こぶし文庫 戦後日本思想の原点
『こぶし文庫 戦後日本思想の原点』(こぶしぶんこ せんごにほんしそうのげんてん)は、1995年(平成7年)1月から2014年(平成26年)9月にかけてこぶし書房が刊行した全60巻の思想系叢書。単に『こぶし文庫』とも。
概要[編集]
こぶし書房創業者で革マル派の理論的指導者たる黒田寛一(1927年~2006年)にさまざまな形で影響を与えた、戦後日本思想の原点といえる諸著作を収録した叢書である。第一期(第25巻まで)は1995年1月から2000年5月、第二期(第50巻まで)は2000年7月から2008年5月、第三期(第60巻まで)は2011年9月から2014年9月に刊行され、第三期分の刊行終了をもって完結した。完結時に神田神保町の書泉グランデ[1]、東京堂書店で完結記念フェアが行われた[2]。
「文庫」と称しているが、いわゆる文庫本ではなくハードカバーの単行本(A5版・上製)である。定価は2800円~3700円。第28巻(田辺元『歴史的現実』)、第49巻(鶴見俊輔『アメリカ哲学』)、第50巻(小山弘健『戦後日本共産党史』)の3点のみは2014年5月にソフトカバー(四六並製)で新装版が刊行されている[3]。ラインナップは戦後三大論争(主体性論争・技術論論争・価値論論争)を中心に京都学派・西田左派やヘーゲル哲学研究、吉本隆明をも含む。何十年も前に絶版となり入手困難な書籍が多数収録されているため、こぶし文庫しか入手できない場合、革マル派を嫌って新品を買わず、中古を買ったり、図書館で借りたりして読む者も少なくない。
編集月報として、著者・著作についての関係者の回想を収録した小冊子『場 UTOPADA』が、1995年4月刊の第3巻(三枝博音『技術思想の探究』)および第4巻(坂田太郎『イデオロギー論の系譜』)より付されるようになり、2013年5月刊の第51巻(辻哲夫『日本の科学思想』)に付された46号まで刊行された。本体の書籍に付された解説と共に読者の理解を助けるものとなっている。図書館の本の場合、捨てられていなければ、ページに挟み込まれているか、見返しに貼り付けられていることが多い。
刊行書目[編集]
( )内は当該巻の編集・解説担当者。分類は『こぶし文庫目録』による。刊行順の刊行書目はWikipediaを参照。
主体性論・哲学[編集]
- 第1巻:梅本克己 『唯物史観と道徳』 (武井邦夫) - 1995年1月刊。
- 第9巻:甘粕石介 『現代哲学批判』 (鈴木正) - 1995年12月刊。
- 第19巻:松村一人 『変革の論理のために』 (仲本章夫) - 1997年4月刊。
- 第27巻:梅本克己 『過渡期の哲学』 (田辺典信) - 2000年10月刊。
- 第40巻:田中吉六 『史的唯物論の成立』 (渡辺啓) - 2005年6月刊。
- 第53巻:小田切秀雄 『人間の信頼について』 (川村湊) - 2012年7月刊。
- 第56巻:鈴木正 『日本思想史の遺産』 - 2013年3月刊。
スターリン批判・革命論[編集]
- 第16巻:三浦つとむ 『この直言を敢てする』 (津田道夫) - 1996年9月刊。
- 第18巻:対馬忠行 『クレムリンの神話』 (山口勇) - 1996年12月刊。
- 第35巻:神山茂夫 『天皇制に関する理論的諸問題』 (津田道夫) - 2003年6月刊。
- 第46巻:渡邉寛 『レーニンとスターリン――社会科学における』 (川上忠雄) - 2007年2月刊。
- 第50巻:小山弘健 『戦後日本共産党史――党内闘争の歴史』 (津田道夫) - 2008年5月刊。
- 第52巻:吉本隆明 『芸術的抵抗と挫折』 (松本昌次[4]) - 2012年2月刊。
- 第55巻:柴田高好 『現代とマルクス主義政治学』 - 2012年12月刊。
弁証法・論理学[編集]
- 第2巻:田辺振太郎 『自然の弁証法研究』 (市野宏司) - 1995年1月刊。
- 第8巻:舩山信一 『日本哲学者の弁証法』 (服部健二) - 1995年9月刊。
- 第22巻:本多謙三 『現象学と唯物弁証法』 (久野収) - 1997年9月刊。
- 第38巻:上山春平 『弁証法の系譜――マルクス主義とプラグマティズム』 - 2005年3月刊。
- 第37巻:滝沢克己 『西田哲学の根本問題』 (小林孝吉) - 2004年7月刊。
- 第39巻:武市健人 『弁証法の急所』 (許萬元) - 2005年4月刊。
- 第41巻:清水正徳編著 『自己疎外論から『資本論』へ』 (降旗節雄[4]) - 2005年11月刊。
- 第42巻:藤本進治 『認識論』 (山本晴義) - 2006年3月刊。
- 第43巻:加藤正 『弁証法の探究』 (降旗節雄) - 2006年7月刊。
- 第44巻:古在由重 『古在由重の哲学』 (吉田傑俊) - 2006年9月刊。
- 第45巻:宇野弘蔵・梅本克己 『社会科学と弁証法』(いいだもも) - 2006年11月刊。
- 第49巻:鶴見俊輔 『アメリカ哲学』 - 2008年1月刊。
ヘーゲル論理学[編集]
- 第6巻:武市健人 『ヘーゲル論理学の体系』 (清水正徳) - 1995年6月刊。
- 第13巻:甘粕石介 『ヘーゲル哲学への道』 (許萬元) - 1996年6月刊。
- 第15巻:三枝博音 『ヘーゲル・大論理学』 (野崎茂) - 1996年9月刊。
京都学派・左派[編集]
- 第14巻:務台理作 『場所の論理学』 (北野裕通) - 1996年6月刊。
- 第21巻:木村素衛 『表現愛』 (小林恭) - 1997年9月刊。
- 第24巻:三木清 『三木清エッセンス』 (内田弘) - 2000年2月刊。
- 第26巻:木村素衛 『美の形成』 (村瀬裕也) - 2000年7月刊。
- 第28巻:田辺元 『歴史的現実』 (黒田寛一) - 2001年1月刊。
- 第29巻:高山岩男 『世界史の哲学』 (花沢秀文) - 2001年5月刊。
- 第30巻:九鬼周造 『九鬼周造エッセンス』 (田中久文) - 2001年9月刊。
- 第33巻:高坂正顕 『歴史の意味とその行方』 (高坂史朗) - 2002年10月刊。
- 第34巻:田辺元 『仏教と西欧哲学』 (小坂国継) - 2003年3月刊。
- 第36巻:中井正一 『中井正一エッセンス』 (鈴木正) - 2003年7月刊。
- 第47巻:三木清 『三木清東亜協同体論集』 (内田弘) - 2007年4月刊。
技術論・科学史[編集]
- 第3巻:三枝博音 『技術思想の探究』 (飯田賢一) - 1995月4月刊。
- 第11巻:岡邦雄 『新しい技術論』 (飯田賢一) - 1996年3月刊。
- 第12巻:山田坂仁 『認識論と技術論』 (いいだもも) - 1996年3月刊。
- 第51巻:辻哲夫 『物理学史への道』 (池内了[4]) - 2011年9月刊。
- 第54巻:廣重徹 『戦後日本の科学運動』 (吉岡斉) - 2012年9月刊。
- 第57巻:辻哲夫 『日本の科学思想――その自立への模索』 (廣政直彦) - 2013年5月刊。
イデオロギー論[編集]
- 第4巻:坂田太郎 『イデオロギー論の系譜』 (田中義久) - 1995年4月刊。
- 第23巻:竹内好 『日本イデオロギイ』 (鈴木正) - 1999年11月刊。
- 第31巻:戸坂潤 『戸坂潤の哲学』 (吉田傑俊) - 2001年12月刊。
経済学[編集]
- 第5巻:宇野弘蔵 『『資本論』と社会主義』 (降旗節雄) - 1995年6月刊。
- 第7巻:北川宗蔵 『経済学方法論』 (中村福治) - 1995年9月刊。
- 第10巻:高島善哉 『価値論の復位』 (渡辺雅男) - 1995年12月刊。
- 第17巻:宇野弘蔵 『価値論』 (降旗節雄) - 1996年12月刊。
- 第25巻:遊部久蔵 『価値論と史的唯物論』 (飯田裕康) - 2000年5月刊。
- 第32巻:廣西元信 『資本論の誤訳』 (国分幸) - 2002年3月刊。
- 第48巻:大内力 『国家独占資本主義』 - 2007年7月刊。
日本資本主義論争[編集]
- 第58巻:対馬忠行 『日本資本主義論争史論』 - 2014年1月刊。
- 第59巻:小山弘健・山崎隆三著、社会経済労働研究所編 『日本資本主義論争史』 (栗原幸夫[5]) - 2014年5月刊。
- 第60巻:宇野弘蔵 『増補 農業問題序論』 (田中学[5]) - 2014年9月刊。
ジェンダー[編集]
註記[編集]
- ↑ 「こぶし文庫―戦後日本思想の原点」 60点 完結! こぶし書房
- ↑ 東京堂書店@神保町のツイート(2014年11月9日)
- ↑ 新装版『アメリカ哲学』『歴史的現実』『戦後日本共産党史』 こぶし書房
- ↑ a b c 解説のみ担当。
- ↑ a b 解題のみ担当。
参考文献[編集]
- 『場 UTPADA』40(2011年9月)「編集手帖」。
- 『こぶし文庫目録』 - 第60巻の宇野弘蔵『増補 農業問題序論』(2014年9月)挟み込みの小冊子。