三平方の定理
三平方の定理とは、ユークリッド幾何学における定理のひとつ。
一般的にはピタゴラスの定理という名前で広く知られ、直角三角形の三辺の長さに関する定理として教えられてきた経緯がある、そこから「ピタゴラス数」という言葉も生まれた。ただし、社会構造の変化に伴う算数・数学の抽象化によって、数学教育においては都合がよいというので「三平方の定理」とも呼ばれるようになった。
概要[編集]
ピタゴラスの定理という名前でよく知られているものの、すでに古代バビロニア(ハンムラビ法典」で知られるハンムラビ王の治世)において知られていたことがYBC7289およびプリンプトン322という数学粘土板から確認できる。当時の説明は「まず長方形を考えて、対角線を一本引いて二つの直角三角形に分割できるようにする」というものであったらしい。これを「長辺+短辺」の辺長をもつ正方形の枠に入れると、空いた部分の面積が「対角線×対角線」の正方形にもなれば、「短辺×短辺」の正方形と「長辺×長辺」の正方形の二つにもなることから証明される。
すなわち、長方形の2辺の長さを x, y とし、対角線の長さを z すると、 が成り立つ。
YBC7289 は、「もともとの長方形を正方形に近づけてゆくと、2の平方根の近似値が求まる」ことを示していると考えられる。このときの「どうやって近づけてゆくか」に関する文書がプリンプトン322 である。これについては原始バビロニア長方形を参照されたい。
証明[編集]
この定理の証明は現在までに数百通りが知られている。証明の一覧
ピタゴラス数[編集]
三平方の定理を成り立たせる3数がいずれも自然数であるとき、この3数のことを一般的にはピタゴラス数という。
x, y を任意の自然数としたときに、(a, b, c) の組は または と表される。
たとえば x = 4, y = 5 のとき、(a, b, c) = (9, 40, 41) の組が得られる。
このとき、「a と b のどちらが大きいか?」などと考えはじめると数学教育的にはデカルト座標系の学習につなげるときに困るので、「xy平面上の第1象限内の任意の点(x, y)と原点の間の距離」と結びつけることを考えて、「タイルを並べてつくった長方形に対角線を一本引く」ことを考え、偶数(even)辺・奇数(odd)辺・対角線(diagonal)のそれぞれの長さの比が自然数比になる(要するに d がぴったり元のタイルの辺の長さの倍数になる)という場合を考えて {e, o, d} とするとわかりやすい[1]。
このとき
- e は 4 の倍数である
- e × o × d は60 の倍数である
などの性質がある。
なお、ピタゴラス数のうち、e・o・d あるいは a・b・c がそれぞれ互いに素であるものを、一般に原始ピタゴラス数と呼ぶ。
実用例[編集]
古代エジプト時代には既には知られていたらしく、農地の測量からピラミッド等の巨大土木構造物の建設に至るまで幅広く活用されていたらしい[2]。
古代ギリシア時代には太陽の高度を測定するため三角測量を行なったが、結果的に「地球は球体である」ことに思い至ったらしく、地球の直径が算出されることとなった。
紀元前千八百年前にはすでに実用化され、当時の事務官(書記)の学校で教えられていた。
このほか、地図の作成における三角測量は、この三平方の定理を基礎にしている。のちにフランスで長さの単位メートルを決めるため、三角測量を利用して地球の丸みを正確に計測することが試みられ、「地球の円周は四万Km」から逆算して1メートルが決定された。
距離と三平方の定理[編集]
他にも、デカルト平面座標上の2点の距離を求めるのにも使用される。
すなわち点P (x, y) と点Q (X, Y) の距離は である。これは、三平方の定理 から導かれるものである。
3次元以上の空間でも同様で、n次元空間における点P (x1, x2, …, xn) と点Q (X1, X2, …, Xn) の距離は である。これも、三平方の定理をn-1回適用することで導くことができる。
中学校の数学で学習するが、三年生の教科に入っているため、中高一貫校でもなければじっくりと時間をかけては教えられていない。
その他[編集]
大航海時代を迎えると、航海の際には天体観測による緯度の測定が行われていたが、肝心の地球のサイズが不確かだったのであまり精度はよくなく、経度となるとさらに不確かだった[3]。クロノグラフや天体暦によって修正されつづけてきた。
近年ではスマートフォンなどの普及により身近となったGPSやその他の準天頂衛星からの電波を用いての測量が一般化しているが、そうなると今度は特殊相対性理論なども考慮しなければならなくなるため、位置精度を上げようとすると三平方の定理だけでは済まなくなってくる。
脚注[編集]