高梨昌

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高梨 昌(たかなし あきら、1927年昭和2年)9月18日 - 2011年平成23年)8月30日)は、労働経済学者[1]信州大学名誉教授。中央職業安定審議会会長、中央労働委員会委員、日本労働研究機構(現・労働政策研究・研修機構)会長などを務めた。1985年の労働者派遣法の成立に携わった[2]

来歴[編集]

東京都渋谷区生まれ[3]。1953年東京大学経済学部商業学科[4]卒業、東京大学大学院修了[3]。東大経済学部では大河内一男のゼミに所属[5]。大学院では氏原正治郎らに師事し[2]、労働者の実態調査に携わった[2][5]。1957年信州大学文理学部講師、のち助教授、1966年人文学部助教授[3]、1970年教授[† 1]。1972年同大学評議員、1975年人文学部長、1977年経済学部創設室長[6]。1978年経済学部創設により同教授[2]、1980年経済学部長、1993年定年退職し、名誉教授[6]。1990年日本労働研究機構研究所所長を兼務、1996年同機構会長、2001年退任[6]、同機構顧問[7]。2001年、勲二等旭日重光章受章[3]

雇用審議会会長(1966年-2000年、総理府)、中央職業安定審議会会長(1973年-1996年、労働省)、中央職業訓練審議会・中央職業能力開発審議会委員(1978年-1991年、労働省)、中小企業政策審議会委員(1979年-1988年、総理府)、司法試験考査委員(1981年-1988年、法務省)、国家公務員採用1種(旧上級職)試験専門委員(1983年-1993年、人事院)、中央労働委員会公益委員(1984年-1996年、労働省)、臨時教育審議会専門委員(1984年-1987年、総理府)[8]、失業対策事業賃金審議会会長(労働省)[2]、雇用職業総合研究所所長代理、65歳現役社会推進会議会長代理[9]などを兼任した。

2011年8月30日、胃がんのため死去、83歳[10]

人物[編集]

専門は社会政策、労使関係論[11]。労働問題の実証的な研究者として知られる[3][5]。中央職業安定審議会委員・会長として、1974年の雇用保険法、1985年の労働者派遣法、1993年のパート労働法の成立に携わるなど[12]、70年代半ばから90年代後半まで国の雇用政策づくりに大きく関与した[5]

労働者派遣法の制定に携わったことから「ミスター派遣法」[13]、「労働者派遣法の生みの親」とも呼ばれ[14][15]非正規雇用の拡大や派遣切りが社会問題となった際には批判を浴びた。高梨自身は新自由主義的な規制緩和には批判的であり、1999年の改正で派遣業種が原則自由化された派遣法について、制定当初は「ヤミで広がった働き方を法の枠にはめて認めるものだった」とし、その「原点へ帰れ」と主張した[5]

1984年に国労から第二臨調国鉄分割民営化案に対抗するための国鉄再建政策立案の委嘱を受け、国労側との議論の末に「限りなく民営企業に近い株式会社形態の特殊法人」とする報告書を出した。しかし、革同向坂派の要求で国労執行委員会は反対声明を出し、世間から自らが委嘱した研究会報告に反対声明を出すとは非常識であると非難を浴びた[16]。高梨委員会報告はのちに社会党の「国鉄再建に関する社会党政策案」に生かされた[17]

所属団体[編集]

  • 社会政策学会
  • 日本労働法学会
  • 日本労務学会[11]

著書[編集]

単著[編集]

  • 『現代日本の労働問題――労使関係「近代化」の現状と課題』(東洋経済新報社、1965年)
  • 『日本鉄鋼業の労使関係――団体交渉下の賃金決定』(東京大学出版会、1967年)
  • 『日本の労使関係』(東洋経済新報社[東経選書]、1977年)
  • 『財政民主主義と公社の当事者能力』(公共企業体等労働問題研究センター[調査研究資料]、1978年)
  • 『転換期の雇用政策』(東洋経済新報社、1979年)
  • 『臨教審と生涯学習――職業能力開発をどうすすめるか』(エイデル研究所、1987年)
  • 『現代の労働――研究と政策と実践と』(高梨昌、1992年)
  • 『生涯学習と学校教育改革』(エイデル研究所、1992年)
  • 『これからの雇用政策の基調』(日本労働研究機構、1993年)
  • 『雇用政策見直しの視点――安易な規制の緩和・撤廃論を排す』(労務行政研究所、1999年)
  • 『日本の雇用問題――21世紀の雇用』(社会経済生産性本部生産性労働情報センター、2001年)
  • 『変わる春闘――歴史的総括と展望』(日本労働研究機構、2002年)
  • 『構想完全雇用政策の再構築――労働ビッグバンを問う』(社会経済生産性本部生産性労働情報センター[生産性労働情報センターブックレット]、2007年)
  • 『〈証言〉雇用・能力開発の政策形成――1970・80年代の歴史から学ぶ』(エイデル研究所、2010年)

共著[編集]

  • 『中小企業と賃金問題』(小林謙一、大森暢之共著、東京都労働局[東京都通信労働講座テキスト]、1962年)
  • 『日本の賃金――その論理と実態』(小林謙一、山本潔、神代和欣共著、日本労働協会、1964年)
  • 『日本のユニオン・リーダー』(大河内一男氏原正治郎高橋洸共著、東洋経済新報社、1965年)
  • 『日本労働市場分析(上・下)』(氏原正治郎共著、東京大学出版会[東大社会科学研究叢書]、1971年)
  • 『働くものの権利が危ない――今なぜ、労働法制の規制緩和か』(大脇雅子、熊沢誠、山路憲夫共著、かもがわ出版[かもがわブックレット]、1998年)

編著[編集]

  • 『教養経済学辞典』(大河内一男、内田忠夫、田添京二、大河内暁男、加藤三郎、兵藤釗共編、青林書院新社、1967年)
  • 新左翼労働運動10年――三菱長崎造船社研の闘争(全2巻)』(久保田達郎、藤田若雄、神林章夫、竹川慎吾共編、三一書房、1970年)
  • 『建設産業の労使関係』(東洋経済新報社、1978年)
  • 『経済学辞典』(大河内一男、大河内暁男、貝塚啓明、加藤三郎、田添京二、中村隆英、兵藤釗共編、青林書院新社、1980年)
  • 『行政改革は成功するか』(総合労働研究所[SR books]、1982年)
  • 『パートタイマーの活用と管理』(東洋経済新報社、1983年)
  • 『証言 戦後労働組合運動史』(東洋経済新報社、1985年)
  • 『詳解労働者派遣法』(日本労働協会、1985年/日本労働研究機構、2001年[第2版]/エイデル研究所、2007年[第3版])
  • 『エグゼクティブ・マネジメント 17 女子社員の管理』(松本健共編著、東洋経済新報社、1985年)
  • 『人材派遣業の世界――事務処理サービスー使い方、働き方』(東洋経済新報社、1986年)
  • 『春闘の歴史的総括と展望――春闘研究会報告書』(代表高梨昌編、春闘研究会、1988年)
  • 『新たな雇用政策の展開――昭和50年代の雇用政策』(労務行政研究所、1989年)
    • 『新たな雇用政策の展開』(改訂版、労務行政研究所、1995年)
  • 『「連合」のすべて』(山田精吾監修、鷲尾悦也、加藤敏幸共編、エイデル研究所、1990年)
  • 『変わる日本型雇用』(日本経済新聞社、1994年)
  • 『人材派遣の活用法』(東洋経済新報社、1997年)
  • 『人材ビジネス会社情報』(リンク総研共編、東洋経済新報社、2001年)
  • 『若手社員の活性化と人材育成――企業17社の事例調査から』(社会経済生産性本部生産性労働情報センター、2003年)
  • 『人材派遣の活用――派遣法改正に実践的対応 基本知識から最新動向まで』(エイデル研究所、2004年)
  • 『若者に希望と誇りをもてる職業を――若年雇用対策へ向けた提言』(社会経済生産性本部生産性労働情報センター[生産性労働情報センターブックレット]、2004年)
  • 『外国人労働者問題と人口減少社会の雇用戦略』(社会経済生産性本部生産性労働情報センター[生産性労働情報センターブックレット]、2005年)
  • 『ゼミナール日本の雇用戦略――人口減少下の労働問題』(連合総研共編著、エイデル研究所、2006年)
  • 『非正規雇用ハンドブック――使用者が守るべきこと』(木村大樹共編著、エイデル研究所、2008年)
  • 『70歳雇用時代への展望と課題』(社会経済生産性本部生産性労働情報センター[生産性労働情報センターブックレット]、2008年)

監修[編集]

  • 『リーディングス日本の労働(全11巻)』(日本労働研究機構、1997年-2001年)
  • 『事典・労働の世界』(花見忠共監修、日本労働研究機構、2000年)
  • 『現代実務労働法――働き方、働かせ方のルール』(木村大樹著、エイデル研究所、2009年)

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. 『「現代日本」朝日人物事典』・『20世紀日本人名事典』・『デジタル版 日本人名大辞典+Plus』では、1971年に信州大学教授。

出典[編集]

  1. 濱口桂一郎「ようやく普通の法律になった労働者派遣法」nippon.com
  2. a b c d e 神代和欣「高梨昌」朝日新聞社編『「現代日本」朝日人物事典』朝日新聞社、1990年
  3. a b c d e 日外アソシエーツ編『20世紀日本人名事典 そ-わ』日外アソシエーツ、2004年、1451-1452頁
  4. 平凡社教育産業センター編『現代人名情報事典』平凡社、1987年、574頁
  5. a b c d e 「(惜別)信州大学名誉教授・高梨昌さん 労働者の実態調査を雇用政策に生かす」『朝日新聞』2011年11月26日付夕刊12面(惜別)
  6. a b c 証言 雇用・能力開発の政策形成―1970・80年代の歴史から学ぶ 紀伊國屋書店
  7. 変わる春闘―歴史的総括と展望 紀伊國屋書店
  8. 詳解労働者派遣法 (第3版) 紀伊國屋書店
  9. 高梨 昌 (たかなし あきら) 日本経済新聞出版社
  10. 高梨昌氏が死去 信州大名誉教授日本経済新聞』2011/9/6付
  11. a b 日外アソシエーツ編『新訂 現代日本人名録2002 3.そ~ひれ』日外アソシエーツ、2002年、116頁
  12. 日本の雇用問題―21世紀の雇用 紀伊國屋書店
  13. 高梨昌 | 日本記者クラブ JapanNationalPressClub (JNPC) 日本記者クラブ
  14. 「「派遣法の生みの親」・高梨昌さんに法制定の思いを聞く」『労働情報』761号(2009年2月15日号)
  15. 「佐々木実の経済私考 労働者派遣法生みの親・高梨昌の遺言「労働は商品ではない」」『金曜日』22巻11号通巻1001号(2014年3月21日)、15頁
  16. 秋山謙祐『語られなかった敗者の国鉄改革――「国労」元幹部が明かす分割民営化の内幕』情報センター出版局、2009年、164-165頁
  17. 前掲『語られなかった敗者の国鉄改革』202頁

関連文献[編集]

  • 佃實夫ほか編 『現代日本執筆者大事典 第3巻 (人名 す~は)』(日外アソシエーツ、1978年)
  • 紀田順一郎ほか編『現代日本執筆者大事典77/82 第3巻(す~は)』(日外アソシエーツ、1984年)
  • 紀田順一郎ほか編『新現代日本執筆者大事典 第3巻(す~は)』(日外アソシエーツ、1992年)
  • 高木郁朗監修、教育文化協会編『日本労働運動史事典』(明石書店、2015年)