バタフライ効果

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バタフライ効果(バタフライこうか、: butterfly effect)、バタフライ・エフェクトとは、初期のわずかな変化が思いがけない方向へ発展してゆくこと[1]。日本語で言うところの、風が吹けば桶屋が儲かる

概要[編集]

「バタフライ効果」は、カオス理論においては、極めて小さな差が無視できないほど大きな差を生む現象を指すための用語である。カオスの特徴あるいは定義の1つである初期値鋭敏性を意味する[2]

「バタフライ効果」が指す内容を、もう少し具体的に文章で表現したものにはいくつかのバリエーションがあるが(後述)、いずれも、ある場所でのの羽ばたきがそこから離れた場所の将来の天候に大きな影響を及ぼす、といった内容となっている。

普通、人は、自然現象において極めて近似したいくつかの初期状態は、同じ時間だけ経過すると、似たような過程を経て似たような結果に落ち着くだろう(落ち着くはずだ)、と考えがちである。それゆえ従来、自然科学者は、実験を行う時「微少な誤差は無視できる」「誤差は小さければ小さいほど影響はより小さい」と考えていた。またかつて自然科学者は、(力学系という考え方でとらえ直した場合に)「決定論的(すなわち微分方程式差分方程式で記述可能であり、ランダムではない)で、かつ、無限発散することなく有限な範囲で運動が継続しているような系では、初期値のわずかな差はいくら時間が経過してもアトラクター上のわずかな位置の違いとして維持される(または小さくなる)(はずだ)」などとしばしば考える(考える傾向がある)。

ところが、決定論的で有限な系の中にも、アトラクターが複雑で、初期値の小さな差が大きな差へと拡大するような系が存在することが判明したのである。このような系は、その研究者によって「カオス」(あるいは「カオス系」)と呼ばれるようになり、そしてカオス系のアトラクターは「ストレンジアトラクター」と呼ばれるようになった。カオス系に関する研究成果はカオス理論としてまとめられ、物理学や数学の一分野となっている。

カオス系においては、誤差が時間と共に有意な差へと拡大するため、長時間経過した後では無視することができない。また、ストレンジアトラクターは解析解が得られず数値解析によって得るしかないが、数値解析では誤差を避けることができないため、長期の予測は事実上不可能である。

バタフライ効果とは、「カオスな系では、初期条件のわずかな差が、結果に大きな違いをもたらす。結果は実際上予測不可能」ということである。

研究史[編集]

1961年にエドワード・ローレンツが計算機上で数値計算によって天気予測を行うプログラムを実行していた時のこと、最初ローレンツはある入力値を「0.506127」とした上で天気予測プログラムを実行し予想される天気を得た。次に、彼はもう一度同じ計算結果を得ようとし、(小さな差異は無視できる、と信じて)「0.506」と入力し、同じプログラムを実行した。ところが、2度目の実行では(彼が想定していたのとは異なり)予測される天気の展開は、一回目の計算とまったく異なったものになっていた[3]

表現の由来[編集]

「butterfly effect」という簡潔な表現自体はエドワード・ローレンツが1972年にアメリカ科学振興協会でおこなった講演のタイトル『予測可能性-ブラジルでの蝶の羽ばたきはテキサスでトルネードを引き起こすか』に由来する。ローレンツによると、この講演のタイトルは学会の主催者で気象学者のフィリップ・メリリースが付けたものだという[4]。 またローレンツ自身は、1963年にニューヨーク科学アカデミーで自分の発見を掲載した中で「ある気象学者は、この説が正しいとすると、カモメのたった1回の羽ばたきが気候の成り行きを未来永劫変えうることに気付いた」と書いている。

他にも「北京で蝶が羽ばたくと、ニューヨークで嵐が起こる」や、「アマゾンを舞う1匹の蝶の羽ばたきが、遠く離れたシカゴに大雨を降らせる」という表現が使われることもある。

もちろんこれは、ブラジルでの蝶の羽ばたきというごく小さい要素であっても、テキサスでトルネードが起きるという気候変動に大きく影響を与える可能性があるという事を表しているのである。ブラジルの蝶の羽ばたきを観測すれば、テキサスの天気が予報可能であるという話ではない。端的に言えば、(自然界では)小さな要素でも未来に大きな影響を与える以上、確かな未来予測は実際上不可能という事である。

バタフライ効果が現れる(現れることがある)例[編集]

出典[編集]

  1. パーソナルカタカナ語辞典【バタフライ効果】
  2. 合原一幸・黒崎政男・高橋純 『哲学者クロサキと工学者アイハラの神はカオスに宿りたもう』 遠藤諭、アスキー、1999年、初版、230頁。ISBN 4-7561-3133-6
  3. Nancy Mathis, Storm Warning: The Story of a Killer Tornado. , ISBN 978-0-7432-8053-2
  4. E. N Lorenz 『ローレンツ カオスのエッセンス』 杉山勝・杉山智子訳、共立出版、1997年、初版、13頁。ISBN 4-320-00895-2

関連項目[編集]