椎名重明

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椎名 重明(しいな しげあき、1925年 - )は、農学者。東京大学名誉教授。専攻は西洋農業史。

経歴・人物[編集]

茨城県生まれ。1952年東京大学農学部農業経済学科卒業[1]。同大学大学院修了[2]。1962年「イギリスにおける農業革命と近代的土地所有の成立過程」で農学博士(東京大学)[3]。1964年立正大学経済学部教授。1971年東京大学農学部教授。1986年帝京大学文学部教授[4]

人間と自然との物質代謝を重視するマルクス農業論を展開した[2]。『農学の思想』(東京大学出版会、1976年)のまえがきでは「有機農法、無農薬、産地直送、無添加食品といったさまざまの試みが、鋭い頂門の一針とはなりえても、それ自体の直接的延長に、あるべき農業の姿を描き出しえないのは、ひとつにはそれが、公害や自然破壊の根本的原因は、われわれの社会においては人間と自然との物質代謝が商品形態をもって行なわれるという点にある」と主張している[5]

斎藤幸平は、自身がマルクス研究界最高峰といわれるドイッチャー記念賞を受賞できたのは、物質代謝論についての研究の蓄積が日本にあったからだとし、「日本では90年代以降、その手の研究は次第に下火になっていったんですが、皮肉なことに、21世紀に入ると、アメリカで社会主義的なエコロジー研究がすごく盛り上がっていくんです。でも、日本からすると既視感があるから、上の世代のマルクス研究者は「椎名重明や宮本憲一がやってた話ね」みたいにスルーしてしまった。海外ではエコ社会主義がムーブメントになっているのに、日本の左翼のおじさんたちは、「俺らは昔からやってたよ」みたいな感じになっちゃってるわけですよ(笑)」と語っている[6]。日本では椎名重明や宮本憲一の他、都留重人吉田文和玉野井芳郎らがマルクスの物質代謝論に注目した。

渓流釣りを愛好し[7]、釣りに関する著作もある。

著書[編集]

単著[編集]

  • 『イギリス産業革命期の農業構造』(農業総合研究所[農業総合研究所研究叢書]、1962年/御茶の水書房[近代土地制度史研究叢書]、1962年、改装版1978年)
  • 『オランダの農業経済』(農林水産業生産性向上会議[世界農業経済概観]、1963年)
  • 『近代的土地所有――その歴史と理論』(東京大学出版会[東大社会科学研究叢書]、1973年)
  • 『農学の思想――マルクスとリービヒ』(東京大学出版会、1976年/東京大学出版会[UPコレクション]、2014年)
  • 『農業にとって生産力の発展とは何か』(農山漁村文化協会[人間選書]、1978年)
  • 『マルクスの自然と宗教』(世界書院[社会科学選書]、1984年)
  • 『プロテスタンティズムと資本主義――ウェーバー・テーゼの宗教史的批判』(東京大学出版会、1996年)
  • 『アイザック・ウォールトン『釣魚大全』大意』(つり人社[つり人ノベルズ]、1998年)
  • 『英国のフライフィッシング史』(つり人社[つり人ノベルズ]、1999年)
  • 『カリタスとアモール――隣人愛と自己愛』(御茶の水書房、2013年)
  • 『アモール・ナトゥラエ――自然愛』(私家版、2020年)[8]

共著[編集]

  • 『地力とは何か』(山田龍雄、河野敏明共著、農山漁村文化協会[土つくり講座]、1976年)

編著[編集]

  • 『土地公有の史的研究』(編著、御茶の水書房、1978年)
  • 『団体主義――その組織と原理』(編、東京大学出版会、1985年)
  • 『ファミリー・ファームの比較史的研究』(編、御茶の水書房、1987年)

訳書[編集]

  • L.ダドリー・スタンプ『イギリスの国土利用』(農林水産業生産性向上会議、1957年)
  • マックス・フェスカ『イギリス農業論』(津谷好人共訳、御茶の水書房[御茶の水選書]、1982年)
  • ジュリアナ・バーナーズ『釣魚論』(つり人社[つり人ノベルズ]、1997年)

出典[編集]

  1. 農学の思想―マルクスとリービヒ (増補新装版) 紀伊國屋書店
  2. a b 「表現の自由」研究会編著『現代マスコミ人物事典』二十一世紀書院、1989年、515頁
  3. CiNii 博士論文
  4. カリタスとアモール―隣人愛と自己愛 紀伊國屋書店
  5. 菅孝行『戦後民主主義の決算書』(農山漁村文化協会、1985年)143頁より。
  6. 本がひらく「「NHK出版新書を探せ!」第10回 日本人はなぜ気候変動問題に関心を持てないのか?――斎藤幸平さん(経済思想学者)の場合〔前編〕」note、2020年12月2日
  7. ジュリアナ・バーナーズ著、椎名重明訳『釣魚論』つり人社、1997年
  8. 徳永光俊「「生きもの循環論」からみる比較農法論と日本列島農法史の試み」『大阪経大論集』第71巻第6号、2021年3月