太閤記
太閤記(たいこうき)とは、豊臣秀吉に関する1代記であり、現在まで秀吉研究の基礎となっている史料である。
概要[編集]
著者・成立年代[編集]
著者は小瀬甫庵。寛永2年(1625年)の自序があり、寛永3年(1628年)の朝山意林庵素心の祓文があるため、この頃にある程度成立していた可能性がある。少なくとも甫庵は寛永17年(1640年)に死去しているので、下限はここまでとなる。巻6において、加藤嘉明が会津に栄転したという記事があるので、少なくとも寛永4年(1627年)春以降の可能性が高い。
太閤とはそもそも関白の経験者が退職した際の称号であり、必ずしも秀吉を指すわけではないのだが、歴史上で最も著名な太閤が秀吉であることから、恐らく甫庵が命名したのではないかと推定される。
内容[編集]
全22巻。太閤・豊臣秀吉の1代記で軍記物である。ただ、著者が小瀬甫庵なので、この軍記の信頼性は非常に低い。事実、これより前に著作していた『甫庵信長記』ですら、同時代の大久保忠教に大いに批判されているような人物である。この『太閤記』にしても、加賀藩士の笠間儀兵衛が寛永14年(1637年)閏3月26日付書状で早くも記述の不審を指摘しているほどである[注 1]。なお、大久保はこの時点でも存命だが、『太閤記』に関しては特に批判した形跡は無い[注 2]。
- 巻1 - 秀吉の出生から墨俣城築城、永禄13年(1570年)の織田信長による足利義昭に対する殿中御掟が出されるまで。
- 巻2 - 天正9年(1581年)の合戦についての記事。つまり、約10年間の動向が空白になっている。
- 巻3 - 備中国高松城攻め、本能寺の変、山崎の戦い、清州会議、大徳寺での信長の葬儀まで。
- 巻4 - 北陸方面における本能寺の変における余波で発生した石動山の戦い、荒山の戦い、それから小牧・長久手の戦いにおける末森城の戦いなどが描かれている。
- 巻5・6 - 天正11年(1583年)の賤ヶ岳の戦いについて、発端から経緯、結末まで詳細に描かれている。
- 巻7 - 天正13年(1585年)の紀州雑賀攻め、四国征伐、関白任官まで。
- 巻8 - 佐々成政のさらさら越えから、秀吉に降伏した後の肥後国統治の失敗による肥後国人一揆についてまでで、いわゆる佐々成政の失態について描いている。
- 巻9 - 天正12年(1584年)の小牧・長久手の戦い。
- 巻10 - 天正15年(1587年)の九州征伐。簡単に描かれている。
- 巻11 - 天正16年(1588年)の後陽成天皇の聚楽第行幸。
- 巻12 - 天正18年(1590年)の小田原征伐。これはかなり詳細に描かれている。
- 巻13・14・15 - 朝鮮出兵(文禄の役・慶長の役)。
- 巻16 - 秀吉に関する催事、出来事について。文禄3年(1594年)の吉野の花見、慶長3年(1598年)の醍醐の花見などについて。またサン・フェリペ号事件についても描かれている。
- 巻17 - 文禄4年(1595年)の秀次事件。
- 巻18 - 竹中重治など15名の武将の列伝。特に堀尾吉晴が詳細である。
- 巻19 - 山中鹿之助に関する武勇伝。
- 巻20・21 - 甫庵の儒教的立場からの政治、道徳論。
- 巻22(最終巻) - 諸役人の一覧、遺品の配分目録。
甫庵は『甫庵信長記』も『信長公記』を参考文献にして描いているが、この『太閤記』にしても恐らく他人の書を参考文献にしたと見られる個所が多数存在する。
また、秀吉の1代記なので秀吉にバイアスが掛けられているのは仕方ないが、それが半端ないしそのために異常な個所も存在する。
- 秀吉と敵対した者は「賊」と書かれている。秀吉については「秀吉卿」などと敬称が秀吉の若い頃から付けられている。
- 秀吉の出生は日輪懐胎説がとられている。
- 信長時代に出世の一因となった墨俣築城が描かれている。ただし、甫庵は自著で「墨俣」の地名は記していない。
- 賤ヶ岳の戦いで賤ヶ岳七本槍が誕生したことが記されている。
- 天正13年(1585年)の関白就任と同時に、秀吉が五奉行制度を定めた、また京都東山の大仏殿の建立を五奉行に命じたとしている[注 3]。
- 朝鮮出兵については「朝鮮を退治し、明に侵攻して家臣に俸禄を与えるため、また異国の良き例を見聞して日本の政治を改めようとした」などと理由を述べている[注 4]。
- 秀次事件については、毛利輝元と石田三成の讒言、及び秀次の度重なる不行跡が描かれ、甫庵は秀次事件を「秀次の不行跡による因果応報」としている。また、木食応其が高野山での自害を認めたとしている[注 5]。
- 武将列伝で堀尾吉晴のことが特に詳しいのは、甫庵が堀尾氏に仕えていた時期があったためと思われる。
- 秀吉の死去については描かれていない。
『太閤記』は読みやすさがあり、一般大衆からは大いに受けたという。ただし、上記の記述などから、この『太閤記』の史料としての信頼性は著者の信頼性も含めて、著しく低いと言わざるを得ない。
ただし、巻19の山中鹿之助の武勇伝などから、後年に尼子七勇士などが生まれている。
古典[編集]
- 『大かうさまくんきのうち(太閤様軍記の内)』(太田牛一著、江戸時代初期)
- 『甫庵太閤記』(小瀬甫庵著、寛永3年)
- 『川角太閤記』 (川角三郎右衛門著、江戸時代初期)
- 『絵本太閤記』 (武内確斎著・岡田玉山画、軍記物、1797年-1802年)ほか同名の書籍多数
- 『真書太閤記』 (栗原柳庵編、安永年間(1772年~1781年)の成立、軍記物、人形浄瑠璃や歌舞伎における太閤物の原典)
関連作品[編集]
「太閤」「太閤記」(もしくは「太功記」)をタイトルとしたものに限定する。
書籍[編集]
- ノンフィクション
- 『豊太閤』 (山路愛山著、1909年)
- 小説
- 『太閤記』(矢田挿雲著、1926年-1934年) - 1934年・36年の2回にわたり新興キネマで映画化。戦後の1970年には日本テレビで「青春太閤記」としてドラマ化。
- 『新書太閤記』 (吉川英治著、1941年) - 1953年に東映京都(2作)、58年に松竹京都(タイトルは「太閤記」)の計3回にわたり映画化。テレビドラマ化作品としては1959年(毎日放送)、1965年(NHK大河ドラマ)、1973年(NETテレビ)など。
- 『異本太閤記』 (山岡荘八著、1965年)
- 『妖説太閤記』(山田風太郎著、1967年)
- 『新史太閤記』 (司馬遼太郎著、1968年)
芸能[編集]
映画[編集]
- 『絵本太閤記(太功記十段目)』 (男澤粛撮影、M パテー商会、1908年)
- 『太閤記』 (中川紫郎監督、帝国キネマ、1923年)
- 『豆本太閤記』 (曾根純三監督、マキノ御室、1926年)
- 『出世太閤記』 (稲垣浩監督、日活京都、1938年)
- 『太閤記 藤吉郎走卒の巻』 (滝沢英輔監督、新興キネマ、1935年)
- 『太閤記 藤吉郎出世飛躍の巻』 (渡辺新太郎監督、新興キネマ、1936年)
- 『花婿太閤記』 (丸根賛太郎監督、大映京都、1945年)
- 『新書太閤記 流転日吉丸』 (萩原遼監督、東映京都、1953年)
- 『新書太閤記 急襲桶狭間』 (松田定次監督、東映京都、1953年)
- 『太閤記』 (大曾根辰保監督、松竹京都、1958年)
- 『ホラ吹き太閤記』 (古沢憲吾監督、東宝、1964年)
- 『マンザイ太閤記』 (アニメ、沢田隆治・高屋敷英夫監督、松竹、1981年)
テレビドラマ[編集]
- 『新書太閤記』(毎日放送、1959年)
- 『太閤記』 [1](大河ドラマ、NHK、1965年)
- 『青春太閤記 いまにみておれ!』(日本テレビ、1970年)
- 『新書太閤記』 (水曜時代劇、NET、1973年)[注 6]
- 『おんな太閤記』 (大河ドラマ、NHK、1981年)
- 『太閤記』 (大型時代劇スペシャル、TBS、1987年)
- 『太閤記 サルと呼ばれた男』 (プレミアムステージ、フジテレビ、2003年)
- 『太閤記 〜 天下を獲った男・秀吉』 (火曜時代劇、テレビ朝日、2006年)
- 『寧々 〜 おんな太閤記』 (新春ワイド時代劇、テレビ東京、2009年)
大河ドラマ[編集]
大河ドラマ | ||
通番 | 題名 | 放映期間 |
第2作 | 赤穂浪士 | 1964年1月 - 1964年12月 |
第3作 | 太閤記 | 1965年1月 - 1965年12月 |
第4作 | 源義経 | 1966年1月 - 1966年12月 |
『太閤記』(たいこうき)は、1965年1月3日から12月26日までNHKで放送された3作目の大河ドラマである。
登場人物[編集]
- 豊臣秀吉(とよとみ ひでよし)
- (さる→日吉→木下藤吉郎→羽柴秀吉→豊臣秀吉)
- 演:緒形拳(幼少期/石川秀樹)
- ねね
- 演:藤村志保
- 秀吉の正室
- 淀殿(よどどの)
- (茶々→淀殿)
- 演:三田佳子(幼少期/山本美砂子)
- 秀吉の側室
- 豊臣秀頼(とよとみ ひでより)
- 演:上田英代
- 大政所(おおまんどころ)
- (なか→大政所)
- 演:浪花千栄子
- 秀吉の母
- 織田信長(おだ のぶなが)
- 演:高橋幸治
- 濃(こい)
- 演:稲野和子
- 信長の正室。本作の名前の読みは「のう」ではなく「こい」。
- お市(おいち)
- 演:岸恵子
- 信長の妹
- 徳川家康(とくがわ いえやす)
- 演:尾上菊蔵
- 本多平八(ほんだ へいはち)
- 演:外山高士
- 酒井忠次(さかい ただつぐ)
- 演:明石健
- 武田信玄(たけだ しんげん)
- 演:早川雪洲
- 武田勝頼(たけだ かつより)
- 演:渡辺文雄