林紘義
林 紘義(はやし ひろよし、1938年 - 2021年2月10日)は、日本の政治活動家。労働の解放をめざす労働者党(略称・労働者党)代表委員会議長[1]。筆名・栗木伸一[2]。
略歴[編集]
長野県上田市生まれ、同県伊那谷出身[1]。東京大学に進学後、日本共産党を経て、共産主義者同盟(第一次ブント)の同盟員・全学連・都学連の常駐メンバーとなった[3]。1958年~1960年、自治会役員・都学連執行委員として、勤務評定反対闘争や60年安保闘争に参加。2回逮捕され、起訴、有罪判決を受けた[4]。この時期に青木昌彦・樺美智子・清水丈夫・西部邁・坂野潤治らと出会っている[3]。
第一次ブントの分裂後は、「プロレタリア通信派」(プロ通派)に所属[5]。1961年に田川和夫と「共産主義の旗派」(共旗派)を結成した[6]。1962年、東京大学文学部卒業[7]。同年4月に共旗派は分派闘争の中止を呼びかけて「日本共産労働党」を結党、田川が委員長となったが、この大ブント構想は失敗した[6]。同年12月に共旗派は「共産主義者同盟」を結成、林が代表となった[8][9]。
共旗派の流れを汲む林らのグループは、1963年12月に革命的サークル「全国社会科学研究会」(全国社研)を結成した[10]。1972年7月に全国社研は「マルクス主義労働者同盟」(マル労同)に移行、その政治局員を務めた[11]。1984年にマル労同が改組した「社会主義労働者党」(社労党)の結成に参加、その委員長を務めた[12]。2002年に社労党は解散して「マルクス主義同志会」に移行、その会員となった。2017年にマルクス主義同志会は「労働の解放をめざす労働者党」(労働者党)に移行、その代表委員会議長となった[1]。
60年安保闘争の敗北以後、社共と新左翼の急進派を「左右の日和見主義」と批判する、独自の立場から社会主義運動を続けている。国政選挙に複数回組織候補として立候補しているが、いずれも落選している。2019年に予定されている第25回参議院議員通常選挙では、労働者党は10名の候補者を擁立し、林は比例区2位で立候補する予定[1]。
『父性の復権』(1999年)などの著書がある元東京女子大学教授・林道義は兄。その思想だけでなく、私生活上の行状も暴露して厳しく批判している[13]。林道義はホームページ上で弟への反批判を発表している[14]。
選挙歴[編集]
選挙名 | 投票日 | 選挙区名 | 得票数 | 得票率 | 備考 |
---|---|---|---|---|---|
第34回衆議院議員総選挙 | 1976年12月5日 | 神奈川1区 | 1,616票 | 0.325% | |
第11回参議院議員通常選挙 | 1977年7月10日 | 神奈川地方区 | 20,813票 | 0.8% | |
第14回参議院議員通常選挙 | 1986年7月6日 | 比例区 | 146,243票 | 0.26% | |
第15回参議院議員通常選挙 | 1989年7月23日 | 比例区 | 139,682票 | 0.25% | 得票数・得票率は林を含む9名の立候補者の合計値 |
出典:労働の解放をめざす労働者党編『我々はいかに闘ったか――神奈川11区の闘い』全国社研社、2018年、84頁。
国家資本主義論[編集]
1960年代からソ連や中国などの体制を一種の資本主義だとする「国家資本主義」論を展開している。既にトニー・クリフや対馬忠行らがソ連は高度な段階の資本主義であるとする説を唱えていたが、これとは逆にソ連型体制は低い段階の資本主義であり、やがて「自由資本主義」に移行するという説は林が初めて唱えた。このような国家資本主義説の立場を取る論者に、大谷禎之介、大西広、松尾匡などがいる。松尾は「林の議論には納得できないことは山のようにあるが、この一点に関しては誰もかなわなかった、ひれ伏すしかない。 」と林の先見性を高く評価している[15]。
著書[編集]
単著[編集]
- 『我々の闘いの軌跡――"左"右の日和見主義に反対して 栗木伸一評論集』栗木伸一著、全国社研社、1979
- 『宮本・不破への公開質問状――ハンガリー事件・スターリン批判・ポーランド問題について』全国社研社、1982
- 『資本論学習会 第1期 「資本」の基礎としての「商品」』林紘義述、武三出版会編、武三出版会、1989
- 『変容し解体する資本主義――“管理通貨制度”とは何か、そしてそれは歴史的に何を意味するか』全国社研社、1996
- 『哀惜の樺美智子――60年安保闘争獄中記』三一書房、1997
- 『林紘義著作集』全6巻、ういんぐ・出版企画センター
- 「第1巻 「労働価値説」擁護のために――一切の俗流学派とりわけ宇野学派に反対して」1998年
- 英訳:Hayashi Hiroyoshi, Marx's Labor Theory of Value : A Defense, trans. by Roy West, Bloomington (Indiana): iUniverse, 2005
- 「第2巻 幻想の社会主義(国家資本主義の理論)――スターリン、毛沢東の体制はなぜにいかにして資本主義に進化したか」1998年
- 英訳:Hiroyoshi Hayashi & Kennichi Suzuki, "Socialism" Stalinist or Scientific : The Marxist Theory of State Capitalism, trans. by Roy West, Tokyo: Zenkokushakensha, 2000
- 「第3巻 腐りゆく資本主義――バブル、企業腐敗、金融危機、国家解体……」1998年
- 「第4巻 観念的、宗教的迷妄との闘い――黒田寛一、宇野弘蔵、広松渉、林道義等批判」1999年
- 「第5巻 女性解放と教育改革――そして文学の有りようについて」1999年
- 「第6巻 民族主義、国家主義に抗して――ガイドライン法、日の丸・君が代、そして天皇制」1999年
- 『女帝もいらない 天皇制の廃絶を――憲法改定の最優先課題』全国社研社、2005
- 『教育のこれから――「ゆとり」から「競争」 そして「愛国教育」でいいのか』全国社研社、2006
- 『不破哲三の“唯物史観”と『資本論』曲解――マルクス主義をjargonにすりかえて』全国社研社、2007
- 『『家族、私有財産及び国家の起源』を探る――ブルジョア学者・モルガンに追随したエンゲルス』全国社研社、2008
- 『崩れゆく資本主義、「賃金奴隷制」の廃絶を――資本の無政府主義の横行闊歩そして蔓延する国家の無政府主義』全国社研社、2009
- 『まさに「民主党らしさ」そのものだった――鳩山政権の九ヵ月』ういんぐ、2010
- 『「核エネルギー」はなぜいかにして「危険」か――原発事故の責任を問う前に再稼働は認められない』ういんぐ、2011
- 『人類社会の出発点 古代的生産様式――「アジア的生産様式」論の復活を』全国社研社、2012
- 『第一次安倍政権の二大“前科”を問う――教育基本法と従軍慰安婦問題で教育・報道への政治介入』全国社研社、2013
- 『「アベノミクス」を撃つ――カネをバラまくことで国も経済も救えない』全国社研社、2013
- 『「資本」の基礎としての「商品」――『資本論』を学ぶために』全国社研社、2015
- 『日本共産党と『資本論』――マルクス主義の曲解とえせ解釈そして教条主義と修正主義』全国社研社、2016
編著[編集]
分担執筆[編集]
- 『レーニンの今日的意味』 レーニン生誕百年記念論文刊行会編、パピルス、1970
- 『国際共産主義労働運動史――その苦悩と闘いの歴史』全国社会科学研究会編集委員会編著、全国社会科学研究会、1971
- 『スターリン体制から「自由化」へ――現代「社会主義」体制論 国家資本主義の内的「進化」のあとづけ』全国社会科学研究会編集委員会編著、全国社会科学研究会、1972
- 『60年安保とブント(共産主義者同盟)を読む――島成郎と60年安保の時代2』 島成郎記念文集刊行会編著、情況出版、2002
- 『我々はいかに闘ったか――神奈川11区の闘い』労働の解放をめざす労働者党編、全国社研社、2018
脚注[編集]
- ↑ a b c d 海つばめ第1331号 2018年7月15日 労働の解放をめざす労働者党
- ↑ 『栗木伸一(林 紘義)評論集 我々の闘いの軌跡』の紹介 労働の解放をめざす労働者党
- ↑ a b 西部邁の自死 労働の解放をめざす労働者党ブログ(2018年1月27日)
- ↑ 『「核エネルギー」はなぜいかにして「危険」か』著者紹介
- ↑ 我々の闘いの軌跡――「共産主義の旗」派――1961年の闘い 労働の解放をめざす労働者党
- ↑ a b 板橋真澄「田川和夫」戦後革命運動事典編集委員会編『戦後革命運動事典』新泉社、1985年、176-177頁
- ↑ 林紘義著作集全六巻 ういんぐ出版企画センター
- ↑ 「全学連関係組織図」社会問題研究会編『全学連各派――学生運動事典』双葉社、1969年
- ↑ w579(2018/2/1) ワーカーズ
- ↑ 日本社会主義運動史 マルクス主義同志会
- ↑ 社労党出版案内:『我々の闘いの軌跡』 社会主義労働者党
- ↑ 『林紘義著作集』の紹介 労働の解放をめざす労働者党
- ↑ 第四巻観念的、宗教的迷妄との闘い ういんぐ・出版企画センター
- ↑ 父性7 林道義のホームページ
- ↑ 用語解説:ソ連=国家資本主義論 松尾匡のページ