近世イギリス海軍の食生活
近世イギリス海軍の食生活(きんせいいぎりすかいぐんのしょくせいかつ)とは、16世紀から19世紀にかけてイギリス海軍の軍艦で提供された給食である。
概要[編集]
この時代、冷蔵庫も冷凍庫もなく、缶詰や瓶詰めもない中、一等艦で1000人を越える船員にどのような食事を給していたか解説する。
保存食が中心[編集]
大航海時代に大西洋に乗り出したスペイン王国やポルトガル王国にやや乗り遅れて海賊行為から成長した近世イギリス海軍の食生活は先の二国と大差はなかった。支給されたのは岩のように固く焼き締めたビスケット、岩のように乾燥させたチーズとバター、古い牛肉の塩漬け、乾燥した豆、気の抜けた温いビールだった。地中海の航海と異なり、生鮮食料品の購入ができず、一旦出航すると何か月も海上での勤務となったので保存食ばかりとなった。また、生きた家畜や家禽も積み込み、これを適宜屠殺していた。これを調理するのが准士官である烹炊員であった。数か月の期間限られた食材を多くの人員にどのように提供するかが烹炊員の腕の見せ所であった。
劣悪な食生活[編集]
保存食とはいえ、やはり時間が経てば食材は傷み始める。ビスケットにはカビが生えて、コクゾウムシがつきはじめる。チーズとバターも同様であるが、ウジも発生する。ブルーチーズというのは軍艦でできあがったのであろうか。牛肉の塩漬けも劣化が始まる。これらをどうするかというと鍋にすべてをぶち込んで臭い消しの香辛料も入れてコトコト煮てできあがったのがシチューである。カレーシチューもその一種である。コクゾウムシとウジはどうするかというと、飼っている家禽の餌とするのである。
酒[編集]
イギリス海軍の水兵は他の職場、家庭、商船、あるいは他国の軍艦から無理矢理連れて来られた者ばかりであった。逃亡や反乱は例外なく死刑であったが、それでもしばしば発生した。彼らに対しては威厳と暴力と恐怖で応じたが、もっとも良いのが酒で酔わせることであった。木樽に入った水は腐りやすいので、その代わりにビールが支給されたが、それは気の抜けたものであった。南方での任務についてはよりアルコール度数が高いラム酒が支給された。
ライムジュースの支給[編集]
ビタミンC不足による壊血病患者の発生は乗員不足を招いた。これを防ぐためライムジュースの支給が始まった。これによって壊血病患者が大幅に減少した。後にさらにビタミンCの含有量が多いレモンジュースに置きかわった。水兵らは同じく支給されたラム酒をこれで割って飲んだ。カクテルの登場である。
近代以降[編集]
19世紀に瓶詰めや缶詰の発明によって食生活は大きく変わった。腐敗した塩漬け肉の代わりにコンビーフが登場した。20世紀には冷蔵庫、冷凍庫が登場したので一定期間の間に限って生鮮食料品が手に入るようになった。また、熱源に高圧蒸気が使えるようになったので、火災に心配をせずに調理をすることができるようになった。
関連項目[編集]
参考文献[編集]
- 高森直史『海軍食グルメ物語』光人社2008年5月2日第4刷発行。
- 稲保幸『スタンダードカクテル』新星出版社1996年2月25日発行。
- 青木栄一「英海軍艦隊勤務の変遷」〈世界の艦船No.703〉海人社2009年3月1日発行。