京都アニメーション放火事件
京都アニメーション放火事件(きょうとアニメーションほうかじけん)は、2019年(令和元年)7月18日、京都府京都市伏見区桃山町因幡にある京都アニメーション第1スタジオでガソリンのような液体が撒かれ、チャッカマンのようなもので点火された放火による大量殺人事件である[1]。
概要[編集]
火災当時、従業員67人と社外6名の73名が建物内にいた。そのうち7月18日20時30分現在、死者25名、重症10人、中等症6人、軽症20人の負傷者が出ており、他に心肺停止が数人いるようである。京都市消防局によれば、延べ約690平方メートルが全面燃焼し、7月18日21時現在、33人(男性12、女性20、不明1)の死亡が確認された[2]。死者33人のうち、28名の死因は一酸化炭素中毒とみられている。
2019年7月19日夜、京都府警は死者として男性1名が増え、34名になったと発表した[3]。
建物構造が一部、吹き抜けになっていたことが、被害拡大につながった可能性がある[4]。
2019年7月27日18時前に20代の京都アニメーションの従業員とみられる男性が死亡し、事件の死亡者は35名となった[5]。男性は当時1階にいて自力で脱出したが、全身やけどのため回復できなかった。
7月末、京アニの代理人弁護士によれば、青葉真司容疑者と同姓同名の人物から京アニに作品の応募があったが、形式面に関する一次審査で落選したという。そのため、社内で社長を含めた情報共有がされていなかった。7月26日の捜索でAの部屋から押収した大量の原稿用紙には何も書かれておらず、他にも残された作品などは無かったとされている。応募した書類は、すでに警察に提出されている[6]。応募作品は、公表権の問題があるため、開示できないが、京都アニメーション作品との同一又は類似の点はないと確信していると代理人弁護士は回答した[7]。
2019年7月30日、西脇隆俊京都府知事が経済産業省を訪問し、大臣に京都アニメーションへの国の支援を要望した[8]。
2019年8月2日、京都府警により、事件により犠牲になった10名の身元が公表された[9]。その中には京アニブームを巻き起こしたSF学園ドラマ「涼宮ハルヒの憂鬱」シリーズ(2006年テレビ放送開始)武本康弘監督、作画監督として活躍していた西屋太志、アニメーターで「アニメ界のレジェンド」と言われる取締役木上益治らが含まれていた。武本康弘監督は同社初の自主制作作品(2003年)で監督を務め、さらに多くのアニメーターを育ててきた。公表された10名は葬儀を済ませ、遺族の了解を得て公表されたものである。残り25名の身元も判明しているが、遺族が実名を拒否しているため、公表はしないとされている。引き続き実名公表について説明を行い、理解を得られるよう努力すると京都府警は述べた。死因は焼死26人、一酸化炭素中毒4人、窒息死2人、全身やけど1人、不詳1人である。
9月5日、全身やけどを負って入院中の青葉真司容疑者が、命の危険がある重篤な状態を脱し、快方に向かっていることが伝えられた。皮膚の移植手術を繰り返し、頷くなど簡単な意思表示はできる状態になったという。また同日、事件前日の7月17日に完成した9月6日公開の新作映画「ヴァイオレット・エヴァーガーデン外伝 - 永遠と自動手記人形」のエンドクレジットに、この事件の全ての犠牲者と負傷者の名前を出すことが決定した。普通、エンドクレジットに名前が出るのは1年以上の経験があるスタッフであるが、今回は全員を対象にしているという。
9月中旬の段階で重体の被害者らも生命の危機はほぼ脱して回復傾向にあるとされていたが、10月4日夜に入院中の20代女性社員が死亡しており、これにより死亡者の数は36名になった。女性の死因は広範囲に火傷を負ったことによる敗血症性ショック死であった。
2019年10月18日、社長の八田英明が国内外からの支援に感謝の意を示し、現場となった京都伏見区の第1スタジオについて調整がつき次第、取り壊す方針を明らかにした。
2019年11月9日、京都府警が青葉真司容疑者に対して前日の11月8日に初めて事情聴取をしていたことが明らかになり、「いちばん多くの人が働いている第1スタジオを狙った。多くの負傷者を出せそうだと思ったから」と供述している。またさいたま市の自宅を出るときから事件を起こすつもりだったとの趣旨の供述をしており、京都府警は当初から明確な殺意を抱き、大量殺傷を周到に準備・計画していたと見ている。容疑者Aは「どうせ死刑になる」とも言及しており、また事件当日にハンマーや複数の包丁を所持していた理由を「(犯行を)邪魔する人がいたら襲うつもりだった」とし、「ドアが閉まっていたらガラスを割って中に入ろうとした」と説明しているという[10][11]。
2019年11月14日、青葉真司が大阪府の病院から京都市内の病院に転院した。
2020年1月15日、死亡した社員の労災が認定され、補償の支給が開始された。
2020年5月27日、青葉真司が殺人や現住建造物等放火などの疑いにより、京都府警によって逮捕された。事件から10ヶ月を経ての逮捕であり、これだけ逮捕がずれ込んだのは青葉真司が負った火傷などの治療に加えて、新型コロナウイルス蔓延による影響と見られている。
事件の経過[編集]
- 7月15日
- 7月16日
- 7月17日 (前日)
- 7月18日 (当日)
- 7月20日
- 午前中、男性の治療のため大阪府内の別の病院に移送され、皮膚移植される。青葉真司容疑者に逮捕状が出る。
- 7月24日
- 青葉真司容疑者は、バケツ中のガソリンを京アニ従業員の数人に直接かけていたことが判明した[18]。殺意が明確であった証拠とされた。
- 7月27日
- 8月2日
- 午後 - 京都府警により武本康弘、西屋太志、木上益治ら犠牲者10名の身元が公表される。
- 8月14日まで
- 不明 - 京都府警が青葉真司容疑者に対する逮捕状を取り直す。逮捕容疑は「35人の殺人、当時建物内にいた負傷者ら35人への殺人未遂、現住建造物等放火など」である。
- 10月4日まで
- 夜 - 重体の20歳代女性社員が死亡。これにより死者の数は36名になる。
容疑者[編集]
加害者は液体をまき火を付けた後に逃走したため、京都アニメーションの従業員が追走した。京都アニメーション第1スタジオから約100メートルの場所で従業員が男性の身柄を確保し、警察官に引き渡した。この男は埼玉県さいたま市在住の職業不詳の青葉真司で、精神障害があった[19][20][21]。幼少期に両親が離婚し、以降父・兄・妹と暮らすことになるが、貧しい生活を余儀無くされていた。小学生時代は柔道クラブに所属していたものの友人は少なく、いじめにも遭い引きこもりがちになっていたこともある。卒業後は埼玉県立浦和高等学校の夜間部に通学し、卒業後は県の非常勤職員、新聞配達員、コンビニの店員など職を転々としていた。その間に父親と死別し、家族とは疎遠になるようになった。2006年には下着泥棒を犯したことにより警察に連行されたことがある[22]。
その後、埼玉県内の人材派遣会社への登録、茨城県内の郵便局での勤務を経て[22]、2010年 - 2012年頃、地元のハローワークを通じて茨城県常総市の雇用促進住宅に入居していたが、壁を鈍器で叩いて騒音を起こしたり、家賃を滞納するなどのトラブルを起こしていた。2012年6月には茨城県坂東市内のコンビニにて現金約2万円を奪う強盗事件を起こし、懲役3年6月の実刑判決を受けて服役していた[19][23]。2016年1月に出所後は福祉サービスが受けられるよう国が支援する『特別調整』の対象となり、さいたま市内の更生保護施設で数か月生活した後、さいたま市の単身者向けアパートへ入居したが、家賃の滞納は無かったものの、近隣住民と騒音などでトラブルとなり、警察官や救急車も出動する騒ぎを起こしたこともある[20][19]。
7月19日現在、男は病院で手・足・胸・顔等のやけどの治療中である。京都府警捜査本部(伏見署)によれば、全身熱傷により意識はなく、重篤な状態とされている[24]。捜査本部では男性の回復を待ち、逮捕する方針である。
現場からは20リットル入り携行缶2つのほか、刃物数本が入った鞄がみつかった。男性に強い殺意があったとみられる。身柄確保時に男性は「パクりやがって」「小説を盗んだから放火した」と言ったという[25][26]。しかし、京都アニメーションの(元)従業員などの関係者ではないとされている。7月20日、病状が重く、高度な治療を受けさせるため、京都の病院からヘリで、7月20日、大阪市の病院に移送された[27]。さらに2019年7月20日23時36分に逮捕状が出たと報道された[28]。
京都府警は容疑者の自宅アパートから、京都アニメーションが製作に関わった作品のDVDや大型スピーカーを押収した[29]。事件の動機につながる可能性もある。
さらに2008年には秋葉原通り魔事件が発生した際「俺も秋葉原みたいな事件を起こしてやる」と発言していたことが分かった。
容疑者の過去[編集]
とにかく母親が厳しかったことで知られている。例えば「友人の家に行ったり友人を家に呼び出したりすること禁止」「恋愛禁止・彼女厳禁・男女交際禁止」「マンガ・雑誌禁止」など。
社長のコメント[編集]
京都アニメーションの八田英明社長は、18日午後の取材で、数年前からスタッフへの殺害予告や作品への批判が相次いでいたことを明らかにした。警察への被害届も出していたが、ここまでのことは想像できなかったとして、暴力行為への憤りを表明した[30]。その後現場検証に訪れた際「素晴らしい仲間で、若者の将来が閉ざされたことが残念」[31]「家族同然だった多くの社員を一瞬で失った」と嘆いた。現場の跡地は公園にする予定であると表明した[32]。
京都アニメーションは会社を挙げて、社員の心的外傷後ストレス障害(PTSD)対策を取ると表明した[33]。
クラウドファンディング[編集]
アメリカ合衆国の配給会社サムライ・フィルムワークスは会社と犠牲者を支援するためクラウドファンディングを立ち上げた。50万ドル(日本円で約5400万円)を目標としており、2019年7月19日16時10分現在で、5万8000ドル(日本円で約625万円)が集まっている[34]。その後の8時間で約415,000ドルが集まっている[35]。
目標金額は当初は50万ドル(日本円で5400万円相当)としていたが開始からおよそ5時間で7200人余りから24万ドルの寄付が集まり、同日23時ごろには当初の目標を達成した[36][37]。クラウドファンディングの支援金が、7月20日17時時点で167万8,366ドル(約1億8,462万円)となった[38]。
事件の影響[編集]
2019年7月22日、京都市はガソリンの販売方法の規制強化し、購入者の身元、購入目的の確認を徹底させ、場合により条例の制定も検討する[39]。
報道[編集]
当然のことながら翌日の各新聞の1面は事件関連であった。一方東京中日スポーツは事件当日中日ドラゴンズが勝利したため1面に掲載せず事件関連は別の面に掲載した。
関連項目[編集]
- 歌舞伎町ビル火災
- 大阪個室ビデオ店放火事件
- 秋葉原通り魔事件
- 相模原市障害者福祉施設殺傷事件 - 出火原因が不明の歌舞伎町ビル火災を除けば、本事件の発生以前はこの事件が平成最悪の死者数を出した殺人事件だった。
- 北新地ビル放火殺人事件
脚注[編集]
- ↑ At Least 33 Dead in Arson Attack at Kyoto Animation StudioHollywood Repoter by Gavin J. Blair、2019年7月19日
- ↑ 京アニ火災「小説を盗んだから放火した」確保の男、強い殺意持つ京都新聞、2019年07月19日
- ↑ 京アニ放火、死者は34人に朝日新聞、2019年7月19日
- ↑ ガソリン炎と煙、一瞬で包囲 京アニ火災、吹き抜け構造で拡大か京都新聞、 2019年07月19日
- ↑ a b 「京アニ」放火殺人 入院中の男性死亡テレビ朝日アーカイブ、2019/07/27 23:12
- ↑ 京アニ放火事件容疑者、小説応募か京都新聞、 2019年07月30日
- ↑ 京アニ放火容疑者と同名「応募作品」あったJ Cast ニュース、2019年7月31日
- ↑ 京アニ支援 国に要請朝日新聞、2019年7月31日
- ↑ 犠牲者10人氏名公表、京アニ事件で府警京都新聞、2019年08月02日
- ↑ 京アニ「第1スタジオ狙った」 聴取で供述、周到に計画か神戸新聞、2019年11月10日
- ↑ 京アニ放火殺人、青葉容疑者を事情聴取 京都府警朝日新聞、2019年11月9日
- ↑ 事件3日前に京都へ時事通信、 2019年07月26日
- ↑ a b 京アニ放火、犯行前に「聖地」巡る?京都新聞、 2019年07月28日
- ↑ 事件前にネットカフェ日本経済新聞、2019年7月23日
- ↑ 京アニ放火容疑者、前日から現場近くに?朝日新聞、2019年7月19日
- ↑ 台車押す容疑者似の男、防犯カメラに朝日新聞、2019年7月22日
- ↑ 「発電機に使う」ガソリン購入朝日新聞、2019年7月20日
- ↑ 数人に直接ガソリン浴びせる朝日新聞、2019年7月24日
- ↑ a b c 『北日本新聞』2019年7月20日付39面『京アニ放火容疑者 自宅周辺 「黙れ殺すぞ」「失うものはない」騒音トラブルたびたび』より。
- ↑ a b 『北日本新聞』2019年7月20日付1面『容疑者一方的に恨みか 京アニ放火「小説盗んだから」』より。
- ↑ 「殺すぞ」と怒鳴り声も=近隣とたびたびトラブル時事通信、2019年07月19日
- ↑ a b ““京アニ火災”〇〇容疑者 20代には「下着泥棒で連行」「家族が家賃補填」も”. 文春オンライン. (2019年7月20日)
- ↑ “京アニ放火、犯人とみられる男12年にコンビニ強盗 - 社会 : 日刊スポーツ” (日本語). nikkansports.com (2019年7月19日). 2019年7月19日確認。
- ↑ 京アニ火災、放火疑いの男の氏名を公表 全身熱傷で重篤、回復待ち逮捕方針と捜査本部 京都新聞、2019年7月19日
- ↑ 似た人物、近くでガソリン購入 包丁入るかばんも発見朝日新聞、2019年7月18日
- ↑ 京アニ放火の男「パクりやがって!」恨みつらみ怒り日刊スポーツ、2019年7月19日
- ↑ 容疑者の男、ヘリで別病院に移送 重篤な状態続くテレビ朝日、2019年7月20日
- ↑ 京都アニメ火災 青葉容疑者に逮捕状日本経済新聞、2019年7月20日
- ↑ 容疑者宅で京アニ作品DVD押収朝日新聞、2019年7月27日
- ↑ 京アニ社長「残念で断腸の思い」時事通信、2019年7月18日
- ↑ 京都アニメーション八田英明社長が会見
- ↑ 壁に穴、PCは粉々朝日新聞、2019年7月20日
- ↑ 京アニ放火「会社を挙げてPTSD対策」産経新聞、2019年7月21日
- ↑ 京アニ火災、米配給会社がクラウドファンディング日刊スポーツ、2019年7月19日
- ↑ Kyoto Animation arson attack: More than $500,000 raised for victims after 33 killed in horror fireEvening Standard、2019年7月19日閲覧
- ↑ ““京アニ支援” 米企業がクラウドファンディング呼びかけ”. NHK. (2019年7月18日) 2019年7月18日閲覧。
- ↑ “GoFundMe 「Help Kyoani Heal」”. 2019年7月18日23:00時確認。
- ↑ 海外から始まった京アニへの支援金1億8,000万円超え…死者34名の放火事件シネマトゥデイ、2019年7月20日
- ↑ ガソリン販売規制を強化へ読売新聞、2019年7月23日