王シュレット事件

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王シュレット事件(おうシュレットじけん)は、2003年フジテレビ系列水10!』の1コーナーとして放送されていた番組『ワンナイR&R』(渡辺琢演出)で、プロ野球福岡ダイエーホークス監督(当時)・王貞治(現:福岡ソフトバンクホークス会長、以下この項目での表記は王監督)を侮辱するような内容のコントがホークスの地元局のテレビ西日本を含めて放送され、フジテレビやテレビ西日本に批判や苦情が寄せられた騒動である。

経緯[編集]

2003年8月13日、番組で放送された、通販番組を題材にしたコーナー「ジャパネットはかた」のコーナーで、山口智充宮迫博之が福岡ダイエーホークス監督(当時)王貞治のを模した温水洗浄便座ウォシュレット」装置付き便器(王シュレット。王の顔が腰掛便器内に仕掛けられていて、そのから天井にまで届く高圧水が出て、落ちてくる大便を意識的に避けるもの)を紹介するというコントを行った。宮迫が股間を見せずにパンツを脱いで、王貞治の顔の模型が入った温水洗浄便座の上に座り用を足そうとする映像が流れ(その前にその上に座ることに対して「おかしいやろ!何で俺がこんな…」とコメントを残している)、自身の肛門を強力な高圧水を浴びながら「痛い!痛い!あっ!痛た!あのちょっと待って!あっ!痛!あっ!痛!ちょちょっと止めて!止めて!止めて痛い!痛い!痛い!」「ちょっと待って。アカン!アカンちょっと待って!痛い!痛い!痛い!痛い!あっ!痛い!アカン!アカン!(大便が)もう出る…。」「だ、大便出る…。」「(肛門の中に強力な高圧水の水が)物凄い入ってきたもん!」「ちょっとだけですよ。ちょっとだけですけど、(大便が)出…。」とリアクションした[1]

放送後の反応[編集]

このコントで、王監督を侮辱したとして球団側がフジテレビに抗議[2]。その後、フジテレビ側が本人と球団関係者に謝罪する[3]も、8月19日、球団オーナー代行の高塚猛は「同年の日本シリーズ中継にフジテレビ系列のテレビ局を推薦しない」方針を表明[2]し、最終戦の放送権テレビ東京が獲得した[注 1]

また、日本シリーズでの対戦相手だった阪神タイガース監督(当時)の星野仙一もスポーツ紙からの取材[4]に際し、フジテレビおよび山口と宮迫の所属する吉本興業に対する不快感を激しい口調で表明した。

番組の制作局であるフジテレビは、テレビ西日本を含む番組の制作に一切関与していないFNSのすべての地方系列局も巻き込む形で責任を取ることとなり、2003年の日本シリーズについて、日本テレビ系列とのクロスネット局であるテレビ大分テレビ宮崎[注 2]以外のFNS系列局では試合中継の放送が全くが行われない事態となった(第7戦のダイジェスト中継もフジテレビ系列では実施されなかった)。

クロスネット局での『水10!』の通常の編成は、テレビ大分では遅れネット[注 3]で、テレビ宮崎は同時ネットだった。この年の日本シリーズについて、テレビ大分は第2戦のみ、テレビ宮崎は第2戦と第5戦[注 4]を放送。

また、ウォシュレットのコントではビデを捩った「シゲ」という器具も紹介され、スイッチを押すと山口が長嶋茂雄の声マネ(「う〜ん、どうでしょう」)で器具の作動アナウンス音を再現する場面があり、かつて王監督とともに巨人の顔であった長嶋茂雄(現:同球団終身名誉監督)を連想させるものだったが、これに関しては長嶋および読売グループ読売新聞社・読売巨人軍・日本テレビ報知新聞社など)からの抗議は特になかった。

事件への対応とその影響[編集]

事件の翌週(2003年8月20日)の放送では、冒頭でフジテレビアナウンサー(当時)の須田哲夫が謝罪した[2]が、謝罪の放送時間が15秒程しかなかったため、視聴者からは「この程度では謝罪にならない」という苦情や批判が寄せられた[5]。この事態で当時フジテレビ社長だった村上光一までもが担当プロデューサーと共に大阪ドームへ赴き、対近鉄戦の直前に監督室で王監督の前で頭を下げて謝罪する羽目になった(スポーツ報知はこの時の様子を窓ガラス越しに撮影、その写真を翌朝の記事で掲載した)。また、フジテレビで最高の責任者(CEO)であるはずの日枝久が謝罪に出向かず、実質社内で2番目の責任者であり、日枝の部下である村上社長が謝罪に出向いたことも社会から大きな非難を浴びる事になった。

8月20日 - 9月末まで『水10!』自体は前後提供クレジットは自粛した。また、この事件の影響から、番組名も『水10!・ワンナイ』から『水10!』となり、新聞の番組表にも『ワンナイ』のみ番組タイトルの表記はなくなった。この他にも、「企業イメージを損ねた」として、ウォシュレットの製造元かつ商標権者でもある東陶機器[注 5]北九州市、スポーツ支援顧問に王監督を起用していた)やコーナーのネタ元になったジャパネットたかた佐世保市、同年3月までホークスのスポンサーであった)が『FNNスーパーニュース』などのスポンサーを降板し(ジャパネットは後に復帰)、CMは公共広告機構(現:ACジャパン)のものに差し替えられる事態になった。

その『ワンナイ』での事件は、「王シュレット事件」に留まらなかった。この事件の謝罪放送をした当日の番組中、妊婦に扮した小池栄子に山口らが粉ミルクをかけるコントを行い、視聴者から再び抗議が殺到。映像の中で同時にかけた粉ミルクの商品名が和光堂の「ぐんぐん」であることが判明したため、今度は和光堂がフジテレビに対して抗議した。訴訟を回避するために謝罪として製作会社が払った額は1千万円以上になるとも言われている。また謝罪直後の放送には、「同性愛」について取り扱ったコントが放送され、これについても放送倫理・番組向上機構(BPO)などに苦情が相次いだが、世論を騒がせるまでには至っていない。

粉ミルクのコントに関する詫びは9月3日放送分で番組終了間際のお詫びテロップが流れただけだったため、またもや苦情が殺到。『ワンナイ』はその後この年の『親が子供に見せたくない番組』(日本PTA全国協議会主催)アンケートにおいて2位にランクインした上、『新春かくし芸大会』などで放送可否にかかわる問題を起こしたことや、視聴率が低迷して裏番組に敗北したことが影響して、2006年12月20日放送分をもって終了してしまった。それから9ヵ月後、「水10!」は2007年9月26日放送分をもって終了した。

このような番組が作られた背景には鹿内春雄が、設立以来70年代まで低迷を続けたフジテレビの機構改革の一環として掲げた「楽しくなければテレビじゃない」というスローガンの下に生み出された「軽チャー路線」の弊害がある。この路線は視聴者に深く受け入れられてフジテレビは急成長を遂げ、現在では視聴率・売上高・利益共に業界断トツトップの優良テレビ局となっていったのだが、その結果、これがテレビ番組全体の低俗化やひいてはいじめなどの社会問題を招く結果となり、日本全体のモラルを低下させた一因ともなってしまった。にもかかわらず、「鹿内チルドレン」と呼ばれ後に社長になった日枝久や村上光一はこの方針を転換せず、バラエティー中心の編成を推し進めた結果更にバラエティー番組の低俗化を招き、この路線の歪みがこのような番組、ひいてはコーナーを生み出してしまったとも言える。しかし、未だにフジテレビは「軽チャー路線」の方針を変えておらず、この問題の後も、そして現在に至るまでフジテレビは多くの問題を引き起こしている。元フジテレビアナウンサーの露木茂もインタビューでフジテレビのこの路線を「もう時代遅れ」と批判しており、「もっと大人が楽しめる番組を作らなければいけない」と警鐘を鳴らしている。フジテレビではバラエティ番組の低俗化のみならず、他局と比べて特異とされる報道体制も問題視されており、こういった様々な要因はその後のフジテレビ低迷を招いた。

この事件について、王は「野球界と芸能界を一緒にするからこういうことになる」と憤慨し、加えて「僕自身は実際に(同番組の映像を)見ていないが、かなりえげつないものだったと聞いている。対応?それは球団に任せているから。」とコメントした[6]。その一方で、明石家さんまは、朝日新聞のインタビュー記事にて、この件に触れ、同コントの出演者に関してはフォローするコメントを述べている。

また、フジテレビのバラエティ番組とプロ野球関連でのトラブルは、当事件以外にも多々に発生している。1997年秋のダウンタウンのごっつええ感じSPがヤクルトスワローズ優勝決定試合に急遽、差し替えられ、松本人志が激怒し、当番組が打ち切りになった事態や、2001年夏に放送されたFNS27時間テレビ内のオールスターゲーム中継にて、当時の選手とタレントたちが中継でやり取りをした際、堀内健が選手に対して、失礼な言動を取ってしまい、日本プロ野球選手会から抗議を受けた。

このような事態に対して、広岡達朗豊田泰光などのプロ野球OBからも、著書において、苦言を呈していた。当時阪神タイガースを率いていた星野仙一も「あれは怒って当然!しかも世界の王さんになんて事を!やって良い事と悪い事の区別もつかんのか?」「もし俺が同じようなことされたら当然怒るし、その際胴上げやらビールかけやら全て取材禁止や!」と激怒し、ブログにも「腸が煮えくり返っている。関係者全員、王さんの前で土下座せい!」とフジテレビ側を激しく非難している。

その後、ホークスの日本シリーズのFNS系列での中継放送は後身の福岡ソフトバンクホークスにて、後任の秋山幸二監督が指揮をとる2011年[注 6]まで行われなかった[注 7]

この事件の影響か、当事者の宮迫・山口や宮迫の相方の蛍原徹雨上がり決死隊)、山口の相方だった平畠啓史DonDokoDon)、構成作家として関与していた渡辺鐘(現:桂三度)と王をはじめとした福岡ソフトバンクホークス関係者および星野とは、全国ネット・ローカルを問わずバラエティ番組などでの共演がない。しかしながら、星野は、親交の深い明石家さんまや当事者の宮迫・山口・桂や関連人物の蛍原・平畠以外の吉本興業所属の芸人とは、さんま司会の番組や特番では共演をしている。

宮迫は、事件以後テレビ西日本制作番組には出演実績がないが、山口は、テレビ西日本開局50周年記念番組として制作されたドラマ『クッキングパパ』で主役を務めている。

また、この事件以来、ホークスを指す隠語(蔑称)として、「便器」の名が2ちゃんねるなんでも実況J板を中心に広まってしまった。

その他[編集]

  • 間接的ではあるが、この事件は後に日本シリーズ放送権にも影響を与えた。
    • テレビ東京は1974年を最後に日本シリーズの放送がなく、2003年も今回の事件がなければ日本シリーズの放送権を獲得する可能性はほとんどなかったが、今回の事件によって、フジテレビに代わって日本プロ野球機構への推薦[注 8]がされ、最終戦の放送権を獲得した。
    • 一方、他のキー局に比べ地上波の系列局が極端に少ないテレビ東京・TVQ九州放送での放映権獲得条件として、衛星放送では当時普及率の低かったテレビ東京系BSデジタル放送のBSジャパンではなく、BSアナログ放送がある程度普及して既に全国をカバーしているNHK-BSとの並列とする条件があり、NHK BS1NHKハイビジョンで放送を行っていたため、衛星放送に限れば全国での視聴は可能となっていた。
    • 3勝3敗にまでもつれ込めば、テレビ東京にとっては、実に29年ぶりの日本シリーズの放送が可能となる。結果は3勝3敗で最終戦までもつれ込んだため、テレビ東京系列で最終戦を放送する事となった。
    • しかし、放送権付与が系列単位で、この年に首都圏非ネットで始まった「たかじんのそこまで言って委員会」のように制作局のフジテレビや福岡の系列局のテレビ西日本のみの放映をペナルティで除外して、テレビ東京系列局のない地域での他系列局が肩代わりで中継することは認められなかったため、47都道府県のうち過半数以上の県において、テレビ東京の系列局の地上波での視聴ができない状態にあった。さらに、放送エリアの都道府県の中でも、地域によっては放送電波の影響により視聴できない地域もあった。
      そのため、視聴できないプロ野球ファンを中心にテレビ東京に苦情が殺到。日本一が決まる最終戦を生中継で地上波で視聴できなかった多くのファンから、テレビ東京への不満の声が噴出した。
  • 問題の「ジャパネットはかた テレビショッピング」では、王シュレットの他にもコンタックを真似た「どんたっく600」と言う風邪薬や(コンタックの製造会社であるグラクソ・スミスクライン側からは抗議はなかった)、豚骨の蒸気を口に飲み込ませる「豚骨スチーム」、布団乾燥機をもじった「ふとんこつ乾燥機」、福岡ダイエーホークスの名称をもじったダイエット用品「福岡ダイエットホークス」や九州の形をした「熱九州シート」が商品として登場した。
  • テレビ西日本としてはホークス移転時から積極的にホークス戦の中継を行うなどホークスの応援を行っていたが、その努力もむなしく、結果的に地元を侮辱する放送を行ってしまったことになり、テレビへの不信感につながった。
  • グッズ販売コーナー「TNCスタジオツアーズ」では、この事件後もワンナイのグッズを販売していたが、苦情・抗議が同局に寄せられたことから、急遽グッズ販売コーナーからワンナイのグッズを全面撤去させた。
  • 「王シュレット事件」の背景として、キー局が地方系列局の事情を理解せず番組制作に突き進む姿勢や日本シリーズの放送枠の推薦システムがキー局単位で、独立法人の建前である地方系列放送局がキー局の出店・支店視されてしまう問題があるのだが、これらは全く省みられなかった。
  • また、この種の表現はパロディを想定していると考えられるが、本来パロディで笑う対象とすべきは権威や権力的構造であり、本件は単なる下品な笑いでしかなかった。
  • 欧米と違い日本のテレビにおけるバラエティの笑い自体が、出演者同士の人間関係に依拠した自己閉塞的なものである上、パロディとしての笑いが現場で熟成されていないこともある。また、吉本興業の作品は吉本自前の作家が数多く入っていることもあり、ステージ特有のその場で瞬発的な笑いを誘う方式であったことも影響している。

脚注[編集]

  1. 但しこの不祥事と関係なく、ダイエー球団はTVQ (テレビ東京系) が開局当初から年間30試合近くダイエー戦を放送してきた事を評価しテレビ東京を推薦する予定であった
  2. テレビ宮崎は2系列の他にテレビ朝日系列にも加盟しているが、ゴールデン・プライムタイムにおけるテレビ朝日系の番組の同時ネットは通常は行っていない。(昼の『ANNニュース』と『アサデス。九州・山口』(九州朝日放送製作)のみ。)
  3. テレビ大分では『水10!』のこのコントを含む回は放送されなかった。
  4. 当初は第2戦のみの中継を予定していたが、第3戦が雨で中止順延したため、編成上の都合により第5戦も放送。また、いずれも日本テレビ系からのネット受けである。
  5. 2007年からTOTO株式会社。ブランドはTOTOのまま。
  6. 2010年にもホークスはリーグ優勝するが、2007年から設立されたクライマックスシリーズ西村徳文監督が指揮をとる当時3位だった千葉ロッテマリーンズが同年の日本シリーズに進出したため。
  7. 対戦相手は2010年、2011年共に落合博満監督が指揮を執る中日ドラゴンズ
  8. NPBへの推薦が系列局はキー局とは法人独立の原則に反して、ネットワークとキー局単位で行われることを有識者は殆ど問題にしなかった。
出典

関連項目[編集]