益川敏英
益川 敏英(ますかわ としひで、昭和15年(1940年)2月7日 - 令和3年(2021年)7月23日)は、日本の理論物理学者。専門は素粒子理論[1]。名古屋大学素粒子宇宙起源研究機構名誉機構長・特別教授、京都大学名誉教授、京都産業大学名誉教授および元益川塾塾頭。愛知県名古屋市出身。
来歴[編集]
名古屋大学理学部物理学科卒業。坂田昌一の研究室で学んで博士号を取得し、名古屋大学や京都大学で助手を、東京大学原子核研究所の助教授を歴任。昭和55年(1980年)に京都大学基礎物理学研究所教授となり、基礎物理学研究所所長などを務め、退官した後も京都産業大学教授や名古屋大学特別教授などを歴任した。
昭和48年(1973年)に自分と同じ京都大学理学部助手の小林誠高エネルギー加速器研究機構特別栄誉教授と共に素粒子のクォークは少なくとも6種類はあるとする「小林・益川理論」を発表した。クォークは当時、3種類しか見つかっていなかったが、その後の実験で全て確認された。この理論は素粒子論の支えとなり、別の根源的な理論を提唱した南部陽一郎を加えた日本人3人が、平成20年(2008年)のノーベル物理学賞を独占することになる。なお、6種類あれば宇宙の成り立ちに影響を与えたCP対称性の破れと呼ばれる現象を説明できるという。
平成13年(2001年)に文化功労者となり、平成20年(2008年)に文化勲章を受章した。日本学術会議会員などにもなり、護憲運動や平和運動にも積極的に取り組んでいる。
令和3年(2021年)7月23日午前8時40分、上顎歯肉癌のため、京都府京都市の自宅で死去した。81歳没。
学会活動等[編集]
- 1997年 - 2000年 第17期日本学術会議会員(第4部)
学術賞[編集]
- 1979年12月 - 第25回仁科記念賞(1979年度)「基本粒子の模型に関する研究」。
- 1985年
- 1995年
- 2007年10月 - 欧州物理学会2007年度高エネルギー・素粒子物理学賞。
- 2008年12月 - ノーベル物理学賞(2008年度、南部陽一郎、小林誠と共同受賞)[4]。
栄典等[編集]
出演テレビ番組[編集]
- 情熱大陸(毎日放送、2009年3月29日) - 小林誠と共に
- 日立 世界・ふしぎ発見!(TBS、2010年1月30日) - ゲスト回答者として
- 課外授業 ようこそ先輩(NHK、2010年4月4日)
- こころの遺伝子 〜あなたがいたから〜(NHK、2010年4月19日)
- こだわり人物伝(NHK、2011年3月2日〜3月23日) - 語り手として
- NHK高校講座 – 科学と人間生活(NHK、2012年2月18日)ゲスト
著作[編集]
- 『現代の物質観とアインシュタインの夢』 岩波科学ライブラリー 岩波書店 1995年
- 『いま、もう一つの素粒子論入門』 パリティブックス 丸善 1998年
- 『科学にときめく ノーベル賞学者の頭の中』かもがわ出版 2009
- 『学問、楽しくなくちゃ』新日本出版社 2009年 ISBN 9784406052818
- 『益川流「のりしろ」思考』扶桑社 2009年 ISBN 9784594060602
- 『僕がノーベル賞をとった本当の理由―子ども時代のすごしかた』フォーラムA 2009年 ISBN 9784894285873
- 『15歳の寺子屋 「フラフラのすすめ」』講談社 2009年 ISBN 9784062155861
- 『益川博士のつぶやきカフェ』三省堂 2010
- 『素粒子はおもしろい』岩波ジュニア新書 2012年 ISBN 9784005006977
- 『益川博士のロマンあふれる特別授業 子どもたちに、伝えておきたいこと』朝日学生新聞社 2012
- 『科学者は戦争で何をしたか』集英社新書 2015年
共著[編集]
- 『いっしょに考えてみようや ノーベル物理学賞のひらめき』小林誠共著 朝日選書 2009
- 『教育を子どもたちのために』小森陽一、木附千晶、藤田英典、本田由紀共著 岩波ブックレット 2009
- 『益川さん、むじな沢で物理を語り合う 素粒子と対称性』東京物理サークル共著 日本評論社 2010
- 『「大発見」の思考法 iPS細胞vs.素粒子』山中伸弥共著 文春新書 2011
論文[編集]
小林と益川の1973年の論文。当時3つしか存在が知られていなかったクォークに関して(理論的には4つあると想定されていた)、それが6種類あると仮定(CKM行列)。それによりCP対称性の破れという現象に対し説明を与えた。この理論の正しさはのちの実験で確認された。]
- 益川敏英、(5)Chiral Symmetryについて(Higher Resonance研究会報告) 素粒子論研究 1968年 37巻 1号 p.A46-A48,
- 益川敏英、複合粒子モデルとchiral symmetry(素粒子の模型と構造,研究会報告) 素粒子論研究 1969年 40巻 4号 p.D44-D49,
- M. Kobayashi, T. Maskawa "CP-Violation in the Renormalizable Theory of Weak Interaction" Progr. Theor. Phys.(Kyoto), v.49, no.2, pp.652-657, 1973,
- 「Chiral対称性について(素粒子の時空記述,研究会報告) 」 素粒子論研究 1971年 43巻 2号 p.232-236, テンプレート:NAID,
- 『Quar scheme of hadrons in chiral U(4)×U(4) (「Loptonを probeとしたhadronの構造の研究」研究会報告)』素粒子論研究 45(1), A42-A43, 1972-03-20, テンプレート:NAID
- 「π゜→2γとpionの複合性について(報告(6)カイラル対称性とハドロン力学,素粒子の模型と構造,研究会報告)」 Soryushiron Kenkyu 47(2), H38-H39, 1973-04-20, テンプレート:NAID,
- 益川敏英 ほか、量子時空中の場の量子論 (素粒子の時空記述研究会報告)]」 素粒子論研究 48(1), A38-45, 1973-09, テンプレート:NAID
- 益川敏英、「Yang-Mills場一元論(基本粒子系の諸模型の検討,研究会報告)」 素粒子論研究 1976年 53巻 5号 p.E23-E24, テンプレート:NAID,
- 「高密度核物質の諸相といくつかのコメント(高密度核物質,研究会報告)」 素粒子論研究 1976年 54巻 1号 p.A39-, テンプレート:NAID,
脚注[編集]
注釈・出典[編集]
- ↑ 氏名表記、氏名の読み、生年月日、職業(理論物理学者)は、日外アソシエーツ株式会社編『新訂 現代日本人名録 2002 4. ひろーわ』日外アソシエーツ株式会社、2002年1月28日、497頁。
- ↑ “朝日賞:過去の受賞者”. 朝日新聞. 2009年11月22日確認。
- ↑ “中日文化賞:第41回-第50回受賞者”. 中日新聞. 2009年10月23日確認。
- ↑ “益川敏英さん「学問と遊ぶ」”. NHK NEWS WEB 2020年2月28日閲覧。
- ↑ “京都市名誉市民:益川敏英氏”. 京都市. 2009年11月22日確認。
関連項目[編集]
- 小林・益川理論
- Progress of Theoretical Physics - ノーベル物理学賞の受賞論文を発表した学術誌
- CP対称性の破れ
- CKM行列
- 粒子反粒子振動
- 私の履歴書 - 日本経済新聞の同コーナーに連載(2009年)
外部リンク[編集]
サイト
- 小林-益川論文
- 世界を変えた一つの論文〜 小林・益川理論 〜 - 小林と益川の1973年の論文の解説。高エネルギー加速器研究機構サイト内
- 名古屋大学 素粒子宇宙起源研究所(KMI)
- 京都産業大学 益川塾
- 益川敏英 京都大学名誉教授がノーベル物理学賞を受賞(2008年10月7日)京都大学
- 研究最前線からのメッセージ 番外編 益川敏英名誉教授 京都大学
- 会員個人情報|日本学士院
- 九条科学者の会 - 益川は呼びかけ人の一人である
ビデオ
- 益川さんら4人 ノーベル賞受賞 | NHK放送史(動画・記事)
- 益川先生、ノーベル賞を語る 映像 - YouTube(ノーベル賞受賞後、京都大学で行われた講演の様子。京都大学オープンコースウェアより。)