津田道夫

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津田 道夫(つだ みちお、1929年5月14日[1] - 2014年10月22日)は、評論家、哲学者[1]。本名・浅見浩[1]。マルクス主義[2]、思想史・認識論の研究者[3]。障害者の教育権運動にも取り組んだ。「障害者の教育権を実現する会」事務局員[4]新日本文学会会員、「ノーモア南京の会」会員[5]

略歴[編集]

埼玉県幡羅村(現・深谷市)生まれ。1932年久喜町(現・久喜市)に転居[4]。久喜町立久喜尋常小学校(1941年より久喜国民学校、現・久喜市立久喜小学校)[6]、埼玉県立浦和中学校(現・埼玉県立浦和高等学校)卒業。1947年気象技術官養成所(現・気象大学校)に入所。1949年東京教育大学文学部史学科に入学[4]。同年日本共産党に入党したが、1951年「50年問題」で国際派として除名された[1]。1953年東京教育大学文学部史学科卒業[1][4]改造社に入社、雑誌『改造』編集局に配属。同年12月肺結核のため滝野川病院に入院し、1955年1月に退院したが[4]、改造社争議により退職。同年7月の六全協により共産党に復党[1]

その後、編集・校正のアルバイトを経て、1957年より日本生産性本部出版部に勤務[4]。共産党の「50年問題」と軍事方針をめぐる指導部の政治責任のとり方やスターリン批判などを受け、同年浦和付近の青年たちを中心に「現状分析研究会」を組織し、機関誌『現状分析』を59号まで発行[1][6]。党内民主主義の確立を図り、党章論争では党中央に批判的な立場に立ち、党中央と対立するようになる[1][5]。1960年日本生産性本部を退職、以後は著述活動に専念[4]。同年安保闘争全学連の指導理念の一つとなったトロツキズムをマルクス主義の立場から分析した『現代のトロツキズム』を出版。全学連の指導的立場に立ち、学生らに影響を与えた[7][5]。1961年党員権停止6ヶ月の処分を受け、処分中に党章論争に関して党中央批判声明を発表して除名された[1][8]

1960年代半ば、三浦つとむ中村丈夫らとともに構造改革論のイデオローグとして社青同埼玉地本で重要な位置を占めていた[9]。1969年3月武井昭夫らと「活動家集団 思想運動」を結成[10]。1971年「大西問題を契機にして障害者の教育権を実現する会」の結成に参加、以後事務局員[4]。同会は後に「障害者の教育権を実現する会」に改称し、障害児の地域校就学運動に取り組み、統合教育や父母の学校選択権を主張した。1972年1月より同会の機関紙・月刊『人権と教育』発行編集顧問。1978年1月から1984年3月の13号まで『障害者教育研究』編集長。1984年11月より『障害者教育研究』の継続後誌で月刊『人権と教育』の姉妹編の雑誌『人権と教育』編集長[6]長崎大学の講師も務めた[7]

2005年「九条の会・久喜」の結成に参加[4]、共同代表となるなど[6]、反戦・平和運動にも関わった。日本の戦争責任に関する著書を出版しており[5]南京大虐殺に関する著書は中国で翻訳、出版されている[11][12]。2014年10月22日に死去、85歳[6]。中国のメディアは「中国人が誰でも知っている人物ではないが、中日史学界の中で、最も慚愧の念を持つ日本の知識人と見られていた」[13]、「日本の戦争責任を深く追及し、日本人の精神世界を恐れずに解剖した」[14]人物だったと報じた。

研究[編集]

社会学者の千石好郎によれば、日本のマルクス主義国家論はソ連から国家=抑圧機構論が移植されていたが、1950年代以降、浅田光輝黒田寛一、津田道夫が国家=イデオロギー論を展開した。津田は『国家と革命の理論』(1961年)において、「国家の本質は、まずなによりも、階級社会において、経済的に支配するグループの特殊利害が、幻想的な『一般』利害という装いで国家意志にまで昇華し、それが社会全体をしめつけてくるところにあらわれる」とした[15]。千石によれば三者ともマルクス=エンゲルスの『ドイツ・イデオロギー』を踏まえており、国家=イデオロギー論の先駆は神山茂夫、極限は吉本隆明である[16][17]

著書[編集]

単著[編集]

  • 『現代のトロツキズム――それは敵か味方か』(青木書店[青木新書]、1960年)
  • 『国家と革命の理論』(青木書店、1961年/増補版、論創社、1979年)
  • 『現代のマルクス主義――疎外からの解放』(青木書店[青木新書]、1963年)
  • 『思想運動の論理』(芳賀書店[今日の状況叢書]、1964年)
  • 『現代マルクス主義論争』(新興出版社、1964年)
  • レーニン――革命家の人間学』(至誠堂[至誠堂新書]、1966年)
  • 『国家論の復権――政治構造としてのスターリニズムの解明』(盛田書店、1967年)
    • 増補版『国家論の復権』(福村出版、1973年)
  • 『日本ナショナリズム論――愛国心にたいする羞恥を』(盛田書店、1968年)
    • 増補版『日本ナショナリズム論』(福村出版、1973年)
  • 『知識人と革命――歴史意識とはなにか』(三省堂[三省堂新書]、1969年)
  • 『ヘーゲルとマルクス』(季節社、1970年)
  • 『革命政党論』(三一書房、1972年)
  • 『チリ革命の弁証法――先進国型革命の論理と実験』(サイマル出版会、1974年)
  • 『思想課題としての日本共産党批判』(群出版、発売:績文堂、1978年)
  • 『認識と教育――科学的な教育理論の確立のために』(三一書房、1979年)
  • 『障害者教育運動』(三一書房、1981年)
  • 『障害者教育の歴史的成立――ルソー・イタール・セガン・モンテッソーリ』(三一書房、1982年)
  • 『昭和思想史における神山茂夫――天皇制とスターリニズム批判』(社会評論社、1983年)
  • 『実践的認識論への道――人間の認識と思考の筋道』(論創社、1984年)
  • 『国分一太郎――転向と抵抗のはざま』(三一書房、1986年)
    • 改訂新版『国分一太郎――抵抗としての生活綴方運動』(社会評論社、2010年)
  • 『イメージと意志――人間の心をさぐる』(社会評論社、1989年)
  • 『革命ロシヤの崩壊――ペレストロイカはなんであったか』(社会評論社、1992年)
  • 『中野重治「甲乙丙丁」の世界』(社会評論社、1994年)
  • 『南京大虐殺と日本人の精神構造』(社会評論社、1995年)
    • 中国語版『南京大屠殺和日本人的精神構造』(程兆奇、‎劉燕訳、商務印書館、2005年/新星出版社、2005年)
  • 『情緒障害と統合教育――インクルージョンへの道』(社会評論社、1997年)
  • 『ハワイ――太平洋の自然と文化の交差点』(社会評論社、1999年)
  • 『弁証法の復権――三浦つとむ再読』 社会評論社、2000年)
  • 『君は教育勅語を知っているか――「神の国」の記憶』(社会評論社、2000年)
  • 『侵略戦争と性暴力――軍隊は民衆をまもらない』(社会評論社、2002年)
  • 『国家と意志――意志論から読む「資本論」と「法の哲学」』(績文堂出版、2006年)
  • 『君は日本国憲法を知っているか――焼け跡の記憶1945-1946』(績文堂出版、2009年)
  • 『本能か意志か――動物と人間のあいだ』(論創社、2011年)
  • 『回想の中野重治――『甲乙丙丁』の周辺』(社会評論社、2013年)

共著[編集]

  • 『現代コミュニズム史(上・下)』(野村重男、久坂文夫共著、三一書房[さんいち・らいぶらり]、1962年)
  • 『講座/現代の政治 Ⅱ 現代における国家と革命』(柴田高好、森川英正、棚橋泰助池山重朗直原弘道共著、合同出版社、1962年)
  • 『権利としての障害者教育』(斎藤光正、木田一弘共著、社会評論社、1976年)
  • 『障害者の解放運動』(木田一弘、山田英造、斉藤光正共著、三一書房、1977年)
  • 『障害者教育と「共生・共育」論批判』(斉藤光正共著、三一書房、1981年)
  • 『イメージと科学教育』(平林浩共著、績文堂出版、2005年)

編著[編集]

  • 『養護学校義務化と学校選択――父母の学校選択権をめぐるたたかい』(斉藤光正共編著、三一書房、1978年)
  • 『ハンドブックこうすれば地域の学校へ行ける――障害児の就学問題』(編、障害者の教育権を実現する会著、現代ジャーナリズム出版会、1980年)
  • 『一美よ、たかく翔べ――手記・障害児の父として母として』(編、障害者の教育権を実現する会著、現代ジャーナリズム出版会、1980年)
  • 『統合教育――盲・難聴・遅滞・自閉のばあい』(編著、三一書房、1984年)
  • 『この直言を敢てする』(編・解説、三浦つとむ著、こぶし書房[こぶし文庫 戦後日本思想の原点]、1996年)
  • 『天皇制に関する理論的諸問題』(編・解説、神山茂夫著、こぶし書房[こぶし文庫 戦後日本思想の原点]、2003年)
  • 『ある軍国教師の日記――民衆が戦争を支えた』(編著、高文研、2007年)
  • 『戦後日本共産党史――党内闘争の歴史』(編・解説、小山弘健著、こぶし書房[こぶし文庫 戦後日本思想の原点]、2008年)
  • 『三浦つとむ意志論集――20世紀マルクス主義が欠落させたもの』(編集・解題、三浦つとむ著、績文堂出版、2013年)

分担執筆[編集]

  • 富田富士雄、菅谷正貫、浅田光輝編『現代革命と平和思想』(思想書林、1959年)
  • 井汲卓一、佐藤昇、長洲一二、水田洋編集委員『講座現代のイデオロギー 第3巻 構造改革理論の形成』(三一書房(さんいち・らいぶらり)、1961年)
  • 三一書房版社会科教育大系編集委員会編『社会科教育大系――三一書房版 第5巻 現代の世界と日本 下』(三一書房、1963年)
  • 現代の眼編集部編『戦後思想家論』(現代評論社、1971年/現代の眼編集、現代評論社、1972年)
  • 吉本隆明編『戦後日本思想大系 5 国家の思想』(筑摩書房、1979年)
  • 障害者の教育権を実現する会編『心の目で絵も描く』(三一書房、1979年)
  • 宮崎隆太郎編著『普通学級の中の障害児――知恵おくれ、自閉症児の統合教育の試み』(三一書房、1981年)
  • 障害者の教育権を実現する会編『こうすれば地域の学校へ行ける』(社会評論社、1986年)
  • 宮永潔、羽生田博美編著『マニュアル障害児の学校選択――やっぱり地域の学校がいい』(社会評論社、1995年)
  • 宮永潔、羽生田博美編著『マニュアル・障害児の学校選択――やっぱり地域の学校だ 2002年版』(社会評論社、2001年)
  • 市川昭午、貝塚茂樹監修『文献選集《愛国心》と教育 第7巻』(日本図書センター、2007年)

出典[編集]

  1. a b c d e f g h i しまねきよし「津田道夫」朝日新聞社編『「現代日本」朝日人物事典』朝日新聞社、1990年、1054頁
  2. 戦後日本共産党史―党内闘争の歴史 紀伊國屋書店
  3. 天皇制に関する理論的諸問題 紀伊國屋書店
  4. a b c d e f g h i ある軍国教師の日記―民衆が戦争を支えた 紀伊國屋書店
  5. a b c d 「平和人物大事典」刊行会編著『平和人物大事典』日本図書センター、2006年、366-367頁
  6. a b c d e 津田道夫氏が逝去されました 津田道夫essay(2014年10月31日)
  7. a b 日外アソシエーツ編『20世紀日本人名事典 そ-わ』日外アソシエーツ、2004年、1648頁
  8. 宮本則夫「津田道夫」戦後革命運動事典編集委員会編 『戦後革命運動事典』新泉社、1985年
  9. 川上徹『戦後左翼たちの誕生と衰亡――10人からの聞き取り』同時代社、2014年、140頁、江藤正修からの聞き取り
  10. 田代則春『日本共産党の変遷と過激派集団の理論と実践』立花書房、1985年、174頁
  11. 何良懋书评﹕津田道夫的《南京大屠杀和日本人的精神构造》 自由亚洲电台粵语部(2007年11月30日)
  12. 作╱編者:津田道夫 商務印書館
  13. 恐れずに日本人の精神世界にメスを入れた日本人評論家 人民網日本語版(2015年4月17日)
  14. 独家 | 程兆奇追忆津田道夫先生:从残暴“解剖”日本人的精神构造 新民网(2015年8月24日)
  15. 津田道夫『国家と革命の理論』青木書店、1961年、57頁
  16. 千石好郎「日本マルクス主義国家論における機構論からイデオロギー論への転換」『社会学研究年報』7・8、1976年、140-147頁
  17. 井上孝夫「国家の主意主義的理論」『千葉大学教育学部研究紀要 II人 文・社会科学編』49、2001年、31-45頁

その他の参考文献[編集]

  • 津田道夫』 - コトバンク
  • 紀田順一郎ほか編『現代日本執筆者大事典77/82 第3巻(す~は)』(日外アソシエーツ、1984年)
  • 紀田順一郎ほか編『新現代日本執筆者大事典 第3巻(す~は)』(日外アソシエーツ、1992年)
  • 紀田順一郎ほか編『現代日本執筆者大事典 第4期 第3巻(す~は)』(日外アソシエーツ、2003年)
  • 佃實夫ほか編『現代日本執筆者大事典 第3巻 (人名 す~は)』(日外アソシエーツ、1978年)
  • 平凡社教育産業センター編『現代人名情報事典』(平凡社、1987年)

関連項目[編集]

外部リンク[編集]