プリンプトン322

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プリンプトン322とは、古代バビロニアの数学粘土板である。コロンビア大学に収蔵されているプリンプトン・コレクションの322号であるためこう呼ばれる。原始バビロニア長方形のうち、対角線の長さが六十進小数で表したときに計算しやすいものの表である。オットー・ノイゲバウアーが気づいた、「誰かが検証するだろう」と思ったらしくそのまま放っておいたところ、怪しげな俗説が敷衍された。マスコミの科学・数学オンチの弊害である。

概要[編集]

以下の表である。とはいえ原本にはいくつか写し間違いとかもあるので訂正はしてある。なお、元の表は左右が逆であり、六十進数で表記されている。また、原表に(p,q)の記載はなく、長辺は略されている。

順番 (p,q) {短辺,長辺,対角線}
1 (7, 17) {119,(120,)169} ≒1.008
2 (37, 91) {3367,(3456,)4825} ≒1.026
3 (43, 107) {4601,(4800,) 6649} ≒1.043
4 (71, 179) {12709,(13500,) 18541} ≒1.062
5 (5, 13) {65,(72,) 97} ≒1.108
6 (11, 29) {319,(360,) 481} ≒1.129
7 (29, 79) {2291,(2700,) 3541} ≒1.179
8 (17, 47) {799,(960,) 1249} ≒1.202
9 (13, 37) {481,(600,) 769} ≒1.247
10 (41, 121) {4961,(6480,) 8161} ≒1.306
11 (1, 3) {3,(4,)5}×15={45,(60,) 75} ≒1.333
12 (23, 73) {1679,(2400,) 2929} ≒1.429
13 (7, 23) {161,(240,) 289} ≒1.491
14 (23, 77) {1771,(2700,) 3229} ≒1.525
15 (5, 9) {23,(45),53}×2={56,(90,) 106} ≒1.607

解説[編集]

互いに素で相異なる奇数 p,q (p < q) について

  • e = (q2 - p2)/2
  • o = p*q
  • d = (p2 + q2)/2

とすると、o2+e2=d2が成立し、 eとoとdは原始バビロニア長方形をなす。このとき 0 < p < q < 180 の範囲で、「長い辺と短い辺の比の値が1以上φ(黄金比。≒1,618)以下のもののうち、d が 2と3と5 以外の約数を含まないもの」の表がプリンプトン322 である。 行11の長辺 60 の約数として 1,2,3,4,5,6 が現れることと、行15 の面積である 5,040 の約数として 1,2,3,4,5,6,7,8,9,10 が現れるのは、書記のお遊びであるらしい。

迷走の原因[編集]

それは、「互いに素で偶奇の異なる自然数 m,n (m < n) 」をもとに計算してしまったことにある。そうすると 0 < m < n < 180 の解は 18 個になってしまい、プリンプトン322 の「15個」とは数が合わない。すなわち、

  • o = n2 - m2
  • e = 2*m*n
  • d = m2 + n2

とすると、o2+e2=d2が成立し、 eとoとdは原始バビロニア長方形をなす[1]。このとき 0 < m < n < 180 の範囲で、「長い辺と短い辺の比の値が1以上φ(黄金比。≒1,618)以下のもののうち、d が 2と3と5 以外の約数を含まないもの」の数が、プリンプトン322 の 15 に対して 18 となる。 これを表としてみると、こうなる。

順番 (m,n) {短辺,長辺,対角線}
1 (5, 12) {119, 120, 169} ≒1.008
2 (27, 64) {3367, 3456, 4825} ≒1.026
3 (43, 107) {4601, 4800, 6649} ≒1.043
4 (54, 125) {12709, 13500, 18541} ≒1.062
5 (4, 9) {65, 72, 97} ≒1.108
6 (9, 20) {319, 360, 481} ≒1.129
7 (25, 54) {2291,(2700,) 3541} ≒1.179
8 (15, 32) {799,(960,) 1249} ≒1.202
8 (64, 135) {14129, 17280, 22321} ≒1.223
9 (12, 25) {481,(600,) 769} ≒1.247
10 (9, 20) {319, 360, 481} ≒1.285
11 (40, 81) {4961, 6480, 8161 ≒1.306
12 (1, 2) {3, 4, 5} ≒1.333
13 (81, 160) {19039, 25920, 32161} ≒1.361
14 (64, 125) {11529, 16000, 19721} ≒1.388
15 (25, 48) {1679,(2400,) 2929} ≒1.429
16 (8, 15) {161,(240,) 289} ≒1.491
17 (27, 50) {1771, 2700, 3229} ≒1.525
18 (5, 9) {23,(45),53} ≒1.607

なまじ近いからややこしくなる。俗説に騙されないように教養を身につけよう。

計算[編集]

0 < p < q < 180 の奇数 (p, q) の組合せは 4,005 通りある。このうち p と q 互いに素な組合せは 3,283 通りあるが、あんまり数は減っていない。したがってバーニングとホールの定理を使っても大して計算量は減らない。
ここから原始バビロニア長方形を求め、長辺の長さが正則数であるものを選ぶと 42 通りにまで減る。こうなると結構やる気が出てくるので、「長辺が正則数である原始バビロニア長方形を撰ぶ」という点に、たぶん何かしらの工夫があったと思われる。この中から長辺と短辺の比の値(AR とする)が 1 < AR < φ であるものを得るのはけっこう大変そうだが、これは整列キーである第 1 列を見ればすぐわかる。したがって、黄金比φを六十進数で表した値が記載された粘土板があってもおかしくない[2]。捏造するなら今のうちである。

参考文献[編集]

脚注[編集]

  1. こちらの式のほうがむしろ有名である。
  2. ただし、まだ発掘されていないかもしれないし、2の平方根ほどの実用性もないので捨てられてしまったかもしれない


関連項目[編集]

その他[編集]