不謹慎ゲーム
不謹慎ゲーム(ふきんしんゲーム)は、社会的な事故・事件などを題材に、揶揄や中傷、ないし悪ふざけや風刺・政治批判を目的として作成されたコンピュータゲームの総称。また、特に事故や事件でなくとも、その主題が犯罪を行なうことであるゲームも不謹慎ゲームとみなす場合がある。
しかし、何をもって「不謹慎」とするのか、その範囲は時代の流れまたは個人の主観と価値観によって判断が異なり、客観的に定義するのは難しいため、不謹慎ゲームであるか否かに関して意見がわかれる場合がある。(→#価値観の論争)
概要[編集]
不謹慎ゲームでは時事ネタを扱う関係から、簡易にプログラムの作成が可能なスクリプト言語、あるいはRPGツクールなどのコンストラクションツールやFlashなど、プログラミング的な技術をあまり要求されないツールで作成されることもある。
一般的に不謹慎ゲームと考えられるものは、商業的に販売されることはほとんどなく、主にインターネットやパソコン通信などで配信される。そのため、そのような形態をとることが容易なパソコン用のものがほとんどである。家庭向けゲーム機用のものは、プログラムを作成する専用のツールを調えることや、実機で動作する形態で配信・配布することが難しいのでまず見られない。しかし市販のゲームソフトがその内容から不謹慎だと問題視される場合もある(後述)。
ゲームの内容としては、簡易なシミュレーションゲームやパズルゲーム、単純なアクションゲームなどがある。既存のゲームのアイデアやリソースを流用して作成されたものやクローンゲームなどによるものもあるが、概してゲーム性は低く、既存の著作物や特許物を流用した場合は著作権侵害や特許権侵害に抵触する場合がある。中には負ければハードディスクが破壊されるものや、ゲームともみなされないようなジョークプログラムに類されるものもある。
これらの制作者は一部のアマチュアであるとされるものの、匿名でインターネットやパソコン通信、もしくは愛好家向けの同人活動の範疇で配布されるため、一部には同人グループ名のわかるソフトウェアも見られるが、その多くにおいて制作者の実態は不明である。一方で、近年では携帯電話キャリアの公式サイトで有料配信されるケースもある。
有名な作品とその歴史[編集]
日本国内において、不謹慎ゲームは8ビットパソコンの時代から存在したものの(『万引きゲーム』などがある)、あまり一般社会に知られる存在ではなかった。米国では1993年の世界貿易センター爆破事件や、1978年から1996年にかけて大学・航空会社関係に手製爆弾を送り付けたユナボマー事件(→セオドア・カジンスキー)がメディア上で取り沙汰された際に、PC/AT互換機向けなどに同種のゲームがパソコン通信を通じて配布されている。
日本において不謹慎ゲームを一躍有名にしたのは、1995年の地下鉄サリン事件を題材として作成された『霞ヶ関(地下鉄サリンゲーム)』、そして、「センターネット」で公開されたオウム真理教教祖の逮捕を題材にした『とのさまVSサタン(殿様VSサタン)』だろう。『地下鉄サリンゲーム』は、サリン袋を地下鉄車両や駅に仕掛けて死傷者数を競うという内容で、当初は新潟の草の根ネットにアップされ、その後NIFTYなどに転載され、マスコミの報道とともに一躍話題となった。
この、『地下鉄サリンゲーム』を、表街道の正統派デビューとした場合、一方の『とのさまVSサタン(殿様VSサタン)』は、裏街道、アングラといわれる世界でのデビューであった。当時では珍しいカラフルな画面、アクション要素やアドベンチャー要素の含まれたゲームで、「センターネット」に公開された後にNIFTYに転載され、週刊FLASH誌面での紹介がされたが、無断転載や作者不在、売名行為などの数々の事件に巻き込まれ、アングラ界での知名度やゲームとしての完成度は高かった一方、あまり、表に語られることのない作品となった。しかし、「不祥事」「事件」「事故」などを悪趣味に扱った本来の意味での「不謹慎」ゲームと違い、題材にしたテーマこそ「地下鉄サリン事件」であるが、主人公の「とのさま」が「GEBARA」と協力して、悪を倒すという内容は、現在でも「名作」とされる所以であろう。
当時は、Windows95の発売により家庭へのパソコン普及が急速に進んでいた背景もあり、マスコミ等でもさかんに報道された。この事件の後、オウム真理教事件を題材とする不謹慎ゲームが多数作成され、主にインターネットを通じて配信された。
余談であるが、『地下鉄サリンゲーム』『とのさまVSサタン(殿様VSサタン)』ともに、同時期で新潟で開発されている。これは奇妙な偶然である。
その後も、食品細菌混入事件や潜水艦衝突事故・ストーカー殺人・通り魔殺傷・小学校児童殺傷事件など、社会を騒然とさせる事件・事故・自然災害・芸能スキャンダルなどの発生に乗じて、これを面白半分に題材とした不謹慎ゲームは散発的に作成され、現在に至るまで繰り返し各種マスコミが報道・批判するところとなっている。だが、そのマスコミもまた不謹慎ゲームの題材とされており、不祥事・事件・災害の現場に踏み込み関係者の周囲に群がって取材し、時として倫理観の欠落したセンセーショナリズムに根ざした集団的過熱報道を繰り広げ、刺激的な映像を求めるワイドショーをはじめとするテレビ報道や写真週刊誌などのゴシップマスコミの報道姿勢を揶揄した、「事件をより過激に取材して、多くの被害者・目撃者の心情を踏みにじりPTSDを発症させるほど高得点」という内容の不謹慎ゲームが製作されたことがある。
2001年のアメリカ同時多発テロ事件で数多くの不謹慎ゲームが製作されたことをきっかけに、再び不謹慎ゲームは注目を集めるようになった。特に、飛行機を操作して世界貿易センタービルを模したビルに衝突させるゲーム、『旅客機でGO!』は広く報道された。また、これに関連する事件・人物を題材とした不謹慎ゲームには、オサマ・ビンラディンを射殺するゲームや炭疽菌を散布するゲームなどが存在する。
なお、日本においては、時として2ちゃんねるなど電子掲示板のコミュニティが不謹慎ゲームの発生源となることがあり、「ネオむぎ茶ゲーム化計画」(→西鉄バスジャック事件)といったスレッドで製作・配布が行われたこともある。『麻原の野望』はこのスレッドから作られたが、こういった不謹慎なネタを好むコミュニティ上では、しばしばコミュニティ参加者らが即興で作ったような作品が公開され、これが二次・三次的に再配布されることも多く、やはり制作者・配布者はハンドルネームなどの表示はあるものの、怪文書の発信者などと同様の形で匿名であることを強く望む傾向が強い。
しかし、『香港97』の様に後になって製作者自身が関与を明かしているケースもあるが、こういった事例は極めて少ないといえる。
価値観の論争[編集]
「不謹慎」と一言でいっても、その範囲は各人の主観に基づく立場や状況によって様々であり、客観的に定義するのは難しい。
たとえば、属する社会などでの常識、信仰する宗教、取り上げられている事象の当事者なのかどうか、あるいは、ゲーム内で虐げられる側かそうではないかなどによって変わってくる。社会問題として報じられた事件を題材としたようなものなど、ほとんどの人が「不謹慎」であると考えるゲームがある一方、ある程度個人的な事象を扱っているために、人によって判断が異なるゲームもある。
また、社会的影響の大きい事件が発生した場合、事件の前後でそれに関係する事柄の「不謹慎」の社会的な境界ないし閾値が変化してしまうことがある。このようなとき、事件以前には普通に市販されていたゲームが、結果的に「不謹慎ゲーム」とみなされることがある。また、発売予定のゲームが「不謹慎ゲーム」とみなされるおそれがあることから、制作者が自主的に内容を変更したり、販売を中止や延期したりすることもある。
- アメリカ同時多発テロ事件の発生直後では、以下のような例が存在した。
- 架空の世界における国家間の戦争を扱ったシューティングゲーム『ACE COMBAT 04 shattered skies』で、航空機が撃墜されるシーンのあったCM放映が自粛された。
- ニューヨークが舞台のアクションゲーム『メタルギアソリッド2 Sons of Liberty』はムービーシーンの背景に世界貿易センタービルを模したビルが使用されており、発売時にはこのシーンが削除された。また、暴走した「アーセナルギア」がニューヨークに突っ込むシーンも9・11を連想させるとして削除された。
- 事件の2ヵ月後に発売予定だった爆弾によるビルの解体をテーマとしたパズルゲーム『ビルバク』の発売が突然中止になり、内容を修正した上で半年後に発売された。
- 2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)の際には、災害をテーマとした『絶体絶命都市4 -Summer Memories-』が開発中であったが、被災者への配慮と開発の遅れを理由に発売延期を発表、その後発売中止となった。影響はそれだけにとどまらず、全シリーズの生産も終了することとなった。当時の開発元のアイレムソフトウェアエンジニアリングは理由を発表していないものの、不謹慎かどうか論争が起きる前に中止の判断を下したとの旨を朝日新聞の取材に対して解答している。
- 2014年12月、かつて『絶体絶命都市4』を開発しアイレム社におけるゲーム部門の中核を担っていた名倉剛と九条一馬が設立したゲーム会社グランゼーラが、アイレムより『絶体絶命都市』シリーズタイトル(新規タイトルを含む)に関する全世界でのIPおよび販売権を取得した[1]。歴代シリーズは2015年2月18日から『絶体絶命都市』と『絶体絶命都市2 -凍てついた記憶たち-』の配信開始を皮切りとし、現在ゲームアーカイブス(PS2アーカイブス)などのダウンロード流通で販売再開されている。
- 2015年、シリーズ最新作の『絶体絶命都市4Plus -Summer Memories-』が発表された。
また、特別な事件などがなくても『不謹慎』の範囲は時と共に変化するため、発売当時とは異なる評価をされるゲームもある。
この他にも、実際の社会では忌避されるような犯罪行為をゲーム内で仮想体験させるような残酷ゲームもある。そのようなものは、似たような事件の被害を受けた被害者などやゲームの社会的影響を懸念する者にとっては、「たかがゲーム内の仮想体験、では済まされない」として、批判される事がある。
現実的には、発表が行われた国で人倫に反するかどうか?という一般的な社会的認識によって不謹慎かどうかは判別される傾向にある。実質的に、メディアが不謹慎ゲームだとレッテルを張れば不謹慎ゲームになる。この他、特定の個人や団体を中傷する作品を発表し、流通させた場合には(たとえフリーゲームであれども)名誉毀損や侮辱罪が適用されるおそれがある。また、いくつかの不謹慎ゲームは少年犯罪者や事件の容疑者や被害者の顔写真を無修正で使用しているため少年法や肖像権の侵害にもなる。
不謹慎ゲームの例[編集]
概して旧来の名作に似せたゲームタイトルがつけられる傾向にある。無論これらは当該シリーズ作品と何ら関係はない。
- チェルノブイリ原子力発電所事故(1986年)
- 天安門事件(1989年)
- 『スペシャル天安門』
- 神戸高塚高校校門圧死事件(1990年)
- 『校則厳守』
- 地下鉄サリン事件(1995年)
- 阪神淡路大震災(1995年)
- 『自衛隊足止め(秘)大作戦!目指せ10000人!!』
- 日本コンピュータクラブ連盟(1995年)
- 『SONICマウンテンブック』(山本会長の鼻)
- O157(1996年)
- 『首都壊滅!? 恐怖の細菌O-157』
- 北海道古平町豊浜トンネル岩盤崩落事故(1996年)
- 『古平トンネル崩落事故 犠牲者救出発破遊戯』
- 『HIVゲーム』(1997年)[2]
- 香港返還(1997年)
- 『香港97』
- 和歌山毒物カレー事件(1998年)
- 『とろーりとろける青酸カレー作成ゲーム』
- 『青酸カリーゲーム』
- JCO臨界事故(1999年)
- 『~臨界~ 東海村放射能汚染事故ゲーム』
- コロンバイン高校銃乱射事件(1999年)
- 西鉄バスジャック事件(2000年)
- 『ネオむぎクエスト』
- 田代まさしによる不祥事(2000年)
- 『タシロギアソリッド』
- 新潟少女監禁事件(2000年)
- 『~少女監禁~ 陵辱の九年間』
- 宇都宮女児凍死事件(2000年)
- 『~飢餓母娘~ 宇都宮女児凍死ゲーム』
- えひめ丸事故(2001年)
- 『原潜でGO!ハワイ・オアフ島沖編第6回』
- 附属池田小事件(2001年)
- 『池田小児童殺害ゲーム』[3]
- アメリカ同時多発テロ事件(2001年)
- 『旅客機でGO!』
- 『不謹慎ゲーム2001』仮(現在製作段階体験版が配布されている)
- 佐世保小6女児同級生殺害事件(2004年)
- 『NEVADAの刃』
- 上越新幹線脱線事故(2004年)
- 『上越新幹線脱線回避シミュレーター』
- 窪塚洋介の転落事故(2004年)
- 『GO 飛び降り窪塚くん』
- 奈良騒音傷害事件(2005年)
- 『抗議大戦』
- ライブドア事件
- 『ライブドア世界戦略』
- 耐震強度偽装事件(2005年)
- 『姉は一級建築士 〜イケない構造設計〜』
- ジダン頭突き事件(2006年)
- 『ZIDANE HEAD BUTT GAME』
- バージニア工科大学銃乱射事件(2007年)
- 『V-Tech Rampage』
- 捕鯨問題(2008年)
- 『HARPOONED』
- ブッシュ大統領靴投げられ事件(ブッシュの靴)(2008年)
- 『Can YOU throw a shoe at Bush?』
- 『SOCK AND AWE』
- 『Flying babush』
- 『That Guy Totally Threw A Shoe At President Bush』
- 『Bush's Boot Camp』
- 『BUSH SHOE THROWING GAME』
- 小沢一郎の西松建設事件(2009年)
- 『小沢一郎の逆襲』
- 盧武鉉自殺(2009年)
- 『さらば盧武鉉』
- 『Bounji Ball』
- 事業仕分け(2009年)
- 『事業仕分け人 レン』
- 尖閣諸島中国漁船衝突映像流出事件(2010年)
- 『官房長官になって流出映像をとめろ!』
- 『尖閣衝突 ~おい!とまれ!~』
- 11代目市川海老蔵暴行事件(2010年)
- 『海老蔵ゲーム ~灰皿テキーラ1丁お待ちッ~』
- 三宅雪子議員の転倒騒動(2010年)
- 『三宅雪子の奇妙な転倒』
- 大相撲八百長問題(2011年)
- 『やおずもう』
- 東京電力 福島第一原子力発電所事故(2011年)
- 『FINAL BREAKER』
- 動物愛護団体PETA(2011年)
- 『Mario Kills Tanooki』
- 佐村河内守のゴーストライター問題(2014年)
- 『やっぱり耳が聞こえてる?』
- 小保方晴子の論文に対する疑惑(いわゆるSTAP研究不正事件、STAP騒動) (2014年)
- 『コピペ研究所』
- 野々村竜太郎の号泣会見騒動(2014年)
- 『DJ号泣議員』
- 『ノノモン出張日誌~無料の野々村議員・育成・放置ゲーム~』
- 『ノノムラノモリ』
- マレーシア航空17便撃墜事件(2014年)
- 『Euro Buk Simulator 2014』
- 川越達也
- 『青越』
- 北朝鮮問題
- 『北朝鮮!無慈悲なミサイル』
- 『Kick Out Kim』
- SMAP解散騒動(2016年)
- 『しゃざいかいけん』
- ベッキーとゲスの極み乙女。川谷絵音の不倫騒動(2016年)
- 『卒論 ゲスの極みと恋する乙女の恋愛物語』
- 山尾志桜里議員の政治資金問題(2016年)
- 『地球6周分のガソリン使ったの私だ』
- 豊田真由子の秘書への暴言・暴行騒動(2017年)
- 『その秘書、このハゲにつき』
出典[編集]
- ↑ “グランゼーラ、絶体絶命都市の版権を取得”. 株式会社グランゼーラ. 2014年12月25日確認。
- ↑ 『裏パソコン通信の本'97』<三才ムックVol.46>三才ブックス、1997年6月、pp.142-143。
- ↑ 「特別インタビュー池田小児童殺傷事件の不謹慎ゲーム作者に聞く~」『B-GEEKS vol.1』pp.155-175。
参考文献[編集]
- ばるぼら『教科書には載らないニッポンのインターネットの歴史教科書』翔泳社、2005年5月10日、ISBN 978-4798106571。
- 梅宮タカコ「サリン、トンネル崩落、酒鬼薔薇。人の不幸が一番楽しい!?」『インターネット秘宝館』<別冊宝島353>宝島社、1997年12月14日、pp.100-104。
- クランツ(編)『封印ゲーム大全』アスペクト、2007年、ISBN 9784757213463。
- 「ゲーマー=犯罪者!?あのアキバ通り魔を予言したゲームがあった!-残虐ゲー&不謹慎ゲーの実態、頑固親父が斬る“けしからん”ゲーム」『ゲームラボ』2008年9月号、三才ブックス。
- “不謹慎ネットゲームに世界の宗教家が激怒”. 産経新聞. (2009年4月). オリジナルの2009年5月3日時点によるアーカイブ。
- “喝!と投げた卵が顔面直撃」神戸大生の不謹慎な事件をテーマにした不謹慎ゲームが登場”. エキサイトニュース. (2009年10月30日17時10分)
- “開祖キャラがバトル…不謹慎ゲームにイスラム激怒”. ZAKZAK. (2009年4月30日)