後藤道夫 (社会学者)
後藤 道夫(ごとう みちお、1947年 - )は、社会哲学者。都留文科大学名誉教授。専攻は社会哲学・現代社会論。
略歴[編集]
福島県生まれ。1971年東京大学理学部卒業。1977年一橋大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学[1]。博士課程単位修得論文は「マルクスにおける科学と生産」、指導教官は岩崎允胤[2]。
1980年から都留文科大学に勤務[3]。同大学文学部助教授を経て、1988年教授[4]。2013年定年退職、名誉教授[3]。
学部学生時代から東京唯物論研究会(東京唯研)に参加[5]。2004-2006年唯物論研究協会(全国唯研)委員長[6]。
渡辺治、二宮厚美、中西新太郎、木下武男とともに季刊雑誌『ポリティーク』(旬報社、2001-2006年。12号まで刊行)の編者を務めた[7]。
2008年12月「福祉国家構想研究会」を発足させ、共同代表に就任[8]。2009年10月「福祉国家と基本法研究会」を発足させ、幹事に就任[9]。
元東京労働学校講師[7]。特定非営利活動法人非営利・協同総合研究所いのちとくらし(総研いのちとくらし)副理事長[10]。東京学習会議副会長、東京労働学校長[11]。雇用の安定を軸とする「セーフティネット」のあり方研究会メンバー[12]。
人物[編集]
「企業主義統合」と「開発主義国家」からなる「日本型大衆社会統合」が新自由主義改革によって解体されようとしていると分析し、そのオルタナティブとして「新福祉国家」を構想している。後藤とともに『講座 現代日本』(大月書店、1996-1997年)、『講座 戦争と現代』(同、2003-2004年)、季刊雑誌『ポリティーク』(旬報社、2001-2006年)によりながら同様の議論を展開している渡辺治、木下武男、二宮厚美らは「ポリティーク派」と呼ばれることがある。新左翼党派の共産主義者同盟(統一委員会)によれば、この学者グループはいわゆる「渡辺グループ」と呼ばれており、「渡辺治、後藤道夫、木下武男など日本共産党内の左派学者によって構成されている」「日本共産党内部にありながら、党の公式見解とは異なる主張も大胆に行なうことで注目を集めてきた」「青年層の貧困問題や非正規雇用労働者のユニオン運動などのもつ意義を重視し、それらに実践的にも関わってきた」とされる[13]。
2010年9月に後藤の「開発主義論」など渡辺グループの議論を批判対象とした『新自由主義批判の再構築――企業社会・開発主義・福祉国家』(赤堀正成・岩佐卓也編著、法律文化社)が刊行された。日本共産党中央委員会理論政治誌『前衛』は2010年10月号に「時宜をえた出版である」とする書評を掲載し、直接名指しはしなかったものの渡辺グループの一部に対し新自由主義と「親和性」があるなどと強く批判した。共産主義者同盟(統一委員会)はこの書評について、「これがどの程度、党全体の意向を反映するものであるかは分からない。だが、渡辺グループの主張に決して同調するなという恫喝的なメッセージだけは明快である」としている[13]。
著書[編集]
単著[編集]
- 『収縮する日本型〈大衆社会〉――経済グローバリズムと国民の分裂』(旬報社、2001年)
- 『反「構造改革」』(青木書店[現代のテキスト]、2002年)
- 『戦後思想ヘゲモニーの終焉と新福祉国家構想』(旬報社、2006年)
- 『ワーキングプア原論――大転換と若者』(花伝社、発売:共栄書房、2011年)
共著[編集]
- (石井伸男・清真人・古茂田宏)『モダニズムとポストモダニズム――戦後マルクス主義思想の軌跡』(青木書店、1988年)
- (池谷壽夫・竹内章郎・中西新太郎・吉崎祥司・吉田千秋)『競争の教育から共同の教育へ』(青木書店、1989年)
- (伊藤正直)『講座 現代日本(2)現代帝国主義と世界秩序の再編』(大月書店、1997年)
- (竹内章郎・中西新太郎・小池直人・吉崎祥司)『平等主義が福祉をすくう――脱「自己責任=格差社会」の理論』(青木書店、2005年)
- (吉崎祥司・竹内章郎・中西新太郎・渡辺憲正)『格差社会とたたかう――「努力・チャンス・自立」論批判』(青木書店[現代のテキスト]、2007年)
- (木下武男)『なぜ富と貧困は広がるのか――格差社会を変えるチカラをつけよう』(旬報社、2008年/改訂版、2009年)
- (本田由紀・中西新太郎/湯浅誠・河添誠編)『「生きづらさ」の臨界――"溜め"のある社会へ』(旬報社、2008年)
- (遠藤公嗣・河添誠・木下武男・小谷野毅・今野晴貴・田端博邦・布川日佐史・本田由紀)『労働、社会保障政策の転換を――反貧困への提言』(岩波書店[岩波ブックレット]、2009年)
- (渡辺治・二宮厚美・岡田知弘)『新自由主義か新福祉国家か――民主党政権下の日本の行方』(旬報社、2009年)
- (渡辺治・岡田知弘・二宮厚美)『〈大国〉への執念 安倍政権と日本の危機』(大月書店、2014年)
編著[編集]
- 『日本の時代史 28 岐路に立つ日本』(吉川弘文館、2004年)
- 『ラディカルに哲学する 4 日常世界を支配するもの』(大月書店、1995年)
- 『ラディカルに哲学する 5 新たな社会への基礎イメージ』(大月書店、1995年)
共編著[編集]
- (尾関周二・佐藤和夫)『ラディカルに哲学する(全5巻)』(大月書店、1994-1995年)
- (亀山純生・中西新太郎・中村行秀)『離脱願望――唯物論で読むオウムの物語』(労働旬報社、1996年)
- (渡辺治[編集])『講座 現代日本(全4巻)』(大月書店、1996-1997年)
- (渡辺治)『講座 現代日本(4)日本社会の対抗と構想』(大月書店、1997年)
- (渡辺治・大日方純夫・木畑洋一・山科三郎・山田朗・和田進[編集委員])『講座 戦争と現代(全5巻)』(大月書店、2003年-2004年)
- (渡辺治)『講座 戦争と現代(1)「新しい戦争」の時代と日本』(大月書店、2003年)
- (山科三郎)『講座 戦争と現代(4)ナショナリズムと戦争』(大月書店、2004年)
- (福祉国家と基本法研究会・井上英夫・渡辺治)『新たな福祉国家を展望する――社会保障基本法・社会保障憲章の提言』(旬報社、2011年)
- (雇用のあり方研究会・伍賀一道・西谷敏・鷲見賢一郎)『ディーセント・ワークと新福祉国家構想――人間らしい労働と生活を実現するために』(旬報社、2011年)
- (布川日佐史・福祉国家構想研究会)『失業・半失業者が暮らせる制度の構築――雇用崩壊からの脱却』(大月書店[シリーズ新福祉国家構想]、2013年)
- (渡辺憲正・平子友長・蓑輪明子)『資本主義を超える マルクス理論入門』(大月書店、2016年)
- (尾関周二・古茂田宏・佐藤和夫・中村行秀・吉田傑俊・渡辺憲正)『哲学中辞典』(知泉書館、2016年)
- (中澤秀一・木下武男・今野晴貴・福祉国家構想研究会)『最低賃金1500円がつくる仕事と暮らし――「雇用崩壊」を乗り越える』(大月書店、2018年)
分担執筆等[編集]
- 東京唯物論研究会編『戦後思想の再検討』(白石書店、1986年)
- 藤田勇編『権威的秩序と国家』(東京大学出版会、1987年)
- 朝日新聞社編『「現代日本」朝日人物事典』(朝日新聞社、1990年)
- 唯物論研究協会編『社会主義を哲学する――崩壊から見えてきたもの』(大月書店、1992年)
- 坂野潤治、宮地正人、高村直助、安田浩編『シリ-ズ日本近現代史――構造と変動 4 戦後改革と現代社会の形成』(岩波書店、1994年)
- 渡辺治編『現代日本社会論――戦後史から現在を読む30章』(労働旬報社、1996年)
- 渡辺治編『日本の時代史 27 高度成長と企業社会』(吉川弘文館、2004年)
- 日本図書館協会図書館政策委員会編『現代社会と図書館の課題――政策討論連続講座記録』(日本図書館協会、2004年)
- 日野秀逸編著、国民医療研究所監修『市場化の中の「医療改革」――国民皆保険制の行方』(新日本出版社、2005年)
- 京都府保険医協会編『社会保障でしあわせになるために――「社会保障基本法」への挑戦』(かもがわ出版、2007年)
- 豊泉周治、佐藤和夫、高山智樹編『生きる意味と生活を問い直す――非暴力を生きる哲学』(青木書店[シリーズ「哲学から未来をひらく」]、2009年)
- 日本科学者会議編『憲法と現実政治』(本の泉社、2010年)
- 日本教育行政学会編『変動期の教育費・教育財政』(日本教育行政学会[日本教育行政学会年報]、2010年)
- 渡辺治、進藤兵編『東京をどうするか――福祉と環境の都市構想』(岩波書店、2011年)
- 萱野稔人編『ベーシックインカムは究極の社会保障か――「競争」と「平等」のセーフティネット』(堀之内出版、2012年)
- 世取山洋介、福祉国家構想研究会編『公教育の無償性を実現する――教育財政法の再構築』(大月書店[シリーズ新福祉国家構想]、2012年)
- 横山壽一編著、日本医療総合研究所監修『皆保険を揺るがす「医療改革」――「自助」論やTPPがもたらすもの』(新日本出版社、2013年)
- 日本教育行政学会研究推進委員会編『教育機会格差と教育行政――転換期の教育保障を展望する』(福村出版、2013年)
- 岡﨑祐司、福祉国家構想研究会編『老後不安社会からの転換――介護保険から高齢者ケア保障へ』(大月書店[シリーズ新福祉国家構想]、2017年)
- 今野晴貴、藤田孝典編『闘わなければ社会は壊れる――〈対決と創造〉の労働・福祉運動論』(岩波書店、2019年)
脚注[編集]
- ↑ 最低賃金が1000円を超えても課題は山積している VIDEO NEWS(2019年10月5日)
- ↑ “昭和51年度 学位授与・単位修得論文(PDF)”. 『一橋研究』2巻1号 (1977年6月30日). 2019年12月2日確認。
- ↑ a b “『都留文科大学報』第122号(PDF)”. 都留文科大学広報委員会 (2013年7月17日). 2019年12月2日確認。
- ↑ 後藤道夫 イミダス
- ↑ 中村行秀、北村実、島崎隆、平子友長「【座談会】唯物論研究と東京唯物論研究会の歴史(後編)(PDF)」東京唯物論研究会編『唯物論』第82号、2008年12月
- ↑ 役員および歴代委員長 唯物論研究協会
- ↑ a b ポリティーク編者紹介 旬報社
- ↑ 研究会について 福祉国家構想研究会
- ↑ “福祉国家と基本法研究会について(PDF)”. シンポジウム:新しい福祉国家の姿を展望する ―社会保障憲章・基本法の提起を通じて (2010年4月28日). 2019年12月2日確認。
- ↑ 研究所の紹介 総研いのちとくらし
- ↑ 後藤道夫 東京学習会議
- ↑ ディーセント・ワークと新福祉国家構想 旬報社
- ↑ a b 新自由主義・再考(下-1) 共産主義者同盟(統一委員会)(2013年10月)