大かうさまくんきのうち
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大かうさまくんきのうち(たいこうさまぐんきのうち)とは、豊臣秀吉の後半生に関する1代記の史料のことである。
概要[編集]
著者・成立年代[編集]
著者は『信長公記』と同じ太田牛一。成立年代については太田の晩年である慶長10年(1605年)前後ではないかと見られている。
自筆本の外題に「大かうさまくんきのうち」とある。これに漢字を当てると『太閤さま軍記のうち』『太閤様軍記の中』となる。Wikipediaの『太閤様軍記の内』は明確な誤りである。
内容[編集]
全1巻。豊臣秀吉の後半生、すなわち織田信長の死後に天下人となった時期についてを主に記している。特に秀次事件について記している点が注目される。
以下に主な点をまとめる。
- 後陽成天皇の御聖徳と太閤の慈悲による善政で、日本には乞食や非人が1人もいないとしてありがたい御代と讃えている。
- 豊臣秀次について記しているが、太田は秀次を否定的に書いている。「何の功績も無かったが、20歳で尾張国を領して出世を重ね[注 1]、26歳で関白の地位に就いた。栄耀栄華を誇り、美女100人余りを寵愛していた。秀次は鉄砲・弓矢の稽古と称して農民や往来の者を射殺したり、試し切りとして数百人を殺し、人々は「関白千人斬り」と噂した。秀次の家臣・木村常陸守[注 2]は高利貸しをして悪徳の限りを尽くしていた。秀次の謀反について太田は肯定的に書いており、木村と関東から来た粟野木工頭が謀反を勧めたとされ、秀次も同意し、談合や武装訓練を重ねたという。しかし、謀反の計画が露見し、石田三成が責任者として秀次を尋問。秀次は高野山に追放された。
- 太閤の威光により、三韓から唐国(明)まで征服され、この実績により太閤は政治を行ない、慈悲心にも溢れていたので治世は大いに讃えられた。しかし秀次は苦労も無く関白になっただけなので御恩も知らず、慈悲心も無く、悪行ばかりで天道は決して許さない。
- 秀次の家臣がまず秀吉の命令により成敗されていった(秀次事件)。木村は獄門にされたと書かれており、太田は「越前府中での悪行の報いであり、天道おそろしき事」と評している。
- 秀次とその近臣の自害。これについて太田は秀次が正親町上皇の崩御の際に鹿狩りをしたので京童が「院の御所にたむけのための狩なれば、これをせつせう関白(殺生関白)といふ」との落首を立てたとしている。秀次の自害について太田は、死去する1か月前の6月8日に比叡山に女を連れて登って鹿狩りをし、その肉を食したことと6月15日に北野天神で座頭を殺したことによる報いと書いており、しかも秀次が自害する際に使用した刀が座頭を殺した際のもので、「因果歴然の道理。天道恐ろしき事」と書いている。
- 秀次の死後、その妻妾も処刑対象とされた。ただし池田輝政の妹のみは輝政の下に送り返され、その他の妻妾や子女が処刑された。秀次やその家臣については否定的に書いて秀吉を肯定的に書いている太田だが、この妻妾子女の処刑はさすがに秀吉批判に回っており、同時に処刑された女性らに対する同情の言葉も綴っている。太田は秀次事件を秀次の非行悪逆による謀反説を強く唱え、同時に事件は因果応報による経験的な天道思想によるものとしている。太田のこの批評が、その後の秀次事件の原型として描かれるようになった。
- 三好実休、松永久秀、斎藤道三、斎藤義龍、織田信長、明智光秀、柴田勝家、織田信孝らの最期をそれぞれ挙げて、いずれも「条々、天道おそろしき次第」と提示している。そして、道三と信長を除いた人物たちの末尾で「天道恐ろしき事」と結んでいる。つまり、彼らの最期は「無道しごくのはたらき、天道の冥利、世に叛き、むげにあひ果てられ」た例として、天道に適わなかった秀次の最期の例証としている。信長と道三を除いているのは、恐らく太田のかつての主君と、その主君の義父であることからの配慮だと推定される。
- 小田原征伐についての記述だが、北条氏政が恣の行動をして公儀(豊臣政権)を蔑ろにしていたので、秀吉が征伐することになったとしている。氏政は箱根の要害と、かつて平氏が富士川の戦いで戦わずして敗走した例を出して高を括っていたとされ、秀吉の大兵力による征伐で後北条氏は降伏した。なお、石垣山城については「石取山」と書かれている。
- 秀吉の天下統一と朝鮮出兵について書かれているが、秀吉の派手な出陣ぶり、さらに秀吉の善政が絶賛されている。
- 秀吉の母・大政所の死去や秀吉の3男・お拾の誕生について書かれている。
- 醍醐の花見について書かれている。
『信長公記』と比較してこの著は秀吉を絶賛し、逆に秀次を徹底的に否定的に書いているため、信頼性が乏しい史料であると思わざるを得ない。そもそも、太田が書いているような乱行を秀次が犯していたのなら、公家の同時代の日記に記録があっても良さそうなものだが、それについては全く確認ができない。