海のギャング
海のギャング(うみのギャング)とは、海において、海の利用者(漁業者など)の立場から見た海の利用を妨げる生物について指す言葉である。近年はダイバーが避けるべき生き物についても指す。また、海賊や類似のものも指す。
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哺乳類[編集]
- イルカ
日本の漁村では、場合により、イルカは大変な嫌われ者であった。理由は、イルカの群れが漁場にやってくると、魚介を食い荒らし、漁師の漁獲量が減少する為で、場合によっては漁獲が全く得られない日が何日も続くためである。長崎県の壱岐では、1978年、漁民は壱岐周辺にやってくるイルカの群れを「海のギャング」と認識して、昭和53年壱岐対馬漁民決起大会で、漁師は漁獲高の回復を求めて「イルカ撲滅」と書いた鉢巻を締めて臨み、イルカの群れを漁場から駆除した例もある。[1][2]
- シャチ
シャチの英名 Killer whale は「殺し屋クジラ」という意味であり、学名 Orcinus orca は「冥界よりの魔物」という意味で、非常に獰猛で貪欲であり、非常に知能が高い捕食者で、マグロはえ縄漁の漁船をつけ回し、そのはえ縄にかかったマグロを食べ尽す被害を出すこともある。また、残忍な手口で獲物をしとめるためか、「海の殺し屋」とも呼ばれる。戦後の日本では漁業被害の発生のために警備艇による機銃や捕鯨砲で駆除が行われたこともある。[3][4][5][6]
- トド
トドは北海道の漁業関係者から「海のギャング」と呼ばれ、有害鳥獣と目される。1960年代には、有害鳥獣駆除として戦闘機の機銃掃射など武器による射撃も行われた。その後、トドは環境省のレッドデータブックで絶滅危惧II類に指定された。絶滅を避けるための許容間引き量を科学的に算出し、その結果に基づいて毎年の捕獲可能な頭数を決めているが、被害金額は北海道だけでも年間10億円以上となっている。[7]
- ヒョウアザラシ
ヒョウアザラシは、他のアザラシに比べ性格が荒く、アザラシ、ペンギンその他の海鳥を多く捕食するためか、南極海において「海のギャング」と呼ばれている。人間を襲ったり、死亡事故もある。昔の探検家たちはヒョウアザラシを「海の豹」と呼び、1914年に南極航行したフランク・ウォースレーは、この海獣を「獰猛で美しく非情な獣」と評した。一方、ダイバーと顔見知りとなると、捕えたペンギンをダイバーに分け与えるような行動を示す個体もいるという。[8][9]
爬虫類[編集]
- モササウルス類
モササウルスは、最初に世に知られる事になった絶滅した巨大爬虫類であり、白亜紀後期に生息していた肉食海棲爬虫類で、その体長はモササウルス科では最大級の約12.5 - 18メートルもあり、モササウルス類が魚竜の地位を受けついだ「海のギャング」と考えられている。[10]
魚類[編集]
- ウツボ
ウツボは「海のギャング」とも呼ばれる獰猛な魚である。性質は凶暴と言うわけではなくどちらかと言えば臆病だが、自分より大きな敵が近づいた時は大きな口を開けて威嚇し、それでも敵が去らない場合は咬みつく。歯は鋭く顎の力も強いので、人間が咬みつかれると深手を負うこともある。また、嗅覚に優れ、短時間なら鰓呼吸が必要なく、磯で魚をさばくと寄ってくる場合もある。[11][12]
- オオカミウオ
オオカミウオは恐ろしい顔つきをし、鋭い歯を持つためか、「海のギャング」と呼ばれる。その鋭い歯で貝を噛み砕いて食すが、性質はおとなしいと言われる。[13]
- オニカマス
オニカマス(great baraccuda)は、大型のものは2メートルにもなり、気性が荒く、獰猛なハンターであり、「海のギャング」とも呼ばれる。釣りの対象魚。時には人間を襲うとも言われるが、金属光沢をもつ各種物品を魚と間違えたという推測もある[14][15][16]。
- ゴマモンガラ
ゴマモンガラは体長約75センチメートルであるが、性質は荒く、特に繁殖期には攻撃的になり、卵を守るメスがいるすり鉢状の巣に近づいた場合などに人間でさえ追い払おうと攻撃的な行動をするためか、「海のギャング」と呼ばれる。ゴマモンガラは貝を砕く頑丈な歯を持ち、噛まれると外傷を負うこともあるため、ダイバーは注意を促される。[17][18]
- サメ
サメは「海のギャング」の代表格であり、何種もが海のギャングと認識されている。英語圏には "gang of shark(s)" という言い回しが有る。海水浴場ではサメ除けネットが張られることもある。また、沖縄の八重山では漁業被害が出るため、サメ類の駆除が行われる。但し、サメと言っても、ホホジロザメのようにアザラシなど海洋哺乳類を食べるサメばかりではなく、全てのサメが怖いものだというイメージを疑問視する向きもある。[19][20]
- イタチザメ
イタチザメは漁業被害を出す「海のギャング」として、沖縄の八重山で主たる駆除の対象となる。サメの中には、漁船を見つけると、付け回して漁獲を奪う個体も居るという。体長は最大7メートルを超え、比較的凶暴なサメとして知られる。また、多数のウミガメを食すことがあり、神戸の人工ヒレのアカウミガメ「悠ちゃん」を襲ったのはこの種とみられている。[19][21]
- ホホジロザメ
ホホジロザメ(ホオジロザメ)は、人間が襲われれば最も危険なサメで、サメの中で人を襲った記録が多い為か「海のギャング」と呼ばれる。ホホジロザメに噛み付かれるとしばしば致命傷となり、俗称に Man eater shark とも呼ばれる。映画『ジョーズ』のモデルとなり、映画により"悪名高き人喰いザメ"というイメージが多くの人に定着した。
- タチウオ
タチウオは歯が鋭いフィッシュイーターであり、餌を狙って立ち泳ぎしながら頭上を通り過ぎる獲物に飛び掛かって捕食するためか、「海のギャング」と呼ばれる。釣りや漁の対象となる。捕えた際は鋭い歯に気を付けねばならない。[22]
- ダツ
ダツは捕食の際に小魚の鱗で反射した光に敏感に反応し、突進する性質があることからか、「海のギャング」と呼ばれる。釣りと漁の対象魚。暗夜にダツが生息する海域をライトで照らすと、ダツが激しく突進してきて人間の体に突き刺さる死亡事故もあり、沖縄県の漁師には、サメ同様に危険視され、ダイバーには注意が促される。[23][24]
- ナルトビエイ
ナルトビエイは、山口県の山陽小野田において、アサリを主に食い荒らすことで、小野田あさりと呼ばれるアサリの漁業に深刻な問題を与えるためか、「海のギャング」と呼ばれる。養殖していた二枚貝が一晩で食い尽くされたこともあり、駆除が行われる。なお、ナルトビエイのアサリの被害は大分県、岡山県、福岡県でも発生している。漁業被害が発生した原因は、地球温暖化の影響でナルトビエイの生息域が拡大したためである。[25][26]
- ハタ
ハタの食性は肉食性で、他の魚類などを大きな口で吸いこむように捕食し、時には自分の体の半分ほどもある獲物にも貪欲に襲いかかる性質がある。コモンポストで巨大なハタを「海のギャング」と呼んだ例がみられる。また、ハタの最大種はタマカイである。タマカイが人を襲ったという正確な記録は存在しないが、オセアニアの一部の地域では「タマカイはダイバーを丸飲みにしてしまう」と恐れられ、NHKでは「人を襲い、頭を丸のみした怪物」と放送し、また、台湾では「ハタの王」、「魚のボス」と称されている。[27][28][29]
- ハモ
ハモは、大型のものは2メートルを超え、夜に活動し、餌をくわえたら体をくねらせて引きちぎるからか、捕獲した際に鋭い歯と大きな口で噛もうとしてくるためか、漁師から「海のギャング」と呼ばれる。[30]
- ホウライエソ
ホウライエソは恐ろしい顔をし、捕えた獲物を逃がさないように牙が長いためか、「深海のギャング」といわれる。なお体長は35センチメートルである。
他の生物[編集]
- ウミサソリ
ウミサソリは2005年の東京国際ミネラルフェアで「海のギャング」と称された。約4億6000万年前から約2億5140万年前の間に生息した絶滅した肉食性水棲動物である。シルル紀には海中における頂点捕食者であった。大きいものは2.5m前後にも達し、史上最大級の節足動物である。[31][32]
- ツメタガイ
ツメタガイは、繁殖力が強くアサリ等の漁獲対象種を食害して漁業被害の原因生物となったり、時に大発生して潮干狩り会場を全滅させる事もあるためか、「海のギャング」と呼ばれる。また、生きた貝の貝殻に穴を開け、中の肉を吸い取って食べるためか、「恐ろしい貝」と形容されたりする。[33][34]
- ホトトギスガイ
ホトトギスガイはたくさんの足糸を出して周囲の砂礫粒をくっつけ、直径3-4cmほどの砂礫の塊を作り自分の体を埋める性質があり、時に大発生し、底面をカーペット状に固着させてしまい、これにより同じ砂地に生息するアサリなどの二枚貝が窒息死し、漁業面で大きな被害が出ることがあるためか、「海のギャング」と呼ばれる。[35]
- ヒトデ
ヒトデは、貝を食べてしまう上に、漁業用の置き餌を食してしまうためか、大量に発生すると、漁業者から迷惑がられ「海のギャング」と呼ばれる。駆除されたヒトデはたい肥になったりするが、『天使になった海のギャング』というヒトデのたい肥もある。[36][37]
- オニヒトデ
オニヒトデはサンゴを食べる。時に大発生し、漁場であり観光資源であるサンゴを食い尽くすためか、「海のギャング」と呼ばれ、駆除される。[38]
その他[編集]
- ギャング漁業
ギャング漁業とは、1949年(昭和24年)の国会で、大資本の機船底びき網漁業やトロール漁業などが、沿岸漁業を圧迫していることを差して、「海のギャング」と、砂間一良(日本共産党衆議院議員)や参考人の漁業関係者らが述べたもの。[39]
- 高速魚雷艇
高速魚雷艇は小回りが利き素早く被害が甚大だったためか、第二次世界大戦から「海のギャング」と見る向きもある。[40]
- シーシェパード
著述家の織伊友作が、シーシェパードを「海のギャング」と述べている。[41]
- 中国漁船
東シナ海でサバやアジなどの魚を乱獲する中国の漁船を差して「海のギャング」と、雑誌『サピオ』が書いたことがある。[42]
類似の表現[編集]
海のゴキブリ[編集]
- フナムシ - 中国語で「海蟑螂(うみしょうろう)」と呼ぶが、ショウロウとはゴキブリのことである。英語の俗名 Wharf roach は「埠頭(や波止場)のゴキブリ」の意である。
- ミンククジラ - 政策研究大学院大学客員教授の小松正之は、2001年にミンククジラの個体数は多すぎると指摘した際に、ミンククジラを「海のゴキブリ」と呼んだ。[43]
- ロブスター - 北米大陸に西洋人が進出した頃、まだロブスターを食す文化が無く、頭数が多い為か、「海のゴキブリ」と呼ばれていた。[44]
脚注[編集]
- ↑ 漁民にとっては"海のギャング" -イルカに泣く現地・壱岐 (国際的な自然保護のうねりに乗るイルカ- 壱岐の大量捕殺の波紋) , 中馬 和弘 , 朝日ジャ-ナル 20(17) , p124-125 , 1978-04-28 , 朝日新聞社
- ↑ 勝本港の「みなと文化」(PDF)(財)みなと総合研究財団, 2015年7月25日閲覧
- ↑ 教育用画像素材集 : シャチ(食) 独立行政法人 情報処理推進機構, 2015年7月25日閲覧
- ↑ (生徒6) シャチは頭がいいと言ってましたが、たまに引っかかることなんかはないんですか? 塩竈市 / 船頭さんから聞いたまぐろ延縄(はえなわ)の漁の話, 2015年7月25日閲覧
- ↑ シャチ回し 炊屋, 2015年7月25日閲覧
- ↑ 【研究ノート】 NHKアーカイブス保存映像の文化人類族学的調査の可能性 83-84頁。宇仁義和 , 東京農業大学生物産業学部 , 北海道民族学 第10号(2014) , (PDF), 2015年7月25日閲覧
- ↑ 特集 鳥獣被害対策を考える(1) 農林水産省 2015年7月25日閲覧
- ↑ ヒョウアザラシ(ヒョウアザラシ)とは 日本大百科全書(ニッポニカ)の解説 - コトバンク , 2015年7月25日閲覧
- ↑ 特集:初期人類の少女の化石発見 2006年11月号, ナショナルジオグラフィック, 2015年7月25日閲覧
- ↑ 『日本の恐竜図鑑 じつは恐竜王国日本列島』、著:宇都宮聡, 川崎悟司、築地書館。(書籍)
- ↑ 取材ウラ日記 どう猛な怪魚 ウツボの撮影に挑む ダーウィンが来た!生きもの新伝説 2015年7月25日閲覧
- ↑ 環境省_串本海域公園_危険な生きもの:ウツボ 環境省 2015年7月25日閲覧
- ↑ オオカミウオ人気 2013年06月14日の記事, 北見・網走・オホーツクのフリーペーパー経済の伝書鳩, 2015年7月25日閲覧
- ↑ 日本の旬・魚のお話(秋の魚-11):カマス 神港魚類株式会社, 2015年7月25日閲覧
- ↑ オニカマス WEB魚図鑑, 2015年7月25日閲覧
- ↑ Great barracuda Florida Museum of Natural History Ichthyology Department, 2015年7月25日閲覧
- ↑ ゴマモンガラ 海の中の危険な生き物, 2015年7月25日閲覧
- ↑ 珍魚採集報告第107号 ゴマモンガラ 東京都島しょ農林水産総合センター, 2015年7月25日閲覧
- ↑ a b 海のギャングを駆除 400キロ超の大ザメも 2013年7月19日, 八重山日報公式ホームページ, 2015年7月25日閲覧
- ↑ 大洗水族館 aqua-Q 第23回 サメ1-1 : サメはよく“海のギャング”とか“深海の支配者”などといわれていますが、やはり怖いものなんですか? 大洗水族館 / アクアワールド・大洗ホームページ, 2015年7月25日閲覧
- ↑ “須磨海浜水族園” 海のギャング「タイガーシャークの解剖教室」の参加者を募集します!! 2012年11月29日, 神戸市(神戸市立須磨海浜水族園), 2015年7月25日閲覧
- ↑ 春の地魚 - タチウオ おんまくお魚市場, 2015年7月25日閲覧
- ↑ 小林照幸 『海洋危険生物』 文藝春秋〈文春新書〉、2002年。ISBN 4166602314。pp. 124-128。
- ↑ 魚名:た行 - ダツ(駄津) 江ノ島小屋の魚図鑑, 2015年7月25日閲覧
- ↑ 小野田港沖で「ナルトビエイ一斉駆除」-海のギャング、今年は約23トン捕獲 2011年07月26日 山口宇部経済新聞, 2015年7月25日閲覧
- ↑ お魚探検隊 - 第106回 最近お騒がせしています -ナルトビエイ編- 下関市立しものせき水族館 「海響館」, 2015年7月25日閲覧
- ↑ 海のギャングはサメやシャチだけじゃない!!巨大なエサに喰らいつく超巨大魚「ハタ」の食事風景が圧巻!! 2013年7月9日 コモンポストムービー, 2015年7月25日閲覧
- ↑ ハタ王国の栄光と危機 世界に誇るハタ王国 2011年3月072ページ 文・李珊圖・薜継光 『台湾光華』雑誌(Taiwan Panorama) 台湾政府・新聞局, 2015年7月25日閲覧
- ↑ ハイビジョン特集 シリーズ 日本人カメラマン 野生に挑む(PDF)2008年2月20日プレスリリース NHK広報局, 2015年7月25日閲覧
- ↑ 舞阪港ハモ ハモの歯の秘密 南浜名湖あそび隊!(はまぞう), 2015年7月25日閲覧
- ↑ 私の古生物誌 太古の海のギャング、ウミサソリの話(その1、その2) 医学博士・福田芳生。THE CHEMICAL TIMES, 2005 N0.4(通巻198号), 2015年7月25日閲覧
- ↑ 第18回 東京国際ミネラルフェア 2005年6月4日 いわき自然史研究会, 2015年7月25日閲覧
- ↑ アサリの天敵・「ツメタガイ」と「サキグロタマツメタ」について(PDF) - 三重県科学技術振興センター, 2015年7月25日閲覧
- ↑ 南房総資源辞典 - 動物 - 砂浜 南房総市, 2015年7月25日閲覧
- ↑ 藤前干潟の軟体動物 川瀬 基弘(愛知みずほ大学人間科学部人間環境情報学科), 2015年7月25日閲覧 (PDF)
- ↑ 日本最東端の地 根室で海を守り続ける漁師たち - 海のゆりかご通信 ひとうみ.jp(水産多面的機能発揮対策支援事業), 2015年7月25日閲覧 (PDF)
- ↑ 「海のギャング」ヒトデを発酵させ堆肥に改良=北海道・帯広 全商連[全国商工新聞](現物→オニヒトデの堆肥販売開始! トロント), 2015年7月25日閲覧
- ↑ オニヒトデ、過去最高の約19万匹駆除 恩納村漁協 1997年4月5日 琉球新報, 2015年7月25日閲覧
- ↑ 第006回国会 水産委員会 第16号 昭和二十四年十一月二十八日(月曜日),第006回国会 水産委員会 第10号 昭和二十四年十一月十七日(木曜日), 2015年7月25日閲覧
- ↑ 高速魚雷艇・PTボート 2015年7月25日閲覧
- ↑ フェロー諸島自治政府は偉い! 2015年7月24日, 織伊友作の『時事巷談』, 2015年7月25日閲覧
- ↑ 漁業 "海のギャング"と化した中国漁船の根こそぎ乱獲で「東シナ海は真水になる!?」 サピオ 17(23), 26-28, 2005-12-14. 小学館
- ↑ 鯨類等の国際海洋水産資源の持続的利用に向けた日本の国際戦略と展望 17頁。2004-04-09, 小松 正之, 2015年7月25日閲覧 (PDF)
- ↑ The Remarkable Story Of How Lobster Went From Being Used As Fertiliser To A Beloved Delicacy Business Insider Austraria, by Megan Willett, Aug 17 2013, 2015年7月25日閲覧
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