立花隆
立花 隆(たちばな たかし、本名:橘 隆志(たちばな たかし)、1940年(昭和15年)5月28日 - 2021年(令和3年)4月30日)とは、日本のジャーナリスト、ノンフィクション作家、評論家。「田中角栄研究」などで知られる。「知の巨人」と称された。
来歴[編集]
長崎県長崎市出身。幼少時に家族で中国に移住したが、太平洋戦争で日本が敗戦すると、過酷な引き揚げを経験して父の郷里である茨城県水戸市に移り、ここで少年時代を過ごした。19歳から半年かけて欧州各国を旅行している。
東京大学仏文科を卒業後、文芸春秋に入社して雑誌記者などを務め、2年余りで退社する。その後、東京大学哲学科に学士入学し、その傍らで週刊誌のアンカーマンなどとして活動していた。
昭和49年(1974年)10月、当時の内閣総理大臣・田中角栄をめぐる資金の流れと蓄財を綿密に調べ上げ、それを月刊誌「文芸春秋」に「田中角栄研究」として発表。これにより田中金脈問題が政界で勃発して田中角栄内閣は2ヵ月後に内閣総辞職を余儀なくされてしまったことは有名である。そして、2年後の昭和51年(1976年)、今度は田中のロッキード事件が表面化すると立花は痛烈な田中批判を展開し、ロッキード裁判の傍聴記を発表し続けた。その後も政治評論や最前線の科学などの著作を発表した。
平成7年(1995年)、東京大学先端科学技術研究センター客員教授に就任。平成19年(2007年)には東京大学大学院情報学環特任教授に、さらに立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科特任教授になる。しかし、同年末に膀胱癌が発覚して手術を受けている。この時の闘病を月刊誌に連載している。著作も数多く存在し、「中核VS革マル」「日本共産党の研究」「宇宙からの帰還」「天皇と東大」などが主なものである。そして、菊池寛賞や司馬遼太郎賞なども受賞している。
最晩年になると糖尿病や心臓病などの持病もあって療養していたが、令和3年(2021年)4月30日午後11時38分に急性冠症候群のため、80歳で死去した。その死は6月23日になって明らかにされた。
遺族によって樹木葬が行われたという。また、立花の死を追悼するため、東京都内の大型書店ではその死が発表されると、立花の著書を集めたコーナーが設けられた。
人物像[編集]
- 立花は生前「僕はひたすらよりよく知ることだけを求めて人生の大半を過ごしてきた人間です」「一番好きで、得意としているのは知の世界の全体像を書くこと」「良い本を書くには、100冊読んで1冊書くくらいの比率を保つ必要がある」と語っていた。立花は深夜に仕事をして朝刊を呼んでから眠るという生活を送っていたという。
- 筑紫哲也、武満徹とは親友であり、2人が死んだ祭にはテレビ番組で涙ぐんでいた。
- 東京都内にある立花の事務所は通称「ネコビル」と言われる。蔵書だけで約10万冊、地上3階、地価1階建てのビル内部には本、新聞、雑誌の記事のスクラップや資料がぎっしり詰まっていたといわれる。
- 「今太閤」と称されて絶頂期にあった田中角栄の著作を執筆する祭には出版社の仮眠室に1ヶ月泊り込んで多くの資料を作って分析したといわれる。当時は暴力や死の危険を感じたというが、母親の「体は殺しても魂を殺すことのできない者どもを恐れるな」という教えを胸に覚悟を決めていたと言う。なお、母親はクリスチャンであった。
著作[編集]
- ※文庫版は版元や巻数が、単行初版と同一の場合は記述省略
- 『素手でのし上がった男たち』番町書房 1969
- 『思考の技術』日経新書 1971、中公文庫 1990、中公新書ラクレ 2020
- 『日本経済・自壊の構造』日本実業出版社 1973。菊入龍介名義
- 『中核 vs 革マル』全2巻 講談社 1975、講談社文庫 1983
- 『田中角栄研究』講談社 1976(のち新版+文庫 全2巻)
- 『文明の逆説 危機の時代の人間研究』講談社 1976(のち文庫)
- 『日本共産党の研究』講談社 全2巻 1978(のち文庫 全3巻)。第1回講談社ノンフィクション賞受賞
- 『ジャーナリズムを考える旅』文藝春秋 1978(のち「アメリカジャーナリズム報告」文庫)
- 『アメリカ性革命報告』文藝春秋 1979(のち文庫)
- 『農協』朝日新聞社 1980(のち朝日文庫)
- 『ロッキード裁判傍聴記』全4巻、朝日新聞社 1981〜85(のち「ロッキード裁判とその時代」文庫)
- 『田中角栄いまだ釈明せず』朝日新聞社 1982(のち「田中角栄新金脈研究」文庫)
- 『宇宙からの帰還』中央公論社 1983、中公文庫 1985 新版2020
- 『「知」のソフトウェア』講談社現代新書 1984
- 『青春漂流』清家冨夫(写真) 講談社スコラ 1985 (のち文庫)
- 『論駁 ロッキード裁判批判を斬る』全3巻 朝日新聞社、1985-86(のち文庫)
- 『脳死』中央公論社 1986(のち文庫)
- 『脳死再論』中央公論社 1988(のち文庫)
- 『同時代を撃つ 情報ウオッチング』全3巻、講談社 1988-90(のち文庫)
- 『サイエンス・ナウ』朝日新聞社 1991(のち文庫)
- 『サル学の現在』平凡社 1991(のち文春文庫 全2巻)
- 『脳死臨調批判』中央公論社 1992(のち文庫)
- 『電脳進化論 ギガ・テラ・ペタ』朝日新聞社 1993(のち文庫)
- 『巨悪 vs 言論』文藝春秋 1993(のち文庫 全2巻)
- 『臨死体験』文藝春秋(全2巻)1994(のち文庫)
- 『ぼくはこんな本を読んできた』文藝春秋、1995(のち文庫)
- 『インターネット探検』講談社、1996
- 『脳を究める』朝日新聞社、1996(のち文庫)
- 『立花隆の同時代ノート』講談社、1997
- 『インターネットはグローバル・ブレイン』講談社、1997
- 『立花隆・100億年の旅』朝日新聞社、1998(のち文庫)
- 『100億年の旅2 宇宙・地球・生命・脳 その原理を求めて』朝日新聞社、1999(のち文庫)
- 『100億年の旅3 脳とビッグバン』朝日新聞社、2000(のち文庫)
- 『人体再生』中央公論新社、2000(のち文庫)
- 『21世紀 知の挑戦』文藝春秋、2000(のち文庫)
- 『ぼくが読んだ面白い本・ダメな本』文藝春秋、2001(のち文庫)
- 『東大生はバカになったか 知的亡国論+現代教養論』文藝春秋、2001(のち文庫)
- 『解読「地獄の黙示録」』文藝春秋、2002(のち文庫)
- 『「田中真紀子」研究』文藝春秋、2002(のち「政治と情念」文庫)
- 『「言論の自由」VS.「●●●」』文藝春秋、2004
- 『イラク戦争・日本の運命・小泉の運命』講談社、2004
- 『シベリア鎮魂歌 香月泰男の世界』[1]文藝春秋、2004
- 『思索紀行 ぼくはこんな旅をしてきた』書籍情報社、2004、ちくま文庫(全2巻)、2020
- 『エーゲ 永遠回帰の海』須田慎太郎(写真)、書籍情報社、2005、ちくま文庫、2020
- 『天皇と東大 大日本帝国の生と死』文藝春秋(全2巻)、2005、文庫(全4巻)2012-13
- 『滅びゆく国家 日本はどこへ向かうのか』日経BP、2006
- 『ぼくの血となり肉となった500冊 そして血にも肉にもならなかった100冊』文藝春秋、2007
- 『小林・益川理論の証明 陰の主役Bファクトリーの腕力』朝日新聞出版、2009
- 『立花隆の書棚』薈田純一(写真)、中央公論新社、2013
- 『自分史の書き方』講談社、2013、講談社学術文庫、2020
- 『読書脳 ぼくの深読み300冊の記録』文藝春秋、2013、文庫 2016
- 『四次元時計は狂わない 21世紀文明の逆説』文春新書、2014
- 『死はこわくない』文藝春秋、2015、文庫 2018
- 『武満徹 音楽創造への旅』文藝春秋、2016
- 『「戦争」を語る』文藝春秋、2016
- 『知的ヒントの見つけ方』文春新書、2018
- 『知の旅は終わらない 僕が3万冊を読み100冊を書いて考えてきたこと』文春新書、2020。口述での回想
- 『サピエンスの未来』講談社現代新書、2021
対談・編著・共著[編集]
- 『遊びの研究』三一書房 1976
- 9つの討論会の司会を務め、「現代人における<遊び>の構造」を執筆
- 『われらが青春―安東仁兵衛対談集』現代の理論社 1979
- 『ランダムな世界を極める』米沢冨美子との対話、三田出版会 1991、平凡社ライブラリー 2001
- 『脳死 NHKスペシャル』 NHK取材班と共編著、日本放送出版協会 1991
- 『宇宙よ』 秋山豊寛との対話、文藝春秋 1992(のち文庫 全2巻)
- 『マザーネイチャーズ・トーク』新潮社 1993(のち文庫) 8人との対話集
- 『生、死、神秘体験 対話篇』書籍情報社 1994(講談社文庫 2007) 10人との対話集
- 『宇宙を語る 立花隆・対話篇』書籍情報社、1995(中公文庫 全2巻 2007) 7人との対話集、文庫化で講演記録を増補
- 『証言・臨死体験』文藝春秋 1996(のち文庫) インタビュー集
- 『埴谷雄高 生命・宇宙・人類』角川春樹事務所 1996 インタビューほか
- 『無限の相のもとに』埴谷雄高との対話、平凡社 1997
- 『立花隆のすべて』文藝春秋 1998(のち文庫 全2巻) インタビューほかの編著
- 『環境ホルモン入門』東京大学・立花隆ゼミ編、新潮社、1998
- 『サイエンス・ミレニアム』中央公論新社 1999(のち文庫) 科学者との対話集
- 『二十歳のころ』東大立花ゼミ編、新潮社 1998。68名へのインタビュー編著
- 『二十歳のころI 1937-1959』、『-II 1960-2001』 各・全2巻、新潮文庫 2002/ランダムハウス講談社文庫 2008
- 『東大講義 人間の現在1 脳を鍛える』 新潮社、2000(のち文庫) 編著
- 『新世紀デジタル講義』 新潮社、2000(のち文庫) 編著
- 『立花隆「旧石器発掘ねつ造」事件を追う』朝日新聞社、2001 編著
- 『読む力・聴く力』 河合隼雄、谷川俊太郎との対話、岩波書店、2006、岩波現代文庫、2015
- 『南原繁の言葉』東京大学出版会、2007 編者代表
- 『戸塚洋二 がんと闘った科学者の記録』文藝春秋、2009 共編著
- 『ぼくらの頭脳の鍛え方 必読の教養書400冊』 佐藤優との対話、文春新書、2009
- 『がん 生と死の謎に挑む NHKスペシャル』 NHK取材班 文藝春秋 2010、番組DVD付き、のち文庫(DVDはなし)
- 『二十歳の君へ 16のインタビューと立花隆の特別講義』 東大立花ゼミ編、文藝春秋 2011
- 『立花隆の「宇宙教室」 「正しく思考する技術」を磨く』岩田陽子、日本実業出版社 2014
- 以下は論考寄稿(主に青少年向け)
- 『未来をつくる君たちへ 司馬遼太郎作品からのメッセージ』 関川夏央、松本健一、日本放送出版協会、2009
- 『白川静読本』平凡社 2010。五木寛之、松岡正剛、宮城谷昌光、内田樹、町田康、押井守ほか多数
- 『私と宗教』 平凡社新書 2011。高村薫、小林よしのり、小川洋子、荒木経惟、高橋惠子、龍村仁、細江英公、想田和弘、水木しげる
- 『「こころ」とのつきあい方 13歳からの大学授業(桐光学園特別授業IV)』 桐光学園中学校・高等学校、御厨貴、高山宏、宮島達男ほか 水曜社 2012
- 『地球外生命 9の論点』 佐藤勝彦、長沼毅、皆川純ほか、自然科学研究機構編、講談社ブルーバックス 2012
- 『体験から歴史へ─〈昭和〉の教訓を未来への指針に』 保阪正康、半藤一利、田城明、講談社 2013
- 『揺らぐ世界 中学生からの大学講義4』ちくまプリマー新書 2015。川田順造ほか6名
翻訳[編集]
- 『アメリカ人の雑学おもしろ小百科』バリー・ターシス(講談社 1984)
- 『バーバラ・ハリスの臨死体験』ライオネル・バスコム共著(講談社 1993、講談社+α文庫 1998)
- 『アポロ13号奇跡の生還』ヘンリー・クーパーJr(新潮社 1994、新潮文庫 1998)
脚注[編集]
- ↑ 元版は立花が代筆した、香月泰男『私のシベリヤ』文藝春秋 1970 のち筑摩叢書。没後の新版で明らかにした。
関連人物・関連項目[編集]
- 武満徹 - 『文學界』にて「武満徹・音楽創造の旅」を長期連載。
- エリザベス・キューブラー=ロス
- 寺山修司
- 梨元勝
- 堤堯
- 月刊現代
- 山中伸弥
- 山元香里 - 2008年度後期立教大学21世紀社会デザイン研究科立花ゼミゼミ長
- 石坂わたる - 2009年度前期立教大学21世紀社会デザイン研究科立花ゼミゼミ長
外部リンク[編集]
- シェ・タチバナ 立花隆公式ページ - 講演の予定を掲載(現在は閉鎖)
- 立教立花組 立教立花組ネコ 乱歩通り6号館 ネコ屋敷 - ウェイバックマシン(2014年8月15日アーカイブ分)
- 立花 隆|東京大学大学院 情報学環・学際情報学府(2011年9月23日時点のアーカイブ)
- PRESIDENT Online 著者インタビュー 「立花隆著『立花隆の書棚』」- インタビュー
- 「教育の基本は言葉を交わすこと -『調べて書く』実地教育のすすめ」大修館書店 国語情報室- インタビュー
- NHKスペシャル 立花隆 思索ドキュメント がん 生と死の謎に挑む|NHK名作選(動画等)
- NHKスペシャル 立花隆 最前線報告 サイボーグ技術が人類を変える|NHK名作選(動画等)
- 立花隆 - NHK人物録
- 立花隆事務所(猫ビル)訪問 - 東大新図書館、2013/05/16