侘美光彦
侘美 光彦(たくみ みつひこ、1935年1月26日 - 2004年6月20日)は、マルクス経済学者。
経歴[編集]
愛知県名古屋市生まれ[1]。岡山県倉敷市出身[2]。1953年東京都立北園高等学校卒業[3]。1958年東京大学経済学部卒業。1965年東京大学大学院経済学研究科博士課程単位取得退学[4]。大学院で鈴木鴻一郎のゼミに所属[5]。1965年東京大学経済学部助手、1967年助教授、1980年教授。1995年停年退官、立正大学経済学部教授[4]、東京大学名誉教授[6]。この間、立正大学経済研究所長を兼任[4]。1997年『世界大恐慌――1929年恐慌の過程と原因』(御茶の水書房、1994年)で第8回日本学士院賞受賞[7]。1997年「世界大恐慌 : 1929年恐慌の過程と原因」で博士(経済学)(東京大学)[8]。2004年6月20日、心臓発作で死去[9]、69歳。
人物[編集]
宇野学派の代表的論客[10]。恐慌史研究の第一人者[11]。「金融資本の形成とイギリス資本市場」(鈴木鴻一郎編『帝国主義研究』日本評論社、 1964年)や『国際通貨体制――ポンド体制の展開と崩壊』(東京大学出版会、1976年)で「19世紀末から20紀初頭にかけての古典的 「帝国主義」 段階の国際金融・景気循環を実証的に分析」し、レーニンから宇野弘蔵、鈴木鴻一郎、岩田弘までが共通して抱いていた自由主義段階、古典的 「帝国主義」 段階像が実態とは異なることを明らかにした[5]。1980年に鈴木ゼミの先輩にあたる岩田の高名な著書と同一タイトルの『世界資本主義――『資本論』と帝国主義論』(日本評論社)を刊行した。宇野弘蔵・大内力の純粋資本主義論を批判した鈴木鴻一郎・岩田弘の世界資本主義論(鈴木・岩田理論)をさらに批判して、独自の世界資本主義論(侘美理論)を提起した[5]。1982年から92年に東京大学『経済論集』に逐次掲載した論文をまとめた1000頁を越す大著『世界大恐慌――1929年恐慌の過程と原因』(御茶の水書房、1994年)では1929年世界大恐慌を実証的に分析し、同書で日本学士院賞を受賞した[9][12]。90年代には平成不況やそれをめぐる経済政策に関する論戦に積極的に参加し、平成不況の一般向けの解説書である『「大恐慌型」不況』(講談社、1998年)はベストセラーとなった[9]。同書で1930年昭和恐慌と平成不況を比較し、平成不況はデフレ・スパイラルから「大恐慌」化する可能性があると警鐘を鳴らした。不況を恐慌に転化させない経済政策として物価の下落を止めることを提言した[13]。
著書[編集]
単著[編集]
- 『国際通貨体制――ポンド体制の展開と崩壊』(東京大学出版会[東大社会科学研究叢書]、1976年)
- 『世界資本主義――『資本論』と帝国主義論』(日本評論社、1980年)
- 『世界大恐慌――1929年恐慌の過程と原因』(御茶の水書房、1994年)
- 『「大恐慌型」不況』(講談社、1998年)
編著[編集]
- 『競争と信用』(山口重克、伊藤誠共編、有斐閣、1979年)
- 『経済学I――資本主義経済の基礎理論』(桜井毅、山口重克、伊藤誠共編、有斐閣[有斐閣大学双書]、1980年)
- 『経済学Ⅱ――資本主義経済の発展』(桜井毅、山口重克、伊藤誠共編、有斐閣[有斐閣大学双書]、1980年)
- 『マルクス経済学の現代的課題』(佐伯尚美、石川経夫共編、東京大学出版会[東京大学産業経済研究叢書]、1981年)
- 『世界恐慌と国際金融――大戦間恐慌史研究』(杉浦克己共編、有斐閣、1982年)
- 『国際金融――基軸と周辺』(杉浦克己共編、社会評論社[マルクス経済学叢書]、1986年)
- 『世界大恐慌の分析』(平田喜彦共編、有斐閣、1988年)
出典[編集]
- ↑ 侘美光彦『世界資本主義――『資本論』と帝国主義論』日本評論社、1980年
- ↑ 侘美光彦「宇野先生の生家」、宇野マリア編『思い草――宇野弘蔵追悼文集』宇野マリア、1979年
- ↑ 『東京大学経済学部五十年史』東京大学出版会、1976年
- ↑ a b c 「侘美光彦教授略歴,主要研究業績目録」『経済学季報』第54巻第1号、1995年1月
- ↑ a b c 新田滋「侘美理論と世界資本主義論の可能性」『茨城大学人文学部紀要. 社会科学論集』第42号、2005年9月
- ↑ 侘美光彦『「大恐慌型」不況』講談社、1998年
- ↑ 恩賜賞・日本学士院賞・日本学士院エジンバラ公賞授賞一覧 日本学士院
- ↑ CiNii 博士論文
- ↑ a b c 横山幸永「侘美光彦先生追悼」『経済学季報』第54巻第1号、1995年1月
- ↑ 「特集 世紀末大不況とマルクス経済学」『月刊状況と主体』第278号、1999年2月
- ↑ 宮崎犀一「佗美光彦・杉浦克巳編, 『世界恐慌と国際金融』 : 大戦間恐慌史研究, 有斐閣、一九八二年一月、x+四五三頁、七、二〇〇円(PDF)」『社会経済史学』第49巻第5号、1984年
- ↑ 「侘美光彦氏の『世界大恐慌--1929年恐慌の過程と原因』に対する授賞審査要旨(PDF)」『日本學士院紀要』第52巻第2号、1997年12月
- ↑ 森島覚「侘美光彦著『「大恐慌型」不況』(PDF)」『追手門経済論集』第33巻第2号、1998年2月
関連文献[編集]
- 杉浦克己、高橋洋児編著『市場社会論の構想――思想・理論・実態』(社会評論社、1995年)
外部リンク[編集]
- 景気回復には賃上げ、雇用増を 経済の米国一辺倒脱すべき 労働新聞、2000年4月5日
- デジタル版 日本人名大辞典+Plus 「侘美光彦」の解説 コトバンク