ドジョウ

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ドジョウ
分類
動物界
脊索動物門
上綱顎口上綱
硬骨魚綱
亜綱新鰭亜綱
上目骨鰾上目
コイ目
上科ドジョウ上科
ドジョウ科
ドジョウ属
ドジョウ
名称
学名Misgurnus anguillicaudatus
(Cantor, 1842)
和名ドジョウ
英名Asian pond loach
Oriental weatherfish
Oriental weatherloach
Dojo loach
Pond loach
Japanese Common loach
保全状況
IUCNレッドリスト低危険種 (2011年9月20日)
環境省レッドリスト準絶滅危惧種

ドジョウとは、コイ目ドジョウ科に分類される淡水魚の一種である。水田による稲作縄文時代末期から普及している日本国内では、蛋白源として利用されてきた。

語源は「泥鰌」とされるが、後述のように定かではない。日本では食用として親しまれ、メダカ同様に地方名も多い。

広義にはドジョウ上科全体を指し、英語ローチloach)は通常、ドジョウ科の総称である。

アユモドキクラウンローチなど、ドジョウっぽくない種もおり、これらはドジョウに含まれることは少ない。その反面、「クーリーローチ」などはドジョウの仲間ではあるのだが、観賞魚的な立ち位置であるため日本国内ではほぼ食用とされない。姿形から差別されている感がある。

なお、本ページではマドジョウ(ドジョウ科に属するM. anguillicaudatusB-1系統)について述べ、広義のドジョウに関してはドジョウ上科を参考にされたし。

形状[編集]

体は、細長く円筒形。尾鰭は円形。大きさは、10~18cmほどになり、30cmになるものもいる。

背中側は灰色や茶色で、暗い色の斑点が不規則に鏤められるが、腹側は白く、斑点はない。

ヒドジョウ (緋泥鰌)」と呼ばれるドジョウは、突然変異で黒色素胞が無く、全身が橙黄色になっている。 口髭は5対あり、上顎に3対、下顎に2対ある。

鱗は小さく、厚い粘液層で覆われており、ぬるぬるしている。口は下の方に開く。

オスとメスで胸鰭の形が異なっている。オスは先がとがっていて根元に骨質板があるが、メスは先が丸く骨質板がない[1]。骨質板は鎌状[2]

大陸系ドジョウより臀鰭の位置が尾鰭から遠い。背鰭軟条数は6本[3]

近縁種のカラドジョウに似ているが、ドジョウよりカラドジョウのほうがヒゲが長く、ドジョウには尾鰭上部に暗色斑があるが、カラドジョウにはない。

生態[編集]

日本全国の平野部の水田湿地などに生息する。北海道沖縄県のものは移入であると思われる[2]

水中の酸素が少なくなったら、水面に上がって空気を吸い、消化管の一部で腸呼吸をする。

冬場は、泥中に潜り越冬する。

田んぼ(水田)が出来る前は、河川の氾濫原湿地[注 1]に生息していた。日本では稲作をするようになり、ドジョウは水田で過ごすようになった。 砂泥底にいる事が多く、砂泥の中にもぐる。

ライフサイクル[編集]

産卵期は4月下旬から7月下旬で、産卵は、雨上がりの早朝に多い。

卵は田植え後の田んぼや用水路に侵入して、産卵する[4]。水草やイネ株などに付着されて産卵するが、剥がれることが多い。

産卵時は、1尾のメスに数尾のオスが口で吸い付き追尾して、オスの1尾が骨質板と背びれ基部付近にある隆起を使いメスの腹部を巻き締め、卵を受精させる。多くの個体が産卵後に死ぬ。

1年で、8~12cm、2年で10~12cmに成長する。1年で成体になる。寿命は野生下で1~2年、飼育下で最大15年である[2]

呼吸[編集]

ドジョウは、通常エラ呼吸をする。

ドジョウの腸は肺の機能を持っており、真夏の田んぼは酸素が少なくなるため、水面から口を出して、腸呼吸をする。要らなくなった空気は、肛門から出す。この事を「ドジョウのおなら」と呼ばれる事も多い。

冬ごもり時は、皮膚呼吸をする。

食性[編集]

有機物や底生藻類、ユスリカ(アカムシやユスリカの幼虫である、いわゆるアカムシ)・イトミミズ(淡水棲のミミズ)、カイミジンコ、ホウネンエビなどの小動物を食べる。

体長30mm未満の個体は、カイミジンコ類を主食をするが、体長30mm以上になれば水生昆虫の幼虫やホウネンエビなども食べるようになる[5]

分類[編集]

マドジョウは、単独種とされていたが、近年の遺伝子解析から複数の系統がある事が分かり、2017年にマドジョウ、キタドジョウシノビドジョウヒョウモンドジョウの4種に分けられた[6]

三重県の一部には、全長30cm以上になり、体側上部に楕円の紋が現れる「ジンダイドジョウ(神代泥鰌)」と呼ばれるドジョウの仲間がいたとされているが、ドジョウと同種であると判明している。然しジンダイドジョウはキタドジョウの可能性もある[7]

在来系統と外来系統[編集]

マドジョウは、B-1系統とB-2系統に分別され、B-1系統は日本全国に分布し、B-2系統は関東以南を中心に生息している[8]。B-1系統は在来系統で、B-2系統は中国系統であるとされる。

またB-1系統とB-2系統の間では、形状も異なるとされ[3]、B-1系統とB-2系統は、別種とすべきという考えが広がりつつあり、分類学的検討が必要とされる[8]
ドジョウの模式産地は、中国であるため、M. anguillicaudatusはB-2系統であるとされる[2]

Hui et al., (2021)は、比較を行っていないものもB-1系統の学名をMisgurnus bipartitusとしている[9]

マドジョウのジュニア・シノニム(=同種)とされているものの中で日本産なのはCobitis rubripinnisC. maculataCobitichthys enaliosC. dichachrous、そしてC. polynemaの5種である[8]

学名は原則的に先取権であり、記載年が一番古いのは日本動物誌内で学名がつけられたCobitis rubripinnisCobitis maculataである。C. rubripinnisの方が、先に掲載されている為、C. maculataホモニムとなり、日本産のドジョウはM. rubripinnisになると思われる。

またミトコンドリアDNA分析よりType IとType IIに分かれる事がわかっており、Okada et al., (2017)は、核DNAと形状分析から、この2郡を別種とし、Misgurnus sp. Type Iが未記載種とされた[10]。Iはキタドジョウ、IIはマドジョウと同一であると思われるものの、遺伝子型及び形状を調べた研究が無い為、確定では無く、さらなる研究が必要である。

人間との関係[編集]

湧水地や小河川にも棲息するが、水田にも多く棲息するため、食用とされ貴重な蛋白源とされる。

多くはマドジョウが利用されるが、それ以外にもホトケドジョウ(通称は「お陀仏(オダブ)や「フクドジョウ」などが利用されるが、それほど区別はされていない。食味としてはアジメドジョウが最上という評判がある。

ドジョウ料理[編集]

ドジョウは、重ねていうが食用魚の一種である。農村では普通の食料の一つだった。旬は、4~7月で、調理するときは、泥臭さがあるため、2~3日真水で泳がせて、泥を吐かす。

全国的には、ネギゴボウと一緒に煮てで綴じた「柳川鍋」や唐揚げ天ぷら、醤油や味噌味汁の具材、卵とじなどにして食べられる。じつは茄子も合う。ただし「丸鍋」と「割き鍋」があり、初心者は割き鍋から入ったほうがいい(丸ごとだと、見た目がグロい)。鰻屋では鰻割の練習用に泥鰌が使われることもあり、たいてい柳川鍋も品書きにあるが、ほぼ割き鍋である。

「ふすべ餅(宮城県)」「押し寿司(愛知県)」「蒲焼(石川県富山県)」、「うどん(香川県)」「油いため(てんてこ・中国地方)」「雑炊(徳之島)」「マース煮(与那国島)」などのご当地のドジョウ料理もある[6]。大阪では通天閣近くで唐揚を出す飲み屋があったという。

中国では、ドジョウを粉末状にし薬膳として飲んでいた。韓国ではスープにドジョウのすり身を入れる。
栄養面では、ビタミンB2・Dが多く含まれている。

戦国時代に山階言継が書いた日記「言継卿記」には1554年に「土長鮮(どじょうすし)」を食べた事が書いてあり、これがドジョウを食べた最も古い記録である。但し、もっと古い記録が今後発見される可能性もあり、稲作開始当初からドジョウが食べられていたかもしれないと言われている[6]

養殖[編集]

日本をはじめとした東アジア地域では食用魚としての養殖も盛んに行われている。

人口繁殖は難しい為、ホルモンを打って繁殖を促す。

減少[編集]

汚濁や農薬、生息範囲の縮小、国外のドジョウやカラドジョウの移入により数が減っている[6]
ドジョウの繁殖には、田んぼと水路を行き来する必要があるが、近年ポンプアップが導入されるようになっており、行き来できなくなっている[6]

環境省レッドリスト2020では「準絶滅危惧」、IUCNのレッドリストでは、低危険種に指定されている。

各県のレッドリストにおけるドジョウの絶滅危惧度

情報不足 福島県 栃木県 東京都 山梨県 長野県 静岡県
準絶滅危惧 富山県 和歌山 岡山県 長崎県 宮崎県 鹿児島
要注目種 福井県 滋賀県 兵庫県
絶滅危惧ⅠB類 愛知県 大阪府 徳島県 香川県 福岡県 佐賀県 山口県
絶滅危惧ⅠA類 高知県 沖縄県

なお、江戸末期の金魚売りは金魚の桶の中に数匹の泥鰌を入れていた。金魚が酸素欠乏のために「鼻上げ」をすることによって酸素を急流するが、強い個体に水面を占領されると弱った個体が酸素不足で死んでしまうからである。泥鰌は腸呼吸ができるため水底と水面の間を往復するため、金魚が攪拌されて酸欠死しにくくなる。

海外への移入[編集]

ドジョウは、ドイツイタリアアラル海流域、オーストラリア北アメリカハワイブラジルに移入されてる[8]

海外からの移入[編集]

日本でもトキコウノトリナベツルの餌として他産地(主に中国大陸産)のものが移入されている。

また食用や釣りエサ用に輸入したドジョウも逃がされ、定着している[3]

関東近畿地方では、日本在来のB1系統ドジョウが大陸系のB2系統ドジョウに置き換わっている。2018年~19年大阪府で、捕獲したドジョウ及び過去の標本個体を遺伝子解析をした結果、B1系統ドジョウは16匹のみで、B2系統ドジョウは58匹、在来系と大陸系の雑種が3匹という結果になった[3]

名前[編集]

ドジョウ」という名前の語源は不明であるが、土から生まれるから「土生」、上が長じて成るから「土長」、ヒゲがある尉(翁)に見えることから「土尉」、髭があるから「泥髭どろせう」、泥に潜んでいるから「泥津魚どろつうお」「泥棲魚どろすみうお」などの説がある[6]

他のドジョウ類と区別するために「マドジョウ」とも呼ばれる。

歴史的かなづかいは「どぢゃう」「どづを」・「どぢを」「どじゃう」「どじょう」「どぜう」などいろいろな説がある。

ジョンジョ[11]」「ドンジョ[11]」「ドンジュ[11]」「ドンゾ[11]」「ドンジョメロ[11]」「メロ(津軽)[11]」「ヤナギハ」「ジョウ」「ジョジョ」「オドリコ」「ターイユ (沖縄県)」という地方名がある。
漢字表記は、「泥鰌」「鰌」「鯲」「鰌魚」「鰍[注 2]」「土鰍」「花条魚」「土鰍」「土長」など色々存在する。

端がドジョウの髭みたいになっている竹籠は、「泥鰌籠」と呼ばれる。「ドジョウツナギ」というイネ科の多年草は、ドジョウを捕獲しドジョウツナギの茎に刺して運んだことからこの名がついた。アシロ目アシロ科には、ウミドジョウという魚類がおり、名前の由来は、腹びれがドジョウのひげのようだったからこの名がつけられた。

ドセウ[編集]

ドジョウは一般的にはどぜうとも表記される。その由来は江戸時代越後屋助七なる人物が駒形にドジョウ屋を開き、その際に立てた看板に旧仮名遣いで「どぢやう」と書いた。

ところが開店直後に江戸の大火に見舞われて店は焼失してしまう。店を再建するために助七は当時の有名な看板描きだった憧木屋仙吉に「偶数だと験が悪い」として「どぜう」という看板を書かせたという[注 3]。そもそも「どぢやう」では偶数の4文字になり、しかも「四」(し)なので縁起が悪いという事で、3文字の「どぜう」にしたのだと言われている。

以後、再オープンした助七の店は繁盛し、どぜうは駒形の名物として現代まで続いており、「駒形どぜう」として知られている。

文化[編集]

日本全国で、ドジョウを神仏の前で食べたり供えたりしたり、ドジョウを放して、厄払いや供義を行うするという風習がある[6]

秋田県男鹿市の飯森の祭りや愛媛県西条市の西条の秋祭では、かならずドジョウを食べることになっている。

夏の夜に、ドジョウを灯火で誘って、先に釘をつけた棒で突いてして捕らえる風習が存在し、「泥鰌打ち」と呼ばれる。

泥鰌掬いは、安来節に合わせ、ドジョウを掬う動作をする模して行う踊りである。

脚注[編集]

注釈
  1. 通常時は陸地だが、雨が降ると河川水によって水没する場所の事
  2. イナダカジカにも使われる
  3. これは祝い事や歌舞伎では奇数文字が使われているからだという。歌舞伎演目は基本的に奇数である(『一本刀土俵入』は長谷川伸による新作歌舞伎なので、古典としての歌舞伎に遠慮して命名したという)。というので、「でぜう」と表記されるようになったという
出典
  1. ドジョウ - 大阪府立環境農林水産総合研究所 2022年7月29日閲覧
  2. a b c d 中島淳 & 内山りゅう 2017, p. 59.
  3. a b c d 松井彰子、中島淳「大阪府におけるドジョウの在来および外来系統の分布と形態的特徴にもとづく系統判別法の検討」、『大阪市立自然史博物館研究報告』第74巻、大阪市立自然史博物館、2020年3月31日、 1-15頁、 doi:10.20643/00001424ISSN 0078-6675
  4. 田中道明「水田周辺の水環境の違いがドジョウの分布と生息密度に及ぼす影響」、『魚類学雑誌』第46巻第2号、1999年、 75-81頁、 doi:10.11369/jji1950.46.75
  5. 加納 光樹、斉藤 秀生、渕上 聡子、今村 彰伸、今井 仁、多紀 保彦「渡良瀬川水系の農業水路におけるカラドジョウとドジョウの出現様式と食性」、『水産増殖』第55巻第1号、 109-114頁。
  6. a b c d e f g 中島淳「ドジョウの実態とその保全」、『農業および園芸』第95巻第2号、2020年2月、 113-122頁、 ISSN 03695247
  7. 中島淳 & 内山りゅう 2017, p. 51.
  8. a b c d 清水孝昭「ドジョウ:資源利用と撹乱」、『魚類学雑誌』第61巻第1号、日本魚類学会、2014年4月25日、 36-40頁、 doi:10.11369/jji.61.36
  9. 张慧; 王银肖; 杨慧兰; 谭慧敏; 陈咏霞 (2021). “中国泥鳅属和副泥鳅属鱼类的分类整理”. 水生生物学报 (河北大学生命科学学院) 45 (2): 414-427. doi:10.7541/2021.2019.166. http://ssswxb.ihb.ac.cn/cn/article/doi/10.7541/2021.2019.166. 
  10. Okada, Ryuya; Inui, T.; Iguchi, Y.; Kitagawa, T.; Takata, K.; Kitagawa, T. (2017). “Molecular and morphological analyses revealed a cryptic species of dojo loach Misgurnus anguillicaudatus (Cypriniformes: Cobitidae) in Japan”. Journal of Fish Biology 91: 989–996. 
  11. a b c d e f 塩谷亨「青森県における魚類等の方言名について」、『北海道言語文化研究』第14巻、北海道言語研究会、2016年3月31日、 93-118頁。

参考文献[編集]

  • 中島淳、内山りゅう 『日本のドジョウ 形態・生態・文化と図鑑』 山と渓谷社2017年。ISBN 4635062872

外部リンク[編集]