県庁所在地一極集中

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都道府県庁所在地一極集中(とどうふけんちょうしょざいちいっきょくしゅうちゅう)は、国内における東京一極集中と同様に、各都道府県庁所在地(またはその近郊都市)に政治だけでなく、人口・経済・文化・スポーツなどが県庁所在地に集積する現象である。

概要[編集]

県庁があるため県庁所在地が政治的中心であることは自然の流れと見られているが、実態は政治以外の産業集積が起こっており、例えば、京都市は府内の人口の過半数、高知市も県内の人口の約半数が集積し、県人口の3割以上が県庁所在地に集中している例は2017年のデータを集計すると47都道府県のうち27に及ぶ。[1]

一方で、県庁所在地より人口が多い都市は、郡山市、いわき市、高崎市(ただし同じ県の前橋市とは経済的つながりが強く1つの経済圏を形成している点が他とは異なる)、浜松市、四日市市、下関市とその数は少ない[2][注 1]。かつては県庁所在地より人口の多い市は現在より多かったが、明らかにその数は確実減ってきており、都市間競争において、県庁所在地以外の都市が圧倒的に不利な立場にある証左ともいえる。

近年は県庁所在地に人口が集中する傾向がますます強まっていることもあり、県庁所在地の市議や市長から県知事になる事例も多く県庁所在地に有利な政策がさらに強化されてしまうことが強く危惧される。

一極集中の解決策[編集]

みずほ総研の岡田豊は、市区町村別に見ると、都道府県の人口は県庁所在地(他の事例もあり、後述)に集積する。人口が減少する地域においても、人口減少が少ないため県庁所在地への集積が起きると指摘している。県庁所在地以外の都市でも、三大都市圏や出生率が比較的高い沖縄、都市へのアクセスの良い市町村、地域経済の中心地に限られると述べている。しかしそれ以外の都市は人口減少するため、それに合わせた地域政策を取らざるを得ないと指摘している[3]

県庁所在地とそれ以外の都市が対等な立場になるには、いずれも現実的ではないが、県知事を選ぶための選挙権を県庁所在地の市民に認めない政策、韓国広域市やかつて地方自治法で検討された特別市のように県から完全に切り離す施策、もしくは中核市に指定されたら、アメリカの大半の州都やオーストラリアキャンベラ市のように、県庁所在地を中小都市へ移すくらいの思い切った施策[注 2]が必要なのかもしれない。

一方、大前研一は、明治中央集権の遺産である県を解体する「廃県置藩」を自書で述べており、人口がほぼ同じ(執筆当時)鳥取県世田谷区に自治体として対等な地位を与える極論も述べている。

小学校教育での扱い[編集]

現在の教育現場においては、都道府県と県庁所在地は小学校教育で教えられている。一方大都市の代表格といえる非県庁所在地の政令市にはこの中には含まれない。知名度を上げる上ではこれほど他の自治体とは異なる圧倒的な有利な扱いを受けていることだけをとっても、県庁所在地が特権階級と言うに十分な根拠といえる。

県政とは直接関係ない教育・ハコモノ施設の集中[編集]

いわゆるハコモノといわれる施設も県庁所在地に集積している。官公署は無人観測推進で多くが有人観測を止めた測候所が典型である。

高等教育においても県庁所在地に集中する傾向があり、国立大学は戦後学制改革時の「一県一国立大」の施策で、青森市や長野市を除けば、県庁所在地またはその近隣の市町村に本部キャンパスが所在している[4][注 3]

スポーツ施設でも第一種陸上競技場は全国に46か所あるが、そのうち31か所は県庁所在地に作られている[5]。一般の市であれば、県の施設を誘致することは困難だが、県庁所在地であれば県立の施設が林立しているうえ、さらに市立の施設もあるという非常に恵まれた状況である。さらに国体など身の丈に合わない規模のイベントに合わせて、県庁所在地に多くのハコモノが整備されることにより、明らかに施設の過剰ともいえる状況が生じ、地方の県庁所在地では施設の稼働率を維持するため、県庁所在地で全県的な大会が開催されることが多い。
特に中学生や高校生大会が県庁所在地で多く行われ、結果として、とくに県庁所在地から離れた地域に住む生徒や引率教員にとって大きな負担となり、生徒によっては毎週のように県庁所在地で開かれる大会や試合等に行くといった常軌を逸した状況も生じている。これは、生徒の本分である勉学の妨げになることをはじめ、生徒だけでなく引率教員もプライベートに至るまで日常生活の大きな負担になっている。

一方、財政力の豊かな県庁所在地では、文化・スポーツ施設などで、存在目的が重複している市の施設と県の施設が多いが、県の施設の方が知名度や利用度が低いことがある[注 4]

経済[編集]

支店経済[編集]

支店経済といえば、札幌、仙台、広島、福岡といった地方中枢都市が代表であるが、各県単位で統括する支店については県庁所在地におかれることが非常に多い。たとえばNTT東日本は、首都圏と北海道を除けば県庁所在地にのみ支店を置いている[6]
また、都市銀行や大手証券会社、大手旅行代理店なども県庁所在地に支店を置いている例が多い。日本を代表する企業であるトヨタ系のレクサス店も県庁所在地に支店をおいており、県庁所在地以外の支店は極端に少ない[7]

このように、近年は県内に複数あった支店を県庁所在地に統合する動きや営業・サービス拠点を県庁所在地に置いている事例が多数見られ、県民税は全県公平に負担しているにもかかわらず、公的分野だけでなく、民間におけるインフラ整備も県内他都市より優先的に整備されている事例は枚挙にいとまが無い。

弊害[編集]

企業・公益法人等の営業・サービス拠点の集約は、県庁所在地の地理的な位置といった県勢を無視して県単位で実施されたため、例え隣接県の拠点が交通利便の上で近くても、管轄外を理由にたらい回しされることが多い。

金融[編集]

日本銀行は37(東京本店を除く)の府県庁所在地に支店ないしは国内事務所を置いている。面積の広い北海道を除くと、県庁所在地以外では、松本、下関、北九州のみである[8]
地方銀行も戦時中に一県一行主義が推進され、また、県庁等の公金の出納を行う指定金融機関となっている関係で、そのほとんどが本店を県庁所在地に置いている[9]

事業所、従業員の集中[編集]

平成28年の経済センサスによると、東京(特別区)も含めた事業所数上位50の市町村のうち33は都道府県庁所在地である。なお、同じ県の県庁所在地より事業所数が多いのは、浜松市郡山市のみである。また、51位から100位までいは13の県庁所在地がランクインしている。従業者数でも上位50位のうち33が都道府県庁所在地によって占められ、こちらも浜松市と郡山市だけが同県の県庁所在地より上位にきていて、次いで51位から100位では13の市が県庁所在地である。県内最大の都市が県庁所在地という事例がほとんどであり、その他の諸条件を考慮してもいかに県庁所在地が厚遇されているかが分かる。[10]

マスメディア[編集]

地方民放局は、ごく一部の例外を除けば県庁所在地に集中している。このため県庁所在地の話題がどうしても多くなる。また、民放局が後援するイベントも県庁所在地での開催が多くなるため、民放局を持たない非県庁所在地の中核市との文化格差も生じている。

加えて、普段視聴する全国の天気予報では北海道、小笠原、沖縄など一部を除けば県庁所在地しか出ていないのが一般的であり[11][12][13][14][15][16]、本土と気候が大きく異なる奄美地方すら報じないことが多い[注 5]

大手新聞では、県庁所在地の市長選は他の市長選と異なり1面で報じている。また、朝日新聞社は県庁所在地に総局をおき県内の他都市とは別格扱いとなった。これまで県内に複数の支局を持っていたが県庁所在地を格上げして差別化したといえる[17]

脚注[編集]

[編集]

  1. 川越市日立市鈴鹿市宇部市徳山市も県庁所在地より人口が多かった時期があった。しかし、現状ではこれらの都市が県庁所在地との人口格差は拡大する傾向にあり、これらの都市や都市圏の人口が再度逆転する可能性は少なくとも数十年レベルのスパンでは限りなくゼロに近い
  2. 県庁ではないが、山形県の庄内地方の県機関が中立地の三川町、北海道の後志総合振興局が中央地の倶知安町に置かれている。
  3. もっとも、同じ県でも地元国公立大や自分が学びたい分野の学部に自宅通学が困難な地域が少なくない事を考慮する必要がある。
    なお、長野市には、信州大の教育・工の2学部がある。これは旧制官立学校の流れを組むからで、同様に旧制学校からの経緯で米沢市日立市などの非県庁所在地に国立大のキャンパスがある。加えて長野市所在の国立の長野工業高等専門学校の専攻科で学士号取得が可能である。
    また、総合大学の京都大学などがある京都市に隣接し、国立大のある吹田市、奈良市などへの利便が良い大津市のように、県外の国公立大学を擁するエリアへ自宅通学可能な県庁所在地も存在する。
    ちなみに、国立大の本部キャンパスが無かった大津市に本部キャンパスとして設置された滋賀医大が、大多数の新設国立医大のように滋賀大に合併しないのは、本部の彦根市設置の滋賀大経済学部が主導権を失いたくないためと噂されている。
  4. 例えば、名古屋市には、国際交流目的で、市の外郭団体の「名古屋国際センター」と県の施設である「あいち国際プラザ」が存在するが、市民には前者の方が知名度が高い。
  5. 奄美地方同様に道府県庁所在地と大きく気候が異なるエリアとしては、北海道の宗谷、留萌、根室の各管内、福島県会津、岐阜県飛騨、三重県南部、京都府両丹、兵庫県但馬などの各地域がある。

出典[編集]