小山弘健
小山 弘健(こやま ひろたけ、1912年6月21日 - 1985年1月16日)は、歴史学者[1]、経済学者、評論家[2]。長野大学教授。
経歴[編集]
大阪府西成郡勝間村(現・大阪市西成区)生まれ。父親は貿易商社の重役。1930年天王寺商業学校卒。卒業後は大阪商船の船員となり、海上労働運動に参加するとともに、貨物船・貨客船上でマルクス主義を独学する。1936年から陸上勤務。1937年唯物論研究会に入会。最初の発表論文は戸坂潤の推薦で機関誌『唯物論研究』1937年8月号に掲載された「『軍事技術リード』説批判」(本郷弘作名義)[3]。岡邦雄の「軍事技術リード説」(軍事技術主導説)を批判し、岡との間で論争を展開した[4][5]。1938年戸坂の勧めで最初の著書『近代兵学』(本郷弘作名義)を刊行[6]。同書をはじめ戦時中に軍事思想、軍事技術、軍事工業に関する著作を刊行し、マルクス主義的軍事研究の先駆者の1人となった[5]。1941年大阪商船を退社。1942年伊藤書店編集顧問[3]。
1946年日本共産党に入党[7]。民主主義科学者協会(民科)に入会。社会経済労働研究所を設立し、その研究・出版責任者となる[8]。1949年民科大阪支部副支部長[2]、1951年藤本進治の後任として同幹事長。同年大阪市立大学商学部講師[8]。共産党が分裂した「五〇年問題」では神山派を支持しつつ、組織上では主流派に属した。1953年1月に神山派として共産党を除名された。1954年3月に大阪市大講師辞任に追い込まれ[3]、民科からも追われた[9]。同年9月20日付で神山茂夫らは除名、神山の協力分子とされた茂木六郎・浅田光輝・川島優・小山弘健・渡部徹・新井吉生・寺尾五郎の7名には「全党が断固として闘うべきこと」が決定され、9月27日の『アカハタ』で発表された[10]。
1956年10月にハンガリー革命が起きると神山茂夫はソ連出兵を支持、遠山景久・小山弘健・松田政男はソ連出兵絶対反対の意見書を神山に出し、神山派を離れる[11]。1958年社会経済労働研究所を現代史研究所に改称、引き続き責任者として活動。1959年上京。1963年~1972年静岡大学法経短期大学部講師。1965年芳賀書店企画編集顧問。1968年本州大学(1974年長野大学に改称)経済学部教授。1976年長野大学産業社会学部教授。72年度の教職員組合執行委員長。1979年に前野良、中村丈夫らと長野大学労働組合を結成し、執行委員長として賃金問題、不当解雇撤回などを闘う[3]。
労働・革命運動史、社会思想・マルクス主義思想史、帝国主義史などの研究で優れた業績を残した[12]。マルクス主義軍事論以外の主著に『日本資本主義論争史』(編著、伊藤書店、1947年/上・下、青木文庫、1953年)、『日本マルクス主義史』(青木新書、1956年)、『戦後日本共産党史』(三月書房、1958年/芳賀書店、1966年)、『日本帝国主義史(上・下)』(浅田光輝共著、青木書店、1958-1960年)などがある。没後に『戦前日本マルクス主義と軍事科学』(エスエル出版会)が刊行されたが、生前は『日本マルクス主義と軍事科学――クラウゼヴィッツを中心として』戦前篇・戦後篇、『対馬忠行論』の三部作を予定していた[12]。
人物[編集]
- 軍事工業史研究の第一人者。戦前に刊行した四部作『近代兵学』(1938年)、『近代軍事技術史』(1941年)、「日本軍事工業発達史」(『日本産業機構研究』1943年)、『近代日本軍事史概説』(1944年)のうち、前三者はそれぞれ『軍事思想の研究』(1970年)、『図説世界軍事技術史』(1972年)、 『日本軍事工業の史的分析』(1972年)として改題補筆のうえ再刊された[13]。『近代軍事技術史』ではエンゲルスの軍事論を踏まえ、軍事生産技術、兵器技術、戦闘技術を「広義の軍事技術」、軍事生産技術を「狭義の軍事技術」、直接的戦闘用具の兵器生産技術を「最狭義の軍事技術」と規定した。この概念規定は林克也や星野芳郎などに影響を与えた[5]。戦前は講座派の立場に立っていたが、戦後は講座派理論を経済主義的偏向だったと批判し、神山茂夫の「二重の帝国主義論」を方法論的立場とした[13]。
- 1957年に三月書房店主の宍戸恭一、井上清、岸本英太郎、渡部徹と「現代史研究会」を発足させた[9]。「五〇年問題」後に共産党京大職組細胞で活動していた西京司、岡谷進は、小山が「三月書房の学習会」に機関紙『反逆者』を持ちこんだことで内田英世・富雄兄弟、太田竜のグループを知り、のちに内田や太田らの「日本トロツキスト連盟」(第四インターナショナル日本支部準備会)に加盟することになったとされる[14]。
- 新日本政経研究会編『極左暴力集団の実態』(日刊労働通信社、1976年)は、社青同系の党派「主体と変革派」の役職員として、小山弘健、村上明夫、鈴木達夫らの名を挙げている。荒木時次『80年代危機と日本左翼』(荒木政治経済研究所、1981年)は、「主体と変革派」は小山弘健をはじめ理論家が多いとしている。
- 女優の小山明子は姪[15]。映画ライターの森田真帆は孫[16]。
著書[編集]
単著[編集]
- 『近代兵学』 三笠書房(三笠全書)、1938年、本郷弘作名義
- 『近代軍事技術史』 三笠書房、1941年
- 『近代日本軍事史概説』 伊藤書店、1944年
- 『戦後人民革命論争史』 岩崎書店(岩崎真理叢書)、1950年
- 『日本マルクス主義史』 青木書店(青木新書)、1956年
- 『日本資本主義論争の現段階』 青木書店(青木選書)、1956年
- 『戦後日本共産党史――党内闘争の歴史』 三月書房、1958年
- 『戦後の日本共産党』 青木書店(青木新書)、1962年
- 『革命運動の虚像と実像』 芳賀書店(今日の状況叢書)、1965年
- 『戦後日本共産党史』 芳賀書店、1966年[17]、増補1972年
- 『日本マルクス主義史概説』 芳賀書店、1967年、増補版1970年
- 『日本労働運動史――抵抗と解放のたたかい』 社会新報、1968年、増補・改訂版1968年
- 『軍事思想の研究』 新泉社、1970年、増補1977年、増補新版1984年
- 『現代革命の虚像と実像』 芳賀書店、1970年
- 『日本軍事工業の史的分析――日本資本主義の発展構造との関係において』 御茶の水書房、1972年
- 『図説世界軍事技術史』 芳賀書店、1972年
- 『日本社会運動史研究史論――文献目録とその解説 1899-1956』 新泉社、1976年
- 『続日本社会運動史研究史論――その文献と研究の現状』 新泉社、1979年
- 『戦前日本マルクス主義と軍事科学』 エスエル出版会、鹿砦社(発売)、1985年
- 『戦後日本共産党史――党内闘争の歴史』 津田道夫編・解説、こぶし書房(こぶし文庫 戦後日本思想の原点)、2008年[18]
共著[編集]
- 『日本産業機構研究』 上林貞治郎、北原道貫共著、伊藤書店、1943年
- 『日本帝国主義史 第1巻 日本帝国主義の形成』 浅田光輝共著、青木書店、1958年
- 『日本帝国主義史 第2巻 日本帝国主義の発展』 浅田光輝共著、青木書店、1958年
- 『片山潜 第1部――明治労働運動と片山潜 : 1897年-1914年』 岸本英太郎、渡辺春男共著、未來社、1959年
- 『片山潜 第2部――世界労働運動と片山潜 : 1914年-1933年』 岸本英太郎、渡辺春男共著、未來社、1960年
- 『日本帝国主義史 第3巻 日本帝国主義の崩壊』 浅田光輝共著、青木書店、1960年
- 『天皇制国家論争』 浅田光輝共著、三一書房(三一選書)、1971年
- 『現代革命の世界』 佐藤浩一共著、有信堂(Yushindo sosho)、1971年
- 『日本帝国主義史 上巻 明治・大正期 1885~1925』 浅田光輝共著、新泉社(叢書名著の復興)、1985年[19]
- 『日本帝国主義史 下巻 昭和期 1926~1945』 浅田光輝共著、新泉社(叢書名著の復興)、1985年[19]
- 『日本資本主義論争史』 山崎隆三共著、社会経済労働研究所編、こぶし書房(こぶし文庫 戦後日本思想の原点)、2014年[20]
編著[編集]
- 『日本資本主義論争史 上 戦前の論争』 青木書店(青木文庫)、1953年[21]
- 『日本資本主義論争史 下 戦後の論争』 青木書店(青木文庫)、1953年[21]
- 『日本労働運動・社会運動研究史――戦前・戦後の文献解説』 三月書房、1957年
- 『日本近代社会思想史』 岸本英太郎共編著、青木書店、1959年
- 『講座現代反体制運動史 第1 形成と展開』 信夫清三郎、渡部徹共編、青木書店、1960年
- 『講座現代反体制運動史 第2 高揚と壊滅』 信夫清三郎、渡部徹共編、青木書店、1960年
- 『講座現代反体制運動史 第3 再生と発展』 信夫清三郎、渡部徹共編、青木書店、1960年
- 『日本の非共産党マルクス主義者――山川均の生涯と思想』 岸本英太郎編著、三一書房(さんいち・らいぶらり)、1962年
- 『日本社会党史』 清水慎三共編著、芳賀書店、1965年
- 中国語訳:『日本社会党史』 清水慎三共編著、上海外国語学院日本語系訳、上海人民出版社、1973年
- 『講座・日本社会思想史(全6巻)』 住谷悦治、山口光朔、小山仁示、浅田光輝共編、芳賀書店、1967年、増補版1969-1970年
- 『思い出の革命家たち――片山潜・トロッキー・スターリン・徳田球一など 渡辺春男回想記』 渡辺春男著、編集・解説、芳賀書店、1968年
- 『安保条約論争史』 社会新報、1968年
- 『戦闘的左翼とはなにか』 浅田光輝共編、芳賀書店、1969年
- 『反安保の論理と行動』 樺俊雄共編、有信堂(Yushindo sosho)、1969年
- 『戦闘的労働運動の論理』 夏目孝一共編、芳賀書店、1970年
- 『現代共産党論――高度資本主義国共産党の変容と展開』 海原峻共編著、柘植書房、1977年
- 『たたかう住民たち――現代住民運動』 新泉社、1984年
現代史研究所から発行した著書[編集]
- 『戦前戦後における共産党・社会党の革命論争』 1966年
- 『日本の旧左翼と新左翼――現代マルクス主義の思想と行動』 1968年
- 『新版・日本の戦闘的左翼』 1968年
- 『戦闘的左翼の世界的潮流――理論的源流と運動の現状』 1969年
- 『マルクス主義の再構築めざして――共産主義革新の一軌跡』 西尾昇、八木萌共編、1969年
- 『日本階級運動の現段階』 1970年
- 『回想・日本の革命運動――荒畑寒村・春日庄次郎・山本正美』 編、1971年
- 『反体制運動の変革』 ウニタ書舗(発売)、1971年
- 『途上にて――回想と感想』 1981年
出典[編集]
- ↑ デジタル版 日本人名大辞典+Plusの解説
- ↑ a b 20世紀日本人名事典の解説
- ↑ a b c d 小山弘健『戦前日本マルクス主義と軍事科学』 エスエル出版会、発売:鹿砦社、1985年、年譜
- ↑ 長谷部宏一「明治期陸海軍工廠研究とその問題点」『経済学研究』35巻1号、1985年6月
- ↑ a b c 阪部有伸「軍事技術の概念規定に関する一考察」『経済論叢』141巻2・3号、1988年3月
- ↑ 日本資本主義論争とその周辺 : 栗原幸夫のホイのホイ
- ↑ 渡部富哉監修、伊藤律書簡集刊行委員会編『生還者の証言――伊藤律書簡集』五月書房、1999年、130頁
- ↑ a b 小山弘健著、津田道夫編・解説『戦後日本共産党史――党内闘争の歴史』こぶし書房(こぶし文庫)、2008年、小山弘健略年譜
- ↑ a b 黒川伊織「渡部徹の歴史学 : 関西・社会運動史研究史序説 (特集 社会運動史研究のメタヒストリー)」『大原社会問題研究所雑誌』741号、2020年7月
- ↑ 小山弘健著、津田道夫編・解説『戦後日本共産党史――党内闘争の歴史』こぶし書房(こぶし文庫)、2008年、199頁
- ↑ 絓秀実、井土紀州、松田政男、西部邁、柄谷行人、津村喬、花咲政之輔、上野昂志、丹生谷貴志『LEFT ALONE――持続するニューレフトの「68年革命」』明石書店、2005年、44頁
- ↑ a b 中村丈夫「解説」、小山弘健『戦前日本マルクス主義と軍事科学』 エスエル出版会、発売:鹿砦社、1985年
- ↑ a b 原朗「小山弘健著, 『日本軍事工業の史的分析』, 1972年, お茶の水書房刊, viii+375頁」『土地制度史学』16巻1号、1973年
- ↑ 日本革命的共産主義者同盟小史 第1章
- ↑ 大島渚『人間の記録137 大島渚――大島渚1960』日本図書センター、2001年
- ↑ 映画ガイド森田まほのツイート(2012年12月23日)
- ↑ 『戦後日本共産党史――党内闘争の歴史』(三月書房、1958年)の新版。
- ↑ 底本は『戦後日本共産党史――党内闘争の歴史』(三月書房、1958年)。
- ↑ a b 『日本帝国主義史』(青木書店、1958-1960年)の復刊。
- ↑ 底本は社会経済労働研究所編『日本資本主義論争史』(伊藤書店、1947年)。青木文庫版(1953年)から一部を再録。
- ↑ a b 社会経済労働研究所編『日本資本主義論争史』(伊藤書店、1947年)の新版。