平成30年7月豪雨
平成30年7月豪雨(へいせい30ねん7がつごうう)とは、2018年(平成30年)7月5日から西日本を中心に発生している集中豪雨。気象庁が7月9日にこの名称に制定した[1]。平成時代において最悪の豪雨被害であると言われている。西日本豪雨(にしにほんごうう)ともいわれている。
概要[編集]
7月5日から、九州から中部地方にかけて停滞した梅雨前線に向かって台風7号がもたらした暖かく湿った空気が流れ込むことで梅雨前線が活発化し、それに加えて太平洋高気圧が衰退しその縁を回って流れ込む湿った空気により西日本の各地で活発な雨雲が形成された。
7月6日17時10分に長崎、福岡、佐賀の3県に大雨特別警報が発表され、続いて19時40分に広島、岡山、鳥取、22時50分に京都、兵庫と、一日で8府県に大雨特別警報が発表された[2][3]。翌7日12時50分には岐阜県にも大雨特別警報が発表され[4][3]、翌8日5時50分に高知、愛媛の2県にも大雨特別警報が発表された[5]。結果的に、11の府県が特別警報の対象地域となった。一回の大雨で、ここまで多い府県に特別警報が発令されたのは史上初である。
被害・影響[編集]
西日本の広い範囲で、川の氾濫や洪水、土砂災害などの被害が起こっている。7月12日13時30分(JST)までの総務省消防庁の集計によると、死者44人、行方不明者21人となっている。[6]
人的被害(人) | 住宅等被害(棟) | 非住宅被害(棟) | ||||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
死者 | 不明者 | 重傷者 | 軽傷者 | 程度不明 | 全壊 | 半壊 | 一部損壊 | 床上浸水 | 床下浸水 | 公共建築 | その他 | |
189 | 68 | 43 | 104 | 3 | 138 | 122 | 516 | 8,293 | 15,081 | 4 | 5 | 28 |
総務省消防庁7月8日6時0分現在の情報による[6] |
インフラへの影響[編集]
電力[編集]
管内の延べ188,000戸で停電が発生した[7]。
通信[編集]
道路[編集]
- 西日本高速道路(NEXCO西日本)管内
2018年7月7日現在、以下の高速道路で災害が発生した[10]。
- E1A 新名神高速道路 - のり面崩落1箇所
- E24 京奈和道 - のり面崩落1箇所
- E27 舞鶴若狭自動車道 - 土砂崩落1箇所
- E2 山陽自動車道 - のり面崩落2箇所、冠水1箇所、土砂流入6箇所
- E2 山陽自動車道#宇部下関線 - のり面崩落1箇所
- E2A 中国自動車道 - のり面崩落6箇所
- E73 岡山自動車道 - のり面崩落3箇所
- E31 広島呉道路 - のり面崩落1箇所
- E73 米子自動車道 - のり面崩落1箇所
- E2A 関門自動車道 - のり面崩落2箇所
- 関門トンネル - のり面崩落1箇所
- E32 高知自動車道 - のり面崩落2箇所、橋流出1箇所
- E3 九州自動車道 - のり面崩落3箇所、冠水1箇所、土砂流入1箇所
- E10 東九州自動車道 - のり面崩落2箇所
- E34 長崎自動車道 - のり面崩落2箇所
上記区間のうち、以下の区間で発生した災害は復旧に時間の掛かる重篤被災箇所とされている[10]。
- 山陽自動車道 - 河内IC~本郷IC間および志和IC~広島東IC間で発生した土砂流入
- 中国自動車道 - 新見IC~北房IC間で発生したのり面崩落
- 高知自動車道 - 新宮IC~大豊IC間で発生した土砂流出に伴う橋梁上部工流出
- 九州自動車道 - 新門司IC~小倉東IC間で発生したのり面崩落
- 東九州自動車道 - 椎田南IC~豊前IC間で発生したのり面崩落
都市高速
2018年7月8日現在、北九州高速道路(都市高速)が全線で通行止めとなっている[11]。
主な被災場所は以下の通り[11]。このほかにも多数の被害が出ているという。
鉄道[編集]
- JR東海管内
- JR西日本管内
- 被災箇所
- 芸備線 白木山駅 - 狩留家駅間の三篠川に掛かる鉄橋が橋脚ごと流出[14]、全線で運転見合わせ。被害の大きかった三次駅 - 狩留家駅間の復旧には約1年を要する見通し。
- 呉線 安芸幸崎駅 - 忠海駅間、水尻駅、小屋浦駅、坂駅付近で土砂流入[14]。全線で運転見合わせ。
- 山陽本線 三原駅 - 本郷駅間、瀬野駅 - 八本松駅間でそれぞれ土砂流入[14]。笠岡駅 - 海田市駅間、岩国駅 - 徳山駅間で運転見合わせ。特に被害の大きかった三原駅 - 海田市駅間の復旧には数カ月を要する見通し。
- 伯備線 足立駅- 新郷駅:土砂流入[12]。
- 加古川線 日岡駅 - 神野駅:道床流出[12]。
- 奈良線 六地蔵駅 - 桃山駅:法面亀裂[12]。
- 関西本線 笠置駅 - 加茂駅:倒木[12]。
- 和歌山線 西笠田駅 - 名手駅:倒竹[12]。
- 阪和線 和泉砂川駅 - 和泉鳥取駅:道床流出 [12]。
- その他運行への影響
- 被災箇所
- JR四国管内
- 6日午後より全特急列車が運休、7日は始発からは瀬戸大橋を渡る全列車が運休した[16]。
- JR九州管内
- 被災箇所
- 筑肥線では7月6日14:30ごろ、鹿家駅 - 浜崎駅間を走行中の福岡空港駅行き上り快速列車(6両編成)が、前方の線路へ土砂が流入していることを発見、停止して状況を確認している最中に新たに土砂崩れが発生し、最後尾の車両がその土砂に押し出されて脱線。列車に乗客はおらず、乗員2名にも怪我はなかった[17]。その影響で8日も筑前前原駅 - 西唐津駅間で終日運転を見合わせている[18]。
- 筑豊本線(原田線)では、7日に上穂波駅 - 筑前山家駅間の複数箇所で道床流出。その影響で8日も桂川駅 - 原田駅間で終日運転を見合わせている[18]。
- 肥薩線では、7日に鎌瀬駅 - 瀬戸石駅間で大規模な土砂流入が発生。その影響で7月8日も八代駅 - 吉松駅間で終日運転を見合わせている[18]。
- 唐津線 多久駅 - 厳木駅間間で土砂流入・冠水、厳木駅 - 岩屋駅間で道床流出[12]
- 日田彦山線 志井駅 - 石原町駅間で土砂流入[12]
- 後藤寺線 下鴨生駅 - 筑前庄内駅間、田川後藤寺駅構内で土砂流入[12]
- その他運行への影響
- 被災箇所
- 東海地方私鉄
- 長良川鉄道 越美南線 郡上八幡駅 - 自然園前駅間で線路冠水
- 近畿地方私鉄
- 中国地方私鉄
- 九州地方私鉄
産業への影響[編集]
- 飲料・たばこ・飼料製造業
- 非鉄金属製造業
- 岡山県総社市に所在し、同社が管理するアサヒセイレン岡山工場で、アルミニウムと雨水が反応し大規模な爆発が発生した[22]。
詳細は「朝日アルミ産業爆発事故」を参照
- 電気機械器具製造業
- 業務用ビデオカメラなどを製造する岡山工場が浸水被害を受けた[21]。
- 京都製作所(京都府長岡京市)・冷熱システム製作所(和歌山県)のほか、兵庫県内の2工場で6日午後に操業を停止した[21]。
- 輸送用機械器具製造業
- 西日本の高速道路が通行止めとなり、部品供給に影響が出たため、本社工場(大阪府池田市)・滋賀第2工場・京都工場・ダイハツ九州大分工場・ダイハツ九州久留米工場などで一時操業を休止した[21]。
- 部品供給が困難になる可能性があるため、本社工場(広島県府中町)と防府工場で7月7日の操業を休止した[21]。
イベント等への影響[編集]
- プロ野球
- 7月6日にナゴヤドームで予定されていた中日対東京ヤクルトスワローズの試合は、5日夜に遠征先の広島を出発したヤクルトの用具運搬車が大雨に伴う道路事情悪化により到着できず、中止となった[23]。
- サッカー
- 7月7日に予定されていた、サッカーJリーグについて、J2リーグ第22節10試合中、京都サンガFC対アビスパ福岡(京都市西京極総合運動公園陸上競技場兼球技場)の1試合、J3リーグ第17節6試合のうち、ガイナーレ鳥取対ザスパクサツ群馬(とりぎんバードスタジアム)、ギラヴァンツ北九州対鹿児島ユナイテッドFC(ミクニワールドスタジアム北九州)の2試合がいずれも豪雨の影響により中止、延期となった[24]。
- その他
行政の対応[編集]
要請日時 | 要請元 | 要請先 | 要請内容 | 撤収日時 |
---|---|---|---|---|
7月6日1時10分 | 京都府知事 | 陸上自衛隊第7普通科連隊長 | 水防活動 | 7月6日7時5分 |
7月6日3時30分 | 高知県知事 | 陸上自衛隊第50普通科連隊長 | 孤立者の救助等 | |
7月6日9時56分 | 福岡県知事 | 陸上自衛隊第4師団長 | 人命救助 | |
7月6日18時35分 | 京都府知事 | 陸上自衛隊第7普通科連隊長 | 水防活動(再要請) | 7月6日23時30分 |
7月6日21時00分 | 広島県知事 | 陸上自衛隊第13旅団長 | 人命救助 | |
7月6日23時11分 | 岡山県知事 | 陸上自衛隊第13旅団長 | 人命救助等 | |
7月7日6時10分 | 京都府知事 | 陸上自衛隊第7普通科連隊長 | 人命救助 | |
愛媛県知事 | 陸上自衛隊中部方面特科隊長 | 人命救助 | ||
7月7日7時35分 | 山口県知事 | 陸上自衛隊第17普通科連隊長 | 人命救助 | 7月7日14時55分 |
7月7日9時42分 | 京都府知事 | 海上自衛隊舞鶴地方総監 | 人命救助 | |
内閣府発表7月7日7:00現在[26]および防衛省発表7月7日20時30分現在[30] |
行政以外の対応[編集]
- 通信業界
- KDDI・ソフトバンク・NTTドコモは、7月7日に岡山県・広島県内において災害時公衆無線LAN「00000JAPAN」を開放した。なお、災害用伝言板は同年6月18日に発生した大阪府北部地震に伴い、既に開設されている状況であった[31]。
- 海外
- 台湾の蔡英文総統が「台湾でも豪雨被害は頻発しており、我々もその被害の深刻さを身をもって経験しています。台湾は日本が必要とするあらゆる支援を行う用意があります」と日本語でTwitterに投稿した[32]。
脚注[編集]
注釈[編集]
出典[編集]
- ↑ “西日本の豪雨「平成30年7月豪雨」と命名 気象庁”. 朝日新聞. (2018年7月9日)
- ↑ “京都府、兵庫県に特別警報発表(PDF)”. 気象庁 (2018年7月6日). 2018年7月7日確認。
- ↑ a b 朝日新聞2018年7月8日朝刊総合2面。
- ↑ “岐阜県に特別警報発表(PDF)”. 気象庁 (2018年7月7日). 2018年7月7日確認。
- ↑ “高知県と愛媛県に特別警報発表”. 気象庁 (2018年7月8日). 2018年7月8日確認。
- ↑ a b c “平成30年台風第7号及び前線等による被害状況及び消防機関等の対応状況について(第10報)(PDF)”. 総務省消防庁 (2018年7月8日). 2018年7月8日確認。
- ↑ “大雨による停電情報について”. 中国電力 (2018年7月8日). 2018年7月8日確認。
- ↑ “NTT西、12万回線で一時通信障害 高知など5県”. 毎日新聞 (2018年7月7日). 2018年7月8日確認。
- ↑ “大雨による通信サービスへの影響について(第10報)”. NTT西日本 (2018年7月8日). 2018年7月8日確認。
- ↑ a b “NEXCO西日本管内の高速道路の被災状況”. 西日本高速道路株式会社 (2018年7月7日). 2018年7月8日確認。
- ↑ a b “かつて経験のない豪雨の影響により災害が発生しております。(PDF)”. 福岡北九州高速道路公社 (2018年7月7日). 2018年7月8日時点のオリジナルよりアーカイブ。2018年7月8日確認。
- ↑ a b c d e f g h i j k l “西日本で記録的大雨 鉄道路線に被害相次ぐ(7月7日午後1時時点)”. トラベルメディア[トライシー]. トライシージャパン (2018年7月7日). 2018年7月8日確認。
- ↑ a b c “西日本豪雨 交通の乱れ多発 新幹線、在来線、高速道”. 毎日新聞. (2018年7月7日) 2018年7月7日閲覧。
- ↑ a b c “【速報】橋脚ごと鉄橋流される JR芸備線”. 中国新聞アルファ. 中国新聞 (2018年7月8日). 2018年7月8日確認。
- ↑ a b “交通の乱れ続く 高速道通行止め、JR運休 九州北部の大雨”. 西日本新聞 (2018年7月7日). 2018年7月7日確認。
- ↑ “大雨、高知で農業打撃 四国各地に影響、警戒続く”. 日本経済新聞. (2018年7月6日) 2018年7月7日閲覧。
- ↑ “線路に土砂流入 電車押し出す JR筑肥線”. 佐賀新聞 (2018年7月6日). 2018年7月8日確認。
- ↑ a b c “大雨等の影響に伴う7月8日(日)の運転計画について【7 月 7 日(土)22:30 現在】”. JR九州 (2018年7月7日). 2018年7月8日確認。
- ↑ https://www.nishinippon.co.jp/flash/f_kyushu/article/430582/
- ↑ “日本酒「獺祭」の蔵が浸水被害”. 共同通信 (2018年7月7日). 2018年7月8日確認。
- ↑ a b c d e “日本酒「獺祭」の製造中止 企業への影響続く”. 産経WEST (2018年7月7日). 2018年7月8日確認。
- ↑ “岡山・総社の工場が爆発 「二次爆発」の恐れで避難指示”. 朝日新聞デジタル. (2018年7月7日) 2018年7月7日閲覧。
- ↑ “ナゴヤドーム泣く泣く、異例の試合中止”. 中日スポーツ (2018年7月7日). 2018年7月8日確認。
- ↑ “京都-福岡戦など中止=Jリーグ”. 時事ドットコム. 時事通信社 (2018年7月7日). 2018年7月8日確認。
- ↑ “JR九州が7日の久大線復旧関連事業の中止を発表”. 西日本新聞 (2018年7月6日). 2018年7月8日確認。
- ↑ a b c d “平成 30 年台風第 7 号及び前線等による被害状況等について(PDF)”. 内閣府 (2018年7月7日). 2018年7月7日確認。
- ↑ “大雨 全国唯一の特殊車両「レッドサラマンダー」現地に”. NHK. (2018年7月7日) (2018-7-7発行). オリジナルの2018年7月8日時点によるアーカイブ。 2018年7月7日閲覧。
- ↑ “気象庁が臨時会見 8日ごろまで記録的大雨のおそれ「厳重な警戒を」”. TBSNews. (2018年7月5日) 2018年7月8日閲覧。
- ↑ “西日本と東日本における8日頃にかけての大雨について”. 気象庁. 2018年7月8日確認。
- ↑ a b “平成30年7月5日からの大雨に係る災害派遣について(20時30分現在)(PDF)”. 防衛省. 2018年7月8日確認。
- ↑ “KDDIとソフトバンク、岡山県と広島県の全域で公衆無線LANの無料開放”. ITmedia (2018年7月7日). 2018年7月8日確認。
- ↑ “台湾の蔡英文総統、「あらゆる支援を行う用意」とツイート”. 産経ニュース. (2018年7月8日) 2018年7月8日閲覧。