マンボウ

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マンボウ(Mola mola)は、フグ目マンボウ科マンボウ属の硬骨魚類。

マンボウ属の魚は、2017年の時点でマンボウウシマンボウカクレマンボウの3種に分類される。このうち、日本近海で見られるのはマンボウとウシマンボウである。一方、名前の似るアカマンボウは、フグ目ではなくアカマンボウ目の魚で、近縁種ではない。また、形態の似るヤリマンボウは、マンボウ科のヤリマンボウ属に分類される。

マンボウ属の分類は2010年以降急激に変化しており、当記事のみならず参考文献においても、マンボウ(Mola mola)についての記述にウシマンボウやカクレマンボウに関するものが含まれる可能性がある。

形態[編集]

最大で全長333センチメートル、体重2.3トン。現在生息している世界最大級の硬骨魚のひとつである。ただし、大型の個体はウシマンボウである可能性がある。かつては「世界で最も重い硬骨魚はマンボウ 」とギネス世界記録に認定されていたが、2017年、千葉県鴨川市沖で1996年に捕獲されたウシマンボウの個体(2.72メートル、2.3トン)に恒心された[1][2]

体は側面から見ると円盤型、正面から見ると紡錘形をしている。背びれと尻びれは長く発達し、体の後部から上下に突き出しているが、多くの魚が持つ尾びれと腹びれは持たない。体の後端にある尾びれのような部分は、背びれと尻びれの一部が変形したもので、舵びれあるいは橋尾とも呼ばれる[3][4]。泳ぐときは背びれと尻びれの動きを同調させて羽ばたくように対称に動かすことで推進力を生み、舵びれあるいは橋尾で舵をとる[5]

フグ目に特徴的な丸い目、小さな口、鳥の嘴のような板状の歯、小さな穴状のエラ穴を持つ。腹びれと肋骨を持たないのも同目の特徴である。目には寄生虫が付いていて、ほとんど見えていないため、よく水族館等のガラスにぶつかる。

皮膚は厚く粘液で覆われるとともに、おびただしい量の寄生虫が付着している[6]

生態[編集]

岸辺や近海に生息するフグが外洋に進出して適応進化したものであり、全世界の熱帯・温帯の海に広く分布する。外洋の表層で浮遊生活をしていると考えられてきたが、研究により生息の場は深海にまで及んでおり、海上で見せる姿は生態の一部にすぎないことがわかってきた。発信機をつけた追跡調査で、生息水深を一定させず、表層から水深800m程度までの間を往復していることが明らかにされている[7]。25%程度の時間を表層で過ごす個体がいる一方、別の個体は水深200m以深の深海にいる時間が長かった。水温の変化に影響を受けている可能性が考えられているが、外洋に生息する魚だけに生態はまだ謎が多く、詳しい調査が待たれる[6]

クラゲや動物プランクトンを食べるということは知られているが、胃内容物からは深海性のイカやエビ、イワシ、カニ、ホタテガイなどの残骸も発見されている。これまで海中を受動的に漂っているだけと考えられることが多かったが、これらの餌を捕食するにはある程度の遊泳力が必要となる。音響遠隔測定による調査で、海流に逆らって移動し得るだけの遊泳力を持つことが示されている[6]

時折海面にからだを横たえた姿が観察されることがあり、丸い体が浮かんでいる様が太陽のようであることから"sunfish"という英名がついた。この行動は、小型の魚やカモメなどの海鳥に寄生虫を取ってもらうため[8]、深海に潜ることによって冷えた体を暖めるため[9]、あるいは日光浴による殺菌が目的ではないかと考えられている。マンボウは勢いをつけて海面からジャンプすることもあり[10]、これも寄生虫を振り落とすためである可能性がある[6]

繁殖・産卵様式は定かでない(3億個の卵を産むという情報があるが肯定されていない)が、卵巣内に様々な成熟段階の卵細胞があるため、複数回産卵すると考えられている[11]。稚魚は全身にとげがあり、成魚とは似つかない金平糖のような姿をしている。一時的にとげが長くなりハリセンボンのようにもなるが、成長するにつれとげは短くなり、独特の姿に変わってゆく[12]

また、全長40cm程度の若い個体が群れを作ることも報告されている[13]

人間との関わり[編集]

刺し網・流し網・トロール漁などによる混獲により生息数が減少している。特にアイルランドやポルトガルでは網にかかる個体の減少が著しい[10]

商業的に食用とされることは少ないが、アジア、特に日本の一部と台湾で食用とされる[14]

日本では主に定置網で混獲され、専門的に狙う漁師は少ない。美味とされるが鮮度が落ちやすく、冷蔵冷凍技術の普及以前は市場流通は限られていた。鮮度が落ちると特有臭を放ち、水っぽくなる。 現在では全国的に不定期入荷しているが、特に宮城県から千葉県にかけてと東伊豆、三重県紀北町や尾鷲市などは比較的流通が多い。紀北町には道の駅があり、フライ定食を提供している[10]

肉は白身で非常に柔らかく、調理法は刺身や湯引きして肝臓(キモ)と和えて、あるいはから揚げ、天ぷらなどで利用される。味はあっさりとしており、食感は鶏肉のささみに似ている。腸はマン腸またはクジラと同様に百尋と呼ばれる。紀北町ではコワタと呼ばれる。食感はミノに似て、他の部位より日持ちすることもあり、流通量が多い。 皮や目も食用となるが、ほとんど流通していない[10]

台湾では、5月頃に海流に乗って東海岸に現れるため、定置網で捕り、食用にすることが盛んである。台湾のほとんどの水揚げが集中する花蓮市では日本語からの借用語で曼波魚(中国語 マンボーユー、台湾語 マンボーヒー)と呼び、5月に「花蓮曼波季」という食のイベントを行い、観光客に紹介している。この時期は台北の高級店でも料理を出す例がある。肉、軟骨、皮などをセロリなどの野菜と炒めたり、フライやスープにしたり、腸を「龍腸」と称して炒め物にしたりすることが多い。

「マンダイ」として切り身などが販売されるアカマンボウは、外観が似ているだけで別の魚である。

大きな体に愛嬌のある風貌で、水中を悠然とただよう姿はスクーバダイビングなどで人気が高い。水族館での飼育は一般的に困難であるが、日本では海遊館、鴨川シーワールド、名古屋港水族館などいくつかの水族館で飼育展示が行われている。飼育が難しい主な理由は泳ぎが下手なため自ら水槽の壁に体をぶつけて弱ってしまうこと、寄生虫が多いことなどである。餌は、水面に顔を出したときにエビのミンチなどを直接口に入れてやる方式がよい結果を残しており、さらに水槽内にビニールやネットの壁をめぐらせてマンボウを守るなどの対策が取られるようになった[15]。ただし、飼育に適した小型の個体は手で触るだけで手の跡がそのまま付くほど皮膚が弱く、飼育が難しい事は変わらない。また飼育下で大きく成長した個体は施設に限界があるため、標識をつけて大洋に再び放される事が多い。国内での飼育記録としてはマリンピア松島水族館で飼育されていた「ユーユー」が1379日の記録を残している[16][17]

ネットミーム[編集]

マンボウは異常に死にやすい、「天国に一番近い生物」という言説がネットを中心に流通しているが、その多くが虚偽または誇張である。たとえば、

  1. 寄生虫を落とすためジャンプ→着水の衝撃で死ぬ
  2. ほぼ直進でしか泳げない→岩に衝突
  3. 一気に潜水→凍死
  4. 日光浴の最中に鳥につつかれる→化膿
  5. 日光浴の最中にいつの間にか座礁
  6. 朝日(新聞にあらず)が強すぎて死ぬ
  7. 水の泡が目に入ったストレスで死ぬ
  8. 海水の塩分が皮膚に浸透してショック死
  9. 前方にウミガメ→衝突のダメージを想像してショック死
  10. 近くにいた仲間の死を目撃してショック死
  11. 小魚や甲殻類を食べる→骨がのどに刺さって死ぬ
  12. コバンザメが鰓の内部にはり付いて死ぬ

これらはすべて誤りである。

マンボウの研究家である澤井悦郎は、このミームについても研究している。2010年5月19日、Wikipedia日本語版の「マンボウ」の記事に投稿された[18]記述が発端だとしている[19]。ジャンプする様子は目撃されているが死ぬわけではなく、理由も含めて詳しい研究はない[20]

メスが一度に産む卵の数は3億個に達するという話についても、澤井は「卵巣に約3億の未成熟卵を持つ」という1921年の論文の記述が誤って伝えられたことを指摘している。実際は一度に生むわけではないと考えられ、またそもそも元論文が3億と推定した根拠自体も定かでないという。加えて、生き残る個体数が2匹または一匹という話もあるが情報源自体がわかっていない。すなわち産卵数も生き残る数も確かな知見がない[21]

参考文献[編集]

  • 『日本の海水魚』 岡村収, 尼岡邦夫(編・監修)、山と溪谷社、1997年。ISBN 4635090272
  • 澤井悦郎 『マンボウのひみつ』 岩波書店〈岩波ジュニア新書〉、2017年。ISBN 4-00-500859-3
  • 『以布利 黒潮の魚』 中坊徹次, 町田吉彦, 山岡耕作, 西田清徳、大阪海遊館、2001年。ISBN 493141804X
  • 『脊椎動物の多様性と系統』 松井正文、裳華房、2006年。ISBN 4785358300
  • 松浦啓一 『動物分類学』 東京大学出版会、2009年。ISBN 9784130622165

出典[編集]

  1. 日本の魚類研究者が「世界最重量硬骨魚」を正確に同定し、マンボウの種が変更される”. kyodonewsprwire.jp. 株式会社共同通信ピー・アール・ワイヤー (2017年12月6日). 2020年7月23日確認。
  2. “マンボウ研究 シンボウ強く 在野で調査、125年ぶり新種確定 澤井悦郎”. 日本経済新聞. (2019年8月27日 
  3. 岡村・尼丘 1997, p. 718.
  4. 松井 2006, p. 52.
  5. Y. Watanabe; K. Sato (2008). “Functional dorsoventral symmetry in relation to lift-based swimming in the ocean sunfish Mola mola”. PloS ONE 3 (10): e3446. doi:10.1371/journal.pone.0003446. 
  6. 6.0 6.1 6.2 6.3 Mola mola program: life history”. Large Pelagics Research Lab. 2011年8月19日確認。
  7. Mola mola program: research results”. Large Pelagics Research Lab. 2011年7月20日確認。
  8. Takuzo Abe; Keiko Sekiguchi (2012). “Why does the ocean sunfish bask?”. Commun Integr Biol. 5 (4): 395–398. doi:10.4161/cib.20376. 
  9. Daniel P. Cartamil; Christopher G. Lowe (2004). “Diel movement patterns of ocean sunfish Mola mola off southern California”. Marine Ecology Progress Series 266: 245-253. doi:10.3354/meps266245. 
  10. 10.0 10.1 10.2 10.3 藤原啓嗣 (2016年4月3日). “なるほどランド 謎多いマンボウ”. 中日新聞 ジュニア中日p.20
  11. 澤井 2017, p. 138.
  12. 松浦 2009, p. 27.
  13. Abe Takuzo et al (2012). “Observations on a school of ocean sunfish and evidence for a symbiotic cleaning association with albatrosses”. Marine biology 159 (5): 1173-1176. 
  14. Mola mola program: fishery”. Large Pelagics Research Lab. 2011年7月20日確認。
  15. 中坊et al 2001, pp. 36-37.
  16. “宮城)松島水族館に「最後の夏休み」”. 株式会社朝日新聞社. (2014年7月21日. https://web.archive.org/web/20140821024246/https://www.asahi.com/articles/ASG7N5V2CG7NUNHB01H.html 2014年8月21日閲覧。 
  17. “<松島水族館>思い出胸に別れ惜しむ”. 株式会社河北新報社. (2015年5月11日. https://photo.kahoku.co.jp/graph/2015/05/11/01_20150511_13050/012.html 2019年12月6日閲覧。 
  18. 220.100.112.214 (2010年5月19日). “マンボウ(2010年5月19日 (水) 09:17 時点の版)”. ja.wikipedia.org. 2020年7月23日確認。 “マンボウはこの時、着水の衝撃で死に至る事がある。”
  19. 野口みな子 (2019年12月20日). “「最弱」マンボウ「最強」クマムシ、噂は本当?研究者の意外な答え”. withnews.jp. 株式会社朝日新聞社. 2020年7月23日確認。
  20. 澤井 2017, pp. 172-173.
  21. 野口みな子 (2017年10月20日). “教えてマンボウ博士!「3億個の卵→生き残るのは2匹」説はウソ?”. withnews.jp. 株式会社朝日新聞社. 2018年2月3日確認。