三角関数

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三角関数(さんかくかんすう)とは、数学における初等関数の一種であり、近現代では単位円を基礎としたものとして識者には理解されている。「直角三角形の角度と辺の長さの関係に由来する」と説明されることが多いため、「三角関数」という名称が定着している。

単位円を考えるとまだしも理解しやすくなるため、「円函数」とでも呼んだ方がいいのではないかという話もある。

概要[編集]

デカルト平面や複素平面などの直交座標系上の平面において、座標原点を中心とした単位円を考える。

そうすると、単位円の周上の任意の点について、直角三角形を考えることができる。そこで、その直角三角形の三辺の長さに着目し、角度と辺の長さの比の関係を表現する関数のことを、三角関数と呼ぶ。

直角三角形の直角以外の角の角度は0°より大きく90°より小さいが、三角関数はマイナスや360°以上も含めた全ての角度で定義されている。とはいえ、数値計算のうえでは、45°まで求まれば、あとはなんとかなる。

単に三角形の辺の比ではなく、複素平面や初等関数などの入口でもあり、応用範囲も広い[1]ので、いわゆる工業数学において重要視される。

なお、複素数まで考えると、三角函数と指数函数と対数函数は統合できて、制御工学(サイバネティクス)の分野における安定性の理論においてはこれが一般的である。「振動するなら三角函数、発散するなら指数函数、収束するなら対数函数」あたりが第一歩となる。

種類[編集]

直角三角形で、とする。の辺の長さをそれぞれとした時、2辺の長さの比は6種類が定義できる。それぞれ、正弦(sin)、余弦(cos)、正接(tan)、余接(cot)、正割(sec)、余割(csc)と呼ぶ。

上から下にいくにつれて、使用頻度が低くなる。sin,cosは振動波動を伴うあらゆる分野で頻繁に出現する一方、tanは使う場面がかなり限られる。cotはtanの逆数で、さらに使用頻度が低いが、鉄道分岐器に使用する。これによって〇番ポイントという。
sec,cscに至っては滅多に使うことが無く、学校でも習わない。

なおsin,cos,tanは、それぞれラテン語のsinus, cosinus, tangereに由来している。日本では、それぞれの英語名称である、sine(サイン)、cosine(コサイン)、tangent(タンジェント)で呼ぶことが多い。

実数・複素数全体での定義[編集]

XY座標上に、を原点にとり、とする。ここでを出発して、を中心とした半径1の円上を反時計回りに動いた時のの座標を、とする。この定義は、90度未満では上記直角三角形の三角比と同じものであり、さらに正の実数全体に対してsin,cosを決定することができる。回る方向を反時計周りから時計回りにすることで、負の実数についても定義ができる。

さらには、実数のみならず、複素数に対して定義することも可能。この時は、三角関数を、複素数でも使えるが実数の場合と矛盾しない様に定義し直す必要がある。

性質[編集]

基本的性質[編集]

斜面の角度を「斜度」と呼ぶことにする。
まず角度が0,30,45,60,90°の時。
斜度が0°の斜面(傾いてはいないが)を1メートル進んでも、高低差は0である。よって0°のサインは0、コサインは1、タンジェントは0である。
斜度が0°の斜面(傾いてはいないが)を1メートル進んでも、高低差は0である。よって0°のサインは0、コサインは1、タンジェントは0である。
斜度が30°の斜面を 1m 進むと、高低差は0.5mである。このときの水平移動距離は√3mである。よって30°のサインは0.5である。
斜度が45°の斜面を 1m 進むと、高低差は1/√2mである。このときの水平移動距離も1/√2mである。よって45°のタンジェントは1である。
60°・90°についても、同様に考えればよい。
これを数式で表現すると、

のようになる。

定理・公式など[編集]

各関数の周期性・対称性。

sinとcosの関係は、次の2つが特に重要。sinとcosは、並行移動の関係にあり、XY座標上でのグラフの形は同じである。

角度の単位がいわゆる度(°)ではなくラジアンであれば、微分積分との相性が非常に良い。三角関数の微分は、それぞれの単位の時に次の式であらわされる。

角度が0°付近の時に限って成り立つ近似式。角度の単位がラジアンである点に注意。

よく使う定理[編集]

  • 正弦定理
    • 三角形の角度が全てわかっていて、1辺のみ長さが分かっている時に、残り2辺の長さを決定できる定理。「ヘロンの定理」などと関連する。
  • 余弦定理 - 三角形の合同条件とは密接に関係している。
    • 三角形の辺の長さが3つ全て分かっている時に、角度を全て決定できる定理。(三辺合同)
    • 三角形の辺の長さが2つ分かっていて、1角だけ角度が分かっている時に、辺の長さと角度を全て決定できる定理。(二辺夾角)
    • 三角形の辺の長さが1つ分かっていて、2角が分かっている時に、合同条件が満たされるという定理。(二角夾辺)
  • 加法定理
    • を、を用いて表す定理。
  • 和積公式
    • sin×sinといった三角関数の積と、sin+sinといった三角関数の和・差を、相互に変換する公式。式が複雑で、覚えるのが大変
  • オイラーの公式
    • 三角関数と指数関数を相互に変換する式。実数ではなく、複素数の世界で成り立つ。

物理現象における三角関数[編集]

物理現象でしばしば表れる式、を満たす関数は三角関数になる。なので、三角関数で記述することができる現象は多く、多くは振動や波動を伴う。

また、交流発電機の発生する電圧も三角関数である。家庭用コンセントに供給される電圧も同様で、時刻tを用いて次の式で表される。

を振幅と呼び、日本では100[V]である。周波数と呼び、日本では60[Hz]または50[Hz]である。

高校教育と三角関数[編集]

教育史[編集]

三角関数を高校で学ぶのは、米国の政策に由来するものである。

旧学制では、日常生活で役に立つ内容は尋常小学校高等小学校青年学校(現在の小学生から中学校二年生にあたる)で学んでいた。一方、旧制中学校(中学校一年生から高校二年生にあたる)ではエリート教育が行われており、三角関数は「測量や航法の基礎」として「実学」の一部であった。この他には実業学校でも現在の専門高校に該当する教科を教えていた。三角関数は、砲術や測量の基礎であり、現代社会においては振動波動交流送電網電圧[2]電波といったあらゆる方面に出現するため、特に工学のみならず日常に関する多くの分野で必須の知識になっており、高校で学習する内容の中では比較的役に立つ方だといえる。

三角関数不要論[編集]

高校で受ける授業のなかには、実社会に出たあと何の役に立っているのか、効果が実感しにくいものが少なからずある。数ある科目のなかでも(古文漢文に次いで)不要論の槍玉に上がりやすいのが、数学の三角関数である[3]。「数学」全体ではなく「三角関数」だけ槍玉に上がりやすいのは、習得につまずいたコンプレックスを抱えている人が多いからであろう。

1968年発表の高石ともやの楽曲『受験生ブルース』のなかには「サイン・コサイン何になる、オイラにゃオイラの夢がある」というフレーズが登場する。

政治家が「三角関数不要論」を口にすることも多い。2015年には鹿児島県知事の伊藤祐一郎が「高校で女の子にサイン、コサイン、タンジェントを教えて何になるのか」「植物の花とか草の名前を教えた方がいい」と発言して炎上している。[4]

橋下徹もしばしば三角関数を槍玉に挙げる。

元素記号やサイン・コサイン・タンジェント、どこで使うの?使ったためしがない。勉強のできる人たちは“そういうのも教養だ”というが、今はインターネットで色々なことは調べられる — 乙武洋匡氏「教育改革のためには教員免許の”廃止”を!」橋下氏「大いにありだ」 - ABEMA TIMES]
三角関数なんか深く知らなくても人間的に立派な人、仕事を成功させている人、人生を謳歌している人たちはたくさんいる。むしろ、ここで三角関数は絶対に必要だ! と喚き散らしている人たちよりも、仕事面でも、収入面でも、生活面でも人生充実していることの方が多いんじゃないか? — 橋下徹"三角関数は絶対必要な知識なのか" - President Online

ライターのレジ―は「ファスト教養」の象徴的な存在として、橋本氏の姿勢を批判している。ファスト教養とは、「人生を豊かにするにはお金を稼げばいい、だからお金を稼ぐのに役に立つスキルだけ習得すればいい」という、非常に「合理的」な(しかし人間的なバランスを欠いた)近年流行の思考スタイルのことである。

2022年には日本維新の会所属の衆議院議員・藤巻健太が、財務金融委員会の場で「三角関数よりも金融経済を学ぶべきではないか」と発言して炎上した(炎上したツイート)。これは明らかに、橋下徹の思想に影響を受けたものであろう。X(Twitter)では「そもそも金融工学にも三角関数が必要なのだが・・・」などの反応が見られた。なお、本人は三角関数と三角比の違いもよく理解していなかったようである。この炎上により、藤巻は5ヶ月ほどX(Twitter)から姿を消した

「三角関数不要論」はある意味、的外れな指摘である。というのも、日常生活で役に立つ内容は義務教育である小中学校で学ぶものである。高校はある程度専門的な内容を学ぶ所であり、三角関数に限らずあらゆる項目が、直接的には日常生活には役に立たないと言っていいからである。

脚注[編集]

  1. 交流電圧を含む波動がその代表例である。
  2. ただし、電気工学では計算に簡便な複素数を使うことが多い。
  3. 漢文の何十倍もこの世界の役に立っているだろ!いい加減にしろ!!
  4. もっとも、この発言は「三角関数の軽視」というより「女性差別」のほうが燃えた主原因であるが。

関連項目[編集]