大内力

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大内 力(おおうち つとむ、1918年6月19日 - 2009年4月18日[1])は、マルクス経済学者。東京大学名誉教授、信州大学名誉教授、日本学士院会員。専攻は経済理論・経済政策[2]

人物[編集]

日本を代表するマルクス経済学者[3]宇野弘蔵の高弟で[4]宇野学派の重鎮[5]。農業問題をはじめ、国家独占資本主義論、日本経済論など経済学のほとんど全分野を研究した[1][6]。主著に農業問題研究の『日本資本主義の農業問題』(日本評論社、1948年)、『日本農業の財政学』(東京大学出版部、1950年)、『農業問題』(岩波全書、1951年)『農業恐慌』(有斐閣、1954年)、『現代アメリカ農業』(東京大学出版会、1975年)、『日本農業論』(岩波書店、1978年)[7][6][8]、原理論研究の『地代と土地所有』(東京大学出版会、1958年)、『信用と銀行資本』(東京大学出版会、1978年)、現代資本主義論研究の『国家独占資本主義』(東京大学出版会、1970年)、現状分析研究の『日本経済論(上・下)』(東京大学出版会、1962-63年)、13冊におよぶ共著シリーズ『日本資本主義の成立・発展・没落』(楫西光速加藤俊彦大島清共著、東大新書、1954-69年)、これまでの経済学研究の集大成的な『大内力経済学大系(全8巻)』(東京大学出版会、1980-2009年)などがある[6]。日本農業を労農派に近い立場から分析した『日本資本主義の農業問題』は戦後の日本農業研究の出発点となった[9]。『国家独占資本主義』では、宇野経済学の「段階論」と「現状分析」の橋渡しとしての「国家独占資本主義論」を展開し、ロシア革命金本位制から管理通貨制への移行を国家独占資本主義体制成立のメルクマールと捉え、管理通貨制下でのインフレーション政策による実質賃金の抑制、それによる恐慌の回避が国家独占資本主義の本質的な機能であるとした。今井則義と国独資論争も行った[7]

社会党への影響も大きい」とされる[3]。1977年7月に社会党勝間田派を脱退した堀昌雄らが設立した「労働者自主管理研究会議」に招かれ、社会党の綱領的文書「日本における社会主義への道」の検討・批判を行った。大内ら「労働者自主管理研究会議」の理論的影響力は、社会党社会主義理論センターの「道」見直しに影響を与えた[10][11][12]。また社会党系のシンクタンク「平和経済国民会議」の運営委員や理事長を務めた。

門下生に日高普齋藤仁大谷瑞郎戸原四郎林健久玉田美治大内秀明犬塚昭治[13]馬場宏二柴垣和夫山崎広明伊藤誠中山弘正[14]矢吹晋[15]粕谷信次[16]福留久大[15]橋本寿朗[17]などがいる。

父は経済学者の大内兵衛。妻は経済学者の大内節子。節子は美学者の大塚保治の娘[18]

経歴[編集]

受賞歴[編集]

  • 1948年 第2回毎日出版文化賞(『日本資本主義の農業問題』)[27]
  • 1990年 勲二等旭日重光章[2]

役職[編集]

政府機関・審議会[編集]

民間団体[編集]

著書[編集]

単著[編集]

  • 『農村財政の諸問題――時局下の農村財政の一考察』(東亜農業研究所[東農研中間報告]、1944年)
  • 『日本資本主義の農業問題』(日本評論社、1948年/東京大学出版会、1952年)
  • 『日本農業の財政学』(東京大学出版部、1950年/東京大学出版会、1975年)
  • 『日本農業の財政学』(農林省農業総合研究所[農業総合研究所研究叢書]、1950年)
  • 『農業問題』(岩波書店[岩波全書]、1951年)
  • 『農業恐慌』(有斐閣[東京大學社會科學研究所研究叢書]、1954年)
  • 『農業災害補償制度の実態』(東京大学社会科学研究所[調査資料]、1957年)
  • 『肥料の経済学』(法政大学出版局[生活の経済学新書]、1957年)
  • 『農家経済』(中央経済社[日本統計研究所経済分析シリーズ]、1957年)
  • 『地代と土地所有』(東京大学出版会、1958年)
  • 『農業史』(東洋経済新報社[日本現代史大系]、1960年)
  • 『日本経済論(上・下)』(東京大学出版会[経済学大系]、1962-63年)
  • 『高度成長経済下の農村人口移動』(東京大学出版会[東京大学経済学部日本産業経済研究施設研究報告]、1964-66年)
  • 『アメリカ農業論』(東京大学出版会[東大社会科学研究叢書]、1965年)
  • 『日本の歴史(24)ファシズムへの道』(中央公論社、1967年/中央公論社[中公バックス]、1971年/中央公論社[中公文庫]、1974年)
  • 『「経済学」批判――Z君への手紙』(日本評論社、1967年)
  • 『日本における農民層の分解』(東京大学出版会[東大社会科学研究叢書]、1969年)
  • 『農業構造改善事業の研究』(東京大学経済学会、発売:東京大学出版会[研究報告]、1970年)
  • 『農業経済学序説』(時潮社、1970年)
  • 『国家独占資本主義』(東京大学出版会[UP選書]、1970年/こぶし書房[こぶし文庫 戦後日本思想の原点]、2007年)
  • 『経済学における古典と現代』(東京大学出版会[東大社会科学研究叢書]、1972年)
  • 『われわれの当面するもの』(御茶の水書房、1972年)
  • 『現代アメリカ農業――1960年代の変貌』(東京大学出版会[東大社会科学研究叢書]、1975年)
  • 『日本農業論』(岩波書店、1978年)
  • 『旅びと』(東京大学出版会、1978年)
  • 『信用と銀行資本』(東京大学出版会、1978年)
  • 『新しい社会主義像の探求』(労働社会問題研究センター出版局[労働センター双書]、1979年)
  • 『大内力経済学大系(全8巻)』(東京大学出版会、1980-2009年)
  1. 「経済学方法論」(1980年)
  2. 「経済原論 上 流通論・生産論」(1981年)
  3. 「経済原論 下 分配論」(1982年)
  4. 「帝国主義論 上」(1985年)
  5. 「帝国主義論 下」(1985年)
  6. 「世界経済論」(1991年)
  7. 「日本経済論 上」(2008年)
  8. 「日本経済論 下」(2009年)
  • 『国家独占資本主義・破綻の構造』(御茶の水書房[御茶の水選書]、1983年)
  • 『冬ごもり』(東京大学出版会、1988年)
  • 『農業の基本的価値』(家の光協会、1990年)
  • 『みの虫』(東京大学出版会、1998年)
  • 『埋火――大内力回顧録』(生活経済政策研究所編、御茶の水書房、2004年)
  • 『協同組合社会主義論――大内力語録』(武市蕭編、武市蕭、発売:こぶし書房、2005年)
  • 『農業の基本価値』(創森社、2008年)
  • 『インフレイションと日本農業――昭和21年2〜6月』(大内力先生遺稿刊行会編、大内力先生遺稿刊行会、発売:山愛書院、2011年)

共著[編集]

  • 『日本における農業と資本主義』(宇野弘蔵鈴木鴻一郎斎藤晴造共著、実業之日本社、1948年)
  • 『日本における資本主義の発達(上・下・年表)』(楫西光速、加藤俊彦大島清共著、東大協同組合出版部、1950-53年)
  • 『新農業政策の目標を何処におくか――國会における農政討論』(大槻正男、東畑精一、近藤康男共著、農林週報社、1950年)
  • 『経済問題の基礎知識』(楫西光速、大島清、加藤俊彦共著、暁教育図書[現代教養講座]、1952年)
  • 『日本資本主義の成立(I・II)――双書日本における資本主義の発達(1-2)』(楫西光速、加藤俊彦、大島清共著、東京大学出版会[東大新書]、1954-56年)
  • 『近代財政の理論――その批判的解明』(武田隆夫、遠藤湘吉共著、時潮社、1955年)
  • 『日本資本主義の発展(I-III)――双書日本における資本主義の発達(3-5)』(楫西光速、加藤俊彦、大島清共著、東京大学出版会[東大新書]、1957-59年)
  • 『肥料消費構造の研究』(暉峻衆三共著、東京大学社会科学研究所[調査資料]、1957年)
  • 『現代史――日本の百年(上・下)』(林茂、小西四郎共著、毎日新聞社、1957年)
  • 『日本農業の基礎知識』(金沢夏樹、福武直共著、東京大学出版会、1958年)
  • 『日本における資本主義の発達(全)』(楫西光速、加藤俊彦、大島清共著、東京大学出版会、1958年)
  • 『日本資本主義の没落(I-VIII)――双書日本における資本主義の発達(6-13)』(楫西光速、加藤俊彦、大島清共著、東京大学出版会[東大新書]、1960-69年)
  • 『インド村落の社会経済構造』(福武直、中根千枝共著、アジア経済研究所[調査研究報告双書]、発売:東京大学出版会、1964年)
  • 『経済学概論』(戸原四郎、大内秀明共著、東京大学出版会、1966年)
  • 『人物・日本資本主義(I-IV)』(大島清、加藤俊彦共著、東京大学出版会[UP選書]、1972-83年)
  • 『西マレーシアの稲作農村』(川田侃、佐伯尚美、高橋彰、田中学、堀井健三共著、東京大学出版会[研究報告]、1977年)
  • 『資本主義――その発達と構造』(宇野弘蔵、大島清共著、角川書店[角川選書]、1978年)
  • スリランカの稲作農村』(川田侃、佐伯尚美、高橋彰、田中学、中村尚司、ウィルバート・グナラトナ共著、東京大学出版会[研究報告]、1980年)
  • 『経済学(上・下)』(宇野弘蔵編著、大島清、玉野井芳郎共著、KADOKAWA[角川ソフィア文庫]、2019年)※宇野弘蔵編『経済学(上・下)』(角川書店[角川全書]、1956年)の復刊。

編書[編集]

  • 『農業生産力論考――川俣浩太郎氏記念論文集』(大谷省三共編、地球出版、1948年)
  • 『農村財政文献目録』(編、農林省農業総合研究所[農業総合研究所文献叢書]、1950年/日本図書センター[社会科学書誌書目集成]、1998年)
  • 『農村財政文献目録』(編、農林省農業改良局研究部[経済研究資料]、1950年)
  • 『現代日本資本主義大系 第3巻 農業』(編、弘文堂、1957年)
  • 『農業経済小辞典』(編、學生社、1962年)
  • 『国立銀行の研究』(加藤俊彦共編著、勁草書房[東京大學社會科學研究所研究叢書]、1963年)
  • 『資本論講座(全7冊)』(遊部久蔵、大島清杉本俊朗、玉野井芳郎、三宅義夫共編、青木書店、1963-64年)
  • 『日本の農業』(金沢夏樹、福武直共編、東京大学出版会、1964年)
  • 『講座 現代日本の農業 第2巻 農業をとりまく新環境』(編、御茶の水書房、1965年)
  • 『日本経済の統計的分析――内藤勝教授還暦記念論文集』(木村健康、宮沢光一共編、岩波書店、1967年)
  • 『経済学全集 15 農業経済論』(編著、筑摩書房、1967年)
  • 『明治初年の貿易統計』(山口和雄共編、東京大学経済学会、発売:東京大学出版会[日本産業経済研究資料]、1968年)
  • 『資本論と帝国主義論――鈴木鴻一郎教授還暦記念 上 資本論の形成と展開』(武田隆夫、遠藤湘吉共編、東京大学出版会、1970年)
  • 『日本の農業』(金沢夏樹、福武直共編、東京大学出版会[UP選書]、1970年)
  • 『現代日本の労働経済』(編、日本評論社、1970年)
  • 『資本論と帝国主義論――鈴木鴻一郎教授還暦記念 下 帝国主義論の形成と展開』(武田隆夫、遠藤湘吉共編、東京大学出版会、1971年)
  • 『現代日本経済論』(編著、東京大学出版会、1971年)
  • 『現代資本主義の運命』(編、東京大学出版会[UP選書]、1972年)
  • 『世界経済と日本経済』(加藤俊彦、三潴信邦共編、東京大学出版会、1973年)
  • 『現代社会主義の可能性』(編、東京大学出版会[UP選書]、1975年)
  • 『資源涸渇と食糧危機』(編著、学陽書房[日本の経済]、1975年)
  • 『現代資本主義と財政・金融(全3巻)』(編、東京大学出版会、1976年)
  • 『日本農業年報 第25集 農業は見なおされたか――総合食糧政策の帰結』(編集担当、御茶の水書房、1976年)
  • 『第二版 経済学全集 20 農業経済論』(渡辺寛馬場宏二、中山弘正共編著、筑摩書房、1977年)
  • 『現代の景気と恐慌』(編、有斐閣[有斐閣選書]、1978年)
  • 『日本農業年報 第31集 農用地確保と国土政策』(編集担当、御茶の水書房、1981年)
  • 『日本の対米・対アジア経済関係をどう考えるか――Symposium・もう一つの環太平洋構想』(編、御茶の水書房、1986年)
  • 『日本の米を考える(全4巻)』(佐伯尚美共編、家の光協会、1995-96年)
  • 『流域の時代――森と川の復権をめざして』(高橋裕、榛村純一共編著、ぎょうせい、1995年)

訳書[編集]

  • エンゲルス『ドイツ農民戦争』(岩波書店[岩波文庫]、1950年)
  • マルクス『経済学批判』(武田隆夫、遠藤湘吉、加藤俊彦共訳、岩波書店[岩波文庫]、1956年)
  • 『マルクス・エンゲルス選集 第8巻 資本論綱要』(川口武彦奥田八二、岡茂男、大島清、鈴木鴻一郎共訳、新潮社、1956年)
  • ラサール『間接税と労働者階級』(岩波書店[岩波文庫]、1960年)
  • トマス・C.スミス『徳川時代の年貢』(東京大学経済学会、発売:東京大学出版会[東京大学経済学部日本産業経済研究資料]、1965年)
  • 『マルクス・エンゲルス農業論集』(編訳、岩波書店[岩波文庫]、1973年)

出典[編集]

  1. a b デジタル版 日本人名大辞典+Plus「大内力」の解説 コトバンク
  2. a b c 物故会員個人情報 - 大内力 日本学士院
  3. a b 「表現の自由」研究会編著『現代マスコミ人物事典』二十一世紀書院、1989年、497-498頁
  4. 暉峻衆三「「マルクス主義者」の課題」日本評論社PR誌『評論』200号
  5. 中山弘正「書評 馬場宏二著『宇野理論とアメリカ資本主義』」『PRIME』34号、2011年10月
  6. a b c 伊藤誠『『資本論』と現代世界――マルクス理論家の追憶から』青土社、2023年
  7. a b c 松村良一「大内力」、現代革命運動事典編集委員会編『現代革命運動事典』流動出版、1981年、36頁
  8. a b 協同集会2002in千葉 基調講演 協同労働について考える 協同総合研究所
  9. 清水徹朗「日本農政思想の系譜PDF」農林金融2019年08月号
  10. 川上忠雄編著『岐路に立つ日本社会党――路線論争と自主管理社会主義』社会評論社、1981年
  11. 渡辺治『「豊かな社会」日本の構造』労働旬報社、1990年
  12. 渡辺治「現代日本社会と社会民主主義—「西欧型社会民主主義」への模索とその隘路」、東京大学社会科学研究所編『現代日本社会 第5巻 構造』東京大学出版会、1991年
  13. 犬塚昭治『日本における農民分解の機構』未來社、1967年
  14. 中山弘正「書評 中尾茂夫著『米ドルの内幕』(2011:4左右社)PDF」『明治学院大学経済研究』第145号、2012年1月
  15. a b 福留久大「研究紹介コーナー 資本論と入来文書の旅」『平和経済』第383号、1993年12月
  16. 福留久大「大内力先生と社会主義 : 粕谷信次教授に寄せてPDF」『経済志林』第78巻第4号、2011年3月
  17. 稲葉振一郎松尾匡、吉原直毅『マルクスの使いみち』太田出版、2006年、35頁
  18. 語り手:杉本俊朗、聞き手:細谷新治、菊川秀男、程島俊介「経済学文献を語る(2・完)PDF」『経済資料研究』第16巻、1983年6月
  19. a b c d 日本の歴史〈24〉ファシズムへの道 紀伊國屋書店
  20. a b c d e f g h i 埋火―大内力回顧録 紀伊國屋書店
  21. a b c d e 国家独占資本主義 紀伊國屋書店
  22. CiNii博士論文
  23. 公益財団法人生協総合研究所編『新しい地域社会をめざして――生協総研30年のあゆみPDF』公益財団法人生協総合研究所、2019年
  24. 高齢協連合会の再編について 生活協同組合・東京高齢協、2014年3月15日
  25. 片山信一「日本高齢者生活協同組合連合会設立総会PDF」協同総合研究所
  26. 大内力氏が死去/マルクス経済学者 SHIKOKU NEWS、2009年4月21日
  27. 毎日出版文化賞 e-hon 文学賞ページ e-hon
  28. a b c 大内力『農業の基本的価値』家の光協会、1990年
  29. 岡崎三郎近江谷左馬之介「ロマンチック時代――あるいは遊学60年」『商経論集』第3巻第3・4号、1968年3月
  30. 『社会主義』創刊号 労働者運動資料室
  31. 総合研究開発機構編『シンクタンク年報 1983-84』総合研究開発機構、発売:全国官報販売協同組合、1984年
  32. 飯塚繁太郎、宇治敏彦、羽原清雅『結党四十年・日本社会党』行政問題研究所出版局、1985年
  33. 隅谷三喜男『激動の時代を生きて――一社会科学者の回想』岩波書店、2000年
  34. 2004~2000年のニュース 生活経済政策研究所

関連文献[編集]

外部リンク[編集]

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