岩田弘
岩田 弘(いわた ひろし、1929年2月22日 - 2012年1月31日)は、マルクス経済学者。立正大学名誉教授。
経歴[編集]
三重県生まれ[1]。1945年3月三重県立神戸中学校卒業[2]。1946年4月の戦後第1回総選挙のとき日本共産党に入党[3]。1947年頃名古屋経済専門学校に入学[1]。1950年名古屋大学経済学部に入学。1952年7月の大須事件に参加し逮捕・起訴[2]。当時、共産党の名古屋大学経済学部班のキャップだった[4]。1953年名古屋大学経済学部卒業。1954年東京大学大学院に入学[2]。宇野弘蔵ゼミに参加。宇野の定年退官後は鈴木鴻一郎ゼミに参加[1]。1957年東京大学大学院社会科学研究科博士課程修了[5]。1962年立正大学経済学部に就職[1]、1964年教授[5]。1965年7月「経済学における理論と対象」で経済学博士(東京大学)[6]。大須事件の判決の結果、執行猶予期間の1979年5月31日から1980年9月30日まで教員職を解任、立正大学嘱託。1980年10月1日から教員職に復帰。1999年3月立正大学を定年退職[7]、2000年名誉教授[5]。
2012年1月31日、心筋梗塞のため死去、82歳。
人物[編集]
宇野学派の異端。名古屋経済専門学校3年生のとき名古屋大学経済学部の宇野弘蔵の集中講義を傍聴し、宇野理論に接した。その後、東京大学大学院の宇野ゼミで学び、宇野理論を批判的に継承して独自の世界資本主義論(岩田理論、岩田資本主義論、岩田危機論)を構築した。半ば理解者だった降旗節雄を除くとゼミのほぼ全員が岩田の世界資本主義論に否定的であったが、宇野の定年退官後にゼミを引き継いだ鈴木鴻一郎からは支持を受けた[1]。鈴木が世界資本主義論(鈴木理論)を提唱した鈴木鴻一郎編『経済学原理論(上・下)』(東京大学出版会、1960-62年)はゼミ生の降旗節雄、岩田弘、鎌倉孝夫、小林弥六、新田俊三、大内秀明、阪口正雄、桜井毅の8名が分担執筆したものだが、「その大綱を示す「序論」草稿は最後に岩田が実質的に執筆した,といわれる」という[2]。岩田は後年にインタビューで『経済学原理論』は実は岩田が書いたという噂は本当なのかという問いに「重要なシナリオに関して、かなり関与したことは事実です(笑)」と答えている[3]。岩田理論は当初は鈴木理論の陰に隠れていたが、『世界資本主義』(未來社、1964年)で知られるようになった[2]。鈴木ゼミの後輩にあたる侘美光彦は岩田の著書と同一タイトルの『世界資本主義』(日本評論社、1980年)を刊行し、鈴木・岩田の世界資本主義論(鈴木・岩田理論)を批判して独自の世界資本主義論(侘美理論)を提起した[8]。
桜井毅によると、鈴木鴻一郎が『価値形態論』(日本評論新社、1958年)を刊行した中野正を東大大学院の非常勤講師に招き、岩田、降旗節雄、公文俊平などが熱心に中野のゼミに出席していた。桜井は「…中野が『資本論』に資本主義の歴史的形成そのものの論理の確立をみていることは,岩田の思考に一つの方向性を与えているように思われるのである.ただ岩田本人は中野からの直接的影響は否定しているので,委細は不明である.ただ当時そのようなことが院生の中で噂されていたことは事実だ」と述べている[2]。
「現代資本主義は戦争と革命の時代である」と規定した論文「現代資本主義と国家独占資本主義」(『経済評論』1962年6月号。『世界資本主義』に所収)は60年安保闘争後に崩壊したブントの活動家に大きな影響を与えた[9]。ブント・マル戦派、第二次ブントの理論的支柱となり、70年以降は佐藤浩一、川上忠雄らと共産主義者党(前衛派)を結成して活動した[9]。岩田の世界資本主義論は吉本隆明や黒田寛一からはパラノイアックな「万年危機論」と揶揄され、新左翼運動の退潮、大衆消費社会の登場とともに顧みられなくなったが、90年代になってウォーラーステインの世界システム論の先駆として再評価されるようになった(『批評空間』の柄谷行人によるインタビューなど)[10]。
主著に『世界資本主義』(未來社、1964年、新版2006年)、『マルクス経済学(上・下)』(盛田書店、1967-69年)、『現代国家と革命』(現代評論社、1971年)、『現代社会主義と世界資本主義』(批評社、1989年、新版2006年)がある。『現代社会主義と世界資本主義』は柄谷行人・浅田彰・岡崎乾二郎・奥泉光・島田雅彦・絓秀実・渡部直己の共著『必読書150』(太田出版、2002年)で「参考テクスト70」の1つに選ばれている。
著書[編集]
単著[編集]
- 『世界資本主義――その歴史的展開とマルクス経済学』(未來社、1964年7月)
- 『マルクス経済学――資本論 帝国主義論 現代資本主義(上・下)』(盛田書店、1967年12月-1969年2月/風媒社、1972年5月)
- 『資本主義と階級闘争――共産主義Ⅰ』(社会評論社、1972年11月/批評社、1983年3月)
- 『現代社会主義と世界資本主義――共同体・国家・資本主義』(批評社、1989年10月)
- 『資本主義と階級闘争――資本・労働・世界資本主義』(批評社、1989年10月)
- 『資本主義経済の原理』(風媒社、1992年5月)
- 『世界資本主義Ⅰ――新情報革命と新資本主義の登場 グローバルネットワーク資本主義としての新資本主義 資本論体系の今日的意味を問う』(批評社、2006年11月)
- 『現代社会主義と世界資本主義――共同体・国家・資本主義 現代社会主義の破綻21世紀はこれをどう総括するか』(批評社、2006年12月)
- 『岩田弘遺稿集――追悼の意を込めて』(五味久壽編、批評社、2015年12月)
共著[編集]
編著[編集]
- 『マルクス主義の今日的課題――現代革命論入門』(編著、林書店、1966年11月)
- 『激化する世界危機と現代革命――マルクス主義の今日的課題』(編著、両地社、1969年4月)
- 『現代国家と革命』(編著、現代評論社、1971年1月)
- 『労働者管理と社会主義』(川上忠雄、矢吹晋共編著、社会評論社、1975年5月)
出典[編集]
- ↑ a b c d e 櫻井毅「岩田弘氏の逝去を惜しむ」『「宇野理論を現代にどう活かすか」Newsletter』(第2期第7号通巻第19号)、2012年3月
- ↑ a b c d e f 櫻井毅「岩田弘の世界資本主義論とその内的叙述としての経済理論(PDF)」『武蔵大学論集』第62巻第1号、2014年7月
- ↑ a b 岩田弘、柄谷行人「インタビュー 岩田弘に聞く 世界資本主義と近代世界システム」『批評空間』第Ⅱ期第20号、1999年1月
- ↑ 絓秀実『1968年』ちくま新書、2007年、58頁
- ↑ a b c 現代社会主義と世界資本主義 / 岩田 弘【著】 紀伊國屋書店ウェブストア
- ↑ CiNii 博士論文 - 経済学における理論と対象
- ↑ 五味久壽「岩田弘先生の経済学を振り返る」『「宇野理論を現代にどう活かすか」Newsletter』(第2期第7号通巻第19号)、2012年3月
- ↑ 新田滋「侘美理論と世界資本主義論の可能性」『茨城大学人文学部紀要. 社会科学論集』第42号、2005年9月
- ↑ a b 海野正次「岩田弘」、現代革命運動事典編集委員会編『現代革命運動事典』流動出版、1981年、27頁
- ↑ 絓秀実『革命的な、あまりに革命的な――「1968年の革命」史論』作品社、2003年、216-217頁