NHK受信料
NHK受信料(エヌエイチケーじゅしんりょう)とは、日本放送協会(NHK)の受信契約者が同協会に支払う放送受信料である。本来これはNHKを見たい人が払えばいいようなもののはずだが、2021年現在はなぜかNHKにほぼ全ての国民が支払わないといけないと「されている」。
後述する通り受信料支払いに関する問題提起や訴訟増加、挙げ句NHK破壊をワンイシューに掲げつつ国政選挙で遊ぶ者までが出現しているが、メディアは報道しない自由の行使で身をまもっている。
概要[編集]
NHKを受信する場合、契約者すなわち視聴者は受信料を支払わないといけないとされている。しかしNHKでは平成16年(2004年)から支払い拒否が急増した。これはNHK職員の不祥事が相次いで発覚したためである。このため、NHKは任意で契約を求めてきた方針を転換し、平成18年(2006年)から受信契約を結んだが支払いが滞っている場合に、平成21年(2009年)からは未契約のケースにも法的措置を取り始めた。未契約世帯は約900万件で、契約した上での不払いは約100万件。平成28年(2016年)度の支払率は推計だが79パーセントで、約4300件が訴訟になっている。平成29年(2017年)10月現在、世帯と事業所を合わせた受信契約数は約4300万件。NHKの平成28年(2016年)度事業収入は7073億円で、うち受信料は約96パーセントに当たる6769億円を占めている。
平成28年(2016年)度末の推計世帯支払率は、全国値で78.2パーセントであり、最も高かったのは秋田県の96.3パーセント、最も低かったのは沖縄県の48.8パーセントで、全体的に都市圏で支払率が低い傾向が続いている。
令和3年(2021年)時点では受信料は口座振替かクレジットカードで2か月ごとに支払う場合、月額で地上契約が1225円、衛星契約を含めると2170円となっている。
2017年12月における最高裁判決における注意点(裁判長は寺田逸郎)[編集]
平成29年(2017年)12月6日、NHKの受信料制度が「契約の自由」を保障する日本国憲法に違反するかどうかが争われた訴訟の上告審判決で、最高裁大法廷(裁判長長官は寺田逸郎)は、合憲と初めて判断した。つまりテレビがあれば受信契約を結び、受信料を支払う法的義務があると指摘し、テレビを設置した時点にさかのぼり負担する義務があるとした。これにより未契約の視聴者は支払いを事実上、拒否できないとされている。この判決により、被告男性の場合は平成18年(2006年)3月にテレビを設置し、裁判の結果、平成29年(2017年)12月にNHKの勝訴が確定したため、11年間以上の受信料を支払うことになる。
この判決により、立教大学の教授・砂川浩慶はインターネットの時代を迎えている現在、「今回の判決で若者たちのテレビの受信機離れ、NHK離れがますます加速する恐れがある」と指摘した。この判決は逆手に取るなら「テレビ受信機を設置していなければ受信料の契約義務が生じないことになる」のである。
また、最高裁判決が出たとはいえ、NHKの受信料が未払いであるとはいえ、それに対する罰則は一切存在しない。不払いや未契約の世帯・事業所に支払い督促や民事訴訟を実施しているだけなのが現状である。
受信料をなぜ支払わないといけないのか[編集]
NHKは受信料の支払いを放送法という法律を根拠としている。テレビを設置した世帯や事業所は、受信契約を結ばなければいけないとしている。受信料は視聴者の有無にかかわらず支払う「特殊な負担金」とされている。
NHKには民放のようなCM収入が無く、公共放送として視聴者に広く負担させることにより、特定のスポンサーや国の影響にとらわれない番組作りができると訴えている。
受信料合憲後のNHK職員の不祥事[編集]
- 2017年12月21日、訪問集金で受け取った21世帯分の受信料およそ58万円を着服していたとして、名古屋放送局中央営業センターの男性職員(当時37歳)が12月28日付で懲戒免職となった。この職員は「親族の病気の治療費などで借金があった」として2016年10月から2017年12月までの受信料の滞納があった愛知県内の世帯を訪問集金して現金を受け取り、領収書を発行してその後、営業用の管理システムから発行履歴を消すなどの不正な処理をして受信料を着服していたという。
- 2018年2月2日、NHK久留米支局記者の男(当時45歳)が2017年12月に運転代行業者の男性(当時26歳)を殴ったとされる暴行の疑いで逮捕された。
- 2020年12月1日、広島南署によって他人の車を傷つけたとする器物損壊の疑いで、NHK広島放送局の技術職員(当時53歳)が再逮捕された(この技術職員は11月28日にも別の車を傷つけたとして現行犯逮捕されている)。
- 2021年2月5日、NHKは報道局総務の元男性職員(当時30歳)を懲戒免職相当にしたと発表した。理由は在職中の2020年9月から10月にかけて、上司に無断で取引先3社にノートパソコンやハードディスクなど35点、合計529万4718円を発注して不正に受け取っていたとされている。この男は2020年11月4日付で依願退職しているが、NHKは懲戒免職相当として退職金は支払わないとされる。ただし、この男の不正は依願退職後に請求書が届いたことで発覚したものである。
- 2021年2月15日、東京都中野区のNHK報道局映像センター職員の当時32歳の男が、60歳代のタクシー運転手の顔を殴ったり、消火器を投げつけて足にケガを負わせるなどした傷害容疑で、警視庁牛込署に逮捕された。男は前日から、友人と居酒屋で飲んでおり、泥酔して車道をフラフラと歩いていたため、通りがかったタクシーの運転手が『危ないですよ』と注意したのに対し、逆上して暴行を働いたという。
死後の分まで支払え[編集]
2018年6月、母親が死去して数年がたつにも関わらず、NHKが母親の遺族に対して執拗に母親の受信料支払いの督促状を請求している事実が明らかになった。それによると解約しなければ、仮に受信料を支払っている本人が死亡した場合でも、遺族に対して受信料を請求するのだと言われている。NHKに対して確認の電話をすると「(母親の)死後の分まで支払え」の一点張りであったとされている。
総務省検討会のNHKに対する見解[編集]
2018年7月13日、総務省の有識者検討会はNHKがテレビ番組を放送と同時にインターネットで配信することに「妥当性がある」とした報告書案をまとめた。ただし、事業となる受信料について「水準や体系などの見直しをする」と指摘し、視聴者の負担引き下げを条件としている。
受信料回収業者による問題行為[編集]
受信料未納者に対してはNHKが認可した、1次・2次請による、民間の回収業者が訪問することがある。しかし、中には深夜に訪問するなど行きすぎた行為に及んだ例もある。ある受信料未納者の女性は受信料回収業者の男性からドアを開けるまで何度もチャイムを鳴らされたりドアをノックされ精神的苦痛を受けたとして10万円の損害賠償請求を行ったが、女性の訴えを棄却した。
ワンセグ携帯による契約義務について(裁判長は山崎敏充)[編集]
2019年3月12日、最高裁第3小法廷において、ワンセグ携帯のみを所有している場合でも受信料を支払う義務が発生するとの判断が下された(裁判長は山崎敏充)。
カーナビも受信料は義務の初判断(裁判長は森田浩美)[編集]
自宅にテレビを持たない栃木県の女性が、自家用車に設置しているワンセグ機能付きのカーナビについて受信料契約を結ぶ義務がないことの確認をNHKに求めた訴訟の判決で、東京地裁(森田浩美裁判長)は2019年5月15日に女性の訴えを退けた。カーナビも受信料義務があると判断された初の判例となる。
東横イン訴訟(裁判長は菅野博之)[編集]
2019年7月24日、NHKがビジネスホテルチェーン大手「東横イン」に全客室分の受信料支払いを求めた訴訟で、最高裁第2小法廷は、東横イン側の上告を退ける決定をした。全国236のホテルに設置されたテレビ計約3万4000台分、約19億3500万円の支払いを命じた2審東京高裁判決が確定した。これは過去最高額のNHK受信料支払い命令である。この支払い命令にネットでは「19億はエグすぎる。テレビ撤去すれば?」「NHK見るためにホテル泊まっているわけじゃない」と批判の声が相次いだ。N国党の立花孝志の見解は「NHKと東横インで受信料契約をしていた上での判断なので、判決の妥当性は高い。ただ、ホテルに泊まるのは旅行者など定住している人ではない。1部屋1契約は“二重徴収”の恐れがある。今後、問題提起していきたい」としている。
ただ、受信料は1世帯につき1契約のはずであり、テレビの台数で受信料を支払うのはある意味でおかしな話でもある。
視聴できぬテレビも契約義務ありとするNHK逆転勝訴判決(裁判長は広谷章雄)[編集]
NHK放送を視聴できないテレビを自宅に設置した東京都文京区の女性が、受信契約を締結する義務がないことの確認を求めた訴訟の控訴審判決が2021年2月24日に東京高裁であり、広谷章雄裁判長は女性側勝訴とした1審東京地裁判決を取り消し、請求を棄却した。広谷は、放送法はNHK放送を受信できる環境のある人に負担を求め、契約を強制できる仕組みを採用していると指摘。NHKを視聴できなくする機器をテレビに取り付けても、元に戻せる場合は契約締結義務を負うとした(1審は東京地裁は2020年6月、女性が設置したテレビはNHKの信号だけを大幅に弱めるフィルターが取り付けられており、受信できる設備とは言えないとして、契約締結義務を負わないとの判断を示していた)。その上で、女性の設置したテレビはブースターや工具を使えばNHK放送の視聴が可能になると結論付けた。
自民党政権がNHKに受信料を支払っていない世帯から割増金を徴収できる制度の導入を柱とした放送法改正案を閣議決定[編集]
自民党・菅義偉内閣は2021年2月26日、テレビを設置しているにもかかわらずNHKに受信料を支払っていない世帯から割増金を徴収できる制度の導入を柱とした放送法改正案を閣議決定した。改正案にはさらに、受信料引き下げの原資を確保するための積立金制度の創設も盛り込んだ。今回の法改正により、NHKはテレビを設置しながらも正当な理由なしに契約に応じず受信料を支払っていない世帯から、未収分を含め割増金を徴収できるようになった。割増金の額は法案成立後に定めるとされている。
受信料の収入に関して[編集]
2018年度の事業収入は約7322億円で、内訳は受信料収入が約7122億円で全体の97.1パーセントを占めている。同年度の事業所を除く世帯支払い率は全国値81.1パーセントで2017年度から1.8ポイント向上した。これは公表を開始した2011年度以降で過去最高に当たる。都道府県別では最高が秋田県の98.3パーセント、最低が沖縄県の51パーセントである。ただし沖縄県は2017年度が49.3パーセントであったからアップしており、しかも初の50パーセント超えとなる[1]。
NHKでは国勢調査などから総世帯数を5512万件としており、受信料契約世帯は4907万件で世帯契約数は3815万件(契約率は83パーセント)、世帯支払い数は3741万件(支払い率は81パーセント)[1]。
受信料は沖縄県以外は地上放送のみの契約は月額1260円、12か月前払いの場合は1万3990円である。地上放送と衛星放送の契約は月額2230円で、12か月前払いの場合は2万4770円である(これらの金額は口座振替、クレジットカード払いの場合)[1]。
2019年9月5日、都内で行われたNHK定例会長会見で、会長の上田良一がN国党が議席を獲得したことと受信料は別問題として、NHKのスクランブル化を否定する発言をした[2]。
自民党による異例の廃案[編集]
政府与党は、2021年の国会に提出済みのNHKの受信料値下げにつながる放送法改正案を廃案とすることにした。放送事業会社「東北新社」やフジ・メディア・ホールディングス(HD)が放送法に基づく外資規制に違反していたことが問題となり野党が反発していたため、菅義偉首相が出席して審議することが決まっており、野党の追及を避ける狙いがあるとみられる。会期を2カ月残した段階で廃案を決めれば異例の措置となる。政府与党が2月に閣議決定した放送法改正案は、NHKの受信料値下げの原資となる積立金制度を創設し、テレビを持つのに不正に受信契約をせず、支払いを逃れる世帯への割増金制度を導入する内容であった。
NHK信号減衰テレビに契約義務ありという意味不明判決(裁判長は堺徹)[編集]
NHKの受信料に批判的な考えを持っていた女性が、NHKの放送が見れないようにするテレビを2018年10月に購入した。そして、このテレビがあればNHKと受信契約を結ぶ義務がないことの確認を求めた訴訟が行われ、地裁は「女性に専門知識はなく、受信できるように復元するのは困難である」として契約義務はないと判断したが、高裁は「フィルターを外すなどして受信できる場合には契約義務がある」と意味不明の判決を下し、最高裁で堺徹は上告を退けて女性側の敗訴が確定した。
受信料に関する見解[編集]
- 安部晋三内閣の総務大臣・石田真敏は「公共放送と民放の二元体制を崩しかねない」「NHKは災害放送や公共放送の社会的使命を果たすことが求められている」とスクランブル放送化に反対してNHKの受信料を支払うように訴えている[1]。
- 安部内閣の官房長官である菅義偉は「公共放送としてのNHKの基本的性格に影響を及ぼす」としてNHKの受信料制度の重要性を訴えている[1]。
- 弁護士の高池勝彦(高池は2017年12月にNHK受信料訴訟で敗訴した男性の弁護人を務めたことがある)は「受信料の支払いは日本国憲法上、強制されるものではなく、最高裁の判決は違憲であると思っている。受信料制度はそれ自体が物凄く矛盾のある制度で強制徴収はフェアではない。スクランブル放送に賛成します」と述べている[1]。
- 元NHK記者でキャスター、高知県知事の橋本大二郎は「スクランブル放送はするべきではなく、政権やスポンサーの影響を受けないメディアの最後の砦として受信料を支えるべき」としている[1]。
- 大阪市長の松井一郎は「国会議員の不払いを見て見ぬふりをするなら、一般の人はバカらしくて払えない」と不快感をあらわにし「議員会館での不払いがまかり通るのなら、大阪市役所も支払いをやめる」と発言した[1]。
- 弁護士の若狭勝はNHKの受信料支払いに一定の理解は示しているが、放送法が制定された1950年当時はそもそもスマホもパソコンもカーナビも存在しない時代だった。それが最高裁の判例で受信料契約していないスマホ、パソコン、カーナビにまで受信料契約と支払い義務があるとした判例は「やり過ぎ」と批判している。その上で「旧態依然としたNHKのあり方、受信料制度に対する不満や不公平感がマグマのようにたまっている」と警鐘を鳴らしている[1]。