木村汎

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木村 汎(きむら ひろし、1936年6月19日[1] - 2019年11月14日)は、政治学者。北海道大学名誉教授。

経歴[編集]

京城市生まれ。父は民法学者の木村常信。推理作家の山村美紗は実姉、女優の山村紅葉は姪[2]。1960年京都大学法学部卒業。1962年同大学大学院法学研究科修士課程修了[2][3]。指導教員は猪木正道[2]。1968年コロンビア大学大学院政治学科博士課程修了、博士号取得[4]。1970年北海道大学法学部助教授、1977年同大学スラブ研究センター教授、1991年同大学名誉教授、国際日本文化研究センター(日文研)教授[2]。2002年北海道大学名誉教授、拓殖大学海外事情研究所教授、のち客員教授[5]。2002年に『遠い隣国――ロシアと日本』(世界思想社)で第14回アジア・太平洋賞受賞[6]。2016年春に瑞宝中綬章受勲[2]

2019年11月14日、くも膜下出血のため兵庫県西宮市の病院で死去。83歳[2][7]

人物[編集]

  • 日本のロシア研究の第一人者、北方領土返還運動の理論的な支柱として知られる[8]。日本政府の対ソ・対ロ外交に助言を与え[8]、日本政府の対外政策決定に影響を与えた[9]。1979年時点でソ連・東欧学会(のちロシア・東欧学会)の理事を務め、2006年に退任した[10]。著書に『プーチン 人間的考察』(藤原書店、2015年)、『プーチン 内政的考察』(藤原書店、2016年)、『プーチン 外交的考察』(藤原書店、2018年)の「プーチン3部作」[11][12]、対ロ交渉研究の集大成的な大著『対ロ交渉学――歴史・比較・展望』(藤原書店、2019年)などがある[8]
  • 社会思想研究会のメンバーで[13][14]民主社会主義研究会議(民社研)理事、政策研究フォーラム理事を務めた。
  • 1977年10月から産経新聞「正論」欄執筆メンバーで、2016年に第32回正論大賞を受賞した[2]。また2012年まで長期にわたり東京新聞のコラム「時代を読む」を執筆した[8]
  • 1972年から2年間、在ソビエト連邦日本大使館に出向した[15]衆議院議員の鈴木宗男は、元KGBアレクセイ・キリチェンコが『正論』2006年10月号に発表した手記「コミンテルンと日本、その秘密諜報戦をあばく」に登場する「謎の大物大使館員」で政治学者の「コムラ・ヒサイチ」は木村であると主張している[16]。2016年10月に鈴木は第165回国会で「外務省専門調査員による秘密公電のソ連国家保安委員会(KGB)への流出に関する再質問主意書」を提出し、「拓殖大学海外事情研究所教授の木村汎氏が、在ソヴィエト連邦日本国大使館に在勤した時期を明らかにされたい。この期間に木村汎氏は外交官としての特権、免除を享有していたか」などと質問し[17]安倍内閣は「外務省において保管されている文書からは、お尋ねについて確認することはできなかった」と答弁した[18]

著書[編集]

単著[編集]

  • 『ソ連とロシア人――この恐るべき発想と行動の読み方』(蒼洋社、発売:英潮社1980年)
  • 『ソ連人レポート――ロシア的発想の秘密と物の考え方・やり方』(こう書房[こう選書]、1980年)
  • 『ソ連式交渉術』(講談社、1982年)
  • 『ソ連を読む50のポイント』(PHP研究所、1988年)
  • 『北方領土――軌跡と返還への助走』(時事通信社、1989年)
  • 『クレムリンの政治力学』(アドア出版、1991年)
  • 『総決算 ゴルバチョフの外交』(弘文堂、1992年)
  • 『ソ連崩壊と世界』(京都市国際交流協会編、京都市国際交流協会[アジアの風文庫]、1992年)
  • 『日露国境交渉史』(中央公論社[中公新書]、1993年)
  • 『ボリス・エリツィン――一ロシア政治家の軌跡』(丸善[丸善ライブラリー]、1997年)
  • 『プーチン主義とは何か』(角川書店[角川oneテーマ21]、2000年)
  • 『遠い隣国――ロシアと日本』(世界思想社、2002年)
  • 『二〇〇四年に動く?――今後の日ロ関係を予測する』(國民會館[國民會館叢書]、2003年)
  • 『新版 日露国境交渉史』(角川学芸出版[角川選書]、発売:角川書店、2005年)
  • 『プーチンのエネルギー戦略』(北星堂書店、2008年)
  • 『現代ロシア国家論――プーチン型外交とは何か』(中央公論新社[中公叢書]、2009年)
  • 『メドベージェフvsプーチン――ロシアの近代化は可能か』(藤原書店、2012年)
  • 『プーチン 人間的考察』(藤原書店、2015年)
  • 『プーチン 内政的考察』(藤原書店、2016年)
  • 『プーチンとロシア人』(産経新聞出版、発売:日本工業新聞社、2018年/潮書房光人新社[産経NF文庫]、2020年)
  • 『プーチン 外交的考察』(藤原書店、2018年)
  • 『対ロ交渉学――歴史・比較・展望』(藤原書店、2019年)

共著[編集]

  • 『ソ連人レポート――ロシア的発想の秘密と物の考え方・やり方』(関寛治、気賀健三、倉前盛通、甲谷悦雄、大橋武夫、邑井操、佐藤陽子ほか共著、こう書房[こう選書]、1980年)
  • 『ソビエト研究――ソ連を知りたい人のために』(長谷川毅、袴田茂樹、西村可明、皆川修吾、鵜野公郎共著、教育社[World books]、1985年)
  • 『東西関係の展望――日米欧委員会タスク・フォース報告』(ウィリアム・ハイランド、カール・カイザー共著、日米欧委員会[トライアングル・ペーパーズ]、1987年)
  • 『北方領土を読む』(木村汎ほか述、プラネット出版、1991年)
  • 『日・米・ロ新時代へのシナリオ――「北方領土」ジレンマからの脱出』(グラハム・T・アリソン、コンスタンチン・サルキソフ共著、ダイヤモンド社[SPFグローバル・ブックス]、1993年)
  • 『「新冷戦」の序曲か――メドベージェフ・プーチン双頭政権の軍事戦略』(名越健郎、布施裕之共著、北星堂書店、2008年) 
  • 『現代ロシアを見る眼――「プーチンの十年」の衝撃』(袴田茂樹、山内聡彦共著、日本放送出版協会[NHKブックス]、2010年)

編著[編集]

  • 『日本の安全・世界の平和――猪木正道先生退官記念論文集』(衛藤瀋吉ほか編著、原書房、1980年)
  • 『北方領土を考える』(北海道新聞社、1981年)
  • 『ゴルバチョフ革命――ペレストロイカの挑戦と障害の分析』(佐瀬昌盛共編著、サイマル出版会、1988年)
  • 『ゴルバチョフのペレストロイカ』(P・ジュヴィラー共編、勁草書房、1989年)
  • 『北方領土――ソ連の5つの選択肢』(編著、読売新聞社[Yomiuri Books]、1991年)
  • 『エリツィン革命と日本――ロシア・ソ連はどこに行くのか?』(編、実業之日本社、1991年)
  • 『講座スラブの世界(7)スラブの国際関係』(伊東孝之、林忠行共同責任編集、弘文堂、1995年)
  • 『もっと知りたいロシア』(編、弘文堂、1995年)
  • 『国際交渉学――交渉行動様式の国際比較』(編、勁草書房、1998年)
  • 『日本・ベトナム関係を学ぶ人のために』(エン・ズイ・ズン、古田元夫共編、世界思想社、2000年)
  • 『国際危機学――危機管理と予防外交』(世界思想社、2002年)
  • 『プーチンの変貌?――9・11以後のロシア』(佐瀬昌盛共編、勉誠出版、2003年)
  • 『イラク戦争の衝撃――変わる米・欧・中・ロ関係と日本』(朱建栄共編、勉誠出版、2003年)
  • 『中央アジアの行方――米ロ中の綱引き』(石井明共編、勉誠出版、2003年)
  • 『朝倉世界地理講座 10 東ヨーロッパ・ロシア』(加賀美雅弘共編、朝倉書店、2007年)
  • 『アジアに接近するロシア――その実態と意味』(袴田茂樹共編著、北海道大学出版会、2007年)
  • 『北東アジアに激変の兆し――中・朝・ロ国境を行く』(大森經徳、川西重忠共編著、桜美林大学北東アジア総合研究所[北東アジア研究叢書]、2011年)

訳書[編集]

  • フィリップ・E・モーズリー『ソビエトと世界政治』(山川雄巳共訳、論争社、1962年)
  • M.M.ドラーシコヴィッチ編『現代のマルクス主義――20世紀に挑戦する思想家たち』(社会思想社、1967年)
  • マービン・マスューズ『ソ連における特権――共産主義下のエリートのライフ・スタイル』(監訳、日本工業新聞社[Ohtemachi books]、1983年)
  • 編訳『岐路に立つゴルバチョフ』(勁草書房、1990年)
  • マーチン・ギルバート『ロシア歴史地図――紀元前800年~1993年』(監訳、菅野敏子訳、東洋書林、発売:原書房、1997年)

出典[編集]

  1. デジタル版 日本人名大辞典+Plus 「木村汎」の解説 コトバンク
  2. a b c d e f g 木村汎さん死去、83歳 ロシア研究、正論大賞 iza、2019年11月14日
  3. researchmap
  4. アジア・太平洋新秩序の模索 慶應義塾大学出版会
  5. 最強権威が分析する安倍プーチン会談 北方領土交渉はなぜ1ミリも動かなかったか 言論テレビ
  6. アジア・太平洋賞 歴代受賞作品一覧 一般社団法人アジア調査会
  7. 木村汎氏が死去 ロシア研究家 日本経済新聞、2019年11月15日
  8. a b c d 木村汎さん死去 ロシア研究の第一人者 83歳 東京新聞、2019年11月15日
  9. 田畑伸一郎・岩下明裕「木村汎先生のご逝去によせて」北海道大学スラブ・ユーラシア研究センター
  10. 袴田茂樹「木村汎先生の急逝を悼むPDF」ロシア・東欧学会Newsletter No.39
  11. 【評伝】木村汎さん、対露外交に強い懸念 若い研究者の手本 産経ニュース、2019年11月15日
  12. 訃報:名著『プーチン』三部作の著者、木村汎先生が亡くなられました 藤原書店、2019年11月15日
  13. 【湯浅博 全体主義と闘った思想家】独立不羈の男・河合栄治郎(72)後継者編(3-3)(1/4ページ) 産経ニュース、2016年12月10日
  14. 藤生明日本会議と共闘する労働戦線は、どう作られてきたか <1> 生きていた民社党、保守運動をオルグする(3ページ)」論座、2019年5月5日
  15. 伊東孝之「木村汎さんを悼む」北海道大学スラブ・ユーラシア研究センター
  16. 鈴木宗男「領土返還を阻む者たち」月刊日本、2016年11月23日
  17. 外務省専門調査員による秘密公電のソ連国家保安委員会(KGB)への流出に関する再質問主意書 衆議院
  18. 衆議院議員鈴木宗男君提出外務省専門調査員による秘密公電のソ連国家保安委員会(KGB)への流出に関する再質問に対する答弁書 衆議院

外部リンク[編集]