爆弾低気圧
爆弾低気圧(ばくだんていきあつ、英語: bomb cyclone[1][2])とは、「温帯低気圧のうち、急速に発達し、熱帯低気圧(台風)並みの暴風雨、または暴風雪をもたらすもの。」を指す俗語である。 爆発的に急速に発達する様からこう名付けられた[3]。
日本の気象庁は、「中心気圧が24時間で24hPa×sin(φ)/sin(60°)以上低下する温帯低気圧(φは緯度)」と定義しているが[4]、公式用語としては採用していない。しかし、マスメディアや気象予報士などによってしばしば使用される表現である[5]。
熱帯低気圧の場合、急速に発達することは一般的なため、急発達する熱帯低気圧を爆弾低気圧とは呼ばない。
定義[編集]
1980年にMITの気象学者のフレデリック・サンダース (Frederick Sanders) らが爆弾低気圧の存在を提唱[6]して以降、様々な気象学者がその定義や解析を試みているが、「12時間以上(主に12時間や24時間が用いられる)にわたって中心気圧が1時間あたり1hPa以上低下した温帯低気圧」を指すことが多い。温帯低気圧に関する論文の中で「Meteorological “bomb”(気象学的な“爆弾”)」という呼称が使用されたことから、和訳ではこれを「爆弾低気圧」と呼ぶ[7][8]。
日本では、気象庁が「中心気圧が24時間で24hPa×sin(φ)/sin(60°)以上低下する温帯低気圧(φは緯度)」を「爆弾低気圧」としているほか、世界気象機関(WMO)も「中心気圧が24時間以内に24hPa以上低下するもの」と定義している[9]。
高緯度であるほど発生頻度が高い傾向にあるため、高緯度ほどコリオリの力の増大により同じ気圧傾度でも地衡風の風速が弱いことを考慮して、時間あたりの低下気圧に (sinφ/sin60°) を掛けて緯度補正を行う定義も用いられることがある(φ=緯度)。たとえば北緯40度(日本でいえば秋田県男鹿市)の上空での場合、24hPa×sin(40°)/sin(60°)=約17.8hPaの気圧が24時間以内に低下した場合に爆弾低気圧と呼ばれるようになる。
気象庁は「爆弾低気圧」という用語について、「爆弾」という用語が不適切であるとして、予報用語の中では「使用を控える用語」と分類しており[10]、今日では「急速に発達する (した) 低気圧」などと言い換えるとしている[9][4]。また、NHKでは、前記のほか「猛烈に発達する (した) 低気圧」などと表現する事もある。読売新聞は2013年1月に「爆弾低気圧」を「猛烈低気圧」に言い換える事を記載した[11]。
解説[編集]
爆弾低気圧は、冷たく乾燥した大陸性気団と暖かく湿った海洋性気団が衝突する大陸辺縁部の、特に東岸で、冬季に多くみられる現象である。日本海(特に佐渡沖周辺と秋田沖周辺)や三陸沖、千島列島・アリューシャン列島南方、アメリカ・カナダの東海岸などで多く観測される[12]。冬季の対流圏上層で傾圧(気圧傾度)が非常に大きい地域の風下(東方)、また顕著な暖流の流域にあることから、これらが発達に関与していると考えられている[13]。
日本付近では10月から1月頃の冬の嵐の時期、2月から3月の春一番の時期が最も多く、4月中旬から5月中旬までのメイストームの時期にもみられる。{{jawp|日本海低気圧]]が日本海から北日本を通過する際に急速に発達し、三陸沖でさらに猛烈に発達する例が多い[14]。アメリカ・カナダでも同様に、冬季に「ノーイースター」と呼ばれる嵐はしばしば爆弾低気圧である。
派生現象[編集]
爆弾低気圧は非常に発達することから、強風に伴い高波を発生させるほか、地震波のP波やS波も発生させる[15]。
過去の主な事例[編集]
- 昭和45年1月低気圧
- 1970年1月30日から2月2日にかけて、爆弾低気圧となって日本列島を襲った温帯低気圧[16]。中部地方から北海道にかけて暴風・大雨・波浪の被害を発生させ、死者・不明者25人、住宅被害5,000棟以上、船舶被害293隻の大きな被害をもたらした[17]。
- 2012年4月の低気圧
- 2012年4月2日に発生後、急発達しながら日本海を横断し北海道を通過し、4月5日にオホーツク海に達した低気圧。4月3日から4月5日にかけて九州・四国・本州・北海道に暴風・大雨・高波による災害を発生させた。
脚注[編集]
- ↑ Bomb cyclones ravage northwestern Atlantic Jack Williams、USATODAY、2005年5月20日。
- ↑ bomb Glossary of Meteorology、アメリカ気象学会、2012年4月22日閲覧。
- ↑ “レアな爆弾低気圧で「史上最低気圧」記録 カリフォルニア(森さやか) - Yahoo!ニュース” (日本語). Yahoo!ニュース 個人. 2021年4月23日確認。
- ↑ a b “気象庁|予報用語 気圧・高気圧・低気圧に関する用語”. www.jma.go.jp. 2021年4月20日確認。
- ↑ “【コラム】爆弾低気圧は異常気象か?<コラム<JAMSTECニュース<海洋研究開発機構”. www.jamstec.go.jp. 2021年4月20日確認。
- ↑ Sanders, F. and Gyakum, J. R. (1980). “Synoptic-Dynamic Climatology of the "Bomb"”. Monthly Weather Review 108 (10): 1589-1606. .
- ↑ “爆弾低気圧とは | 爆弾低気圧情報データベース”. fujin.geo.kyushu-u.ac.jp. 2021年4月20日確認。
- ↑ “冬の嵐をもたらす”爆弾低気圧”とは?” (日本語). ウェザーニュース. 2021年4月20日確認。
- ↑ a b 『爆弾低気圧』 - コトバンク
- ↑ 予報用語について - 気象庁
- ↑ “爆弾低気圧は“禁止語”ですか。”. 読売新聞. 2013年5月1日時点のオリジナル(リンク切れ)よりアーカイブ。2013年2月25日確認。
- ↑ 中村尚、三瓶岳昭、「寒候期における極東域の低気圧活動の特徴(2004年度秋季大会シンポジウム「極東域の温帯低気圧」の報告)」 天気 52(10), 760-763, 2005-10-31,
- ↑ 爆弾低気圧(ボンブ) - 気象用語集
- ↑ 日本近海の爆弾低気圧活動と大規模循環場との相互作用 吉池聡樹、川村隆一、第6回「異常気象と長期変動」研究集会講演要旨、富山大学気象学・気候力学分野(川村研究室)
- ↑ 西田究、高木涼太、「大西洋の爆弾低気圧によって励起された脈動実体波」(PDF) 東京大学地震研究所
- ↑ “唯一名前がついた50年前の低気圧(饒村曜) - Yahoo!ニュース” (日本語). Yahoo!ニュース 個人. 2021年2月25日確認。
- ↑ “昭和45年1月低気圧” (日本語). 株式会社ハレックス. 2021年4月20日確認。