波の大阪の2大ターミナルに進出することになるが、これは関西の私鉄として初めてのこと[4]になる。但し大阪難波方面からの列車が尼崎駅到着時の案内で「大阪方面は乗り換え」と梅田を省略したり、逆に神戸方面からの列車での案内で大阪難波駅の駅名が「難波」と略されたり(但し2011年秋ごろから『大阪難波』)、さらには本線の出屋敷駅以西の方面案内標で「尼崎・大阪(梅田)・難波・奈良方面」というように「大阪」が梅田のみに冠されるなど、阪神にとっては大阪側のメインのターミナルはあくまでも梅田と位置付けている。
地上区間でも待避駅が無いために、阪神なんば線内で通過駅を伴う列車は各駅停車を追い越すことが出来ないために多く設定することができず、設定されているのは快速急行のみで、区間準急・準急は阪神なんば線内は各駅に停車となり、奈良線で運行されている急行は奈良線の料金不要種別で唯一、定期列車で阪神なんば線へ乗り入れられていない。
近鉄線では、種別の色を赤色で 快速急行 と表示するが、阪神線では水色で 快速急行 と表示する。このため大阪難波 - 桜川間で字幕の色を変える。また、三宮が神戸三宮に改名される前は 快急 と表示していた。
この路線は車内自動放送を行っている。また桜川駅 - 大阪難波駅間は近鉄の管理区間のため近鉄の乗務員が担当する。
TAITOより発売された電車運転シミュレーションゲーム電車でGO! プロフェッショナル仕様において、当路線の名前が間違って「阪神西九条線」と案内されている。ゲーム発売当時の正しい名称は西大阪線[5]である。
車両の特徴[編集]
使用車両は阪神・近鉄とも原則オールロングシート車で、近鉄のL/Cカーは当初の発表では京都線と同様にすべてロングシートにして運用する予定であったが、実際には平日ラッシュ時の快速急行を除くとクロスシート状態で阪神線に入線している事例が多数あり、必ずしもロングシートで徹底されているわけではなく、近鉄側の現場の裁量に委ねられている[6]。特に開業フィーバーによる混雑がある程度収まった開業後半年経過以降はクロスシート状態で運用される確率の方が高くなっている。また優先座席の位置も阪神が神戸三宮側に、近鉄が奈良側にそれぞれ設定されており異なっているが、両社とも他線でも車両を運用する都合上、統一はなされていない。
阪神と近鉄の相互直通運転の大きな特徴は、阪神・近鉄の両社で車体長や扉数が阪神:約19m級3扉、近鉄:約21m級4扉と大きく異なるにもかかわらず、両社間で車両の仕様統一がなされなかったことである。これは阪神がすでに神戸高速を介して山陽との相互直通運転を実施しており、仮に近鉄直通用車両の投入時に近鉄方に仕様を合わせた場合、非効率な運用となることを承知の上で、相互直通運転の阪神方の終端駅である神戸三宮駅までの線内限定運用とするか、それを避けて山陽直通運用にも充当する場合、神戸高速および山陽電鉄線内において施設の大規模な改修を実施することとなり、いずれも現実的な選択とはなり得ないからである[7]。これは近鉄方においても同様であり、阪神仕様の乗り入れ対応車を製造した場合、奈良・京都・橿原の3線区広域運用ができず、また他線区への転属も利かない車両を投入することとなり、こちらも運用上非効率である[8]。
こうしたことから、あえて仕様の統一を図らずに相互直通運転を行うという日本の私鉄史上、極めて珍しい事例となった[9]。で、どう対応したのかというと、何のことはない。乗車位置案内を阪神車と近鉄車で別の記号を使って分けたのである。JRでいう4ドア車と3ドア車の乗車位置が違うみたいな現象。14両3ドアのアレはちょっと特殊事例すぎるけど、例えとしては間違ってないよ。
また、細かいところでは車掌スイッチの操作方法が阪神と近鉄で逆になっており、同じ路線で車両によって操作方法が異っている。
準急と区間準急の通過標識灯の点灯位置は阪神と近鉄で異なる。阪神線内では準急、区間準急とも各停扱いのため両側消灯するが、近鉄線内では両方とも正面から見て左側のみ点灯する。この切り替えは桜川駅で乗務員交代するときに行われる。
ダイヤ[編集]
快速急行が毎時2本、普通が毎時6本運行する。東側は全列車が上本町方面に直通する。西側は快速急行のみ西宮方面に直通する。
駅一覧[編集]
- 凡例
- ●:停車、|:通過
- 普通・区間準急・準急は阪神なんば線内各駅に停車する。
- 接続路線内の括弧内は該当駅の駅番号を示す。
阪神なんば線の駅番号は2014年4月より導入されている。
駅番号 | 駅名 | 駅間キロ | 営業キロ | 快速急行 | 接続路線 | 地上/地下 | 所在地 | |
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HS 09 | 尼崎駅 | - | 0.0 | ● | 阪神電気鉄道:本線 (HS 09)(快速急行は一部を除き神戸三宮駅まで直通運転) | 地上区間 | 兵庫県 尼崎市 | |
HS 08 | 大物駅 | 0.9 | 0.9 | | | 阪神電気鉄道:本線 (HS 08) | |||
HS 49 | 出来島駅 | 1.4 | 2.3 | | | 大阪府大阪市 | 西淀川区 | ||
HS 48 | 福駅 | 1.0 | 3.3 | | | ||||
HS 47 | 伝法駅 | 1.5 | 4.8 | | | 此花区 | |||
HS 46 | 千鳥橋駅 | 0.7 | 5.5 | | | ||||
HS 45 | 西九条駅 | 0.8 | 6.3 | ● | 西日本旅客鉄道:O 大阪環状線・P 桜島線(JRゆめ咲線) | |||
HS 44 | 九条駅 | 1.3 | 7.6 | ● | 大阪市高速電気軌道:中央線 (C14) | 地下区間 | 西区 | |
HS 43 | ドーム前駅 | 0.6 | 8.2 | ● | 大阪市高速電気軌道:長堀鶴見緑地線(ドーム前千代崎駅:N12) | |||
HS 42 | 桜川駅 | 0.8 | 9.0 | ● | 大阪市高速電気軌道:千日前線 (S15) 南海電気鉄道:高野線(汐見橋線)(汐見橋駅:NK 06-5) |
浪速区 | ||
HS 41 | 大阪難波駅 | 1.1 | 10.1 | ● | 近畿日本鉄道:A 難波線 (A01)(近鉄奈良線近鉄奈良駅まで直通運転) 大阪市高速電気軌道:御堂筋線 (M20)・四つ橋線 (Y15)・千日前線 (S16)(難波駅) 南海電気鉄道:南海本線・高野線[* 1] (NK 01)(難波駅) 西日本旅客鉄道:Q 関西本線(大和路線)(JR難波駅) |
中央区 |
桜川とドーム前の下りでわずかに大正区を通る。また、西九条駅から大阪難波駅は西大阪高速鉄道が路線を保有している。
訴訟[編集]
かつては伝法線と呼ばれ、大阪難波延伸は1960年代後半から計画されたが、それに際し、地域の分断を招くと反対運動が起こった。このうち九条付近の反対運動は完全には解決しておらず、九条では「『もぐれ阪神』街づくりを見直す会」による「もぐれ阪神」という看板・横断幕が掲げられていた。この会は重層高架の西九条駅から高架橋が伸びて安治川を橋梁で超えて九条地区で高架から地下に入るために、九条地区の町の分断と地上近くに線路があることに伴う騒音を憂慮し、安治川より手前から地下化することを主張していた(実際は勾配がきつくなりすぎることなどから不可能)。実際に工事差し止めを求める裁判も起こしたが、一審、二審とも敗訴し、2009年10月20日に最高裁第三小法廷で原告側の上告を棄却する決定をしたため、原告側の敗訴が確定した[10]。本路線は、安治川を越えてすぐの九条地区(九条駅手前)で地下に入っているが、このような経緯もあって勾配区間は防音のためのシールドで覆われている。
参考文献[編集]
脚注[編集]
- ↑ (尼崎 - 西九条間 第1種鉄道事業者)
- ↑ (西九条 - 大阪難波間 第3種鉄道事業者)
- ↑ (尼崎 - 西九条間 第1種鉄道事業者、西九条 - 大阪難波間 第2種鉄道事業者)
- ↑ 過去には阪急京都本線(梅田と天神橋)や南海電鉄(なんばと天王寺)がデュアルターミナルを志向したことがあった。
- ↑ 西大阪線に改名の前は伝法線。
- ↑ ちなみに阪神側では、梅田駅 - 山陽姫路駅間に運行している直通特急は山陽車両での運用が主体のためクロスシート車の比率が高くなっている。
- ↑ 1970年代の阪神からの乗り入れ車の仕様については「3801形」の項を参照。阪神は1970年代前半に20m車の設計自体は行っており、川島令三の著書『私の「戦後」電車史』(PHP研究所刊)の中に20m4扉車開発計画の話が紹介されている。山陽ではかつて20m車の700形を運用していたが、当時は2両の短編成であった。
- ↑ 京都市営地下鉄烏丸線乗り入れ仕様の3200系や3220系も同線との相互直通運用以外にもこれら3線区において幅広く運用されている。
- ↑ 日本では、他にも福井鉄道とえちぜん鉄道との間で車両規格を統一せずに相互直通運転を実施している事例があり、過去には名鉄や広島電鉄、土佐電気鉄道の路面仕様車の軌道線から鉄道線への乗り入れ(広島電鉄は鉄道仕様車が廃車。名鉄、土電は路線廃止)や一昔前のATSなどの保安装置がうるさくなかった頃の私鉄から国鉄への客車乗り入れの事例がある。
- ↑ 2009年10月21日 朝日新聞(大阪版)朝刊、社会面記事より
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