田口富久治
田口 富久治(たぐち ふくじ、1931年1月11日[1] - 2022年5月23日[2][3])は、政治学者。名古屋大学名誉教授。
経歴[編集]
秋田市生まれ。1953年東京大学法学部政治学科卒[1]、東大法学部助手[4]。1956年より明治大学政治経済学部に勤務[5]。講師[1]、助教授を経て[6]、1966年教授[4]。1969年から1年間イギリスのシェフィールド大学に留学[1][4]。1970年「社会集団の政治機能」で法学博士(名古屋大学)[7]。1975年名古屋大学法学部教授。1994年退官、立命館大学政策科学部教授。2001年退任[8]。第14~15期日本学術会議会員[4]。
2022年5月23日、老衰のため愛知県日進市の病院で死去、91歳[9]。
人物[編集]
戦後日本の代表的なマルクス主義政治学者[6]、日本共産党の党員理論家として知られる[10]。当初は構造改革論を軸に研究をすすめ[11]、第一次『現代の理論』にも執筆したが[12]、安保闘争後は構造改革路線を改良主義として批判する立場に移っていった[11]。その後、ユーロコミュニズムの立場に近づき、1977年9月に「先進国革命と前衛党組織論――『民主集中制』の組織原則を中心に」(『現代と思想』29号)を発表し民主集中制を批判した。この論文に対し、共産党中央は関原利一郎(上田耕一郎、榊利夫ら4人の共同執筆)のペンネームで「前衛党の組織原則の声明――田口富久治氏の『民主集中制論』の問題点」(『赤旗 評論特集版』)を発表し田口を批判した。1978年3月に『先進国革命と多元的社会主義』(大月書店)を刊行すると、不破哲三書記局長が「科学的社会主義か『多元主義』か――田口理論の批判的研究」(『前衛』1979年1月号)を発表して田口を批判し、1980年まで「田口・不破論争」を『前衛』誌上で展開した[13]。その後、1994年7月の日本共産党第20回大会で丸山眞男の「戦争責任論の盲点」(『思想』1956年3月号)が突然取り上げられ、共産党はファシズムに敗れた政治的結果責任を負うべきだとする丸山の議論が強く非難されたことが決定的な契機となり、共産党を離党した[14]。
根津朝彦『戦後『中央公論』と「風流夢譚」事件――「論壇」・編集者の思想史』(日本経済評論社、2013年)には「なお田口富久治氏の教示によれば、田口富久治のペンネームが矢留一太郎であった」とある[15]。矢留名義では1960年代から70年代に『前衛』誌上で保守系文化人批判や社会主義協会向坂派批判などを行っている。矢留名義の著書として『現代日本の政党とイデオロギー』(三輪浩との共著、新日本出版社、1969年)がある。
著作[編集]
単著[編集]
- 『日本の革新勢力――政治学的にみた社会党と総評』(弘文堂、1961年)
- 『日本政治の動向と展望』(未来社、1964年)
- 『現代政治とイデオロギー』(青木書店、1967年)
- 『社会集団の政治機能――その理論と実際』(未来社、1969年)
- 『マルクス主義政治理論の基本問題』(青木書店、1971年)
- 『現代日本の政治と統一戦線――転換期の日本』(青木書店、1973年)
- 『現代政治学の諸潮流』(未来社、1973年)
- 『選挙制度』(新日本出版社[新日本新書]、1973年)
- 『現代の民主主義と自由』(新日本出版社[新日本新書]、1976年)
- 『先進国革命と多元的社会主義』(大月書店、1978年)
- 『マルクス主義国家論の新展開』(青木書店[青木現代叢書]、1979年)
- 『行政学要論――現代国家と行政の理論』(有斐閣[有斐閣双書]、1981年)
- 『多元的社会主義の政治像――多元主義と民主集中制の研究』(青木書店[青木現代叢書]、1982年)
- 『現代資本主義国家――マルクス主義的一接近』(御茶の水書房、1982年)
- 『現代世界の危機の構造』(三嶺書房、1984年)
- 『日本政治学史の源流――小野塚喜平次の政治学』(未来社、1985年)
- 『現代政治――その思想としくみ』(東研出版[高校生のための現代社会]、1985年/東研出版、増補版1988年、再増補版1993年)
- 『日本政治学史の展開――今中政治学の形成と展開』(未来社、1990年)
- 『政治学の基礎知識』(青木書店、1990年)
- 『21世紀の世界はどう動くか』(教育史料出版会、1991年)
- 『政治学講義』(名古屋大学出版会、1993年)
- 『近代の今日的位相』(平凡社[これからの世界史]、1994年)
- 『解放と自己実現の政治学――マルクスと共に、マルクスを超えて』(近代文藝社、1995年)
- 『民族の政治学』(法律文化社、1996年)
- 『戦後日本政治学史』(東京大学出版会、2001年)
- 『政治理論・政策科学・制度論』(有斐閣[立命館大学叢書・政策科学]、2001年)
- 『丸山眞男とマルクスのはざまで』(日本経済評論社、2005年)
共著[編集]
- (佐々木一郎・加茂利男)『政治の科学――現代的課題と方法』(あゆみ出版社[国民の大学]、1972年/青木書店、1974年/青木書店[青木教養選書]、1979年)
- (山口圭介・木村宏恒・松下冽)『現代世界の政治体制』(青木書店、1984年)
- 中国語訳:『当代世界政治体制』(耿小曼訳、光明日报出版社[政治体制改革研究丛书]、1988年)
- (加藤哲郎・山川暁夫・稲子恒夫/有田芳生構成)『短い20世紀の総括――【討論】回転した世界史を読む』 教育史料出版会、1992年
- (鈴木一人)『グローバリゼーションと国民国家』(青木書店、1997年)
- (諏訪兼位・岩間優希・影浦順子・竹川慎吾・小島亮)『伽藍が赤かったとき――1970年代を考える』(中部大学[中部大学ブックシリーズ Acta]、発売:風媒社、2012年)
編著[編集]
- 『日本の政党Ⅱ日本社会党論』(新日本出版社[新日本新書]、1969年)
- 『講座現代資本主義(3)政治』(青木書店、1973年)
- 『講座マルクス主義研究入門(2)政治学』(青木書店、1974年)
- 『講座史的唯物論と現代(5)国家と革命』(青木書店、1978年)
- 『主要諸国の行政改革』(勁草書房、1982年)
- 『ケインズ主義的福祉国家――先進6ヵ国の危機と再編』(青木書店、1989年)
共編著[編集]
- (北川隆吉・高木教典・中野収)『講座現代日本のマス・コミュニケーション(1・2・4)』(青木書店、1972-1973年)
- (田中浩)『国家思想史(上・下)』(青木書店、1974年)
- (都丸泰助・室井力)『自治体問題講座(2)自治体の行政管理』(自治体研究社、1979年)
- (田中浩・西尾孝明)『現代民主主義の諸問題――秋永肇教授古稀記念論集』(御茶の水書房、1982年)
- (中谷義和)『現代政治の理論と動態』(童学草舎、1986年)
- (加藤哲郎)『講座現代の政治学(1)現代政治学の再構成』(青木書店、1994年)
- (小野耕二)『講座現代の政治学(2)現代政治の体制と運動』(青木書店、1994年)
- (中谷義和)『講座現代の政治学(3)現代政治の理論と思想』(青木書店、1994年)
- (中谷義和)『比較政治制度論』(法律文化社、1994年、新版1999年、第3版2006年)
- (中谷義和)『現代の政治理論家たち――21世紀への知的遺産』(法律文化社、1997年)
訳書[編集]
- (R.ホーフスタッター/泉昌一共訳)『アメリカの政治的伝統――その形成者たち(1・2)』(岩波書店[岩波現代叢書]、1959-1960年/岩波書店[岩波モダンクラシックス]、2008年)
- (M.デユヴエルジエ/田口英治共訳)『現代の独裁――その社会学と弁証法』(社会思想社[現代教養文庫]、1964年)
- (モーリス・デュヴェルジェ/田口英治共訳)『政治体制』(白水社[文庫クセジュ]、1964年)
- (ローゼンベルグ/西尾孝明共訳)『民主主義と社会主義――近代ヨーロッパの政治史』(青木書店、1968年)
- (ラルフ・ミリバンド)『現代資本主義国家論――西欧権力体系の一分析』(未来社、1970年)
- (ウォークランド/岩野弘一・岡村忠之共訳)『イギリスの立法過程』(未来社、1973年)
- (バーナード・クリック/岡利郎・松崎重五共訳)『政治理論と実際の間(1)』(みすず書房、1974年)
- (バーナード・クリック/寺尾方孝・香西純一・松崎重五・高橋吉江門共訳)『政治理論と実際の間(2)』(みすず書房、1976年)
- (ニコス・プーランツァス/山岸紘一共訳)『資本主義国家の構造――政治権力と社会階級』(未來社、1978年)
- (C.B.マクファーソン)『自由民主主義は生き残れるか』(岩波書店[岩波新書]、1978年)
- (ラルフ・ミリバンド/北西允、綱井幸裕共訳)『マルクス主義政治学入門』(青木書店、1979年)
- (C.v.ブラウンミュール、K.フンケン、M.コゴイ、J.ヒルシュ/芝野由和・佐藤洋作共訳)『資本と国家――唯物論的国家論の諸問題』(御茶の水書房、1983年)
- (ボブ・ジェソップ/中谷義和・加藤哲郎・小野耕二共訳)『資本主義国家――マルクス主義的諸理論と諸方法』(御茶の水書房、1983年)
- (ラルフ・ミリバンド/中谷義和・岡本仁宏・木原滋哉・北西允共訳)『階級権力と国家権力――政治論集』(未来社、1986年)
- (ジェームズ・H.ミッテルマン/松下冽・柳原克行・中谷義和共訳)『グローバル化シンドローム――変容と抵抗』(法政大学出版局、2002年)
監訳[編集]
- (ロイドン・ハリスン)『近代イギリス政治と労働運動――一八六〇年〜一九七〇年』(未来社、1972年)
- (ボブ・ジェソップ/中谷義和・加藤哲郎・小野耕二・後房雄・岩本美砂子訳)『プーランザスを読む――マルクス主義理論と政治戦略』(合同出版、1987年)
- (P.ビルンボーム/国広敏文訳)『現代フランスの権力エリート』(日本経済評論社、1988年)
監修[編集]
出典[編集]
- ↑ a b c d しまねきよし「田口富久治」、朝日新聞社編『現代人物事典』朝日新聞社、1977年、777頁
- ↑ 田口富久治さん死去 朝日新聞デジタル、2022年6月9日
- ↑ 田口富久治さん死去 名古屋大名誉教授、政治学 東京新聞、2022年6月9日
- ↑ a b c d 日外アソシエーツ編『新訂 現代日本人名録2002 3.そ~ひれ』日外アソシエーツ、2002年、264頁
- ↑ 田口富久治『社会集団の政治機能』未来社、1969年、343頁
- ↑ a b 加藤哲郎「田口富久治」、朝日新聞社編『「現代日本」朝日人物事典』朝日新聞社、1990年、957-958頁
- ↑ CiNii 博士論文 - 社会集団の政治機能
- ↑ 伽藍が赤かったとき / 諏訪 兼位/田口 富久治/岩間 優希/影浦 順子/竹川 慎吾/小島 亮【著】 紀伊國屋書店ウェブストア
- ↑ 田口富久治氏死去 大分合同新聞、2022年6月28日
- ↑ 立花隆『日本共産党の研究(三)』講談社文庫、1983年、192頁
- ↑ a b 松村良一「田口富久治」、現代革命運動事典編集委員会編『現代革命運動事典』流動出版、1981年、177-178頁
- ↑ 松村良一「現代の理論」、現代革命運動事典編集委員会編『現代革命運動事典』流動出版、1981年、87頁
- ↑ 諏訪兼位、田口富久治、岩間優希、影浦順子、竹川慎吾、小島亮『伽藍が赤かったとき――1970年代を考える』中部大学(中部大学ブックシリーズ Acta)、発売:風媒社、2012年、53-54頁
- ↑ 「五〇年の研究生活を振り返って-いま思うこと」、田口富久治『丸山眞男とマルクスのはざまで』日本経済評論社、2005年
- ↑ 根津朝彦『戦後『中央公論』と「風流夢譚」事件――「論壇」・編集者の思想史』日本経済評論社、2013年、147頁