数学の解析学分野に於ける微分方程式とは独立変数、従属変数(関数)及びその微分(ないし偏微分)を含む方程式の事をいう。
正確には微分方程式は1変数関数を扱う「常微分方程式」と2変数以上の所謂多変数関数を扱う「偏微分方程式」に大別されるのだが単に微分方程式と言った場合常微分方程式を指す事が多い。(長ったらしいから“びぶほ”って略したら…駄目?)
方程式と言うからには解を求める事が目標となる訳であるが[1] 数多在る微分方程式の解法を網羅するのは容易な事ではない。 本頁では幾つか簡単な解法を紹介してゆくだけにとどめて詳細については割愛させてもらう事にする。
また、一見複雑に見える微分方程式でも変数変換などの組み合わせにより、簡単な形に帰着させることができる場合もある。例えば、n次導関数などの高次の微分を含んでいても、変数変換や連立微分方程式を用いて解を出せることがある。連立微分方程式を用いるときは、各変数をベクトルに格納して、ベクトルの微分を導入すると一括で計算できる。
他には、斉次方程式の解が分かれば、非斉次方程式の解を勘で当てることでその和を解とすることができる。ただし、単なる勘で当てることは現実的ではない。
さらに、ラプラス変換表が手元にあれば(あるいは覚えていれば)、ラプラス変換と逆ラプラス変換の性質を利用して解けるものもある。このとき物理的には、ラプラス変換して得た、(周波数領域を意味する)sドメインの代数方程式を解いて、それを逆ラプラス変換で、(時間領域を意味する)tドメインの解に戻すことになる。sドメインでは微分・積分がかけ算の形で書けるので、sドメインの中で微分方程式を解くのは簡単である。一方でsドメインとtドメインを相互にに変換するのが難しく、一応原理的には複素積分を知っていればラプラス変換表がなくてもできるが、およそ人間のやることではない。
微分方程式が連続的な値を引数とする関数に対する関係式であることに対して、漸化式は離散的な値を引数とする数列に対する関係式である。コンピューターでは離散的な値を扱うので、微分方程式をコンピューターで解くときは漸化式による数値解析の場合が多い。一応、関数をシンボリックにあつかうプログラムもあるにはある。また、ラプラス変換の離散バージョンであるZ変換も利用できる。
1階微分方程式[編集]
微分方程式に含まれてる導関数の最高階数をその微分方程式の階数と言う。ここでは1階の微分方程式の解法を紹介してゆく事にする。
変数分離形[編集]
以下のような幾分単純な形状の1階微分方程式の事を変数分離形の微分方程式と呼ぶ。;
この微分方程式は「両辺」を計算したのちに(※ただし。)置換積分を用いる事により以下のように解く事ができる。;
の時は、となる。
ちなみに左辺の積分定数は移項して1つにまとめた。微分方程式の世界では積分定数の事を任意定数と呼ぶ事が多い。
例題
最も簡単な微分方程式
- 、()
の解(任意定数を含む解は一般解と呼ばれる)は以下のように求められる。;
- 、、
- (の時)
- (の時)
∴
(ただし任意定数をと置き換えた。)
1階線形微分方程式[編集]
以下の形の微分方程式
を1階線形微分方程式という。(ちなみに方程式内に含まれる未知関数及びすべての導関数が一次式で表されている微分方程式を線形微分方程式という。)この微分方程式は上述の方法だけでは解けない。そこで以下のような工夫をする。
右辺を零とおいてという方程式(これを上記微分方程式に付随する同次方程式または斉次方程式という)を作ると、これは変数分離形だから以下のように解ける。
∴
ここで任意定数を関数に置き換えて(この手法を定数変化法という)
を微分すれば
と変形できる。これがと等しいとすれば
が成り立つ。
従って上式から1階線形微分方程式の解は次のように表せる事が分かる。;
例題
以下の微分方程式
に上述の解の公式を適用するとより
とゆー風に解が求まる。
ベルヌーイの微分方程式[編集]
1階微分方程式
- 、
をベルヌーイの微分方程式という。このびぶほはなる変数変換を施すと
となって1階線形微分方程式に帰着する。
クレローの微分方程式[編集]
以下のような微分方程式をクレローの微分方程式という。;
。
とおくととなるが、この両辺を微分すると
となってが得られる。
の時、(任意定数)であるからこれを元の方程式に代入する事により一般解
が導かれる。
他方の場合これと元の方程式とを連立させてを消去すれば一風変わった解が得られる。この解は上記一般解の任意定数にいかなる値を代入しても求まらない解であり特異解と呼ばれている。
全微分方程式[編集]
2変数関数に関する1次微分形式
に対し等式を全微分方程式という。
上記の微分形式が或る2変数関数の全微分である時(即ちである時)完全微分であるという。全微分方程式は形式的に変形すれば
と書けるので1階微分方程式の一種と言える。
以下上記微分形式が完全微分であるための条件を述べよう。
上記2変数関数Fの全微分は
で表されるがωがFの全微分ならば
が成り立たねばならない。ここで関数Fが2回連続偏微分可能であると仮定すれば2階偏導関数の性質よりが成り立つが、これと上記関係式を組み合わせる事により
が得られる。即ち必要条件
が導かれた事になる。
次に、逆にが成り立っていたとしよう。ここでやや天下り的であるが以下の様な2変数関数が存在していたとする。;
この関数を偏微分すると
が成り立つが、移項する事により
となる。そしてこの式の両辺をxで積分(偏積分?)すれば
が得られる。
(※上式の右辺の任意定数ならぬ「任意関数」には微分を表すプライムをわざと付けている。理由は後述の関数を簡潔に表示せんがため)
上式からが得られるが、ここで
とおけばこれを偏微分する事により
となって微分形式がを満たす事が分かる。従って
が導かれた。そして
より
から以下の公式が得られる。;
完全微分の全微分方程式はという形になるのでこの全微分方程式の一般解は即ち
なる形で与えられる事になる。
例題
以下の全微分方程式を考える。;
- 。
これはであるから完全微分形である。解の公式に当て嵌めると、まず
であり、であるからこれより直ちに一般解
が得られる。
2階微分方程式[編集]
ここでは簡単な2階微分方程式の解法について述べる事にする。
容易に変数分離形に帰着できる場合[編集]
微分方程式
の解法を考えよう。
この両辺に導関数y'をかけて積分すると
となるが、ここでという変数変換を施すとであるから上記積分は置換積分法より
と書ける。そしてこれは
となって変数分離形の1階微分方程式に帰着できる。
例
時刻tを変数とする関数に関する微分方程式(ニュートンの運動方程式(一次元版))
に於いて右辺の外力Fが位置xの関数で表されている、即ちが成立しているとする。
この両辺に位置xの時間微分(即ち速度)をかけて先程と同様に置換積分すれば
が得られる。(※ドット“・”は時間微分を表わす。)
ちなみに上式の左辺は運動エネルギーを、右辺第1項は位置エネルギーを表している。従って上述の微分方程式から力学的エネルギー保存則が導ける事が分かった。
2階線形微分方程式[編集]
ここでは簡単な2階線形微分方程式の解法を論ずる事にする。任意の関数を係数とするような一般的な2階線形びぶほは解くのがなか²難しいんだが、以下のような定数係数かつ同次のそれは割と簡単に解く事ができる。;
ここでやや天下り的であるが指数関数を考えて、これを微分して上記方程式に代入すれば
が成り立つ。
この式より未知数λに関する二次方程式(特性方程式と呼ばれる)
を解けばその解を(ここでは相違なる二実数解とする)とおいた時上述の線形微分方程式の一般解が
で与えられる事が分かる。
※ちなみに言い忘れてたが線形微分方程式は特性方程式から求められた幾つかの解(基本解という)の線形結合も解になるので注意!
(随分といい加減な編集者だなぁ…💧)
次に特性方程式が重解を持つ場合を考えよう。
この時上記線形微分方程式はとは異なる形の基本解を持つのだがそれが或る関数を用いてという形で表されたと仮定しよう。このyを微分して上記線形びぶほに代入したら
が成り立つが、この式の{ }内の第2項は二次方程式の解と係数の関係により、第3項はλが特性方程式の解である事により零になる事が分かる。従って上式からが得られるからこれを積分する事により上記線形びぶほの解(特性方程式重解ver)は
で与えられる事が分かった。
二階線形微分方程式[編集]
- (はの関数)
の形で表せるもの。物理屋はxの部分に時間tを使い、数学屋はxを使う。いわゆる線形代数は、だいたいコレの解であるを求めることが重要。
なぜなら、物理的にはこの程度の複雑さで十分なことが多く、近似などでこれやもっと簡単な方程式を解くことにするからである。また、解法も良く研究されている。
二次の項の係数がある場合は、全体をそれで割れば、上記の形になる。
物理的解釈[編集]
力学の問題では、変位yと時間tの関係を解くことがある。
このとき、二次の項の係数は質量 m だと、二次の項の係数は速度に比例するの力(例えば、空気抵抗)の比例係数だと、yの項は変位に比例する力(例えば、弾性力)とと考えられる。粘性抵抗は速度の二乗に比例するなどの理由で解析的には解けない問題もある。
電気回路の問題では、電圧vあるいは電流iと時間tの関係を解くことがある。
このとき、各係数はR(抵抗・レジスタンス),L(誘導係数・インダクタンス),C(静電容量・キャパシタンス)などである。
G(コンダクタンス)なども考えられる。
他にも、電磁波の伝搬や熱伝導も似たような式で記述できる。
ただし、空間の変数がx,y,zと多変数であるものを、一変数に変形して解く場合が多い。
二階なので解は、二つの基本解に対応した二つの任意変数を含む。よって、初期条件や境界条件で2つの条件があればy(x)を決定できるので、物理ではそのような問題が多い。
各係数が定数のものなら簡単に解ける。さらに、斉次方程式(つまり)ならもっと簡単。
- (はに関して定数)
の形になることが多い。は複素数の範囲であり、実質的に三角関数のときもある。
以降は各係数が定数かつ斉次方程式を想定する。
上記の形を想像して解を仮定し解くことが出来る。また、これは特性方程式を利用することに他ならない。
特性方程式は、上記のを決定する2次方程式になる。
具体的には、2次項の係数をa,1次項の係数をb,yの係数をc,とすると(ここでのa,b,cは上記の解のa,bとは別)
になる。
特性方程式の解が実数解なら微分方程式の解は指数関数に、
特性方程式の解が虚数解なら微分方程式の解は(実質的な)三角関数になる。
しかし、重解だと面倒なことに、上記の形のならず、(上記の形だと、基本解の関数が一時独立でない)
- (はに関して定数)
となる。
なぜ、こうなるかは、説明しにくいが元の微分方程式に代入すれば確かに成立する。
ちなみに、三階以上の微分方程式でも似たようなことが発生する。
非斉次方程式なら以上の計算で得た対応する斉次方程式の解に、を調整するような特殊解を一つ加えればよい。
まぁ、特殊解を見つけるのが大変だったりするが、定数変化法みたいなことをして、ゴリ押し計算で解決することも可能。偶然見つかってくれたら、どれだけ楽なことか...。
関連項目[編集]
- ↑ 尤も解が存在しない場合や存在したとしても(5次以上の代数方程式の解の公式のように)数学的に表せない場合もあるのだが。