交流電化
交流電化(こうりゅうでんか)とは、電気鉄道のうち、架線に流れる電流を交流にすることである。
概要[編集]
誕生の背景[編集]
電気機関車や電車に使用される電動機は直流電動機が適していたため、当初鉄道で、直流電化を行った。しかし、直流での高電圧送電は直流発電機の構造上不可能だった。大電力を輸送するために電流を大きくすると架線を太くする必要があり[1]、これは経済的ではない。また、電圧を高くして送電すると電圧降下が少ないので変電所を短区間に設けてそこまでは三相交流での送電を行い、電圧降下を防止した。
それでも、架線を交流にすると経済的なので、単相交流で交流整流子電動機使用する方法が模索され、まず、50Hzを3分の1の周波数にして使用することが20世紀始めに実現した。次いで、1930年代に商用周波数による交流電化がドイツで実現。第二次世界大戦後はフランスに技術移入され、まず、欧州で交流電化技術が確立した。欧州外では後述のように日本で普及し、韓国では休戦有事から直流電化が憚れるので、地下鉄乗り入れ路線に至るまで交流電化となっている。
日本導入の背景[編集]
日本国有鉄道は電化区間を幹線区から亜幹線区に展開することを1960年代前半に検討し、在来線の仙山線を電圧20000V、周波数50Hzで試験。水銀整流器で整流を行った後、間接的に直流直巻電動機で駆動させる方法が成功を収め、常磐線や北陸本線、鹿児島本線に展開し、周波数はその地域に普及している値(50Hzもしくは60Hz)としていた。新幹線は直流電化の欠点から電圧25000Vの電化として、日本国内の最大の成功例となった。
一方、1960年代後半に新潟県下の大半が直流電化したことで、北陸本線が事実上孤立交流電化区間になることが確定してからは、交流電化の勢いは九州、東北、北海道のみとなり、日本国内で新規の直流電化区間が増加している。
国鉄を引き継いだJR新会社も同様の方針で津軽線などを新規に交流電化したが、JRや並行在来線転換の第三セクター路線以外では三セクの阿武隈急行やつくばエクスプレスが新規採用したのみで、純民鉄で採用の路線は無い。
長所[編集]
電力の損失の抑制[編集]
電力P=IVを輸送する場合。同じ電力を送るとして、電圧Vを高くすると、電流Iは小さくなり、送電線で熱(ジュール熱)となって失われる電力P=I2R(Rは送電線の抵抗)を小さくすることが出来る。また、使用する電線も細くできる。電圧をn倍に高くすると、同じ電力を送電するときの電流は1/n倍になり、送電線における電力の損失は1/n2倍に減少する。高電圧の交流は、消費地の変電所で変圧器を用い、適当に電圧を下げて使用者に供給している。
ジュール熱の抑制[編集]
送電のように熱エネルギーを利用しない場合は、ジュール熱を削減し、電気エネルギーの消費を抑える工夫がなされる。これは、エネルギーの浪費を抑えるためだけでなく、ジュール熱に起因する火災を防止するためにも重要である。
広く用いられている方法のひとつに、十分な太さの電線を用意することが挙げられる。導体の電気抵抗は、その太さに反比例するため(抵抗率)、 想定される電流量に対して十分な太さが確保できれば、ジュール熱が削減できるという算段である。[2]
いっぽう、非常に大きな電気エネルギーを扱う送電線の幹線などでは、際限なく太い電線を用意することは現実的に難しい。そのため、電流量を減らす取り組みがなされる。電圧を上げれば、少ない電流であっても十分な電気エネルギーを送れるので、これを利用するのが、高圧送電線である。
今日の日本では、家庭や事業所に送電される電気は単相交流100Vないし200Vである。しかし、電力会社は、最寄りの変電所まで三相交流6600Vで送電し、電気エネルギーの損失を抑えている。また発電所から伸びる幹線では更に高電圧で送電しているものもあり、高い送電効率を達成している。
変電所の数の抑制[編集]
交流は高電圧での送電が可能なので変電所の数を少なくできる。これに対し、直流は高電圧での送電は不可能[3]なので電圧降下の防止のため変電所の数を増やす必要がある。
地磁気への影響を抑制[編集]
石岡市の地磁気観測所では、直流電化など影響を及ぼす構造物は地磁気観測に大きく影響し、かつデータを継承できる適切な移転地探しも困難なため、観測所から半径30km圏内の路線はすべて交流電化とする方策が採られた[4]。
短所[編集]
危険性[編集]
高電圧による電化だと、架線に近づくと感電死するリスクが高く、扱いに用心する必要が出たり、パンタグラフに付いた霜を安易に取れなかったりする。
黒磯駅で2008年に作業員の感電死事故が起きたのもこれが少し絡んでいると推定されている。
車両の構造の複雑化[編集]
単相交流・高電圧(20kV以上)による電化の場合、降圧用の変圧器を備える必要があり、かつほとんどの場合直流電動機のためダイオードブリッジやサイリスタ位相制御、PWMコンバータなどそれを動かすための整流器が必要になる。
電圧が15kV以下かつ低周波数の場合はそのままの電圧を引き込んで単相整流子電動機で駆動する方法もあるが、逆回転の際の回路がやや複雑になることや整流子を持つことなどから誘導電動機の普及により廃れてしまった。
日本の国鉄でも、商用周波数かつ交流20kV電化の草創期にED44形機関車や後に製作の791系電車において低圧タップ切替器を用いて単相整流子電動機を駆動する試験が行われたが、起動時の火花発生が問題視されたため量産化には至らなかった。
近年では単相交流から三相交流に変換して三相誘導電動機や永久磁石同期電動機を駆動する方法が普及しているが、この場合は単相交流から三相交流へ直接変換した場合効率が悪いことから先述の整流器で直流にしてからインバータ制御回路に流す必要性が出てくる。
なお、回生ブレーキも力率低下という恐れがあり、それによりペナルティを受けないように採用しない例も多い。
短絡対策[編集]
単相交流電化の場合は架線の電圧が高くなるため、跨線橋や隧道の高さを大きく取らないといけない。感電対策も重要である。
- このため、背の低いトンネルがある関門トンネルや北陸地方の七尾線(天井川である宝達川をくぐる)は、周辺が交流電化が多いにもかかわらず直流電化区間となっている。
- 逆に三相交流電化の場合は直流電化並みの600Vや1100V程度が多い。日本の新交通には三相交流600Vで電化されている路線も存在する。
- 架線集電での三相交流電化の場合は、トロリーバス路線のように2本の架線が必要になることからあまり普及しなかった。
電磁誘導による通信障害[編集]
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交流電流は波を描くため常に電流の大きさが変化し、これにより誘導障害が起きてしまう。対策としてBT饋電方式やAT饋電方式が採用されている。
関連項目[編集]
参考文献[編集]
- 堀孝正『パワーエレクトロニクス』オーム社出版局2002年2月25日第1版第7刷発行
- 酒井善雄『電気電子工学概論』丸善株式会社
- 力武常次、都築嘉弘『チャート式シリーズ新物理ⅠB・Ⅱ』数研出版株式会社新制第11刷1998年4月1日発行
- 矢野隆、大石隼人『発変電工学入門』森北出版株式会社2000年9月13日第1版第4刷発行
- 西巻正郎・森武昭・荒井俊彦『電気回路の基礎』森北出版株式会社1998年3月18日第1版第12刷発行
- 電気学会『電気施設管理と電気法規解説9版改訂』電気学会
脚注[編集]
- ↑ 北陸本線、湖西線の直流電化の際、交流20000Vから直流1500Vにする際、架線を太くする必要があった。
- ↑ オームの法則、 E=IR (Eは電圧V、Iは電流A、Rは電気抵抗Ω)で表される。 抵抗は、導線の長さlに比例し、断面積Sに反比例する。すなわちR(Ω)、ρ(m・Ω)、l(m)、S(m2)とすると、 が成り立つ。 比例定数ρをその導線の材質の抵抗率という。ρは導線の長さが1m、その断面積が1m2あたりの電気抵抗となる。
- ↑ 日本では直流1500V、外国の例では3000V。
- ↑ 千葉県君津市で同様に地磁気を観測する鹿野山測地観測所では、外房線で通電区間の細分化の対策を施した直流電化を実施した。