鉄道の電化

出典: 謎の百科事典もどき『エンペディア(Enpedia)』
ナビゲーションに移動 検索に移動

鉄道の電化とは、給電設備を線路に設け、電気駆動の列車が走れる様にすることである。

概要[編集]

列車を駆動する際、エネルギー源が必要となる。このエネルギー源を、列車内に求めるケースと列車外に求めるケースがあるが、列車外にエネルギー源を置く方式が「電化」である。

特徴[編集]

電化の長所、短所を以下に示す。

  • 長所
    • 蒸気機関外燃機関の熱を用いてピストン駆動するためエネルギー変換効率が悪く、熱効率が10%にも満たなかったが、火力発電所で使用される蒸気タービンはエネルギー変換効率が良い。同じ列車本数であるならば蒸気機関車に直接石炭を投入するよりも蒸気タービン発電して電気機関車で運用したほうが石炭が25%節約できる。
    • エネルギー発生源を列車外の発電所に置くことにより、列車のコスト・重量を削減することができる。
    • 電気駆動モーターの特性上、一時的な加減速の力を大きくすることができる。
    • 列車単体に関してはゼロエミッション。発電所でも、火力以外の発電所、例えば原子力や水力などの発電所であれば温室効果ガスを排出しない。
  • 短所
    • 線路に架線を張る必要がある他、変電所も必要となり、設備側のコストがかかる。
    • 電気設備に異常が生じた時に列車を動かせない。(このため、戦前は陸軍が国内の幹線鉄道電化推進に消極姿勢だった。)

一般的に、電化が適しているのは、列車本数の多い路線や、駅間距離が短く頻繁に加減速を行う路線である。一方で、列車本数が少ない場合、設備側のコストが支配的となるため非電化のままとなることが多い。

戦前は、本数の多い都市近郊や、加減速に強い力が必要な急勾配路線、煤煙の排気が難しい長大トンネルのある所を中心に電化が進められたが、戦後急速に広がり、現在は全国の主要幹線の大半が電化されている。

戦後間もなく三岐鉄道大井川鐵道のような地方民鉄の電化が急速に進んだが、これは石炭の価格が高騰した上、内燃化するにも石油から精製された軽油の入手がままならないことが原因であった。

電化の種類[編集]

まず、電圧別に分類する。

特高圧(11,15,20,25,50kV)[編集]

架線の電圧を高くすることで、送電の効率をよくする方式。車両に変圧器を積む必要があるため、変圧可能な交流電圧を用いる必要がある。通常、交流電化と言うとほとんどはこの特高圧である。高圧・低圧と比較した長所・短所を示す。

  • 長所
    • 送電の効率を良くすることができるので、変電所の数が少なくて済み、線路設備のコストが小さい。
  • 短所
    • 全ての列車に、特高圧をモーターに適した電圧に下げる変圧器が必要となるため、車両のコストが高い他、最低2両編成が必要となる。そのため、電化路線でも気動車の方がコスト上有利になる場合がある。
    • 架線周辺のスペースを広くとる必要がある。宝達川のトンネルがあったために七尾線が特高圧電化を行わなかったのはこれが理由。

日本では、大電力の必要な新幹線の他、列車密度の比較的低い九州・北陸・東北・北海道の在来線で採用している。茨城県でも、直流電化が不可能な事情から、特高圧の交流電化となった。一方、交流電化は歴史が浅く、関門トンネルや山岳地帯ではそれ以前から直流電化されていたので、中国・四国・甲信越地方は列車密度が低くても直流電化を採用した。

なお、交流電化の周波数は、商用周波数と同じにするのが一般的である。しかしドイツやその周辺国では、交流電化の実用化が早かった一方で、当時は商用周波数より低い周波数の方がモーター駆動に好都合で、16.7Hzの周波数(実際は16 2/3 Hz (50Hzの1/3)の周波数)を採用した。そのため現在も架線電圧は15kV, 16.7Hzとなっている。アメリカでも一部で11kV, 25Hzとなっている区画が存在する。

50kVに関しては鉄鉱石輸送の路線でのみ見られ、日本での採用例は皆無である。

高圧・低圧(600,750,1500Vなど)[編集]

架線の電圧を、モーターに適した電圧にする方式。直流電化、交流電化の両方の方式があるが、圧倒的に直流電化が多い。特高圧と比較した長所・短所を示す。

  • 長所
    • 車両に変圧器を積む必要が無く、列車のコストを小さくでき、1両編成も実現可能である。
    • 架線周辺のスペースを小さくできる他、架空電車線だけでなく第三軌条など地面に近い所に架線を置くことができる。
  • 短所
    • 送電の効率が悪く、変電所の数を多くする必要があり、線路設備のコストが大きい。
    • 車両の直流電動機に整流子が不可欠で保守が欠かせない。

日本では、都市内や通勤電車の全てと、近畿・東海・関東の列車密度の高いエリアで採用している。また、直流電化の方が古くから広まった関係で、電化そのものの優先度が高かった関門トンネルや山岳地帯では戦前に直流電化された。この背景の元で、中国・四国・甲信越では直流電化が採用された[注 1]。一方で、茨城県には地磁気観測所があり、直流電化だと地磁気に影響を与えるので、交流電化が採用された。

なお、高圧・低圧を使用する路線の殆どは直流電化であるが、AGTに限れば直流・交流両方の方式がある。同じ電圧の直流と交流を比較した場合、直流の方が長距離の送電をしやすい一方で、交流の方が車内の電気部品のコストを下げることができる。そのため、同じ電圧であれば直流が本数の少ない路線向き、交流が本数の多い路線向きである[1]。通常、直流の方が本数の多い路線向きと言われるが、これは「特高圧交流」と比較して「高圧・低圧直流」が有利という意味であり、「低圧交流」と「低圧直流」では関係が逆になる。

関連項目[編集]

脚注[編集]

  1. 他方、先行電化された東北の福島 - 米沢間と山寺 - 作並間は交流電化に転換した。
出典