複線非電化

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複線非電化(ふくせんひでんか)は、鉄道路線において、線路が2本あるにも関わらず、上部に架線が引っ張られていない区間のことを指す。非電化複線ともいう。

概要[編集]

1960年代後半以降の動力近代化計画で、需要のある区間ではそれほどでなくとも単線のまま電化が先行することが少なくなく、同時に複線化が検討されることが多い。
しかし、線路を複線のままとした上で電化されずに残ったケースも少ないながら存在し、主に以下の理由がある。

  1. 普通列車の需要がそれほどないが貨物/特急・急行街道のためあえて複線化
  2. 事故が起きたため単線では危ないと判断
  3. 事実上の単線並列
  4. 諸般の事情により需要増加から複線化はしたものの電化ができない、あるいは遅れた。

1のパターンは、炭鉱輸送が活発だった頃の産炭地域で散見され、常磐炭田のあった常磐線でも平(現・いわき)以南で、蒸気機関車が主力の大正時代にいち早く複線化がなされたが、北海道や福岡県筑豊地域では、炭鉱輸送の激減により需要も減少し、さらには国鉄の電化計画の対象から外された結果非電化のまま推移することが多い。
なお、山陰本線の綾部 - 福知山間、伯耆大山 - 米子間のように支線区直通の本数が多いため複線化が先行した区間もある。

2のパターンは長大トンネル区間に多く見られるが、近鉄大阪線青山トンネルのように事故が起きた時点で電化されていた場合もあるので非電化複線のまま残ったケースは少ない。

3のパターンは2路線が同じ区間を並走する場合にのみ見られる[注釈 1]

4のパターンは赤字続きのJR北海道や地磁気観測所の近い茨城県の関東鉄道に散見される。いずれも通勤需要がある路線となっている。

事例(国内)[編集]

函館本線 森 - 長万部間の大半[編集]

当該区間は炭鉱輸送の時代に一部別線並列で複線化が進められたが、多くが廃坑となると貨物輸送需要が激減の一方、札函間の都市間需要で複線の価値は維持された。他方、電力供給のための沿線の発電所の数が増えず、気動車の性能が向上したのと北海道新幹線延伸の具体化で、電化計画は頓挫し依然として非電化のままとなった。

室蘭本線の東室蘭以西の非電化区間[編集]

こちらも炭鉱輸送時代に当線を通過する貨物列車が大量に存在したので部分的に複線化されたが、貨物需要の激減で都市間輸送に転移したものの電化計画は頓挫し現在に至る。

室蘭本線の沼ノ端以北の非電化区間[編集]

こちらも炭鉱輸送等で当線を通過する貨物列車が大量に存在したので部分複線化されたが、炭鉱の閉山で需要が大激減して現在に至る。

関東鉄道常総線 取手 - 水海道間[編集]

当該区間はかなりの通勤需要があり、日中でも毎時3本、ラッシュ時は毎時9本運転される。そのため、複線化はなされたが、地磁気の観測で直流電化ができず、逆に交流電化は車両側のコスト増大となるため断念している。

東海道貨物線 田町駅 - 東京貨物ターミナル間[編集]

当該区間は休止線で、電化設備が撤去されているものの、一応複線の状態を保っている。羽田空港アクセス線の開業で電化される予定。

東海交通事業城北線[編集]

複線の貨物線として建設が進められていたが、計画が頓挫したため非電化ローカル線となってしまった例。減価償却期間が2032年までのため、電化・他線接続はそれからしか不可能である。

伊勢鉄道伊勢線 河原田 - 中瀬古間[編集]

「伊勢式年遷宮」輸送の増大が見込まれ、快速みえや特急南紀といった非電化の紀勢本線に乗り入れる通過列車の交換運転停車を減らすため、同区間は非電化のまま複線化されたが、線区内は気動車のままで充分な輸送量かつ電化の関西本線乗り入れ本数の増加は検討されなかったため電化はされないままとなっている。なお、伊勢鉄代表の三重県知事は複線化当時から「JR東海への買い戻しが望ましいが、国鉄分割民営化関連法の制約で不可能」とコメントしている。

西濃鉄道 乙女坂 - 猿岩間[編集]

本線と側線が並行していて、事実上の複線区間となっているが、この区間は2022年に廃止・乙女坂駅構内の扱いとなった。

大井川鐵道井川線 千頭 - 川根両国間[編集]

前述の西濃鉄道同様、井川線本線と貨物側線が並行し、側線でミニSLが運行されたが、1989年に貨物側線が廃止された。

高徳線徳島線 佐古 - 徳島間[編集]

佐古駅の構内配置の都合から単線並列区間となっている。一応は高徳線の扱いとなっている。

若松線 (筑豊本線 折尾 - 若松間)[編集]

炭鉱輸送時代に複線化はおろか複々線化されたが、輸送量減少により複線となる。その後、通勤需要により複線のまま残され、更には蓄電池電車の投入に伴い電化の必要がなくなった。

平成筑豊鉄道伊田線[編集]

こちらも炭鉱輸送時代に複線化されたが、需要激減後については電化されないまま第三セクターに移管され、その後通勤路線として発展することになった。

長崎本線 諫早 - 喜々津間・浦上 - 長崎間[編集]

1976年より電化され、後に複線化もされていたが、2022年に西九州新幹線が部分開業し、特急かもめが廃止されたことに伴って電化が廃止された。架線はほとんど撤去されずに残っている。

事例(海外)[編集]

アジア[編集]

鉄道そのものがあまり発達しておらず、非電化単線大国が多い(北朝鮮アルメニアの様な電化単線大国もあるが)。そうでなくとも、石油大国のアラビア系の国家では安価に石油が手に入るため非電化ということもある。かつては中国や韓国でも非電化複線が多かったが、急速に電化が進んでいる。

  • 中国: 採炭国だけあって複線非電化路線大国であったが、2010年頃電化された路線が多く、急速に数を減らしている。
  • 大韓民国韓国鉄道公社の電化路線はソウル都市圏が中心で、京釜線といった有力幹線も複線非電化だったが、在来線直通も可能なKTXが運行されてから複線非電化区間は減少している。
  • タイ: 長距離鉄道は非電化で、輸送量の多いバンコク近郊に限り複線化されている。
  • マレーシア: クアラルンプール近郊を除き非電化。イポー - クアラルンプール間が複線非電化となっている。
  • スリランカ: 全国非電化で、コロンボ近郊(アルトゥガマ - コロンボ - ポルガウェラ)のみ複線化されている。
  • イラン: テヘラン近郊を除き非電化。テヘラン - マシュハド間は複線化され、複線非電化である。
  • イスラエル: アッコ - ハイファ - テルアビブなど、非電化複線が多い。
  • サウジアラビア: メッカ周辺を除き非電化。東海岸のフフーフ - ダンマーン間が非電化複線である。

ヨーロッパ[編集]

日本同様、電化の進んだ国が多く、非電化複線は圧倒的に少数である。ただし、イギリスは例外で、「非電化複線が標準」と言えるレベルである。

  • ウクライナ: ヴォロシバ - ハルキウ間など
  • リトアニア: カウナス - カリーニングラード間など。電化が比較的進んでおらず、非電化複線が多くみられる。
  • ベラルーシ: オシポヴィチニ - ホメリ間など。電化が比較的進んでおらず、非電化複線が多くみられる。
  • デンマーク: フレゼレシア - オールボー間など。ユトランド半島は電化が遅れ気味。
  • ポーランド: コスチン - ピワ間など
  • ドイツ: ホーフ - レーゲンスブルク間や、アウクスブルク - リンダウ間など
  • イギリス: 非電化複線大国。鉄道路線の建設自体は盛んにおこなわれたものの、電化は他国と比べて遅れを取っているため、一部の長距離路線を除けば複線非電化が大多数である。
  • アイルランド: ダブリン近郊を除き非電化。ベルファスト - ダブリン - コークを結ぶ幹線が複線非電化。
  • フランス: パリ - ショーモン間や、ラ・ロシュ - ボルドー間など

関連項目[編集]

注釈[編集]

  1. 三重県の松阪駅北方では共に非電化の紀勢本線と名松線の「擬似単線並列」が見られる。

参考リンク[編集]