電化の廃止
電化の廃止(でんかのはいし)とは、電化されている鉄道路線において、架線や変電所設備を撤去または使用中止して蒸気動力や内燃動力、蓄電池動力等に切り替えることを指す。特に気動車に置き換える場合は内燃化とも言う。
概要[編集]
電車はモーターの電流の向きを変えるだけで容易に方向転換[注 1]でき、折り返し時間を短く取れるため、本数が多ければ多い線区ほど電化したほうが得策であるが、需要の少なさや変電所などの施設面でのコストの都合から非電化のままという路線も存在する。さらに一旦電化したは良いものの需要が激減して電化設備を使用停止してしまう例も少なからず存在する。
アメリカではインターアーバンを貨物鉄道に転換する際に多く見受けられたほか、グレート・ノーザン鉄道のカスケードトンネル越えの路線についてはディーゼル機関車と強力な換気装置により電化撤去に至った。チリやブラジルでも急勾配のある路線と近郊列車の走る路線を除いてすべて電化撤去に至った区間が存在する。
日本でも1930年代の国鉄の非電化路線の地方展開で、1900年前後に開通した私鉄電車線の一部が廃止に追い込まれた。ドイツに至っては第一次世界大戦中に銅の供出のためにわざわざ一時的に電化撤去を行い電気機関車が走れなくなり運用に支障が出てしまった例もある。
国鉄時代は、気動車で戦前設計のDMH17を頑なに標準使用したため、電化は列車の運転性能の向上に如実に現れたが、JR化後は直噴型ディーゼルエンジンの採用やシリーズハイブリッド気動車の開発で電車との性能差が縮まったり、エンジン排気のない蓄電池電車も実用化しているが、「鉄道素人にも分かるメリット」を説明できない限り、長年の「架線=高い鉄道文化ステータス」を打破するのは難しいと思われる。
本項では、日本で行われた例も主に挙げるが、電化撤去や使用停止になっていない場合は架線下DCの項目に載せていただきたい。
日本での例[編集]
現在および過去の事例[編集]
- 池田鉄道
- 1936年に電化撤去を行い新規に気動車とガソリン機関車を導入したが1938年に路線自体が廃止された。
- JR福塩線(府中-下川辺間)
- 1954年に電化されたが、電車を折り返した場合運用に支障が出やすくなることから1962年4月1日に撤去された。
- 北海道鉄道 札幌線 → 国鉄千歳線 苗穂 - 東札幌間
- 1931年に定山渓鉄道線電車乗り入れのために電化されたが、1957年に乗り入れ列車が内燃化して架線撤去された。なお、定山渓鉄道線は1969年に廃止され、当該区間も1973年の千歳線の新線開業で廃線となった。
- 小坂製錬小坂線
- 1962年10月1日の改軌と同時に電化撤去。2009年4月1日廃止。
- 玉野市営電気鉄道
- 1964年12月24日に気動車を譲受し電化を使用停止[注 2]したが1972年4月1日に廃止となった。
- 茨城交通茨城線
- 茨城交通水浜線廃止に対応して、1965年4月25日に赤塚 - 大学前間の電車運転を廃止。その後1971年2月11日に全線廃止。
- 羽後交通雄勝線
- 1971年7月26日に非電化の横荘線が廃止されて気動車が転入し電化撤去。1973年4月1日廃止。
- 名鉄八百津線・名鉄三河線廃止区間
- 閑散区間の電車運転を1984年から順次停止したが、該当区間は2001年から2004年にかけて廃止されている。
- くりはら田園鉄道
- 1995年から電化撤去を行ったが2007年4月1日に廃止。
- 関電トンネルトロリーバス
- 2018年秋シーズンを以ってトロリーバス(無軌条電車)を廃止して架線を撤去し、翌2019年シーズンより無架線の電気バスとなった。
- 長崎本線 肥前浜 - 長崎間
- 2022年9月23日の西九州新幹線開業後は特急や貨物列車がほとんど通らなくなるためキハ47やYC1系による運用に置き換えられた。
将来の計画[編集]
- 立山黒部貫光無軌条電車線
- 2024年秋シーズンを以ってトロリーバス(無軌条電車)を廃止して架線を撤去し、翌2025年シーズンより無架線の電気バスに転換する予定で、予定通りであれば、日本国内からトロリーバスが消滅する。
- くろがね線
- 140トン級の4軸電気式ディーゼル機関車が納入されたことから、従来の85トン級電気機関車を引退させて架線を撤去するのではないかという声がある。
JR東日本[編集]
- 2021年5月頃、JR東日本は将来的な一部路線の電化撤去・単線化を行うと発表した。以下、決定した事例をここに挙げる。
- 磐越西線(会津若松-喜多方間)
「喜多方電化撤去」も参照
- この区間は輸送人員減となっていること、および郡山直通列車についても2021年時点で1日2往復のみとなっていることから、2022年度より設備の撤去を始めることが2021年8月3日に発表され、翌22年3月のダイヤ改正以降は電車運用の設定がない。
- 男鹿線のように短距離の非電化区間を自力走行できる蓄電池動車が実用化されたものの、長年「架線の存在=高い鉄道文化ステータス」とされたため、喜多方市からは郡山直通の恒久的な廃止の名分になったり、地域ポテンシャルの低下とされかねない架線撤去には、当然のように猛反対の声が挙がっている。
- なお、会津若松駅にはスイッチバックが存在して、国鉄時代の客車列車はすべて電化区間を無視して会津若松駅で機関車を交換したように、運用の合理化に繋がるメリットがある。
- 奥羽本線(新庄-院内間)
- 2024年7月25日の豪雨で長期不通となってしまった結果、非電化で復旧する方針となった。もっとも、1日8往復しか列車がなかったほか貨物や特急の設定もなかったためやむを得ないように見える一方、蓄電池特急車が新造されない限りは山形 - 秋田間の標準軌電車特急の設定も絶望的となった。運用再開時期は2025年ゴールデンウィーク直前の見込み。
電化私鉄路線が廃止され、非電化の鉄道路線が残った例[編集]
- 国鉄函館本線/砂原支線 大沼公園~銚子口間 - 並行区間廃止の大沼電鉄は電化
- 国鉄川越線 大宮~川越間 - 並行区間廃止の西武大宮線は電化(国鉄末期に新たに電化)
- 国鉄明知線 大井~岩村間 - 並行区間廃止の岩村電気鉄道は電化
- 国鉄二俣線 野部~遠江二俣間 - 廃線敷を活用した光明電気鉄道は電化
- 国鉄越美北線 福井~越前大野間 - 競合路線の京福越前本線は電化
- 国鉄姫新線 本竜野~播磨新宮間 - 並行区間廃止の播電鉄道は電化
- 国鉄岩徳線 岩国~西岩国間 - 並行区間廃止の岩国市電は電化
- 国鉄土讃本線 多度津~琴平間 - 競合路線の琴平参宮電鉄は電化(国鉄分民時に新たに電化)
- JR参宮線 伊勢市~二見浦間 - 競合路線の三重交通神都線は電化
- JR高山本線 富山~笹津間 - 競合路線の富山地方鉄道笹津線は電化
- JR氷見線 能町~伏木間 - 競合路線の加越能鉄道伏木線は電化
- 鹿島臨海鉄道大洗鹿島線 水戸~大洗間 - 先行して存在の茨城交通水浜線は電化
- 長良川鉄道 関~美濃市間 - 競合路線の名鉄美濃町線は電化
- 土佐くろしお鉄道ごめん・なはり線 - 並行区間廃止の土佐電気鉄道安芸線は電化
電化撤去候補となり得る路線[編集]
需要のなさから電化撤去がなされそうな路線をここに示す。
越後線 柏崎 - 吉田間[編集]
宅地開発の関係で電化されたが、日中時間帯を中心に4時間近く時間が空くため、必然的に電化撤去の候補になり得る。しかし、柏崎刈羽原子力発電所の存在のためか、難しい可能性がある一方、電化自体は原発稼働開始より早いため関係ないという見方もできる。
弥彦線 吉田 - 弥彦間[編集]
盲腸線、かつ越後線と同様に3 - 4時間列車が来ない時間帯があるため電化撤去の候補に挙がる。もっとも、距離が短く、非電化として孤立することから、蓄電池電車の投入が妥当なように思える。最悪、燕三条 - 吉田間も直接吊架式のため候補に入れて良いような…。
奥羽本線 院内 - 大曲間[編集]
特急・貨物は全く通らないため701系老朽取替時の電化撤去の候補となり得る。かつては山形 - 秋田間の都市間輸送を改善するためには改軌してつばさなどを直通させたほうが得策なように感じたが新庄 - 院内間の電化撤去により上記のようにこの方策の実施は絶望的となった。
中央本線 辰野 - 塩尻間[編集]
赤字のため切り捨てるという見方も出ており、候補に挙げられる。しかし、みどり湖ルートの不通時などに有効活用されるのは明らかなため、越後線より可能性は薄い。もっとも、JR東海が引き取って飯田線も電化撤去すると言い出したら話は別だが。
宇部線・小野田線[編集]
久保田后子元宇部市長によりBRT化を提案されたことがあるほど輸送需要が少なめで、特に小野田線はJR西日本から赤字路線にあっさり計上されている。このため、将来的な電化撤去も視野に入るものと思われる。特にJR西日本独自の単行車である125系をわざわざぶち込めるのかと言われると微妙なラインのため、気動車で置き換えたほうが得策な可能性は示唆される。