玉野井芳郎

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玉野井 芳郎(たまのい よしろう、1918年1月23日 - 1985年10月18日)は、経済学者。東京大学名誉教授。明治学院大学国際学部協議会教授。専攻は経済理論、経済学史[1]

経歴[編集]

山口県玖珂郡柳井町(現・柳井市)で明治7年(1874年)創業の玉野井ガラス商店の長男として生まれた[2]山口高等商学校(現・山口大学)で滝沢克己の薫陶を受け、東北帝国大学法文学部経済学科に進学。宇野弘蔵に経済原論を学ぶ[3]。1941年12月東北帝国大学法文学部経済学科を繰り上げ卒業[2]。1942年同大学法文学部助手、1944年同講師、1948年東北大学法文学部助教授、1951年東京大学教養学部助教授[2]。1958-60年ロックフェラー財団フェローとしてハーヴァード大学に留学[1]。1960年1月「リカアドからマルクスへ」で経済学博士(東北大学)の学位を取得し[4]、同年7月東京大学教授に昇格した[2]

古典派経済学の文献研究からマルクス経済学の研究へと進み、ハーヴァード大学への留学後は近代経済学や比較経済体制論にも研究領域を拡げた。1970年代に入ると環境問題・資源問題に「狭義の経済学」(古典派経済学・新古典派経済学・マルクス経済学)の限界を見て、自然と人間の物質代謝をエコロジーやエントロピーの概念を用いて説明しようとする「広義の経済学」(生命系の経済学)を提唱した[3]。また「地域主義の思想」を提唱し、地域共同体の構築、地域を基礎とした複合国家論・地域分権論を主張した[3]。ドイツ経済学の歴史学派、経済人類学者のカール・ポランニー、理化学研究所研究員の槌田敦などの影響を受けており[3]、ポランニーやイリイチを日本に紹介した。

1969年ヨーロッパに留学[1]。1973-1974年ドイツ学術交流会(DAAD)の招聘でケルン大学ボーフム大学に留学[2]。1974年に清成忠男杉岡碩夫らとともに地域研究会を設立[5]。1976年11月に地域主義研究集談会を設立し、増田四郎古島敏雄鶴見和子河野健二とともに代表世話人となった。1978年3月東京大学を定年退官、同年4月沖縄国際大学商経学部教授[2]。この間、1978年7月に沖縄地域主義集談会を設立。1980年1月に「平和をつくる沖縄百人委員会」を結成し、琉球新報社社長の池宮城秀意沖縄タイムス顧問の豊平良顕とともに代表世話人となった[2]。1981年に玉野井の呼びかけで、沖縄国際大学の西原森茂(政治学)、大林文敏(憲法)、琉球大学仲地博(行政法)が沖縄自治憲章作成のための研究会を立ち上げた。3人が作成した草案に玉野井が手を加え、1985年3月に「生存と平和を根幹とする『沖縄自治憲章(案)』」として発表されたが、百人委員会や市町村の賛同は得られなかった[6]

1983年9月に発起人代表としてエントロピー学会の設立に参加し[7]、初代代表世話人となった[8]。1985年4月に学部新設申請中の明治学院大学に招聘され[9]、国際学部協議会教授に就任した。同年10月に肝硬変のため、東京都千代田区半蔵門病院で死去、67歳[10]

著書[編集]

単著[編集]

  • 『リカアドオからマルクスへ――古典経済学批判史』(新評論社、1954年)
  • 『マルクス経済学と近代経済学――経済学の発展像』(日本経済新聞社、1966年)
  • 『日本の経済学』(中央公論社[中公新書]、1971年)
  • 『転換する経済学――科学の統合化を求めて』(東京大学出版会[UP選書]、1975年)
  • 『地域分権の思想』(東洋経済新報社[東経選書]、1977年)
  • 『経済理論史』(東京大学出版会、1977年)
  • 『エコノミーとエコロジー――広義の経済学への道』(みすず書房、1978年)
  • 『市場志向からの脱出――広義の経済学を求めて』(ミネルヴァ書房[文化の根源を考えるシリーズ]、1979年)
  • 『地域主義の思想』(農山漁村文化協会[人間選書]、1979年)
  • 『経済学の主要遺産』(講談社[講談社学術文庫]、1980年)
  • 『生命系のエコノミー――経済学・物理学・哲学への問いかけ』(新評論、1982年/新評論[Shinhyoron selection]、2002年)
  • 『地域からの思索』(沖縄タイムス社、1982年)
  • 『科学文明の負荷――等身大の生活世界の発見』(論創社、1985年)
  • 『玉野井芳郎著作集(全4巻)』(学陽書房、1990年)
    • 「第1巻 経済学の遺産」(吉冨勝、竹内靖雄編)
    • 「第2巻 生命系の経済に向けて」(槌田敦、岸本重陳編)
    • 「第3巻 地域主義からの出発」(鶴見和子、新崎盛暉編)
    • 「第4巻 等身大の生活世界」(中村尚司、樺山紘一編)

共著[編集]

  • 『経済学史』(久留間鮫造共著、岩波書店[岩波全書]、1954年)
  • 『現代経済入門――資本主義はどう変わりつゝあるか』(中村隆英共著、筑摩書房[グリーンベルト・シリーズ]、1962年)
    • 増補版『現代経済入門』(中村隆英共著、筑摩書房[筑摩教養選]、1971年)
  • 『教養講座ライフサイエンス 18 文明をつくる動物』(尾本恵市、鳥居正夫共著、共立出版、1977年)
  • 『経済学(上・下)』(宇野弘蔵編著、大島清大内力共著、KADOKAWA[角川ソフィア文庫]、2019年)※宇野弘蔵編『経済学(上・下)』(角川書店[角川全書]、1956年)の復刊。

編著[編集]

  • 『マルクス価格理論の再検討』(編著、青木書店、1962年)
  • 『資本論講座(全7冊)』(遊部久蔵、大内力、大島清杉本俊朗、三宅義夫共編、青木書店、1963-64年)
  • 『大恐慌の研究――1920年代アメリカ経済の繁栄とその崩壊』(編著、東京大学出版会、1964年)
  • 『二重構造の分析』(内田忠夫共編、東洋経済新報社、1964年)
  • 『経済学の方法――末永茂喜教授還暦記念論文集』(中野正、大島清、田中菊次共編、日本評論社、1968年)
  • 『現代の経済組織』(編、日本評論社、1970年)
  • 『近代日本を考える――日本のインテレクチュアル・ヒストリー』(有沢広巳共編、東洋経済新報社、1973年)
  • 『人間の世紀 第6巻 文明としての経済』(編集、潮出版社、1973年)
  • 『経済学の名著 12選』(松浦保共編、学陽書房[名著入門ライブラリー]、1973年)
  • 『セミナー経済学教室 10 経済体制』(編著、日本評論社、1975年)
  • 『近代経済学の系譜――その史的再検討』(柏崎利之輔共編、日本経済新聞社、1976年)
  • 『地域主義――新しい思潮への理論と実践の試み』(清成忠男、中村尚司共編、学陽書房、1978年)
  • 『基礎経済学大系 3 経済学史』(早坂忠共編、青林書院新社、1978年)
  • 『経済思想史読本』(水田洋共編、東洋経済新報社、1978年)
  • 『いのちと"農"の論理――都市化と産業化を超えて』(坂本慶一、中村尚司共編、学陽書房、1984年)
  • 『エントロピー』(小野周、河宮信郎、槌田敦、室田武共編、朝倉書店、1985年)

訳書[編集]

  • トマス・トゥック『通貨原理の研究』(日本評論社[世界古典文庫]、1947年)
  • マルサス『価値尺度論』(岩波書店[岩波文庫]、1949年)
  • マルサス『経済学における諸定義』(岩波書店[岩波文庫]、1950年)
  • ヒルファディング『マルクス経済学研究――マルクス経済学前史 ベーム・バウェルク批判』(石垣博美共訳、法政大学出版局、1955年)
  • 『マルクス・エンゲルス選集 第11巻 反デューリング論Ⅰ』(岡崎次郎共訳、新潮社、1956年)
  • 『マルクス・エンゲルス選集 第12巻 反デューリング論Ⅱ』(宇野弘藏、岡崎次郎、近江谷左馬之介山田坂仁、今來陸郎、山崎八郎、都留大治郎共訳、新潮社、1956年)
  • 『マルクス・エンゲルス選集 第1巻 ヘーゲル批判』(城塚登、日高普、中野正、川口武彦小島恒久、島崎讓、奥田八二、近江谷左馬之介共訳、新潮社、1957年)
  • D.A.シャノン編『大恐慌――1929年の記録』(清水知久共訳、中央公論社[中公新書]、1963年)
  • リーマン『比較経済体制論(上・下)』(監訳、日本評論社、1966年)
  • P.M.スウィージー『論争・マルクス経済学――ベーム=バウェルク/ヒルファディング/ボルトキエヴィッチ』(石垣博美共訳、法政大学出版局、1969年)
  • デイヴィド・リカードウ著、P.スラッファ編、M.H.ドッブ協力『デイヴィド・リカードウ全集 第4巻 後期論文集――1815-1823年』(監訳、雄松堂書店、1970年)
  • カール・ポランニー『経済の文明史』(平野健一郎、石井溥共編訳、日本経済新聞社、1975年)
    • 文庫版『経済の文明史』(平野健一郎、石井溥共編訳、石井溥、木畑洋一、長尾史郎、吉沢英成訳、筑摩書房[ちくま学芸文庫]、2003年)
  • ハンス・ラウパッハ『ソビエト経済の歴史』(監訳、学陽書房、1977年)
  • K.ポランニー『人間の経済 Ⅰ 市場社会の虚構性』(栗本慎一郎共訳、岩波書店[岩波現代選書]、1980年/岩波書店[岩波モダンクラシックス]、2005年)
  • K.ポランニー『人間の経済 Ⅱ 交易・貨幣および市場の出現』(中野忠共訳、岩波書店[岩波現代選書]、1980年/岩波書店[岩波モダンクラシックス]、2005年)
  • I.イリイチ『シャドウ・ワーク――生活のあり方を問う』(栗原彬共訳、岩波書店[岩波現代選書]、1982年/[同時代ライブラリー]、1990年/[岩波モダンクラシックス]、2005年/[岩波現代文庫]、2006年)
  • I.イリイチ『ジェンダー――女と男の世界』(岩波書店[岩波現代選書]、1984年/岩波書店[岩波モダンクラシックス]、2005年)
  • アダム・スミス『国富論(全4巻)』(大河内一男監訳、田添京二、大河内暁男共訳、中央公論新社[中公クラシックス]、2010年)

監修[編集]

  • エリック・ロール著、竹内靖雄訳『新しい経済――ケインズ以後の世界』(日本語版監修、エンサイクロペディア ブリタニカ日本支社[現代人の教養]、1968年)
  • シュムペーター『社会科学の過去と未来』(ダイヤモンド社、1972年)

出典[編集]

  1. a b c 玉野井芳郎 みすず書房
  2. a b c d e f g 玉野井芳郎『等身大の生活世界』学陽書房、1990年
  3. a b c d 佐藤俊一「地域主義の思想と地域分権 : 玉野井芳郎教授を中心に」『東洋法学』第55巻第1号、2011年7月
  4. CiNii 博士論文
  5. 野田邦弘「地域学の系譜 : 場所の問題をふまえて」『地域学論集 : 鳥取大学地域学部紀要』第15巻第3号、2019年3月
  6. 前津榮健「沖縄自治憲章(案)について」沖縄自治研究会
  7. エントロピー学会編『「循環型社会」を問う――生命・技術・経済』藤原書店、2001年
  8. 工藤秀明「リサイクルに基づく社会(循環型社会)と自然諸循環に内在する社会(自然循環内社会)(2)エントロピー学会設立20周年によせてPDF」『千葉大学経済研究』第19巻第4号、2005年3月
  9. 20世紀日本人名事典「玉野井 芳郎」の解説 コトバンク
  10. 出版年鑑編集部編『出版年鑑 1986年版』出版ニュース社、1986年

関連項目[編集]