標準和名
標準和名(英:Standard Japanese Name)とは、日本で使われる生物の正式名称である。
概要[編集]
生物の正式名称として「学名」がある。然し、学名はラテン語である為、日本人には分かりにくく、代わりに標準和名が使われる。
通常、目以下のタクソンには片仮名で表記され、目以上のタクソンには漢字で表記される。ただし例外もあり、「食肉目」は「ネコ目」と表記される事もある。
学名と異なり、命名に関する規約は無いが、機関により和名に関する規則を設けていることもある[1][2]。
同じ種に2つの標準和名が付けられたり[注 1]、別種に同じ標準和名が命名されることもある[注 2]。
海外の生物で、知名度や利用価値が無い種は、標準和名がないことが多い。
Wikipediaにおいては記事名に標準和名を使うことが推奨される[3]。
命名[編集]
標準和名は、論文や図鑑、レッドリストなどで提案される。学名が変更されても、標準和名は変更されない。「ウロハゼ」などの例がある。逆に学名は変更されないが、学名と標準和名の対応関係がそのまま維持される例もある。「ゴイシウツボ」と「ニセゴイシウツボ」の例がある。提唱時には和名の後に「新唱」「新和名」と書かれる。
日本魚類学会では、「メクラ」「オシ」「バカ」「テナシ」「アシナシ」「セムシ」「イザリ」「セッパリ」「ミツクチ」は差別用語として今後の提唱は不可能としており[2]、日本サンゴ礁学会誌は更に「サメハダ」「ケロイド」「アバタ」「ヘルニア」「アザ」「シラコ」「コビト」も『さけるべき』とした[1]。
「ニセ」「ダマシ」「モドキ」「チビ」などは『留意すべき』とされている[2]。
和名の改名[編集]
標準和名は、学名と異なり、後から命名された和名が一般的になる事もある[注 3]。
標準和名に差別用語が使われている場合は、改名されることもある。
例えば、日本魚類学会は2007年に「差別用語が使われている」という理由で32種の魚類を改名している[4]。
差別用語を理由に標準和名を改名するのは、賛否があり、「言葉狩りだ」「変えると混乱を招く」「変えても差別は無くならない」との批判もある。
改名案がある種一覧[編集]
現和名 | 改名案 | 備考 |
---|---|---|
アホウドリ | オキノタユウ |
改名された種一覧[編集]
改名前 | 改名後 | 改名理由 | 出典 |
---|---|---|---|
メクラウナギ | ホソヌタウナギ | 「メクラ」に差別的な意味合いがあるため | 日本魚類学会 (2007)[5] |
オキナメクラ | オキナホソヌタウナギ | ||
クロメクラウナギ | クロヌタウナギ | ||
メクラヘビ | ミミズヘビ | ||
メクラアナゴ | アサバホラアナゴ | ||
メクラカメムシ | カスミカメムシ | 宮本ほか (2000)[6]。 | |
オシザメ | チヒロザメ | 「オシ」に差別的な意味合いがあるため | 日本魚類学会 (2007)[5] |
バカジャコ | リュウキュウキビナゴ | 「バカ」に差別的な意味合いがあるため | |
イザリウオモドキ | カエルアンコウモドキ | 「イザリ」に差別的な意味合いがあるため | |
ムチイザリウオ | ムチカエルアンコウ | ||
ロケットイザリウオ | ロケットカエルアンコウ | ||
イザリウオ | カエルアンコウ | ||
ボンボリイザリウオ | ボンボリカエルアンコウ | ||
ソウシイザリウオ | ソウシカエルアンコウ | ||
オオモンイザリウオ | オオモンカエルアンコウ | ||
クマドリイザリウオ | クマドリカエルアンコウ | ||
イロイザリウオ | イロカエルアンコウ | ||
ウルマイザリウオ | ウルマカエルアンコウ | ||
エナガイザリウオ | エナガカエルアンコウ | ||
ベニイザリウオ | ベニカエルアンコウ | ||
カスリイザリウオ | カスリカエルアンコウ | ||
ヒメヒラタイザリウオ | ヒメヒラタカエルアンコウ | ||
セムシクロアンコウ | クロアンコウ | 「セムシ[注 4]」が差別的な意味合いを持つため | |
セムシダルマガレイ | オオクチヤリガレイ | ||
セムシイタチウオ | セダカイタチウオ | ||
セムシカサゴ | ニライカサゴ | 本村ほか (2004)[7] | |
セッパリホウボウ | ツマリホウボウ | 「セッパリ[注 5]」が差別的な意味合いであるため | 日本魚類学会 (2007)[5] |
セッパリカジカ | ヤマトコブシカジカ | ||
セッパリサギ | セダカクロサギ | ||
セッパリハギ | セダカカワハギ | ||
ミツクチゲンゲ | ウサゲンゲ | 「ミツクチ(口唇口蓋裂)」に差別的な意味合いがあるため、「兎唇」から。 | |
アシナシゲンゲ | ヤワラゲンゲ | 「アシ/テ ナシ」に差別的な意味合いであるため | |
テナシゲンゲ | チョウジャゲンゲ | ||
テナシハダカ | ヒレナシトンガリハダカ |
脚注[編集]
- 注釈
- ↑ 例えば、日本産の淡水魚である‘‘Rheopresbe kazika’’にはアユカケとカマキリ、ペンギンの一種である‘‘Aptenodytes forsteri’’にオウサマペンギンとキングペンギンという和名がある。
- ↑ 例えば、「ヤマトシジミ」という和名を持つ種は蝶と貝にいる。「ミヤマクワガタ」は昆虫と植物の両方にいる。
- ↑ 例として上海蟹の標準和名は、元々「シナモクズガニ」だったが、現在は「チュウゴクモクズガニ」と呼ばれる。
- ↑ 背中が曲がってしまう奇形の事
- ↑ 背中が曲がり張り出る病患者の事
- 出典
- ↑ a b 深見裕伸、野村恵一、梶原健次、横地洋之、野中正法、立川浩之、北野裕子、鈴木豪、藤田喜久、山野博哉「「日本産イシサンゴ目の標準和名の提唱と使用のガイドライン」の策定について」、『日本サンゴ礁学会誌』第24巻第1号、2022年、1-7頁。
- ↑ a b c 日本魚類学会「魚類の標準和名の命名ガイドライン」、日本魚類学会、2020年10月25日。
- ↑ “プロジェクト:生物” (2024年2月2日). 2024年6月28日確認。
- ↑ “「バカジャコ」はダメ、差別語含む魚30種を改名へ”. www.yomiuri.co.jp. (2007年1月6日). オリジナルの2007年1月8日時点によるアーカイブ。 2023年12月22日閲覧。
- ↑ a b c 日本魚類学会「日本産魚類の差別的標準和名の改名最終勧告」2007年。
- ↑ 宮本正一、安永智秀、友園雅章、林正美「メクラカメムシの代替名「カスミカメムシ」の提唱」、『植物防疫』第54巻、2000年7月、 295-296頁。
- ↑ 本村浩之、吉野哲夫、高村直人「日本産フサカサゴ科オニカサゴ属魚類(Scorpaenidae: Scorpaenopsis)の分類学的検討」、『魚類学雑誌』第51巻第2号、2004年、 89-115頁。