行列とは、ベクトルからベクトルへの線形写像を、数字の並びで表したものである。
以下の様な、掛け算・足し算・引き算だけで成り立つ連立方程式を考える。
この式は、多くの変数が複雑に絡み合っている。これを、次の様に書くと、係数と変数が分離できる他、書く手間も減らすことができる。
この、一個一個の括弧で区切られたものを「行列」と呼び、特に一列あるいは一行の行列のことを「ベクトル」と呼ぶ。この式を改めてと書いた時、Aは4行3列の行列で、3次元ベクトルを入力、4次元ベクトルを出力とする関数ともみなせる。なお、ここでは4行3列の例で示したが、他の次元でも同様の考え方を用いることができる。
この行列、ベクトルを一つの数の様に扱い、深掘りしていく学問を線形代数学と呼ぶ。
行列の演算[編集]
足し算・引き算[編集]
行列A,Bの足し算・引き算は、以下の式が成り立つ様に定める。
足し算・引き算は、2つの行列が同じサイズの時にだけ、次の様に定義できる。単純に、全ての項を足し算、引き算するだけである。
掛け算[編集]
行列A,Bの掛け算は、以下の式が成り立つ様に定める。
掛け算は、足し算と違って複雑である。Aの列の数と、Bの行の数が同じ時に定義でき、計算の仕方も次に示す様な形となる。
掛け算は、交換法則、即ちが成り立たないので注意。
同じ行列をn回掛けるときに、各成分がどうなるかを表現できればn乗を求められる。
n乗を求められるならば、テイラー展開した式に代入することで、引数が行列の指数関数や三角関数も定義できる。
割り算[編集]
行列A,Bの割り算は、以下の式が成り立つ様に定める。
割り算は、割られる側(上の式だとB)が、正方行列(行の数と列の数が同じ)でかつ、後述の特殊な条件を満たす関数でなければ定義できない。この条件を満たす行列のことを、正則行列と呼ぶ。
行列A,Bが次の式を満たす時、Aの逆行列がB、Bの逆行列がAである、と言う。ここで一番右側の、対角線上に1が並び他が全て0になる行列のことを、単位行列と呼ぶ。
正方行列[編集]
行の数と列の数が同じ行列のことを、正方行列と呼ぶ。正方行列は、入力・出力も同じ次元のベクトルとなる線形写像を、数字の並びで表したものである。
正方行列で、以下の様な式を満たす複素数r、ベクトルVの組が存在することがある(ただしVはゼロベクトル、即ち全ての元が0となるベクトルでは無い)。
この時、Vを固有ベクトル、rを固有値と呼ぶ。一般的に、N次元の行列は最大でN個の固有値を持ち、固有ベクトルを最大N方向分持つ。0を固有値として持たない行列を正則行列と呼ぶ。
例えば、行列
は、を固有ベクトルとして持ち、対応する固有値は順にである。この時、次の様に、元の行列に固有ベクトルからなる行列、およびその逆行列を掛ける演算を行うと、対角線だけに数字が並ぶ行列に変化させることができる。
具体的に数字を入れると以下の様になる。
この操作のことを、対角化と呼ぶ。対角化は、全ての正方行列で可能ではなく、対角化できるケースとできないケースがある。
関連項目[編集]
- 注