力士
力士(りきし)とは、日本相撲協会の会員のうち、番付に載って相撲の取り組みを行う人物のことを指す。厳密に言えば、関取となってはじめて力士と名乗れ、幕下以下は力士養成員(取的)と呼ばれる。かつては力人ともいった。
概要[編集]
入門[編集]
年寄株を所有し、力士養成が協会より承認された親方のいる相撲部屋に所属し、日本相撲協会が定める新弟子検査をクリアした場合に本場所の出場資格を得る。なお国籍は不問であるが興行ビザの都合から国外出身者は翌場所か翌々場所の出場となる。年齢はかつては23歳未満の制限があった。現在は何らかのスポーツ経験者であれば、25歳まで入門でき、大学を卒業した学士力士は増加傾向にある。
「力士と学歴」も参照
新弟子検査の検査事項には、健康診断(内臓検査)、体格検査、運動能力検査(付出承認者を除く体格基準未到達者のみ)がある。
体格検査の基準は、身長167cm以上、体重67kg以上。但し、中卒見込者は3月場所に限り、身長165cm以上、体重65kg以上[注 1]で、2022年現在は従前ほどの厳しさは無くなりつつあったが、2024年に運動能力テストを12年ぶりに復活して、合格者は内臓検査、体格検査を受検できるようになり、23歳未満で運動能力があれば実質体格不問となった[注 2]。
なお、ガタイが大きいだけで検査に通った新弟子の中に入門後、糖尿病による短期の引退者がいることから、検査の全うさに疑問を持つ識者がいる。
新弟子検査に合格した後、相撲部屋に住み込んで稽古をしながら、前相撲を取る。なお、前相撲は序ノ口を全休して番付外に陥落の力士も対象となる。現在は前相撲で成績不振でも、前相撲を取った場所で全て出世披露が行われ、新序となるが、勝南桜のように2年近く白星のない取的を生み出したことで、甘い新序出世を疑問視する意見も出ている。
アマチュア相撲で実績のあった選手については、前相撲を取らずに、新弟子検査後、階級の途中に付け出されて、2日目から取組を行う。2023年9月28日に、全日本選手権、学生選手権、国スポ成年の部といった選手権で、1年以内のベスト8以内で全て幕下最下位[注 3]、1年以内のベスト16以内は三段目最下位[注 4]として、全日本、学生、国体ベスト16での付出を容易にする資格変更を行うと共に実業団選手権上位者の付出認定を廃止した。
また、インターハイや国スポ少年の部でも1年以内のベスト4位以内で三段目最下位付出を設定して高校生の付出資格を容易にした[注 5]。なお、2002年2月以降時限化しているアマチュア相撲のタイトルホルダーへの特典の時限化は継続した。
入門 (過去)[編集]
平成時代半ばまで体格検査が、非常に厳しいことで知られていた。例えば舞の海や大受は、一時的に頭にシリコンを埋め込むことで無理やり身長を伸ばし、やっとのことで体格検査を合格、以降基準に満たない身長で現役を続け、舞の海は小結、大受は大関まで昇進した。
しかし、若貴ブーム沈静後、新弟子志願者が減少したことで、体格基準を下げた第二新弟子検査で体力検査を行って低身長志願者に門戸を開いて緩和し、豊ノ島のように関取昇進者も出たが、2012年(平成24年)5月場所前に第二検査も無くなった。
また、付出資格変更以前は、アマチュアの全日本選手権、学生選手権、国体青年の部の優勝者は、獲得から1年以内で幕下15枚目付出の権利を有し、現在は付出対象でない社会人選手権の優勝者も同様の権利を有した[注 6]。加えて、複数のタイトルホルダーは幕下10枚目付出の権利を持っていた[注 7]。また、ベスト4以内に入ると同じく入賞から1年以内で三段目最下位付出の権利を有していた。
さらに、1960年までは、前相撲での一番出世力士は、当該場所の序ノ口後半3日間の相撲を取りそこでの成績で、序二段へ跳躍昇進することがあった。
力士への歩み[編集]
前相撲を取った力士は新序の翌場所は序ノ口に番付が載り、この間、付出で出場した力士と共に並行して相撲教習所にも通う。その後の成績次第で番付が上下し、その後に続く番付として序二段[注 8]・三段目(定員160名[注 9])・幕下(定員120名)、十両(定員28名)、幕内(定員42名)があり、幕内の中で頂点に君臨する横綱を最終的に目指すことになる[注 10]。
2019年までは東京・大阪・福岡・名古屋の4つの会場で本場所の取組を行っていたが新型コロナウイルスの影響で2020年は名古屋、福岡は両国国技館に変更された。この他に巡業や大相撲トーナメントなどの花相撲がある。
本場所で幕下以下は15日間のうち7番、十両以上は毎日15番の対戦がある。
関取は日本相撲協会から毎月支払われる給与、力士報賞金などの賞与が主な収入源である。平均年収は十両以上になると1000万円、横綱クラスになると4000万円くらいになる[注 11]。
幕下以下の力士養成員の報酬は出場手当と各段優勝賞金のみで、給与は支払われない。但し、健康保険料や衣住やちゃんこといった食は全て相撲協会の経費で賄われるため、相撲診療所でタダで診察してもらえ、稽古、ちゃんこ番(ちゃんこ長)や付け人業務のみに専念すれば、衣食住に困らない。
引退[編集]
成績不振、病気、怪我で相撲が取れなくなったとき、力士は引退する。昨今は、40歳を超えて本場所に出場する幕下以下の力士養成員も少なくなく、2022年に引退した華吹大作は50歳を超えて本場所に出場していた。
一定の成績や最高番付[注 12]を挙げ、年寄株を取得できた力士は親方を襲名して後身の指導に当たる。親方は日本相撲協会の委員・役員として実力に応じて地位を高めていく。その後は、会社員や公務員と同様、権力争いに巻き込まれることもある。
年寄株を取得できなくても、常勤嘱託職員である若者頭、世話人として協会に残れる場合や、部屋や後援会が私設で雇うマネージャーや師範代、非常勤のアドバイザーに就くこともある。
退職[編集]
日本相撲協会の定年は65歳[注 13]である。この歳になると、若者頭、世話人は完全に勇退。年寄も70歳まで再雇用される嘱託に就けなければ勇退することになる。
名称[編集]
江戸時代に登場した言葉である。それまでは「相撲取り」と言われたが、武士の「士」を付けて地位向上を狙ったものである。
関連項目[編集]
参考文献[編集]
外部リンク[編集]
脚注[編集]
- 注釈
- ↑ なお、幕下および三段目付出資格者はこれらは不問だが、検査免除にはならない。
- ↑ これにより、身長160cmの新弟子検査合格者が2024年5月場所の前相撲に上がった。
- ↑ 幕下最下位付出は24年ぶりの復活。
- ↑ 全日本相撲選手権ベスト16での付出は24年ぶりの復活。
- ↑ 初適用はかつて幕下最下位付出デビューをした元前頭大碇の次男の斎藤忠剛(2024年国民スポーツ大会少年の部4位)。一方、最初の該当者が三段目付出を権利放棄して前相撲から取り組んだため、早くも形骸化の兆しも見えている。
- ↑ 基準改定前の最後の幕下15枚目格は阿武剋一弘。
- ↑ 基準改定前の最後の幕下10枚目格は大の里泰輝。
- ↑ 定員は定めていない。三段目に番付されない番付外以外の下位力士の8割を序二段、2割を序ノ口に配分。
- ↑ 2022年3月場所まで定員200名。2024年11月場所まで定員180名。
- ↑ 関取、いわゆる十両以上の力士となれるのは入門者の十分の一である。
- ↑ この金額は他のプロスポーツ選手に比べれば低いが、タニマチからの寄付や優勝や三賞の賞金、幕内取組に懸けられる懸賞金などがあり、かなりの収入となる。
- ↑ 親方襲名資格は、日本国籍を持った上で、三役経験・幕内通算20場所・関取のべ30場所の何れかを満たす必要がある。
- ↑ 場所中に定年を迎える場合、当該場所の千秋楽まで在職できる特例がある。