原始バビロニア長方形

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原始バビロニア長方形(げんしバビロニアちょうほうけい)とは、アマチュア数学愛好家の島田正雄が「原始ピタゴラス数」に着想を得て、独自に提唱している概念である。現在、数学界で一般に認められている概念ではない。当人は「原始ピタゴラス数」が一般的であるためこう命名したが、それなりに知名度が上がったため「『既約バビロニア長方形』にしておけばよかった orz」と悔いている。

概要[編集]

YBC 7289 という現在から三千八百年ほど前の古代バビロニアの数学粘土板に描かれた、「長方形に一本だけ対角線が引かれた」図形に基づく。[1]

「短辺に接する正方形の面積と長辺に接する正方形の面積が、対角線に接する正方形の面積に等しく、各辺長を自然数で表したときに互いに素である長方形」を指す。
数学的にいうと、「原始ピタゴラス数を、短辺と長辺と対角線の長さとして持つ長方形」を指す[1]が、現在の数学教育においては「現在の数学的手法」によって扱いやすい表現(要するに、受験におけるペーパーテスト)によっては扱いにくいため、二十世紀になるまではあまり顧みられなかった。

いわゆる三平方の定理は、もっぱら「直角三角形」に関する定理だとされており、ここから「ピタゴラスの定理」と呼ばれ、「ピタゴラス数」「原始ピタゴラス数」といった言葉が広く使われている。とはいえ、測量や建築分野においては(おいても)、「三角形」という概念はあまり一般的とはいえず、製図用の三角定規くらいしか思いつかない。「三角測量」「三角点」もあるが、それも正方座標系(直交座標系またはデカルト座標系)における位置を求めるための手段という位置づけだと謂える。
したがって、「三平方の定理は(直角三角形に関する定理ではなく)長方形に関する定理として扱った方が(直角三角形に関する定理として扱ったほうが「数学的に扱いやすいという利点はあるものの)、数学教育上はよろしいのではないか?」という意見がある。
そもそも数学とはの学であり、事象世界におけるの概念を捨象し、抽象化したイデア界の学問だという主張もあるので、あまり義務教育にはなじまない。いわゆる「ピタゴラスの定理」も、中学校三年生になって、ほぼ受験対策として教えられる程度の扱いである。

すでに三千八百年前の古代バビロニア(ハンムラビ王朝であり、ネブカドネザル王朝である新バビロニアとは異なる。横山光輝『バビル二世』は新バビロニアである)において発見されていたことがプリンプトン322 や YBC 7289 から確認できる。
ただし、興味が持たれたのは一九五十年代にオットー・ノイゲバウアーらによって「古代バビロニアに三平方の定理が普及し応用されていた」ことが指摘されて以降の話であり、一応の証明が出揃ったのが二十世紀後半、ほぼ解明されたのは二十一世紀に入ってからである。

三平方の定理には、算数(とはいえ三平方の定理は中学三年にならないと教わらないのだが)や数学に関連する各種の興味深い要素があるが、いずれにせよ現時点では義務教育においては重要視されておらず、それが自然数とどう関わっているのかといった話題になると、高校の数学教諭でさえお手上げになるような話題である。ところが、現在は小学校でもプログラミング教育が必修化されているので、大学の数学科を修えた高校の数学教師であっても(コンピュータ・リテラシーを身につけた)小中学生に歯が立たないこともある。そういった意味では、「数学ギライの治療薬」的な効果がある。 (面積が0ではない、ユークリッド平面上の)長方形においては、短辺と長辺との長さの和は、必ず長方形の対角線の長さよりも大きい。同時に三平方の定理が成りたつ。直線距離マンハッタン距離から明らかである。

原始バビロニア長方形の短辺と長辺の長さは一方が奇数で一方が偶数(対角線長は必ず奇数)なのだが、辺のどちらが長辺なのか短辺なのかはは実際に計算してみないと確認できない。それゆえ、{o, e, d}(奇数(odd)辺・偶数(even)辺・対角線(diagonal))と表記するか、{a, b, c}(a < b < c)と表記するかの二通りの流儀がある。

理論[編集]

原始バビロニア長方形(原始ピタゴラス数)には親子関係があり、元祖である 3×4 の長方形(対応する原始ピタゴラス数としては{3, 4, 5})から、U・D・A という三つの操作を行なった結果、三個の「子」にあたる原始バビロニア長方形が生まれる(数学的には「原始ピタゴラス数は三分木構造をなす」という)。この証明が行われたのが二十世紀後半の話だが、数論の中でもひどくマイナーな分野であったため、1963年にオランダのバーニング (F.J.M.Barning)、1970年にアメリカのホール (A.Hall)、また1993年頃に日本の亀井喜久男によってそれぞれ独立に(お互いの業績を知らぬまま)証明されたために、あまり知られなかった。

それとは別に古代バビロニアのプリンプトン322の解読に挑み、パソコンによる数学実験によって「原始ピタゴラス数は三分木構造をなす」ことが三千八百年前にすでに知られていたことが判った。
すでに得られていた三つの操作のうちのひとつ(Aである)を繰り返すと、2の平方根の近似値が割合に簡便に求まるため、 「YBC7289 の値はその方法によって計算されたのではないか」という推測もある。WikiPedia の「原始ピタゴラス数」の記事は参考にはなるが、数学的な整合性はあるものの、教育面から考えると、平易とは言い難い。
(696 + 697)/985 を適当に丸めると2の平方根の近似値が出てくるが、これは「短辺が 696、長辺が 697、対角線が 985 の原始バビロニア長方形」から求められたものかもしれない。

基本的には「互いに素である奇数 (p, q) 」(この記事内では、p < q とする)が原始ピタゴラス数と一意に対応していることが「零の発見者」として知られる七世紀インドのブラフマグプタによって述べられているが、「互いに素である、偶奇の異なる自然数 (m, n)」(この記事内では、m < n とする)ということが、ユークリッド原論において述べられていたため、それほど注目はされなかったようである。

(p, q) の最小値は (1, 3)であり、(m, n) の最小値は (1,2) である。(p, q) と(m, n)の間には、p = n - m と q = n + m という和差の関係がある。 p × q の長方形と m × n の長方形において、

  1. 長辺に、正方形を二つ くっつける。
  2. 短辺に、正方形を二つ くっつける。
  3. 長辺を長さとした正方形二つから、元の長方形を引く。

という操作によって「より面積の大きい長方形」を生成することができ、その長方形が(その長方形を種とした)原始ピタゴラス数に一意対応する。これは(p, q)にも(m, n)にも当てはまり、行列式を使わずとも図形的あるいは連分数によって(小中学生や高校生にも)理解が可能だと思われる。 とはいえ行列式にせよ図形的な説明にせよ連分数にせよ、「二次元で書かねばならない」という問題があり、現場の教師にとっては板書と喋りの両方の才能が要求されるため、現在のところ定着していない。 「授業・講義はパフォーミング・アートである」と覚悟して、講談師や噺家に学ぶ姿勢があっていいと思われる。

特性[編集]

以下のような数学的な特性がある。

  1. 対角線と他のいずれかは、奇数である。なぜなら、「すべて偶数」であったら共通因数が2になるために最大公約数として2が出てきてしまい、「互いに素」という条件が崩れてしまうからである。
  2. 偶数辺の長さは4の倍数である。
  3. 奇数辺と対角線はどちらも奇数である。
  4. 奇数辺と対角線は少なくともどちらかが3の倍数であり、少なくともどちらかが5の倍数である。
  5. したがって、偶数辺と奇数辺と対角線の辺長の積は六十の倍数である。

これらを真面目に証明しようと思うと「場合分け」の手間が大変だが、(計算問題の演習の課題だと思えば)一生に一度くらいはやってみてもよいように思われる。 なお、「既約バビロニア長方形の対角線長を素因数分解したときに、因数として出てこない素数に共通する性質は何か?」といった問題は、興味を引かれている。

脚注[編集]

  1. a b BackLog 「あらためて用語について」、http://animaleconomicus.blog106.fc2.com/blog-entry-1157.html