大御所

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大御所(おおごしょ)とは、ある分野で強い権威を持つ人、ある分野の大家を言う。公式には引退している場合もある。ご意見番的な意味にも用いられる。語としては鎌倉時代以後に出現する。

歴史的に3つの意味がある。時代順に並べると以下のようになる。

  1. 鎌倉時代から室町時代にかけては隠居した親王を指していた。歴史的には最も早い用例である。語源として「御所」は天皇上皇・親王の隠居所の住まい(御所)を指していた。「大御所」は隠居した親王の居場所を指していた。やがて隠居した親王自身も指すようになった。鎌倉時代の用例では「大御所」は前将軍を指す例がある。
  2. 江戸時代において隠居した前将軍を指す。特に江戸幕府の初代征夷大将軍徳川家康、第2代将軍・徳川秀忠、第11代将軍徳川家斉は存命中に将軍職を実子に譲ったが、強い発言権を維持したままであったため、大御所と称された[1]。徳川家斉の時代は特に「大御所時代」と言われる[2]
  3. 前将軍を指すのが通例であるが、准三后に叙せられた室町幕府第10代将軍・足利義稙の父・足利義視や江戸幕府第11代将軍・徳川家斉の父・徳川治済のように、自身は将軍職に就任していないが実子が将軍職に就任している場合、父親を大御所と称する場合があった。但し、前将軍と違い公式に大御所の称号は与えられていない。
  4. 大正時代以降は大きな勢力や強い発言権を持つ人を指すようになった。

使用例[編集]

鎌倉時代[編集]

『吾妻鏡』建仁3年9月6日辛未に「欲參江馬殿、折節被候大御所、〈幕下將軍御遺跡、當時尼御臺所御坐〉」の記述がある。この大御所は前将軍(頼朝)の住んでいた建物を指し、その時は北条政子が住んでいた。江馬殿は北条義時を指す。鎌倉時代に「大御所」が使われていた例である。

室町時代[編集]

室町将軍で後の大御所に相当の准三后の尊称宣下を受けた前将軍に3代義満、8代義政がいる。また10代義稙の父で応仁の乱の当事者の一人の足利義視も将軍職に就いていないにも関わらず准三后の宣下を受けている。
ちなみに、4代義持は、嗣子義量に将軍職を譲ったものの義量が早逝し、死去まで3年ほど前将軍の地位で室町幕府のトップに返り咲き、武家政権で大御所相当人物が後継将軍を置かずに幕府のトップに就いた唯一の例となった。

江戸時代[編集]

駿府記』に「大御所茶臼山に出御」の用例がある。この大御所は徳川家康を指す。また『徳川実記』に「今日より御父君(徳川家康)を大御所と称し奉る」の用例がある。

『徳川十五代記』の秀忠の個所に次の記述がある[1]

四月朔日大将軍上表して職を辞せんと請ふ。朝廷之を優詔して之を許し、かつ遷して左大臣と為さんと欲す。大将軍固く辞して受けず。これより世、前大将軍を大御所と呼ぶ。

この他に江戸幕府で大御所になった将軍には第8代将軍・徳川吉宗、第9代将軍・徳川家重、第11代将軍・徳川家斉[3]がいる。なお、吉宗、家重は将軍引退後の病気で大御所としての実権は握っていないが、家斉は寛政の改革断念以降、幕政の実権を自ら半世紀近く掌握したため、将軍在職時代と合わせて家斉の政治大御所政治と称することがある。

ちなみに、家斉は将軍初期に存命中の父・一橋治済を将軍生父として大御所の尊称を与えようとしたが、治済に政敵として久松松平家に放逐された老中松平定信がこれを許さず、結果的に治済への尊称贈与は断念した。

さらに、徳川綱吉も存命中に家宣後嗣として西の丸に入れたが、将軍職は自身の逝去まで手放さなかった。

明治以降[編集]

歴史的には最も後の用例である。

大正時代に山県有朋は「目白の大御所」と呼ばれていた[4]ことは、遅くとも大正時代には使われていた用法であることが分かる。

幸田延はピアノ教師として「音楽教育界の大御所」と呼ばれていた。

現代では「建築界の大御所」「大御所政治」「フレンチの大御所」「文壇の大御所」などの用例がある。

ポジション的に前将軍である徳川慶喜は、隠居謹慎状態だったこともあって、大御所とは呼ばれなかった。慶喜は1902年に公爵の爵位を授けられ、大正改元後の1913年まで長命を保った。なお、大政奉還後に徳川宗家16代を家達以降、徳川宗家の生前相続は無かったが、2023年元旦に徳川宗家当主が当代家広に生前相続され、先代の18代恒孝が約155年ぶりに徳川宗家の『御隠居』となった。

注・参考文献[編集]

  1. a b 山田俊蔵(1877)『徳川十五代記』山田俊蔵
  2. 奈良本辰也(1969)『国民の歴史-カラー版-17 大御所時代』文英堂
  3. 編集人不詳(1887)『大久保実記武蔵鐙. 中巻 彦左衛門功蹟之記』小川多計
  4. 横山健堂(1916)『快心録』日東堂