回路方程式
回路方程式とは、電気回路の電圧や電流について成り立つ方程式である。
概要[編集]
多くは微分を含み、微分方程式になる。 微分方程式は複雑なものは解析的には解けないことが多いので、2階線形微分方程式のような単純な形に帰着させて解くことが多い。
定理・法則[編集]
式を建てる基礎[編集]
- キルヒホッフの法則(キルヒホッフの電流法則,キルヒホッフの電圧法則)が最も基礎となる。
- 電流則(KCL):電気回路の任意の点において、流入する電流と流出する電流の和は等しい。
- 電圧則(KVL):電気回路の任意の閉路において、電圧の向きを一方向に取ったとき、電圧の総和は0となる。
- テレゲンの定理:各枝を流れる電流と、枝間の電位差の積の総和が0となる定理。これはキルヒホッフの法則を前提としている。
- オームの法則:負荷にかかる電圧と電流の関係に関する法則。
- 全電流の定理:直列アドミタンスをもつ複数の電圧源が並列接続された電気回路の開放電圧を求める定理。
- ミルマンの定理:並列インピーダンスをもつ複数の電流源が直列接続された電気回路の短絡電流を求める定理。
回路の合成・変換[編集]
- 重ね合わせの原理:線形素子で構成される回路を"重ね合わせる"原理。
- 相反定理:入れ替えても同等であるということを示す定理。
- テブナンの定理:電圧源、電流源、抵抗を含む塊(ブラックボックス)を単一の内部抵抗のある電圧源(テブナン等価回路)に変換する定理。
- ノートンの定理:電圧源、電流源、抵抗を含む塊(ブラックボックス)を単一の内部コンダクタンスのある電流源(ノートン等価回路)に変換する定理。
- Y-Δ変換・Δ-Y変換:三相交流などで使うY型およびΔ型の回路を相互変換する定理。
解析法[編集]
複数の変数に対して、必要な数の方程式をたてて解析する。このとき、線形連立方程式は行列とベクトルを使って解くことができる。
- 節点解析法:回路の中の節点の電位を変数として、キルヒホッフの電流法則を用いて節点方程式をつくる解析法。
- 網目解析法:回路の中の網目(閉路)を流れる電流を変数として、キルヒホッフの電圧法則を用いて網目方程式をつくる解析法。
素子[編集]
電圧源・電流源[編集]
電圧や電流を決める素子。
- 直流電圧源:一定の直流電圧をかける。交流電圧は発生しない。任意の電流を流す。
- 直流電流源:一定の直流電流を流す。交流電流は通さない。任意の電圧がかかる。
- 交流電圧源:交流電圧をかける。
- 交流電流源:交流電流を流す。
線形素子・受動素子・2端子素子[編集]
線形素子では、方程式が線形微分方程式になる素子である。
受動素子はエネルギーを増加させない素子である。
2端子素子は端子が2つの簡単に扱える素子である。
以下はこれらすべてに当てはまる素子であり、方程式上も取り扱いが楽である。
しかし、実際には寄生素子があるなどして、やや複雑になることもある。
(1) 抵抗:熱や光などでエネルギーを消費する素子。インピーダンスはR。記号もR。
(2) キャパシタ:コンデンサとも呼ばれ、電圧に対して電荷をため、エネルギーを静電エネルギーとしてためる素子。理想的なキャパシタはエネルギーを消費しない。インピーダンスは1/(sC)。記号はC。(s=jω)
(3) インダクタ:コイルとも呼ばれ、電圧の変化に対して磁束を発生させ、エネルギーを磁気エネルギーとしてためる素子。理想的なインダクタはエネルギーを消費しない。インピーダンスはsL。記号はL。(s=jω)
また、以上の素子は直列接続や並列接続において素子の合成が可能である。(インピーダンスやアドミタンスの合成に依る。)
詳細は「交流#抵抗・インダクタンス・キャパシタンス」を参照
非線形素子・能動素子・n端子素子[編集]
非線形素子は、そのままでは線形微分方程式にならない面倒な素子である。
能動素子はエネルギーを供給しうる素子である(電圧源などを含んでいる)。
3端子素子や4端子素子は端子が多く複雑になりやすい素子である。
以下はこれらのいずれかに当てはまるような素子であり、方程式上も取り扱いが面倒である。
そのため、近似などで等価回路に書き換えて2階線形微分方程式に帰着させるか、解析的に解くことをあきらめて図・グラフ的に解くことが多い。
(1) ダイオード:一組のpn接合を持つ半導体素子である。整流性を示す。しきい値や一方向性がある。発光ダイオードもこの種類である。
(2) トランジスタ:3つ(バイポーラなど)や4つ(MOSFETなどの)端子を持ち、pn接合と電圧源・電流源が融合したような素子である。
(3) サイリスタ:4つの接合を持つ半導体素子である。1957年に発明された。1960年代に1500Vに対応できるものが登場した。
詳細は「国鉄711系電車」を参照
詳細は「国鉄201系電車」を参照
(4) オペアンプ:信号の増幅を簡単に実現できる素子。アナログ的にPID制御を実現するのに使える。
詳細は「半導体#半導体素子」を参照
方程式の記法[編集]
以上の定理・法則や素子の性質から方程式を立てていくが、その記法には様々な段階や流儀がある。 寄生素子や非線形素子については複雑なのでこの章では割愛し、そのようなものがないあるいは近似などで処理したとする。
微積分を含む形[編集]
CやLを含む回路では微積分を含む、連立方程式がまず得られる。このとき、未知変数に対して式の数が十分であることが重要である。 すると、積分を含む方程式を解くことは面倒なことが多く、書き換える動機になる。 もちろん、Rのみの簡単な回路ではこの段階で事足りることもある。(V=RIならここで十分。)
2階線形微分方程式[編集]
前項の形からの書き換えを考える。 積分を微分して、2階までの微分方程式にもちこむことによって、方程式は解析的にとける2階線形微分方程式にできることが多い。 過渡応答が非斉次方程式の特殊解として、定常状態が斉次方程式の基本解として出てくるなどわかりやすい。
微分の複素表現[編集]
2階線形微分方程式は十分簡単に思えるが、さらに簡単に解く方法もある。それは、微分を複素表現にすることである。 微分演算子をjω(jは虚数単位,ωは角周波数)に置き換えられる。直流はω=0のときと考えれば、交流・直流を問わず計算できる。 さらに、jωをsとすると、2階線形微分方程式はsの2次方程式のようなより簡単な式なる。 また、複素インピーダンスの考え方により以上の変換をすっとばしてここから考えることが多い。 この形は周波数応答をみるのに都合がよい。