前野良

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前野 良(まえの りょう、1913年3月25日[1] - 2007年5月18日)は、マルクス主義政治学者[2]原水爆禁止日本国民会議(原水禁)顧問[3]東京グラムシ会顧問[4]

経歴[編集]

石川県金沢市出身。1939年九州帝国大学法文学部政治学科卒業[1]。九大では今中次麿に師事。1944年に一兵士として広島に動員され[5]、広島湾の軍艦上で被ばく、その後1ヶ月あまり被爆者の救護活動に従事して被ばくした[3]。戦後すぐに九州大学への奉職の誘いを断って日本共産党本部の専従職員となり[2]末弘厳太郎の政治経済研究所、細川嘉六のアジア経済研究所にも所属した[1]。1957年にスターリン主義批判の立場からの社会主義研究を目的に、大内兵衛小林良正、今中次麿、渡部義通井汲卓一松本七郎らと社会主義政治経済研究所を設立した[5][2]。共産党の綱領論争で構造改革派の立場をとり、1961年7月の第8回党大会直前に佐藤昇大橋周治らとともに除名された[6]

共産党除名後、社会主義革新運動に参加[7]。1962年、統一社会主義同盟の結成に参加[5]。1966年、本州大学(1974年長野大学に改称)創立と同時に経済学部教授[8][9]静岡大学法政大学東京経済大学でも教鞭を執った[2]。1979年、高木雄郷らと自主管理研究所を設立、代表委員。1984年、長野大学を退官、社会主義政治経済研究所所長[9]。2007年5月18日、肺炎で死去、94歳[3]

人物[編集]

アントニオ・グラムシや労働者自主管理運動の研究、反核・平和運動やポーランド「連帯」支援などの活動で知られた[5]。戦後、東欧の人民民主主義の研究で世に出て[4]、1956年のスターリン批判以後はハンガリー問題をめぐる論争やイタリア共産党の新路線などの紹介に当たった[5]

1955年に広島で開催された第1回原水爆禁止世界大会から原水爆禁止運動に参加した[3]。1962~63年に「いかなる国の核実験にも反対」の立場から共産党系の原水爆禁止日本協議会(原水協)を離脱し[5]、1965年に社会党・総評系の原水爆禁止国民会議(原水禁)の創設に参加した。原水禁の常任執行委員、1992年まで代表委員を務めた[3][5]。1979年のスリーマイル原発事故後、野間宏小野周らと「反原発モラトリアム」を提唱[9]。晩年は反原発・反核兵器運動の市民団体「たんぽぽ舎」の顧問を務めた[2]

1981年に工藤幸雄らと「ポーランド資料センター」を創設。1988年にポーランドを訪問し、「連帯」のワレサ委員長らと懇談、1991年にも再訪した[5]。晩年は日韓連帯運動にも関わった。没後の2007年7月25日に東京の文京区民センターで「前野良先生を偲ぶ会」が開催され、110人が参加、伊藤晃水谷驍豊崎博光樋口篤三吉松繁が小報告を行った[2]

著書[編集]

単著[編集]

  • 『自主管理の政治学』 緑風出版、1983年
  • 『東欧をゆるがす民衆の哲学――ペレストロイカとポーランド「連帯」』 オリジン出版センター、1990年

共著[編集]

  • 『人民民主主義の世界的発展』 平野義太郎、金広志、秦玄竜、藤井正夫共著、三一書房、1949年

編著[編集]

  • 『プロレタリアの愛国心』 工藤信共編、理論社、1952年
  • 『ハンガリー問題――それをめぐる論争』 合同出版社、1957年
  • 『現代革命と人民民主主義』 大月書店(現代資本主義双書)、1958年

訳書[編集]

  • パルミーロ・トリアッティ『国際政局と社会主義への道――イタリア共産党大会と中ソ論争』 石堂清倫共編訳、産業労働出版部(思想政治シリーズ)、1963年
  • アントニオ・グラムシ『現代の君主』 石堂清倫共編訳、青木書店(青木文庫)、1964年

脚注[編集]

  1. a b c 日外アソシエーツ編『20世紀日本人名事典 そ-わ』日外アソシエーツ、2004年、2286頁
  2. a b c d e f 国富建治前野良先生を偲ぶ会」『かけはし』2007.8.13号
  3. a b c d e 野崎哲「原水禁顧問 前野良先生逝く」『原水禁ニュース』2007.7号
  4. a b 伊藤晃追悼 前野良氏とグラムシ政治学」東京グラムシ会会報『未来都市』№41
  5. a b c d e f g h 葛西豊「7・25 前野良さんを偲ぶ会 社会主義運動の政治理論に貢献 ~グラムシ、原水禁、ポーランド連帯」『先駆』827号(2007年9月)
  6. しまねきよし「佐藤昇」、朝日新聞社編『現代人物事典』朝日新聞社、1977年、582-583頁
  7. 石堂清倫『わが異端の昭和史 下』平凡社ライブラリー、2001年、161頁
  8. 平凡社教育産業センター編『現代人名情報事典』平凡社、1987年、938頁
  9. a b c 「表現の自由」研究会編著『現代マスコミ人物事典』二十一世紀書院、1989年、485頁

外部リンク[編集]